174.拮抗中
ナンナホンオロチ相手に毒を試し、そして即死魔法を試した。
即死魔法はナンナホンオロチに使ってはいけない類の手だった。
私以外のみんながナンナホンオロチの咆哮で完全に恐怖みたいなのにあてられて行動不能に。
みんなを守るため一人、ナンナホンオロチに立ち向かいつつ今に至る。
詠唱しながらナンナホンオロチの首を切り落とす。
そして間髪入れず魔法を発動して切り口を焼く。
大丈夫、フレヤさんが言ってた通りにこなすだけ。
それを私一人で淡々とこなせばいいだけ。
『マギアウェルバ
炎よ炎よ 炎よ炎よ
焦がれる心に火を灯せ
情熱の炎で全…
「ぐっ…!」
くそー、すべての首が私を見てる。
全部の目がこっちを向いてる…気味が悪い。
ダメだ、全然近寄れない!
ナンナホンオロチの手数が余りに多すぎる。
こっちもダメージはないけど、吹っ飛ばされる…
もう一度!
今度は懐に飛び込んで根元から…!!
『
マギアウェルバ
炎よ炎よ 炎よ炎よ
焦がれる心に火…
いでっ!!何本目の首の攻撃だ?頭突きか!?
ああっ、ダメだっ!!
七本の首と尻尾。
こいつには八本の手があるも同然なんだ!!
どんな立ち回ってもどうしてもナンナホンオロチに剣が届かない。
なんせ全然隙がない。
どうしても外へ外へ誘導されるような立ち回りをしてきやがる。
いくら首が何本あろうが、大元は一体のドラゴン、連携が完璧なのは当たり前だ。
私たちでいう指を動かしてこんがらがらないのと同じかな…
首で体当たりや頭で頭突きみたいなやつならまだしも、齧られたら流石に無事じゃ済まなそうのは流石の私でも分かる。
マテウスたちも大勢で戦ったって聞いた。
これ…多分タイマンで戦えるヤツじゃないんだ。
私が斬りかかれば首やしっぽや、無数の手段を巧みに駆使して防いでくる。
そんなズルあるかよ!
しまった!!
フレヤさん達に…!!
ああっ、みんなリンちゃんの結界目当てで一カ所に固まってたのが災いしたっ!!
フリーデリケさんまでちょうど同じ位置に墜落してる!!
どうやってブレスを防ぐ!?
『
マギアウェルバ
土よ土よ
大地を揺るがす力を宿せ
岩石の壁で守りを固める
大地は決して揺るがない
テラガード
』
初めて使うけど、この即席の岩の壁でどーにかなれっ!!
耳をつんざくド派手な音。
くそっ…防ぎきれるか!?
ゴリゴリ壁が削られる…!!
防ぎきった…
あ、しまった!!
二発目がくる!!
前方の首で死角になってたんだ!!
やられた、こいつ…フレヤさんたちにちょっかいを出せば、私が向かってこないことを学習したのかもしれない。
え、詠唱を…!!
『
マギアウェルバ
土よ土よ
大地を揺るがす力を宿せ
ま、間に合わない…!!
「グラディアノォォォーースッ!!」
なんだ!?
目の前に透明で巨大な壁!?
リンちゃん…違う、丸い大盾が浮いてる!?
「説明は後だよ!!クイーンスレイヤー!!さっきの壁の準備!!」
「はいっ!!」
そ、そうだね!
急いで壁の作り直しだ!
『
マギアウェルバ
土よ土よ
大地を揺るがす力を宿せ
岩石の壁で守りを固める
大地は決して揺るがない
テラガード
』
「よしっ!!クイーンスレイヤー!普通より凄い火魔法使えるっ?」
「あ、は、はい…!!」
「キタキタキターッ!!それ詠唱頼むよ!!」
「え、あ、はい…!!」
あ、さっきの喝入れねーちゃん!!
強い人だったんだ…いや、今は戦いに集中せなっ!
「と、唱えます!!」
「私が盾を投げるから、タイミング合わせてね!頼んだ!!」
「は、はい…!!」
盾を投げる!?
一回こっきりの技か?
あ、でもさっきの結界も切れたあと、喝入れねーちゃんの手元にしゅるるっと戻っていったな?
「ファルコンッ!!」
フルスイングで丸い大盾をブン投げた喝入れねーちゃん。
風を切り裂くギューンという音が響く。
よし、タイミング合わせるぞ…!
『
マギアウェルバ
炎よ炎よ 炎よ炎よ
焦がれる心に火を灯せ
情熱の炎で全てを包み込め
燃え上がる熱情
……
…インフェルノブレイズ
』
手前の首が落ちたっ!!
あそこっ!!
真っ黒な炎が直線でナンナホンオロチに襲い掛かる。
尻尾で弾かれた!?
くそっ、なんで?マギアウェルバだよ!?
尻尾で防げちゃうの!?
切り口じゃないからか?怪我の再生が早いんだ…
「こいつ、腐ってもドラゴンだよ!頭がいいんだ!どんどん学習してる!」
「ふ、二人だけじゃ…き、厳しいですね…!」
「参ったなぁ…みんなまだ行動不能だね」
手数が足りなすぎる。
どれくらいでみんな復帰出来るんだ…?
「ヒカリ!お待たせ!」
「レナト!遅いよ!!」
デカい両手剣を持ったムキムキのにーちゃんが来た!
この喝入れねーちゃんの仲間か?
剣身の幅が広い!
「ほかの奴らはまださっきの咆哮にあてられてやがる!こっちはクイーンスレイヤーとヒカリだけか!?」
「うん!死にはしないけと、ナンナホンオロチも死にはしないって感じ!」
だなぁ、拮抗だ。
『
マギアウェルバ
土よ土よ
大地を揺るがす力を宿せ
岩石の壁で守りを固める
大地は決して揺るがない
テラガード
』
壁がすぐ壊れるな…
でもドンドンみんな復帰すればいけそうな気はする。
「わ、私が…詠唱しながら斬りかかります…!だ、だから…ちゅ、注意をひいて下さい…!」
「おいおい、そりゃ危険すぎねえか?」
「あ、あいつ…頭がいいので…と、遠くからの魔法では、か、かか、回避されます…!」
遠くから焼こうとしたって無駄だ。
超至近距離からじゃないと話にならない。
『
マギアウェルバ
土よ土よ
大地を揺るがす力を宿せ
岩石の壁で守りを固める
大地は決して揺るがない
テラガード
』
これじゃあ本当に拮抗だ。
ナンナホンオロチが次なる一手に移行するのも時間の問題か。
「確かにクイーンスレイヤーの言うとおりだね。再生すりゃいいって思われてるのかね、魔法で焼こうとしても尻尾でわざと防いで再生するんだよ。見たところクイーンスレイヤーは私たちより動ける、今の状況で一番有効な手だと思う」
この人たちにロクな説明もなくアサルトジャックフラッシュをかけても勿体ない。
「き、きりがないので行きます…!ちゅ、注意を引きつけて下さい…!」
「やるしかねえな!よし、いくぞ!」
「だね!ドラゴンフライッ!!」
行動開始だ!!
狙いはやっぱ懐。
グネグネフリフリしてる首だって元をたどればみんな一つの胴から生えてる。
姿勢を低くして左から弧を描くように接近する!
あれ?いつもより力が…ヒカリさんの盾か?
「オラオラァ!!」
「ファルコンッ!!」
一気に後方まで跳躍したレナトさんとやら。
そして右の方から盾をブン投げる喝入れねーちゃんことヒカリさん。
よしよしっ、多少注意を引けてるぞ!!
『
マギアウェルバ
炎よ炎よ 炎よ炎よ
焦がれる心に火を灯せ
情熱の炎で全てを包み込め
燃え上がる熱情
』
私の斬撃が…届いたっ!!
『
インフェルノブレイズ
』
いけぇぇぇぇっ!!!
根元から首がボトッと落ちる!
黒い炎が切り口を焼く。
やった!!まずは一本落とした!!
肉が焼ける匂い…ナンナホンオロチって食べられるのかな…
こちら側の三本の首が私に襲い掛かる!!
お姉ちゃんの余地めいた感覚が警鐘を鳴らしてる!!
詠唱はもう間に合わないっ!!
三本とも上から来る、右斜め上、真上、左斜め上。
バックステップで後ずさりだ!
「クイーンスレイヤー!!私の方頼むよ!!ファルコンッ!!」
ヒカリさんだ!
盾の動きに注視だ。
『
マギアウェルバ
炎よ炎よ 炎よ炎よ
焦がれる心に火を灯せ
情熱の炎で全てを包み込め
燃え上がる熱情
』
ヒカリさんの盾が向かって右側の首を…落とした!!
「おいコラァッ!!どこ見てんだオロチ!!」
よしっ、レナトさんが後方からちょっかいを出してる。
私ももう一回懐にスライディングで入り込むっ!!
『
インフェルノブレイズ
』
黒い炎が…切り口…来たっ!!
二本目!!
「やったねっ!!」
「これでマテウスたちと同じ舞台に立ったぜ!!」
はは、いけるいける!!
これは行けるぞ!!
へへーん、ざまーみろ!!
尻尾をバシンバシン地面に叩きつけてやんの。
悔しい?ねえ、悔しいの?
「この調子でコツコツ首を落とすよ!!」
「いけそうだな!攻撃が単調なのが救いだぜ!」
バシンバシン…ちょっと悔しがりすぎじゃないか?
これは…
激しい地響き、空気がビリビリ、猛烈に頭が揺さぶられる感覚。
平衡感覚がおかしくなりそうだ…
「何かがおかしい…!!ああっ…グラディ…」
「くそっ…聞いてねえぞこんな…」
マ、マズい…!
跳躍し…いや、立っていられない…
ダメだ、ブレスが…
なんだ?
寒い…と、凍結してるっ!?
氷のブレス…?聞いてないよ…
手も足も動かない…!?
これはマズい、四つん這いのまま固定された…!?
「あ…ああっ…」
ヒカリさんとレナトさんは!?
地面に伏せてる…回避できないか…
私だって…ああ、おしまいか?
ナンナホンオロチ…首がなくなった首の切り口…
嘘でしょ、待って待って!
噛み千切った!?
そんな馬鹿な…再生できない首は噛み千切って再生!?
ふりだしに戻った…
マギアウェルバで邪魔するしかない。
この張り付け状態で使えるやつ…ジョルトサンダーか!
『
マギアウェルバ
雷よ雷よ
禁足地に足を踏み入れるは愚か者
愚か者には神の鉄槌が下る
轟く怒声
ジョルトサンダー
』
効いてる効いてる!
ジョルトサンダーはとにかく詠唱からの発動速度が随一。
これを避けられるヤツは多分いない。
とりあえず連発するしかないか…
あれから10発目のジョルトサンダー。
よし、身体が自由になった!
多分首を落とすのにもたついたら同じ事になってしまう。
やっぱり人手が圧倒的に足りてない。
私一人が強くても何にもならないんだ。
ヒカリさんとレナトさん、それにガリウスさんとジルさん、この四人にバーンアウトエクスタシーとアサルトジャックフラッシュをかける。
そして私は焼くのに専念。
四人…しかもヒカリさんは遠距離から盾を投げつけて戦う。
また同じ事にならないか?
ふりだしに戻ったら本当にオシマイだ。
『
マギアウェルバ
雷よ雷よ
禁足地に足を踏み入れるは愚か者
愚か者には神の鉄槌が下る
轟く怒声
ジョルトサンダー
』
ジョルトサンダーだってそんなにダメージは通ってない。
っていうか再生されてるに決まってる。
「すまねえ、やっと動けるようになった」
ガリウスさん!!
「お待たせしました。アメリさん、ここまでよく持ちこたえて下さいました」
ああ、フレヤさんも!!
みんな動き始めた!
助かった…
『
マギアウェルバ
雷よ雷よ
禁足地に足を踏み入れるは愚か者
愚か者には神の鉄槌が下る
轟く怒声
ジョルトサンダー
』
「『魔女っ子旅団』のみんなも復活だね…これは焼くのが無理だね」
良かった…ヒカリさんも復活だ。
よしよしよし、レナトさんも!
「話は聞こえていましたし、一通り見てました。嘗てマテウスたちが戦った際はイサムが破竹の勢いで首を次々に落としていき、ソフィアのドラゴンブレスで焼ききりました。ドラゴンの炎には詠唱もなく、その炎はなかなか消えません。ソフィアが居たのが災いしてマテウスは気がついていませんでしたが、アメリさんのマギアウェルバはどうしても詠唱しないと発動しないうえ、炎はすぐに消え、結果オロチは自ら切り口を食いちぎって再生してしまいます。我々では…切り口を焼き切るという戦法は成り立たないのかと思います。その発想は捨てないといけません…」
マテウスたちは前衛も後衛もデタラメに強かったから、こんな色々な攻撃手段を引き出す前に倒せたのか。
「ここはやはり腹を括って先生のバーンアウトエクスタシーで一気に首を落としてしまうしか…」
「ああ、それしかねえな…他に何も浮かばねえ」
『
マギアウェルバ
土よ土よ
大地を揺るがす力を宿せ
岩石の壁で守りを固める
大地は決して揺るがない
テラガード
』
『
マギアウェルバ
雷よ雷よ
禁足地に足を踏み入れるは愚か者
愚か者には神の鉄槌が下る
轟く怒声
ジョルトサンダー
』
『
マギアウェルバ
緑よ緑よ
お前の遊び相手はお空の上
しなやかな腕で捕まえてご覧
無邪気な束縛
ヘカトンケイル
』
足止めは今のところ問題ない。
けど、まだ予想だにしていない手で突破してくるか分かったもんじゃない。
そこからフレヤさんがヒカリさんやレナトさんに、奥の手であるバーンアウトエクスタシーとアサルトジャックフラッシュによる短期決戦について手短に説明を始めた。
途中こちらにやってきた大勢の傭兵や兵士たちはヒカリさんが離れて待機するよう命じていた。
他に誰かが近くに寄ってこないあたり、どーやらこの町にいる戦力の中で、このヒカリさんとレナトさんがトップクラスみたいだ。
「その手はダメだ。万が一失敗したらもうナンナホンオロチに対抗出来る手段が無くなっちまう」
「私も反対。マテウスのお陰でオロチについて私たちは知ってるつもりになってた。けどここにいるオロチは私たちの知らない攻撃手段をガンガン駆使してくる。その手を使う為には手札が足りなすぎるよ」
レナトさんとヒカリさんの意見はごもっとも。
効果切れになったその時、私たちの負けは確定する。
私一人にバーンアウトエクスタシーを?
いやいや、どの道私が行動不能になればもう勝ち目がなくなる。
「それはそうですね。しかし今ここにいる中でバフ無しでナンナホンオロチの首を落とせるのはアメリさんとヒカリさんだけです。ヒカリさんは首を落とせますが、間髪入れずに次々と落とせる訳ではありません。これではまた先ほどの二の舞になってしまいますよ」
「ソフィアみたいに消えない炎がありゃ話が早いんだけどねぇ…歯がゆいねえ」
フリーデリケさんの言う通り過ぎる。
炎が消えちゃったらさ、そりゃパクッと傷口を食って再生なんて、ちょっと賢いドラゴンなら考えつくんだろうね。
あー、そんなマギアウェルバは持ち合わせてないんだよね。
消えない炎かぁ…
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