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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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194.気になる報酬

フィリベールさんとカタリーナさんは無事婚約。

とんだ縁結びの妖精である私は、フレヤさんどころかみんなから顰蹙を買い、そして決まるそれぞれの歩む道。

寂しい気持ちを抱きつつ今に至る。




翌日、みんなそれぞれが出立する前日。

私たち『魔女っ子旅団』は限定クランの解散や報酬の受け取りのため、傭兵組合へと足を運んだ。

ちなみにレナトさんとヒカリさんも関係してくる話なので、朝食後に二人と合流。

流石に傭兵組合へ行くので、二人ともいつも通りの傭兵スタイル。

親衛隊になってからはお揃いの鎧とマントをしていたけど、流石に仕事以外の場であの格好で町をうろつくのはマズいのかな。




事務所の中では最早有名になりすぎた私たちに絡む輩はおらず。

どんな目で見られるとかはさて置いて、やっぱ絡まれないのは楽で良い。


「よお、なんか魔物を連れた小人どもが…」

「馬鹿っ!!よせっ!!アイツらは…」


ア、アブネー…

絵に描いたよーな柄の悪い人間の兄ちゃん、仲間から止められてやんの。

仲間連中は私の格好を見て、明らかに怯えてる。

良きかな良きかな、このパターンが増えれば私たちも旅が楽になりそうだね。

盗賊とかもこのパターンで遠慮してほしいところだよ。

微妙な雰囲気になろーが、絡まれないに越したことはない。

どーせその場限り、関わる事なんてないんだから、外聞なんてどーだっていい。


「…オロチを…」

「そうらしい、あれが…」

「ま、まだ子供…」


ふふん、耳障りの良いヒソヒソが断片的に聞こえてくるよ。

今日はちゃーんとフレヤさんの隣を歩いてるもんね、私だって学習くらいするのだよ。


「あのメイド…」

「ああ、怪力の…」

「…化け物の…」


ぐぬぬぬ…言い方があるでしょ!!


「アメリお姉ちゃんのことだね、凄いね」

「すごい!」


ぐふふ、エリーゼちゃんとロザリアちゃんの尊敬の眼差し!

悪くない、悪くないよー?

さあ柄の悪い傭兵どもっ、じゃんじゃん噂しちゃってよ!!




フレヤさんが代表して受付に声をかけたところ、そのまま会議室へと案内された。

テーブルは立派な長細い楕円形の木でできたテーブル。

私とフレヤさん、そしてナターシャちゃんたち『ツバサ』の面々が並んで座り、向かい合うようにフリーデリケさん一家、そしてレナトさんヒカリさんが座った。

エリーゼちゃんとロザリアちゃんはお利口さんにちょこんと椅子に座っている。


ん?ドアをノックする音!


「失礼いたします」


誰か来た…職員のねーちゃんかな?

えっ?このねーちゃんが司会進行?あ、紅茶か。


「紅茶をご用意いたしました。よろしければどうぞ」


ティーワゴンから紅茶の入ったカップを取って、みんなの目の前に並べてゆく。

どれどれー?どんな具合かな?

ふふん、まだまだだね!とりあえず淹れりゃいいってもんじゃないのだよ!

いやいや、使用人じゃあるまいし、そんな事言ったってしょうがないか。


「所長はもう間もなくこちらに参りますので、そのままお待ちください。それでは失礼いたします」


行っちゃった。


誰も口を開かない。

なんか喋りにくい雰囲気…!

『ツバサ』『アイアン・シールズ』『銀の翼』それぞれみんな予め相談済みっぽいね。

そりゃそーか、この土壇場であーだこーだ議論する訳がない。

うちのパーティーはあれだ、フレヤさんに全面的にお任せだから。

フレヤさんに委任しときゃ万事問題なしなのだ。

そーゆーパーティーなの!私がてんで役に立たないからフレヤさんも具体的な相談はしないって訳じゃないの!


紅茶の味は…うむ、まあまあかな。

私ならもっと素晴らしく淹れら…


「失礼いたします」


ん?あっ!イーニャスさんの声だ!

さっきの紅茶を出したねーちゃんと会議室に入ってきた。


みんながちょっと緊張し始めたのが分かる。

大金が動くんだ、緊張くらいするか…

エリーゼちゃんとロザリアちゃんはポケーッとしてる。

こ、このままじゃ私もエリーゼちゃんやロザリアちゃんと同じ「ポケーッ」枠だっ!!

緊張せな!緊張緊張っ…!私はそっちの仲間じゃないっ!!


「皆さん、改めましてナンナホンオロチ討伐という偉業を成し遂げられたこと、誠におめでとうございます」


イーニャスさん、ニコニコしたまま頭を下げた。

あ、みんな頭を下げた!わ、私も下げなっ!!


「この結果は、傭兵組合全体にとっても名誉なことであり、また、討伐に参加された全ての方々の努力と覚悟の結晶です。心より称賛申し上げます」


そっかそっか、傭兵組合としても株が上がった訳だ。

「うちの組合員が討伐したんだぜ!」って宣伝になるもんね…


「さて、まず討伐メンバー全員の等級についてですが、今回の功績を鑑み、『魔女っ子旅団』および『ツバサ』、並びに『アイアン・シールズ』、『銀の翼』の各メンバーの等級を、それぞれ引き上げる決定を組合として正式に承認いたしました。新たな等級プレートをお渡ししますので、各自ご確認のうえ、現在の等級プレートをご返却ください」


これはフレヤさんからさっき聞いてたぞ?

ここは手際良く…えーと、よっと…

んーと、目の前に置く感じかな?


助手のねーちゃんが手際よく新しいプレートと交換して回る。

私の番だ!どれどれ…おおーっ!!10等級!?

フフフ、フレヤさん!大台だよ大台っ!!

うっ…フレヤさんに膝を叩かれた!

そういうフレヤさんも大台かぁ!これで『霊絶の凍原』に入る最低条件はクリアしたぞー?

他のみんなはどうなったかな?…うーむ、流石に見えん。

後で聞こっと!


「次に、傭兵組合経由でお支払いする討伐報酬についてです。『魔女っ子旅団』および『ツバサ』の両パーティーからは、ウィルマール王国および協賛貴族からの報酬を辞退し、その分をナンナホンオロチ討伐の被害を受けた地域の復興に充てるとの意向を伺っております」


ふむ、そーだったね。

フレヤさんやナターシャちゃんはそんな風に調整してる。

どーせナンナホンオロチの死骸でがっぽり儲かるんだ。

更に貴族だとか王国から金銭的な報酬を貰うのは、そりゃ貰いすぎってもんだ。


「『アイアン・シールズ』および『銀の翼』については、如何なさいますか?」

「すまない、入り用があってな。『アイアン・シールズ』は報酬を受け取らせて貰う」

「俺たちも新たな生活の資金に充てたいと思っていますので、受け取らせて頂きます」


ふむ、まぁそーだよね。

ガリウスさんとフリーデリケさんはこれからクラウディアさんとユルシュルのもと、革命を起こす。

入り用どころの話じゃない。


一方『銀の翼』のレナトさんヒカリさんはこれから子供を産み育てる。

万が一の時のためにお金を貯めておいて、いざってときは子供に相続させる、親としてとーぜんの判断。


「『アイアン・シールズ』および『銀の翼』については、一括受け取りを希望ということで承知しました。そのように手続きさせて頂きます」


さて、ここからはナンナホンオロチの件かな?


「そして、本題であるナンナホンオロチの死骸についてですが、現在、オークションの準備を進めております。最低落札価格は金貨一万枚、最高落札価格は金貨五万枚を予想しております。これほどの希少価値を持つ魔物の死骸となると、各国の研究者や貴族からも関心を集めることは間違いありません」


むほーっ!?

なぬーーーっ!?

ごごごごっ、五万枚…!!

ご、ごまっ!ごまっ!!五万枚!?

フフフ、フレヤさんフレヤさん!!

五万枚ですって!?


「分割の割合についてですが、討伐隊全体で話し合いが行われ、『魔女っ子旅団』、『ツバサ』『アイアン・シールズ』『銀の翼』の四組で均等分割という方針が決定しました。それぞれが等しく死骸の売却益の四分の一を受け取る形となります」


私たちだけで一万二千五百枚、あばばば…現実離れしてる…!!

ににっ、肉串!!肉串何千万本買えるんだ!?

千二百五十万本!?千二百五十万本も買えちゃうよ!?

何代先まで肉串に困らなくなるんだっ!?

あばばば…すすす、すげーっ!!

流石にみんな興奮を隠しきれない様子!!

むほー!大金持ちじゃないか!?


待て待て、待てよアメリ。

兵士の一般的な月給が金貨二枚とする。

んで年間二十四枚、百年で二千四百枚…だから……

ごご、ごっ!!ごっ!!五百二十年分の月給!?

ぐへへ…一生遊んで暮らせるぞ…!?


「次に、支払い方法についてです。死骸の最終的な落札額がいくらになるかによりますが、傭兵組合では月賦払いの形を取らせて頂く予定です。仮に最高価格である金貨五万枚となった場合、各組に一万二千五百枚が分配されます。期間については合意が必要ですが、最長でも十年での支払いを想定しており、各組への月額は約金貨百枚となる計算です」


あ、毎月金貨百枚か…そらそーだ。

急に金貨一万二千五百枚も貰ったって激しく困る。

いくら異空間収納にあるったって、どこから嗅ぎ付けたのか、なんかずる賢い奴らがすげー群がってきそう。

いや、有名になりすぎてる、確実に群がる。

月に金貨百枚かぁ…

いやいやっ!!毎月なんもしなくても金貨百枚って!!

なんか金銭感覚がおかしくなってるよ!!十分凄すぎるよ!!


「もちろん、細かい条件については皆さんのご意向を伺いながら進めてまいります。後日でも支払方法の変更には応じます。まずは『魔女っ子旅団』の方は決まっておりますか?」


おっ、フレヤさん、頼みます!


「我々は十年支払いで構いません。我々が死んでしまった時はそうですね…スーゼラニア王国のマルゴー辺境伯領支部、カント事務所宛てで、同じくカントの町に住んでいるユージンとミリアに名義変更をお願いします」


ぬおっ、そっか…私たちが死んじゃったら代わりに誰が受け取るのか決めとかなきゃいけないのか!!

あ、フレヤさんと目があった。

いやいや、私なんて渡したい人は誰もいないし、全然問題なしです。


「あ、そ、それで…」

「ありがとうございます、それでは我々『魔女っ子旅団』はそれでお願いします」


ふーん、そっかそっか。

ある時、フレヤさんのご両親であるユージンさんとミリアさんが、急に傭兵組合からお金が支給されるようになったら…多分娘の死を知らされつつ毎月お金を貰うのか。

カントに噂は広まってるかな、最早懐かしいな…カント。




『ツバサ』は私たちと同じ十年分割コースで、パーティーが全滅したときはナターシャちゃんの故郷にいるご両親宛てで決めてたらしい。

全然聞いたことのない『はじめまして』な国、ベサリエ王国の辺境地帯のオイムセール大森林にあるカペリ集落とやらに住むご両親と思しき名前、フリストとターニャという名前を挙げていた。

土地の説明で「ナントカ男爵領」だとか、そーゆー風には言ってなかったあたり、未開の地っぽい感じなのかも。

どうやらイーニャスさんの故郷もそこの大森林にあるらしく、ナターシャちゃんと軽くその辺りの話を深堀してた。

「カペリ出張所ですよね」なんてイーニャスさんが言ってたあたり、結構栄えてる集落なのかもしんない。


次にフリーデリケさんとガリウスさんも同じく十年分割コース。

全滅したときの受け取り人にクラウディアさんとユルシュルを選んでいた。

流石にその名前は知っているらしく、その二人の名前を出しただけでスラスラとペンを走らせていた。


レナトさんとヒカリさんも十年分割コースで、受け取り人は一旦と前置きをしたうえでヒルドリック伯爵の名を出してた。

子供が産まれたら受取人の変更をするって言ってた。




「それでは、皆さま、本当にお疲れさまでした。討伐に携わった全員が、この素晴らしい成果にふさわしい名誉と報酬を得られることを、私も心から願っております」


ふー、これで事務処理は片付いた。

後は私たちと『ツバサ』と『アイアン・シールズ』の3パーティーが、予め指名依頼の登録をして貰ったらしい明日の護衛の依頼を受ける感じ。

明日からは別々の道を歩むことになる。


これ、何度も思っては頭の中でしんみりしちゃうけど、それでもやっぱり寂しいもんは寂しい。

面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

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