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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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228.じゃじゃ馬

得意気な顔で失踪したリュフラル王国の姫殿下であるペルセナにかけられた呪い。

それを勝手に解いてしまったフローラ。

そう、私たちに懐いていたカラスのペルルはなんと、失踪中のペルセナ殿下その人だった。

頭を抱えたフレヤさんの指示に従いつつ、素っ裸のペルセナ殿下に服を買ってきて今に至る。




フレヤさんがプリプリ怒りながら選んだのは、その辺の女の人が着ている丈の長いワンピースの腰にリボンを結ぶスタイル。

そして暖かそうなモコモコな裏地のズボンに毛皮のブーツを履かせている。

耳やしっぽを誤魔化すために一応帽子をかぶせては見たけれど…


「耳を隠す帽子や髪型…それにワンピースの中に尻尾を…これは控えめに言っても不自然ですね」


うーむ、怪しいから隠してますって言ってるよーなもんだ。


「わらわは嫌じゃ!尻がゴワゴワして、とてもじゃないが過ごせぬ!フレヤ、なんとかせい!」


カーッ、このお姫様…!

あんたのせいでこんな面倒なことになってんのにっ…!

ペルセナ殿下は椅子をバンと叩いて不満をあらわにしている。

真剣そのものの目でフレヤさんを見つめるあたり、本当に嫌なよーだ。


「なんとかせいと言われても…なんともならなそうですよ」


フレヤさんはため息混じりにペルセナ殿下の姿をもう一度眺め回した。

まるで、貴族からどうしようもない無理難題を押しつけられた商人のように肩を落とす。


「わらわが捕まってしまうじゃろ!嫌じゃ!なんとかせい!」


面倒くせー…カラスのままの方が可愛げがあったよ…


「なんとかならない事もない」


えー?フローラ、そりゃ本当かぁ?

ペルセナ殿下がワッとフローラの座っていたベッドに飛び移る。


「それは本当か!?」

「報酬が約束されるならなんとかする」


フローラ、金にガメツい。

でもペルセナ殿下もかなり浮き世離れしているのか、ポカーンとしてる。


「なんじゃ、金でよいのか?それくらい我がリュフラル王国に戻れれば払うぞ!」

「ちょっとフローラさん!その『なんとかする』というのは、一体どんな対策なのですか!?」


そーだよ!フレヤさんの言うとおり。

「簡単、耳としっぽを切ればいい」とかだったらどーすんの!

そーゆーことを言いかねないポンコツだよ、フローラは!


「私たちのような裏稼業の者が持っている魔導具。前の主はこの手のものをホイホイ買って私に与えてくれた」


ん?なんだ?小さい金属の輪?

いや、完全な輪っかじゃないな…

あっ、イヤーカフか?


フローラは自身の右耳にイヤーカフらしきものをはめてみせる。


「こうして装着して、変装したい姿を想像する。例えば今からドワーフの女に変装してみせる。赤毛で頬にはそばかす。目の色は緑。身長をもう少し小さくしてみせる。想像できたらこう唱える。『擬態せよ、ミミクリア』」


特に光る!みたいな反応もなく、フローラがいつの間にか別人に変わっている。


「これは凄い…こんなものが存在していたとは…!」


フレヤさんも目を丸くしてそう呟いた。

ペルセナ殿下も驚愕した様子でカッと目を見開いている。


「これほどの魔導具、国家にとっても貴重ではないか…!こんな違法品が…」


その声は少し震えている。


「話によれば、私が与えられたものはオリジナルのもの。古代の魔導具らしい。今の技術で作られたコピー品は、身体のごく一部の箇所しか変えられないと聞く。いずれも非合法」


単なるドワーフの女に化けたフローラが耳からイヤーカフを外すと、パッと元の姿に戻った。


「今から姫殿下に化けてもらう候補は3つ。想像しやすいものを選ぶといい」


そう言ってフローラはまた懐から何かを取り出した。

出てきたものは…傭兵組合の組合員証だ。


「用意がいいのう!」


ペルセナ殿下は感心してか、素直に感嘆の声を上げた。

でもフレヤさんは呆れ顔をしてフローラが取り出した組合員証を見つめている。


「これ、一体…」


フレヤさんは終始難しい顔をしているね…

どー考えてもまともな入手経路じゃない。


「大丈夫。前の主から貰ったもの。どれももうこの世には居ないと聞いている」

「ですよね…はぁ、もう私たちは関わりたくないですよ…」


フレヤさんと同じく、だ。




結局、ペルセナ殿下が選んだのはエルフ族で髪色は金髪、目の色は青、名前は「セリア」という組合員証だった。


他の組合員証は魔人族でヴェンティトラ族という人の夢を喰らう種族と、そしてもう一つもかなり独特でグラマリウム族とかいう魔人族。

これまた影の中を行き来できる種族みたいで、どっちもフレヤさんは深く首を傾げながら、


「正直、そんな種族の真似なんて私たちに想像すらできませんし…目立ちそうですね」


と言って、速攻で没にしていた。




ペルセナ殿下の変装の練習も終わり、私とフレヤさんはペルセナ殿下の宿泊費を払うハメに。

その辺はキッチリしているフレヤさん。


そして部屋に戻ってから、フレヤさんは厳しい口調でペルセナ殿下に詰め寄った。


「姫殿下、正直にお聞きしたいのですが」


ペルセナ殿下、ぷいっとそっぽを向いてしまう。


「わらわはペルルじゃ。ペルルと呼ばんと返事はせん」


なんだよ、可愛いところがあるじゃないか。

そっちの方が呼びやすい。


「ではペルル。本当に信用できる家臣を探そうとは思われなかったのですか?私たちのような傭兵ではなく、まずそこが最も重要なはずですが…」


フレヤさんの瞳は真剣そのもので、少しも逃がさないといった気迫が感じられる。

でも確かにその通りなのだ。

わざわざ私たちに帯同するより、空から自分たちの仲間を探せばいいだけの話。


ペルルは少し身を乗り出しながらため息をついた。


「…正直に言ってよいなら…まずはこう考えたのじゃ。ただ一人でも裏切り者がいれば、どのような策略が仕掛けられるかわからぬ。特に今回のような状況では、敵に捕らわれるか、わらわの存在自体が利用される恐れがある。慎重に動かねばならぬのじゃ」


ペルルの表情には僅かな影が差し込んでいるように見えて、声も少し落ちた。


「王族という立場では、誰を信じればよいかわからぬことが多い。そして、我が身を預ける先を慎重に選ぶ必要があったのじゃ。…今回のウィルマール王国とこのエルヴェルネス王国に攻め込んで資源を奪うなんて計画事態も怪しい。わらわの存在が邪魔な一派が何か企んでいるのか、はたまたエルヴェルネス王国と繋がっている連中が仕組んだ計画なのか…信用できないのじゃ」


フレヤさんは小さくうなずきながら口を開いた。


「…まぁ、それは理解できます。それで、私たちに目をつけた理由は?」


ペルルの表情が少し明るくなる。

そして少し恥ずかしそうに視線を泳がせた。


「それは…わらわの直感というやつかもしれぬ」

「直感…ですか?」


ちょっと意外な答えだった。

フレヤさんも思わず拍子抜けって感じだ。


「まず、そなたたち二人じゃ」


ペルルは私とフレヤさんに視線を交互に向ける。

金色の瞳、綺麗だなぁ…


「そなたたちの見た目では、到底こんな僻地を二人だけで旅できるようには見えん。わらわは傭兵のことなんて知らん。だが、それでも実際に旅をしておるということは…ただの者ではないと見た」


フレヤさんはその言葉にやや納得しながらも肩をすくめる。

確かにペルルの見立ては正しい。

ぱっと見ハーフリングと人間の子供。

見たままの力だったら二人でのんびり旅なんてできるわけがない。


「それだけですか?」


フレヤさんの問いに、ペルルはほんの少し微笑んだ。


「それからな…道中、そなたたちが時々笑いながら話しておるのを見た。誰かとそんな風に安心して語り合いながら過ごす時間…王族として生きるしかないわらわにとってはそれがどれほど羨ましかったか、そなたたちは気づいておらぬであろうな」

「うっ、羨ましい…?」


思わず口が開いちゃった。

私の隣に座っていたペルルが、私に寄りかかってきた。


「そうじゃ。わらわから見ても、そなたたちはただの仕事のために旅をしているという風には見えんかった。ただ二人で旅をし、語り合い、共に冒険を楽しんでいる…そんな風に見えたのじゃ」


ペルルは姿勢を正すと急に視線を逸らし、咳払いをする。


「そ、それだけじゃ。だからそなたたちを選んだ。それがよいと思った。それだけのことじゃ。」


フレヤさんは微妙な顔をしていたけれど、そんな表情も崩れてクスクスと笑う。


「そっかそっか、そうでしたか。そういう理由で、私たちを選んだと。ふふ、確かに『楽しそう』ってのは妙な基準ですね」


ペルルは少しバツの悪そうな顔をしていたが、やがて深呼吸をして一言。


「そなたたちを選んだのは…間違いではなかったと今は思っておる」


な、なんだよ!嬉しいことを言ってくれるじゃんっ!

それを聞いて、それまで黙ったままだったフローラが小さく肩をすくめながら口を開いた。


「気まぐれにしては悪くない判断。私もアメリとフレヤの冒険は楽しそうだと思った」

「毎晩冒険譚を書いておるしのう。わらわもどのように書かれるか楽しみじゃ」


そう言ってクツクツ笑うペルル。

フレヤさんは再び肩をすくめてみせた。


「文字をつついたりして、意志を伝えることも出来たでしょう?なぜそれをしなかったのですか?」


そんなフレヤさんの疑問は尤もで、さっさと「自分はペルセナというリュフラル王国のお姫様です」と伝えてくれりゃ、こっちだってスースーとこの国を抜け、送り届けていたよ!!

呪いは…あぁ、まぁスースー進んだんじゃどーしようもないか…


「わらわはカラスだったのじゃ。カラスでおった方がそなたたちから可愛がられるであろう?解呪方法を知らんというのもあるがの、身分が知られて余所余所しくなるのは寂しいと思ったのじゃ」


な、なんだよ、可愛いじゃないか!




そんな訳で翌朝、朝食を食べた私たちはラカヴィエール村の傭兵組合の事務所へと行って、フローラとペルルをパーティーとして組ませることに決まった。

フローラの等級も、ペルルの仮初めの姿であるセリアの等級も同じ4等級。

しかしまた別の問題がある訳で…




「私たちの左頬にされた魔力刻印まで擬態させるのは無理」


フローラがペルルに渡していた古代の魔導具である擬態のイヤーカフを、自身の耳からピンととってみせる。

相変わらずの無表情だけど、フローラはどこか悔しそう。

そんな様子を見てフレヤさんが深いため息を吐いた。


「その辺を歩く分には、ペルルは余所の村や集落から来たエルフと見られるかもしれませんけれど、頬になんの魔力刻印もない人なんて見たことがないですよ」


フレヤさんは腕を組み、冷静な視線でペルルを見つめている。

フローラも小さくため息をついてから口を開いた。


「実際、ここまでの道中、頬に刻印のない者など見たことがない。万が一、妙な目で見られ、兵士に報告でもされたら厄介」


フローラもかなり冷静に状況を俯瞰している。

肝心のペルルはといえば、緊張感の欠片もないのか、大きな欠伸をしてみせた。


「その程度の問題、簡単に片付けられるに決まっておろう?アメリの妙な魔法で姿さえ隠せば、敵の目など造作もないはずじゃ。わらわを見失うほどにそなたたちが困ることもなかろう?」


おっ!なんだペルル!頭良いじゃん!

あれ?フレヤさんの反応は…悪戯っぽい笑みを浮かべたぞ?


「おっ!なんだなんだ!ペルルがそれで良いというならそうしましょうか!」

「な、なんじゃ!なんか引っかかる物言いじゃの?」


ペルルがひょいと立ち上がってフレヤさんのすぐ隣に腰を下ろした。

ペルルはどーやら、こうしてピタッと隣に座り、そのフサフサな長い尻尾で相手を撫でるのが好きなようだ。

フレヤさんもフサフサな尻尾で頭を撫でられて、満更ではなさそう。


「ほれほれ!その腹にあるものを申せ!ほれ!」

「ふふ、いつ兵士に見つかるか分かりませんので、出国までの間、飲まず食わずで過ごしていただく形になるのに、本当にそれで良いんだなーと思いまして」


ペルルの尻尾がピーンと逆立つようにして上を向いた。


「あっ!そ、それは嫌じゃ!美味しい物も食べたい!美味しい酒も飲みたい!そなたたちとお喋りしながら旅がしたい!嫌じゃ!これフレヤ!なんとかせい!」

「はは、なんともならなそうだから悩んでいるのではないですか!ペルルは将来大物になりそうな器ですね…」


フレヤさんの深いため息と苦笑い。

はは、ちょっと我慢してくれればさ、変装すら不要なんすけどね…


「ペ、ペルル…がっ、我慢すれば…簡単です…!」

「そ、そなたはどうかしておる!わらわにそんな苦行を強いるとは!そなたたちは良い、美味い酒を飲み、美味い物を食うのじゃろうに!そ、そなたたちも終始、わらわにじとっとした目を向けられて嫌な気持ちにならぬか!」


ふへへ、ペルルのフサフサ尻尾攻撃がきた!

カラスの時の乱れ突きよりこっちの方がいいなぁ!

ペルルのふさふさした尻尾が頭を撫でたとき、その柔らかな感触と、わずかに香る森のような匂いに思わず目を閉じた。


「美味しい物も食べたいし、気の置けない仲間たちとくだらぬ話をしながら旅を楽しみたいのじゃ!王族としての立場から解放される今だけは、そう思って何が悪いのじゃ!」


このお姫様は、自身がおかれている状況ってやつを理解しているのかしていないのか…

最高にワガママなお姫様だよ…

まぁ、カラスだったペルルも大概ワガママだったけどさ。


「報酬が弾めば、なんとかならない事もない」


発言の主は窓際で立っていたフローラ。

始まったよ!まーたフローラの不安な発言だ。

フレヤさんもなんとも言えないような顔をしている。


面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

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― 新着の感想 ―
じゃじゃ馬というよりはローマの休日状態ですね…。
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