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2.危機

スーゼラニア王国?とやらの国の兵士であるサラさんとダンさんに保護された私。

とりあえずそんな2人に連れられて門の中を移動。

案内されたスーゼラニア側と言っていた詰め所はさっきの詰め所と全く同じ間取り。

とりあえず私は一人、椅子にちょこんと座って待つことになって今に至る。




さっきみんなが言っていた通り。

少ーしずつ人がちょこーっと来てはそれぞれの国の方へスースー歩いていく。

私の存在に気がついた人がチラッと私のことを見る。

けれど、みんな私のことは知らないみたいで素通りしてしまう。

ま、そんな都合良く私を知る人なんて現れないか。


しかしあれだ。

本当に私はどこの誰で、何でここに居たんだろうなぁ。

そんな答えの出そうもない疑問だけでは潰れないくらいに絶賛暇中。


うーむ、何か手がかりはないかなー?

いやいや、詰め所に私の手がかりがあるという事、それ即ちお尋ね者って事じゃん!

よ、世の中には知らなくて良いことだってある…!


しかしキョロキョロしたお陰で鏡を発見!

さてさて、私ってばどんな顔してる人なのかな?

顔を見れば何か記憶の一つでも戻ってくるでしょ、流石にさ!

これとんでもない美少女だったらどうしよう!

ワクワクしてきたよ!


ふらふらーっと導かれるようにして自分の顔をのぞき込んでみる。


真っ黒なショートボブ。

焦げ茶色の瞳。

大きめな猿耳。

顔の作りはサラさん達とは違って少し平坦。

自分でいうのもなんだけど中々可愛い部類に入りそうな幼さを残すあどけない顔をしている。

幼さを残すというか、寧ろ幼い。

うーむ、お世辞でも美少女とは呼べぬ。


挿絵(By みてみん)


どう見ても子供丸出しです。

っていうか、もっと成長するよね?私ってさ。

よもやこれが完成形ではないよね?ねっ!?


そんな感想が浮かぶくらい自分の顔がどうもしっくり来ないなぁ。

はっきりと見覚えがないと断言できるね。

ダメかぁ、何か思い出すんじゃないかって思ったけど、こりゃいくら見てもダメなヤツだぁ。


でも、そんな何も分からない状況にも拘わらず焦ったり悲観的な気持ちはそれ以上湧かない不思議。

心が凪いだ海のように穏やか。


記憶を失うって思っていたよりも案外そんな物なのかもしれない。

不思議な感じ。


私って割と詩人っぽいのかな?

凪いだ海だってさ、うーん詩人っぽいなー。




「交代が来たよ!お嬢ちゃん、準備しといてね」

「あっ、はい!」


いかんいかん、ボーッとしてた…!

サラさんから声がかかった。

準備せねば!

とは言え準備という準備は何もないんだよなこれが。

とりあえず詰め所からは出ておこうかなぁ。


ん?確かに遠くから二頭引きの馬車がゆっくりとやってきた。

おー、あれが交代の人を乗せた馬車なのかな?

何か馬車がのんびりやってくる感じ。

荷物はそんな無いように見えるけど…馬は二頭も必要なのか?


「サラ、ダン、お嬢ちゃんの事くれぐれも頼んだぜーっ!」


ユージニア側の兵士のルーカスさんだ。

ルーカスさんの声がユージニア側から聞こえた。


「ああ、何か進展があったら報告する!」


そう言ってグッドサインを出して応じるダンさん。


私もとりあえず頭を下げとくか…

向こうにいるルーカスさんと目が合う。


「お嬢ちゃんもよ、何も思い出せねえままだったら割り切って第二の人生を満喫しろよー!」

「はい!ありがとうございました!」


第二の人生…

なるほど、第二の人生ね…


確かにルーカスさんの言うとおりかもしれないな。

到底思い出せそうもない記憶達。

ひょっとすると思い出したってロクな思い出じゃないのかもしれない。

とりあえずこのまっさらな状態を満喫してみようかな。


ユージニア側の山から朝日が登ってきた。

私の心の中みたいだ。

今、ルーカスさんの一言で、とても晴れやかな気持ちになれた。


私の第二の人生が今始まる。




馬車はゆっくりのんびりとパカパカガラガラと軽快な音を立てながら平原に真っ直ぐ延びる街道をガタゴト進む。

車輪と車体がある程度の衝撃を吸収してくれているようで、当初思っていたよりもガタガタしない。

それにお尻に敷いたクッションがフワフワして心地良かった。

今、こうして馬車に揺られてるけれど、優しく頬を撫でる風が気持ちいい。


サラさんとダンさんが別の人と交代するとき、とりあえずサラさんの斜め後ろに立ってじっと引き継ぎを聞いていた。

とは言え引き継ぎという引き継ぎは本当に何もなかったみたい。

トピックとして私の話がすぐに出てきた。

肝心の本人が何も覚えてない以上、あまり説明する事もなく「へぇ、そうなのか」という感想が交代の人たちの口から出てきただけだった。


サラさんもダンさんも、私が名前すら覚えていない時点で根掘り葉掘り尋ねても無駄だろうと踏んだのか、私の身の上について質問してくることは無かった。


代わりにサラさんとダンさんからこの大陸についての話を聞いた。




まず今の季節は長い冬が終わり、春真っ只中。


これから行くのは先程の検問所から程近いスーゼラニアの最も東にある町で、その名をカントというらしい。

サラさんやダンさんはスーゼラニア王国マルゴー辺境伯領の兵士。

部隊ごとに持ち回りでこうして順番に検問所の番をしているとの事。


そして今居るスーゼラニア王国と私が何故か座っていたユージニア王国は古くからの同盟国。

この辺りはふるーい旧街道という事で、後から完成した街道と比較すると馬車を走らせるには少し不便な箇所が多く、あまりルートとして選ばれることはないイケてない街道。

だから夕方から明け方にかけての人通りなんてものは皆無。

ああやって兵士同士で仲良く遊んで夜を明かすのがあの検問所の昔からの習わしらしい。

そうする事で暇な時間に居眠りをしないというこじつけのような温情があるようだ。


そして魔物!

魔物はウロウロしているけれど、アルマー峡谷は極端に狭い。

なので結界で魔物の侵入は容易に防げるみたい。

なんだ、そんな便利な品物があるのか!と感心したけど、その結界自体が非常に希少価値の高い魔導具を使っているらしい。

残念ながらおいそれとそこかしこに設置できる代物でもないって。


なんだよー、かゆいところに手が届かないなぁ。

それがもっと量産できれば魔物の心配なんてないのにね。




この大陸ではアチコチの国家が徒党を組んで常に小競り合いを繰り返している。

規模の大きな大国による周辺の小国や地方などへの経済支援。

軍事需要などによる経済の活性化。人材の流動。


とは言え大規模な大戦となれば経済的、人的な損失が多く、経済活動に致命的な喪失が生まれる。

互いが自分達の国家予算と相談しつつ絶妙なバランスを計りながら終わらせるつもりのない戦争をダラダラと続けている。

そんな他国との戦争がダラダラ続いているせいで、近年ではどこの国も派閥争いによる内戦のような物も徐々に活発化しているようだ。


そして発見された時に初めに耳にした傭兵という言葉。


これはどこの国にも属さない傭兵組合という団体に登録し、傭兵としての活動をメインにしている者を傭兵と呼ぶらしい。

傭兵は組合経由では戦争に参加しない。

あくまで組合に来る『戦争に参加してくれ!』という依頼以外の依頼をこなすのが仕事。

ある程度の実力のある傭兵はどの国でも入ることが出来るようで、逆にそれ以外の実力がない傭兵や一般人は自国もしくは同盟国間しか移動出来ないとの事。

そして傭兵は魔物を狩って、その魔物の素材を収集して組合に卸すのも仕事と言っていた。

日雇い労働者みたいなもんだってさ。


魔物…、言葉自体は知っている。

でも全然ピンと来ないな。


種族について。

魔法と親和性の高い魔人系種族。

エルフやドワーフにノーム等の精霊をルーツに持つ精霊系種族。

身体能力の高い獣人系種族。

そして特に秀でた特徴を持たないオールラウンダーの人間族。

それら種族と相容れない魔人。

魔人族と魔人は何が違うの?と聞いたら、魔人は悪魔だって言ってた。

誰でも一目見れば話し合い出来る相手かどうか一発で分かるらしい。

と言うか魔人なんて有名な冒険譚やおとぎ話の中だけ存在で、実際に見たことのある人なんて居ないらしい。

でも確かにそういう種族は居たらしいというのが定説との事。


私は…多分人間族かな?

調べる方法は無いのかと聞いたけど、サラさんにピシャリと「そんなもの見りゃ分かる」と言われた。

人間族と言われるし、まぁ人間族なんだろうね。


そんな風にして新たな知識を取り込んでいる途中、サラさんとダンさんの雰囲気が穏やかなものから厳しいものへとガラリと変わった。




「くそっ、こんな平原で何が悲しくてフォレストウルフの群れに追っかけられなきゃなんないんだい!」

「トムさんっ!逃げきれるか?」


ダンさんが御者のおじさんもとい人の良さそうなトムさんにそう言う。

御者のトムさんは振り向かないまま声を上げる。


「ただの犬っころなら兎も角、魔物はやたら足が早えから無理だ!宵っ張りの身体に悪いけど、ひと仕事頼むぜ!」

「いつもの数匹そこらじゃないんだよ!ありぁ20…いや30匹は居るよ!じょっ…上位種もいる!」


深刻そうなサラさんとダンさん。

良くわかんないけど、今がとても不味い状況なんだって事は分かった。


御者のトムさんがチラリと魔物の群に目をやる。

はは、苦笑いだ。

まるで諦めの境地みたいだね。


「なるほどな!こりゃアンタら2人っきりじゃ無理そうだな!はぁ、ここで4人、奴らの餌になって仲良くあの世行きかねっ!」

「まだ行きたくないがな!行くぞ。サラ、お前は狼煙弾を頼む!」


ダンさんの言葉にサラさんは悔しそうな顔をした。


あーこれ、多分本当の本当にダメなヤツなんだ…

確かに物凄い勢いで大型犬みたいな群れがこちらを目掛けて走っている。

あれが魔物かな…禍々しいという言葉がよく似合う妙なオーラを感じる。


あの数の狼相手に人間が二人きりで戦えるもんなの?


ダンさんは颯爽と馬車から降りてこちらに向かってくる大型犬みたいな狼の群れに突っ込んでいってしまった。

サラさんは鞄から布でグルグル巻きにされた筒を取り出して、布をスルスルと取る。

町があるという方へ投げてからダンさんの後に続いて走りさって行ってしまった。


やがて真っ黒い煙がモクモクと真っ直ぐ空まで延びてゆく。

ああ、これで町にいる仲間たちに知らせるんだ。

でも町なんて肉眼で見えない。

応援が来る前に死んじゃうよ。


こんな風に死と隣り合わせの日常なんだ…


「ダンさんとサラさん…大丈夫ですか?」

「…今日は数がやたら多い…。でも町には知らせた。…悔しいけど俺じゃあ助太刀しても魔物の腹を膨れされるだけだ…」


悔しそうに顔をしかめたトムさん。


「町からの応援が来るまで持ちこたえられりゃな…」


やがてダンさんやサラさんとフォレストウルフ?とやらの交戦が始まる。

自分のような素人でも2人とも大分苦戦していると分かる。

劣勢を強いられる戦い…当然だ。

相手は30匹は居そうな狼…フォレストウルフ?の群れ。


「置いていくしかないのかね…。くそっ!」


突如やってきた緊急事態。

どうする?

面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。


なお、挿絵についてはAIに必死に頼み込んで作成しました。

どんな感じのキャラクターなのか参考にしてください。

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