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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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18.決意

常設依頼の勉強がてらカントの町周辺を散策して今に至る。




その後もまた、はじめましてな魔物に遭遇。


今度は苔むしたような体毛をしているバウムフォックスとかいうキツネだ。

その薄汚く臭そうな見た目は、森と同化する為に、苔むした体毛をしているのではという見解らしく、フレヤさん曰く毛皮も肉もお金にならないらしい。

魔核以外お金にならないって本当にみた目通りの魔物だね……

出来ることなら触りたくないもん。

触ろうものなら数日は生臭さが手にこびり付きそう。


そんなバウムフォックスから器用に魔核を取り出すフレヤさん。

速攻で生活魔法でフレヤさんを清めさせて頂いた。




そんな訳で、ウロウロしているうちに、良さげな木を見つけて休憩を取ることに。

フレヤさんと協力しつつ、どーにか先程仕留めたフォレストウルフを木に逆さ吊りにして、血抜きをしながら少し遅めのお昼ご飯。




「今日はまあまあ魔物に遭遇しましたから、薬草類も含め全部で銀貨20枚程度でしょう」


フレヤさんと山分けすると1人当たり安宿10泊。

ふーん、良く分かんないけど、そんなもんなのかな。


「あ、案外良いんで……すかね?」

「私達は2人だけ。しかもアメリさんが滅法強いので、こうして常設依頼でも十分に食べていけます。報酬は2人だけで分けますからね。しかしこれが4人パーティーだとか、そこに更にサポーターまで雇うと、とてもじゃないけれど、こんな風に常設依頼だけでのんびりなんて訳にはいきませんね」


ははぁん、なるほどなぁ。

通りでみんな掲示板に必死に群がるわけだ。

少しでも良い依頼を受けつつ常設依頼もこなす。

それくらいしないと満足に報酬が得られないんだ。


「なっ、なるほど……!と、特に必要もないのに、じょ、条件の良い依頼を受けると、ほ、他の傭兵の人達が……っ食いっぱぐれる……訳ですね…」

「その通りです。他の傭兵達の懐事情なんて、私達の知った事ではないですけれど、まあ私達みたいに経験を積みたい人は、手を引いてあげた方が親切ですね。割の良い仕事で潤ってますし」


ふんふん、そういうもんなんだなぁ。

今日の分け前、銀貨5枚!とかじゃ流石にしんどいね。

良い大人が一日命を張って素泊まりで宿代5泊分、しかも薬だとか食べ物だとか、当然武器や防具も手入れしたり買い換えたりもする。

そんなのさ、傭兵をやるよりもっと割の良い、安全な仕事があるはずだね。


「あ、そ、そういえば、ひ、ひと月って、あの、な、何日ですか?」


一般的な兵士の月収が金貨1枚って言ってたけど、そう言えばひと月が何日なのか未だ知らない私。

みんなの前で赤っ恥をかくより、フレヤさんの前で恥をかいておこう。


「おっと、アメリさん知りませんでしたか。えーと、ひと月は30日ですよ。一年は12月。今日が何日なのかは教会や傭兵組合の事務所、兵士の詰め所なんかに書いてますね」

「ほほう、そ、そうなんですね……ふーん」


何となくすっと頭の中に入ってきたな。

多分馴染みがあった知識なんだろうね。


「い、一般的な兵士の、ち、賃金が……金貨一枚でしたよね。えーと、い、い、一日銀貨3枚とか4枚稼げば……」

「はは、そうですね。兵士の良いところは怪我や病気をしても、食いっぱぐれない点ですよ。宿舎で暮らせば宿賃も食費も掛からない。雇用主が領主や国ですから、雇用主から賃金の未払いや踏み倒しの心配もないです」


うーむ、そう考えたら傭兵って、仕事としてはかなーり不安定だなぁ。


「何より兵士に志願する人は『愛する祖国を守りたい』とか『大切な人達の暮らしを守りたい』というような、確固たる動機がありますね。爆発的な儲けはないですが、堅実ですから家庭も持ちやすいです。怪我や病気でも給金はしっかり出ますし、万が一仕事中に命を落とせば、その兵士の家族は宿舎で働いたり事務方として仕事をしたりと、安定した生活も保証されます」

「……じゃあ傭兵は……」

「『すまんな、今日の稼ぎは銀貨3枚だ』『怪我をしてしまった。暫く仕事は出来ない』これが一家の大黒柱だと想像してみて下さい」


おおう……、それは頼りなさすぎる……!

あっと言う間にポキッといってしまう大黒柱。

それはちょっと嫌だ。


「い、いやぁ……ち、ちょっと……」

「ね?やり手の傭兵でもない限り、堅気の人と所帯を持つのは難しいですね。傭兵同士とかなら大丈夫かもしれませんが、子供が出来たら、夫婦揃っての傭兵稼業は厳しいでしょうね」

「こっ、子供が残されたら……!」

「です。仮に命を落としても、傭兵組合の所長がビクターさんみたいに、人情に熱い面倒見の良い方でしたら良いですが、みんなビクターさんのような方とは限りません」


だよなぁ。

旦那が死んだ?職員でもあるまいし知りませんよ?って言われたら、仰るとおり……だもんなぁ。


「そ、その、その代わり、ハ、ハイリスクハイリターンがあるのが傭兵の魅力……ですかね?」

「その通りです。腕が立つ人は昨日みたいに、一晩で何月分の給金のようなお金を手にすることも出来ます」

「も、儲かりましたもんね……」

「ええ。名が売れれば黙っていようと、あちらから割の良い依頼が指名で入ります。遺跡の攻略などするようになれば、古代文明が作り出した伝説級の武器や防具。私の御先祖様マテウスのように、心躍る冒険譚で大儲けなんて事も出来ます」

「なるほどなるほど……」


どこの世界にも色んな気質の人がいる。

小石を一つずつ拾い集めるような堅実な生活を好む人もいれば、一発逆転の危うい橋を喜び勇んで渡る人もいるんだね。


「大都市にでも住んでいない限り、私達は常に魔物の被害や隣国との戦争……争い事と隣り合わせです。だから兵士や傭兵という職業が最も身近だから分かりやすくて格好いいんですね」

「かっ!格好いいですもんね!でっ、でっかい斧とか、と、とんでもない大剣を持って戦うムキムキの人って……あ、あ、あちこち傷だらけで汗臭くて……えへへ……ズボンのポケットに、あの、く、くしゃっと丸めた手拭いが入ってそうな……!げへへ……!」

「わ、私は普通の剣を持って華麗に戦う美丈夫の方がいいかなー……はは」


あれれぇ、フレヤさんに引かれただと……!?




それから数日間、私達は日帰りで同じ様に、場所を変えて様々なものの採取を中心に過ごした。


何も知らなかった私だったけれど、この辺りの地域のお金になる物は何かという知識にはちょっとした自信がついた。

魔物についても場所によって居る魔物が違ったりもしたけれど、大抵は私くらいの実力があれば、そこまで魔物の実力に大差がない事も分かった。

スライムみたいな良くわからない雑魚は置いといて……


この辺りの長閑な感じや、他の傭兵の出で立ちからも察する通り、やっぱりこの辺は駆け出しの傭兵に最適な地域として有名な地域らしい事が分かった。

関所があるから兵士の数も必然的に多く、近くにダンジョンや遺跡などという厄介な場所がないから魔物が溢れてくるような災害もない。

付近の魔物も、たかが知れていて大抵そこまで強くない。




ある日の夜、夕食の席でフレヤさんが改まった様子で口を開いた。


「お父さん、お母さん」

「ん?お茶かい?」

「んーん、違うの。私達ね、サン・モンジュレ街道を西の方へ旅立とうと思う」


何の気なしに食事をとっていたユージンさんとミリアさんは真剣な顔になって食器をテーブルに置いた。

ついにこの日がって気分なんだろな……


「アメリさんもある程度慣れてきたし、食糧のストックも軍資金も集まった。明日ベルーガ向けの依頼が無いか見るのと、拠点異動の申し出をしてくるよ」


日頃から『あとどれくらいの用意が必要ですね』と聞いてた。

だから、何となく「そろそろかな」とは思っていた。

フレヤさんの言葉にユージンさんとミリアさんは切なそうな顔をして微笑む。


「そうかそうか……フレヤの冒険譚は、ついに旅立ちの章へ突入するんだね」

「ついに…ね。ふふ、そうよね」

「そうだね、出会いから準備まではこれくらいにしておいた方が素敵な冒険譚になるだろうね」


ユージンさんがそう言うと、ミリアさんも頷く。

複雑な心境だろうなぁ。

フレヤさん、本気で祖先のマテウスさんに憧れてる。

そんなフレヤさんの本気の夢を一番知っているからこそ、ユージンさんもミリアさんも「行くな」とは言えない。


「この広い世界を存分に楽しんできてね?フレヤはあの伝説のサポーター、マテウスの子孫。きっとドキドキワクワクする大冒険が待ってるわ。どうかね、どうか……」


ミリアさんが言葉に詰まって俯いた。

やがてテーブルを濡らす涙。


ミリアさんの背中にそっと手を当てるユージンさん。

フレヤさんも涙ぐんだまま微笑み、身を乗り出してミリアさんの手に手を重ねる。


これから2人の愛しい娘が長い長い旅へと出る。

きっと毎日ふとした時にこの世界のどこかで旅をしている娘を思う。


ひもじい思いはしてないか?

怪我や病気なんかしてないか?

笑顔で過ごせているか?

いつ帰ってくるだろうって話すだろう。


帰ってくるまで何年……いや、何十年とかかるかもしれない。

五体満足、笑顔で逞しくなって帰ってくるかもしれない。

どこかを欠損して暗い顔で帰ってくるかもしれない。

冒険譚が途中まで書かれた手帳だけが、誰かの手によって帰ってくるかもしれない……


そんな時、ユージンさんとミリアさんは……


そんなのダメだ。

この私が全力でフレヤさんを守るんだ。

フレヤさんの為。

フレヤさんを思う人達の為。


「うっ……、ううっ……!わだじっ!ぜっ、絶対にフレヤさんを守りまずっ!!おーいおいおいっ、おーいおいおい!五体満足っ!!五体満足でっ!!ううっ、五体っ!!ご、五体っ!!まっ!!まんぞっ!!満足っ!!おーいおいおいっ!!」


大切な愛娘の旅立ち。

こんな場面見せられたらもう我慢できない。

辛抱たまらん。


「あはは!アメリさんが一番泣いてますね!」


フレヤさんが笑いながら私の肩を抱き寄せた。

ユージンさんもミリアさんも一瞬ポカンとしてしまったが、すぐにゲラゲラと笑い出してしまった。


恥ずかしいけど、感動の涙は暫く止まらなかった。

ついでに鼻水も止まらなかった。

面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

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