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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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182.レナトヒカリ

今回のナンナホンオロチ討伐の報酬として、ヒルドリック家にて護衛として安定した暮らしが欲しいとお願いしたヒカリさんとレナトさん。

運良くその日は護衛隊の幹部たちが演習場に集まっているようで、私たちは演習場へ足を運びつつ今に至る。




こっちはこっちで話に夢中になってた…もとい、私は私を聞くのに夢中になってた訳で。

どんな話になったのか全然聞いてなかったけど、どーやらレナトさんとヒカリさん対護衛隊十人って感じっぽい…


「ほらアメリさん、始まりそうですよ。今回は精鋭部隊全員に対して二人ですか…」

「た、多分平気だと…お、お、思います」


直感でしかないけど、多分レナトさんとヒカリさんが負けるとは思えない。


「アメリさんがそう言うのであれば、恐らく本当に大丈夫なのでしょうね。そうなると問題は…」

「で、ですね…」


フレヤさんの言うとおり。

むしろ心配ごとは別にある訳で…




「あのー、私の盾で攻撃しちゃうと洒落にならないので、私たちが誰かを守るという形でどうですか?」


そーなんだよ。

ヒカリさんの今の発言、挑発とか余裕ぶっこいてるとかじゃなく、割と本気の気遣いである。

私ももし、ヒカリさんから本気であの盾で攻撃されたらと考えると、冷や汗が浮かぶ思い。

あの盾はすげーヤベー代物で、あれさえあればヒルドリック家は安泰に決まってるのだ。

オロチの首をいとも簡単にスパっと落とし、オロチのブレスも耐える盾。


「ああ、それで構わない。して、護衛対象の役は誰にするか?」


あんなデタラメな性能の盾…ヒカリさんのお爺さんの血筋じゃないと使えないって制約は救いだよ。

悪い奴の手に渡っても、あの盾は単なる丸盾。

しかし、だ。

そのヒカリさんの血筋に魔法協会に組するよーなロクデナシが出現したら…もう益々手に負えなくなる。


「アメリ!頼む!!」

「そうだね、お願い出来るかな?」


うーむ、そーゆー困った事態に陥ったときって第三者から神様に返却できんの?

「お宅があげた盾、悪事に使われてるんですけど!」みたいな告げ口、できるようにしてほしい限りである。

神様はさ、一体何を考えて『渡りし人』のリクエストに答えてあれやこれやと授けちゃうんだろう。

『渡りし人』自身がずる賢いヤツだったら、神様の意図しない使われ方なんかされて、最悪文明が滅びることだって有り得ちゃうかも。

…そもそもどうしてリンちゃんの故郷の世界から、わざわざこっちの世界に送り出すの?

ただ送るだけじゃない、生き延びられるようにあれやこれやと力を与えて?なんでそこまでしてこっちの世界に送り出すの?

あれれ?そもそも元の世界に送れば良くない?

そーしたら力なんて与える必要ないじゃんね?


「ああ、はい!良いですよ!うちのアメリで良ければ!」


ちゃんと厳選して人を送ってるよーには見えない。

リンちゃんなんてまだまだ子供だし、カズヤ・ミナミダイラなんて放っておいたらどーなってたことやら。

もしもリンちゃんの結界に思わぬ悪用方法があったとしたら?

そんな事までちゃんと考えて授けてるのか?考えてないだろ。

いや、別に我々のよーな下々なんざどーだっていいと思ってるのかもしんない。

私たちが動物や魔物の生息数が減少してもヤキモキしないとの同じように…この世界って…


「にゃ!ほらアメリさん!行ってくるにゃ!!」


どわっ!?

え?えっ!?

な、なんの話だ!?

いやいや、ここで「ところで何の件ですか?」なんて尋ねたらまた呆れられるぞ…?

えーと「それでは…はじめっ!」とかいう役かな?あっ、きっとそーだね!?


ふふん、なんか格好いいことが言えそうな役だぞー?

勝負が終わった後でさ「騎士のあなた!あなたはもうちょっとアレをコレコレすべきね!弓のあなたは…ねえ、あなたはこれからそっちに矢を飛ばしますって親切に教えながら戦うスタイルなの?つまらない弓さばきで欠伸がでたわ!」とか…ぐふふ、格好いいよっ!!


「あ、は、はい…!」

「アメリちゃん、こっちこっち!」


はいはーい、ヒカリさんとレナトさんの後ろっすね?

モタモタしてため息つかれたらイヤだな…一気に跳躍したら格好いいかもだぞ?

よし、そうと決まれば…ピョーンだっ!!


身を屈めながらクルクル縦回転、そして鮮やかに着地!

どーよ、私の…な、なぬぅ…?

これはやり過ぎたやつっぽい、護衛隊の面々から呆然とされてる。


ってあれれ?「それでは…はじめっ!」係は中央に居ないといけなくない?

はは、呼ぶ場所間違ってまっせ!ヒカリさん!

うっかりさんだなぁ!


「わ、私の立つ…場所、こ、ここ、ここじゃないです…よね…?」

「えっ?ど、どこから始めるつもり?」


あれ?普通は中央に立ってさ、スッと身を引かないかい?

フレヤさんは前にそーやってた気がするんだけど…


「あ、あの…中央からかと…」

「面白ぇ、ヒカリ、それでいいぜ、そっちの方が俺たちの実力をより知って貰える」

「ま、そうだね!あたしがあれだからね?レナトもあれで」

「おう、任せろ」


よし、じゃあ真ん中に立つかな…




お、おかしい。

あれれ?あれ?

フレヤさーん?


レナトさんとヒカリさんの後ろ、待てど暮らせどだーれも来ない。

しかも中央のあたり、私の他になぜか私の後ろに伯爵がいる。

フレヤさんフレヤさん、これ何だろう?


あれだ、これ…わ、私を護衛するってことか?

それとも伯爵に言った方がいいのか?「護衛役はレナトさんヒカリさんの後ろですよ」と。

何かの誤解があるとマズいぞ…あばばば、思ってたのと違う。

あー分かったぞ、私と伯爵と二人で「それでは…はじめっ!」係を…


「よし、それでははじめ!」


どわーっ!!やや、やっぱり私が護衛される係だった!?

フフフ、フレヤさんーっ!?

あー…うーむ、まぁ確かに私ならこの精鋭部隊相手に怪我をするようなヘマはしない。

ぐぬぬぬ…フレヤさん、呆れ顔だ。

いや、わ、私はちゃんと全て理解していたよ?


おっと、ヒカリさんがしゅるるっと私の前まで飛んできた。

どわっ!!いきなり矢と魔法!?

ヒカリさんが防げなかったら、私どうすりゃいい?

そこは私が防いじゃっていいよね!?

そ、そんなに護衛役は徹底しなくていいよね!?


「アメリちゃんは何もしなくて良いよ!!」


わー!おーっ!す、すげー!

ヒカリさん、盾で魔法も矢も防いでくれる!!

これは…まだなんか技を使ってないのかな?

自分の身体能力だけで防いでるのか、驚きだ!


「レナト!」

「任せろ!!」


襲いかかってくる騎士たちを一人で捌くレナトさん。

凄い…あんな重そうな両手剣なのに、まるで木剣でも振り回してるみたい。


「オラオラァッ!!そんなヘナチョコじゃ怪我一つ負わせらんねえぞっ!!」

「ぐっ…さ、流石高等級の傭兵…!!」

「一撃一撃が重すぎる…!」


いやー、傭兵やってりゃ伊達に盗賊とか魔物相手に戦ってないよなぁ。

そりゃ貴族お抱えの精鋭部隊だって血を吐くほどの鍛錬は積んで積んでドエライ苦労してんだろうけどさ、やっぱり命のやりとりが発生すると練度がまるで異なるよね。

現にジルさんはズブの素人状態から、私の本気を引き出せるレベル。対人戦は目を見張るものがある。

まだ繰り返し魔物溢れで出現した魔物と戦った姿を見たことはないけど、その件について以前、ナターシャちゃんが何の気なしにジルさんに水を向けたことがある。

ジルさん、それはもう目を輝かせながら鼻息荒く「あれはこうで、これはああで」と早口になりながら話していた。


私の近く…何やら気配。

ヒカリさんは気がついて…気がついてるか。


「バレバレだよ!ライノッ!!」


盾を全面に構えたまま突進。

衝撃が凄いなっ!ありゃりゃ、身軽そうな人たちがぶっ吹っ飛んだ。

盾自体は当たってなかった、物理的にゴツっと押したわけじゃなさそう。

衝撃波みたいなもんかな?

あれ…大丈夫かな?完全に伸びちゃってる。

で、ライノさんってどっち?あら?技の名前かな?技の名前か…


あっ!!矢とか魔法がこっちに来るよ!

偉い人の護衛って忙しいなぁ。


「グラディアノォォォスッ!!」


進行方向を意識しつつって感じだ。

なるほどね、私に身軽そうな人たちが飛んでいかないよう注意を払いつつ突進して、そのままグラディアノスを展開して弓兵や魔法使いから守る。

んで背中で私を守る形になるまでがワンセット。

ふむふむ、なるほどなるほど…


「ヒカリッ!そっち平気か!?」

「シャドウストライカー二人は気絶してる!!矢も魔法も平気!」


シャドウストライカー!?

な、なんか格好いいね!?

あんな風に潜伏しつつ戦う人をシャドウストライカーと呼ぶのかな?


「じゃあ仕上げ行くっ!頼むっ!!」

「任せて、行くよ!!ドラゴンフライッ!!」


あー、これナンナホンオロチ戦でも使ってたやつだ。

多分身体能力の底上げっぽいね、レナトさんのスピードも威力も上がった。


「よしきたっ!!しゃあっオラァ!!遊びは終わりだ、吹き飛べ!!」


レナトさんは両手剣の剣身で思いっきり前衛たちをフルスイングでぶん殴った。

今の斬撃、ひょっとするとちょっと魔力が乗ってた気がする。

どちらの手もはじめから使わなかったのは、相手方の油断でも引き出そうとしていたから?

うーむ、わかんないな。

でも精鋭部隊側も搦め手ではなく、割と推測しやすそうな攻め方をしていた。

初めから身体強化をしないという選択肢か…ふむふむ。

あとでフレヤさんに聞いてみようかな。


レナトさん、両手剣を水平に構え、そのまま姿勢を低くして構えた。

突進だ、弓兵と魔法使いももうおしまいかな。




レナトさんとヒカリさんの連携は文句なし。

ヒカリさんも盾に依存している訳ではなく、ヒカリさん自身がそもそも強い。

レナトさんだってヒカリさんに依存している事はなく、レナトさん自身もまたデタラメに強い。

複数名の男を剣一振りでぶっ飛ばせる怪力の傭兵と、詠唱魔法に盾をブン投げ、ぶつけて魔法自体を消し飛ばす傭兵。

護衛として何の不満も指摘事項もない、現に私は一歩も動かなかった。


「完敗だ。君たちのような熟練の傭兵が我々の仲間としてその力を振るってくれることを光栄に思う」

「はい、どうぞよろしくお願いします!」


護衛隊のリーダーと思しきシャドウストライカーの一人がレナトさんと握手をかわす。


「おっと…」


ん?レナトさん、シャドウストライカーの人から差し出された右手じゃなく、左手を無理やり掴んで握手した。

ちょっと失礼に当たらないか?


「はは、合格だ」

「ガキの頃からこういうのは叩き込まれてますので。改めてよろしくお願いします」


ほへー、手になんか仕込んでたってか?

それは流石にわかんなかったなぁ。

むやみやたらに差し出された手を握り返すのって危ないことなんだね。


「アメリさん?何の役を頼まれたか…全然理解していませんでしたよね?」


ぐぬぬぬ、フレヤさん。

それは考え過ぎというやつだよ、ははは…


「あ、い、いや…?ああした方が…いいかなーと…」

「まるっきり話を聞いてないって顔をしてましたよ!護衛役が来ない来ないとソワソワしながら私の顔をチラチラ見ていましたよね?」


バ、バレバレーっ!?


「ははっ!なんならさ、アメリ嬢は「はじめ!」ってやるつもりだったろう?伯爵様がかけ声をかけたらポカーンとしてたよ!」


オットーさん!よ、余計なことを言うんじゃないよ!!

子供の教育に良くないよ、フリーデリケさん!…ってオットーさんがエリーゼちゃんとロザリアちゃんに説明してる!

説明いらん!子供でも分かる親切な説明いらん!!




レナトさんとヒカリさんは即、護衛隊として伯爵一家の専属護衛になることが決定してた。

まー、パーティー当日は表彰される側なので、当日の護衛には回らないとして、早速手合わせした護衛隊たちと演習場に留まることに。


ジルさんについては伯爵夫妻から声をかけられ、そのまま屋敷へと行ってしまった。

ま、伯爵夫妻の表情から察するに、あんまり不利益を被るような感じじゃなさそう。


私たちはと言えば、とりあえず傭兵組合で拠点異動の手続きをすることに。


そしてフリーデリケさんの『魔女っ子旅団』脱退の手続きだ。


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