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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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178/555

176.馬鹿力

誤字脱字報告、心の底から感謝しています。

誤って覚えている漢字が多いこと多いこと!

感想やいいねも本当にありがとうございます。

そんな読者の皆様の存在が糧になっております。

ナンナホンオロチをあと一歩で撃破できるところまで追い詰めた私。

しかしながらナンナホンオロチの再生速度を見誤ったせいでド派手にブレスを受けて瀕死になってしまった。

どうにか再起し、禁じ手で奥の手のバーンアウトエクスタシーを自身にかけてナンナホンオロチの懐に飛び込みつつ今に至る。




瞬時にナンナホンオロチの懐に飛び込んだ。

みんながゆっくりゆっくりと動く中、私だけがいつもの早さで動ける。

身体への負荷がなくなったバーンアウトエクスタシー…これはクイーン戦の時とは比べものにならない強さだね。

はは、最初からこうしてれば良かった。


一本目、二本目、数えるのも馬鹿馬鹿しい。

副作用にビビって出し惜しみするのは辞めないとだ。

呆気ない結末ってやつだねこれは。

五本目、六本目。

もう油断しない、最後、七本目。


全部の首を切り落とした。


ナンナホンオロチの動きが止まった。

間髪いれずに燃やさな…あれ?ゆっくりと大地に響くように倒れた。

あ、燃やさなくていいのか!ふーん。

ふー…もうバーンアウトエクスタシー状態でいる必要はないな…

…これ、途中で解除したらどうなるんだ?


「お、終わりました…」

「アメリさん!!良かった…本当に良かった…っ!!」


フレヤさん、心配かけちゃったな…


「はは…し、死んだかと…」

「こっちもですよ!!あぁ…本当に良かった…!!あれ?バーンアウトエクスタシーは終わったようですが…」


地響き。

えっ?なんだ?どこから?

もうナンナホンオロチは倒れたはずだけど…どう考えでも地響きの発信源はナンナホンオロチだよね。

嘘でしょ?再生止まったよ?えっ?まだなんかあるの?


「にゃにゃっ!!!全部の切り口から黒い霧にゃ!!!」

「とりあえず逃げるよ!!!何もない訳ないよ!!」


ああ、嘘でしょ?

なんなのコイツ…これはどんな攻撃手段なの?

死んでるよね?攻撃手段っていうの?

くそーっ、とりあえずフレヤさんを安全なところへ…


「アメリさん、一旦引きましょう!アメリさん!?アメリさんっ!?」


なんだこの脱力感…

バーンアウトエクスタシー?

本来の副作用って…この脱力感なの?

ああ、膝が笑って走れない…


「あれ…ぜんぜん…ちから…はいらない…」

「さあ逃げますよ、アメリさんっ!!!」


ああ、フレヤさんがおんぶしてる!?

私をおんぶしたまま全力ダッシュ。

そうか、元々は巨大な荷物を背負ってサポーターやってたんだもんね。

これくらい朝飯前なのか…


「先生っ!!フレヤさん!!」

「にゃにゃ!!ジルさんまであの霧に飲み込まれるにゃ!!」

「このままじゃ先生とフレヤさんが死んでしまいますわ!!」

「よくみるにゃ!!あの霧の下の草や花がしおれてるにゃ!!絶対まずい奴にゃ!!」


やっぱり後先考えずにバーンアウトエクスタシーを使うべきじゃなかった。

ジルさん…はは、ジュリエットが出てるよ。

ああ、本当にごめんね…フレヤさん。

せめてフレヤさんだけでも生き延びれるように…


「ぁぁああああぁっ!!ど根性っっっっ!!こんなとこで!!こんなとこでっっ!!」


フレヤさん…諦めてない。

私なんて置いていって、お願い。


「もうダメだよっ!!あたしが…!!」

「俺たちも逃げるぞ!!フリーデリケ、どんな効果があるか分からねえんだ!!」

「あたしが二人を捕まえて空に逃げるよ!!」


ああっ、本当にもうダメだ!!

私が降りてフレヤさんをブン投げれば…!!


「おっ、降ろして…!フレヤさんまで…」

「馬鹿言わないで!!私は最後まで諦めない!!」


力が入らない…


「ああああぁぁぁっ!!絶対に諦めないっ!!!」


意識が遠くなってきた…

ごめんね、フレヤさん…




んん…

えーと…どうなった?


もう夕暮れか…

黒い霧?ああ、みんなは…


…嘘でしょ、みんな死んじゃった…?

見える範囲には誰もいない。

マズい、私がなんとかしないと…


ああ、身体が全然言うことを聞かない。

フレヤさん、フレヤさんはどうなった?


「…絶対に……絶対…に……負けない……!」


良かった…フレヤさんは生きてる。

なんか持ってる、私が気まぐれで渡した『フェニックス・グレイヴ』だ。


「諦めて…たまるかっ!!こんなところで…諦めて……」


そうか、もういつもの改造ツインサイクロンを構える力が残ってないんだね。

頼りないオモチャみたいだ…これはもうここで手詰まりっぽい。

誰かがあそこで突っ立ったままの首なしナンナホンオロチをどうにかしてくれないと、どうしようもない。

ああ、言葉が出ない。

無詠唱の治癒魔法…頑張って覚えないとな……

あれ難しいんだよなぁ…


「最後…まで……諦め…ないっ!!」


うつ伏せのまま『フェニックス・グレイヴ』を構えたフレヤさん。


轟音とともに『フェニックス・グレイヴ』から顔を背けたくなる熱を感じる。

なんだ…?火が鳥みたいな形をしてナンナホンオロチへ向かって…!!

これが『フェニックス・グレイヴ』の力なの…!?


「はは…不死鳥の墓…!ははは…はじめから…これに気がついて…いれば…!!」


フレヤさんの撃った不死鳥は、こちらに向いているナンナホンオロチの切り口を燃やしている。

消えない、炎が消えてない!

あんなオモチャみたいな武器が?


轟音とともに二羽目の不死鳥が。

三羽…四羽、五羽六羽、七羽。


『フェニックス・グレイヴ』からカチカチという音が聞こえる。

球切れだ。


七羽の不死鳥は盛大に、ドロンと倒れたナンナホンオロチを燃やし続ける。


夕暮れ時、激しく燃え上がるナンナホンオロチ。


「…アメリさん…気がつきましたか…」

「フ、フレヤ……さん……」

「良かった…次からは……ちゃんと、武器は…試さなといけませんね」

「ま、まさ…か…あ、ああ…」


やがてナンナホンオロチはゆっくりと崩れ落ちた。


「終わりましたね…ははは……後世にしっかり遺さないとな…」


『ずうぅぅん』というナンナホンオロチが崩れ落ちた音が、私たちの戦いの終わりを告げた。




程なくしてナンナホンオロチの周囲から黒い霧は消えた。

やっとまともに喋れるようになった私は、取り急ぎヒーリングサークルを唱えた訳だけれど、どういう訳かこの身体中を支配する猛烈なダルさまでは消えなかった。


結局、私もフレヤさんも起き上がることは出来ず、どうにかにじり寄って、互いの背中に片手を回して無事を喜び合った。

身体がダルくて動かないとはあの黒い霧を吸い込んだせいか?

とにかく身体がしんどくてまともに動かせない。


「アメリ嬢!フレヤ嬢!大丈夫かい!?アレさアレさ!死んでたらなんかアレ…なんか言っとくれよ!!」


フリーデリケさんの声だ。

良かった…この感じだと他のみんなは無事だったみたい。


「ふふ、生きてますよっ!」

「わ、私も…!」


ピューッと飛んできたフリーデリケさんに続いてみんなも走ってきた。

ああ、良かった…本当に良かった。


「良かったよ!この辺に黒い霧がずーっと立ちこめちゃってさ、風魔法じゃさ、もうどーしようもなかったんだよ!!」

「にゃにゃにゃっ!!二人とも生きてるにゃ!!」


ナターシャちゃん、まるで猫みたいに四足歩行でワッとかけてきた!


「さ、最後は…フレヤさんの『フェニックス・グレイヴ』で…と、トドメを…」

「あのオモチャみたいな武器、そんな強かったにゃ?」

「ええ、これからは見た目で判断せずに、しっかりと確認しないといけませんね」


はは、その通りだね。

でもよもやあんなオモチャみたいな小ささの武器からさ、フェニックス型の火が飛んでって轟々と長時間燃え続けるなんて夢にも思わないよ。

反省だね、次からは絶対確認する。




とりあえず私はジルさん、フレヤさんはフリーデリケさんに背負われ、オットーさんの待つ馬車へ。

フィリベールさんがこれから自身の父親が治めるヒルドリック領で諸々の手続きができるようにって事で、崩壊しかけているナーアスの町へと向かった。

たしかにこんな滅茶苦茶になったナーアスでゆっくりじっくり諸手続ができるとは思えない。

ヒルドリック領はお隣らしく、出発すれば二日で領都まで着くらしい。


私とフレヤさんはそのまま馬車の荷台でゴロンと横になっている。


「恐らくはナンナホンオロチによる最後の霧は、吸い込んだ者の身体を弱らせる…うーん、単純な状態異常とは異なるのかな…」


それでも考察を辞めないフレヤさん。

この人には本当に頭が上がらない。


「ヒ、ヒーリングでも…治せるじょ、状態異常と、な、なな、治せない状態異常が…あ、あるのかも…」

「そうですね。実際に確かめてみましょうとはいきませんが、何でもかんでも治ると思わない方が良さそうです。死ぬ間際に放つ黒い霧…差し詰め『復讐の黒霧(くろぎり)』と言った感じでしょうか」

「っそ、そんな感じ…かも」


最後の最後にかます厄介な霧。

つくづくいやらしい攻撃を仕掛けてくる敵だった。


マテウスたちは羨ましいなぁ。

ソフィアのドラゴンとしてのブレスなら消えにくいって…

ああ、私もフレヤさんに渡す前に『フェニックス・グレイヴ』の動作確認をしておけば良かった。

そーすりゃこんなズタボロになりながら辛勝なんて事にはならなかったのにな。

とほほ…だ。


「しかし、もしこの先オロチとまた戦うことになった場合、アメリさんと私だけいれば落ち着いて対処可能な事が分かったのは大きいですよ。ふふん、それにきっとこの先の未来、オロチと戦うことになるみんな誰しもがこう言うはずですよ?「冒険譚の中でフレヤたちがオロチから様々な攻撃手段を引き出してくれたお陰で対処法が見いだせたぞ」と」


ふふ、いつだって前向きだなー、フレヤさんは。

でもたしかにそうだね、将来またオロチが出たときは『フレヤの冒険譚』に胸をトキメかせた人たちが、きっと私たちの戦いを思い出しながら攻略法を練り上げるんだ。


「た、楽しみですね…」

「ふふ、ナーアスの戦い!これは手が抜けませんね!今からなんて書こうかワクワクしてきちゃいます!ああっ!数百年後の後世の人たちの賞賛する声が聞けないのが残念でなりませんよ!」

「フレヤさん…か、か、かっこよかったですもんね…最後まで諦めない!…へへっ」

「こちとらもう必死ですよ!でもサポーターとして重い荷物を抱えて走り回っていたお陰か、とんでもない火事場の馬鹿力でしたね」

「でっ、ですよ」


私をおんぶしたまま全力疾走だもんなぁ。

いくら私が軽かったって、フレヤさんは私よりちょっとだけ小さい。

そして最後はフェニックスだ、格好良すぎる。


「しかしヒルドリック領へ移ったら、暫く時間がかかりそうです」

「やっ、やっぱり…っそう…なりますよね」

「ですね。エリーゼちゃんとロザリアちゃんの一件だけであれば別になんてことは無かったのですが、結果としてレスタール男爵家が引き起こしたオロチ騒動を終息させましたからね。流石に国王に謁見とかまでは流石にないと思いますが…」


うーむ、まぁクイーン騒動ですら国王に呼ばれることは無かったもんね。

今回だって被害はあくまでレスタール男爵家が治める町の一つに留まった。


「報酬ですがまたメイド服を所望しておきましょうか?」

「そ、そうですね…ああ、あんまお金…貰うのは気が引けると言いますか…」

「そうと決まれば後でフィリベールさんに伝えておきますよ。組合側へ評価についての働きかけと、メイド服、お金はどうせオロチの死骸でがっぽり入るので、国からの報奨金は僅かでいいですと」


おほー、ナンナホンオロチの死骸!

しかもしかも!!

あやつ、首を切っては再生するもんだから、首から上の数が多い!!

ストレートにやっつけたら七本しかないところ、今回なんと何十本も首から上が存在してる。


「や、やっぱ…もも、儲かりますかね…?」

「それはそうですよ!後で分配しますが、ヒカリさんとアメリさんしか切断してませんからね!オロチだって腐ってもドラゴンですから、各国の貴族や大商人たちの間で相当なお金が動きますよ!その辺も組合に考慮して貰います!」


むふー!

じゃあ別に国からの報奨金なんてちょっとでいいや!

お金に困ることは無さそうだなぁ!


面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

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― 新着の感想 ―
オロチさん、この火炎銃天敵でしたね...。 この多イニングで出すなら、何かあるのかなと思ったらまさかのこれですよ これも運命かなぁ。どんまい、オロチ君。 ......あ、あれ、でもこれ消えない炎ってこ…
アメリが動けなくなり大ピンチの中で、フレヤのど根性と絶対に諦めない精神、からのフェニックスが格好良すぎましたね。 そして、終わった後も本当に逞しい。(笑) 話が進む毎にアメリのフレヤさん大好き度が上昇…
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