171.いざ領都ナーアス
そろそろフリーデリケさんたちと別れて次の町かななんて思っていた矢先、私たちのもとに飛び込んできたトンデモ緊急事態。
傭兵組合に潜入してたでお馴染みのフィリベールさん曰く、どーやらレスタール男爵領の領都ナーアスにてナンナホンオロチなる七本首のドラゴンが出現した様子。
ナーアスに居たフィリベールさんみたいな調査員が、咄嗟に「『魔女っ子旅団』しか倒せない」と判断、シャスムに早馬を出して今朝そんな知らせが届いたとの事。
いざ行かん領都ナーアス!ということで今に至る。
「な、なるほど…!く、首を落として…切り口を、や、焼くと…」
「その通りです。現にそうしてマテウスたちは五本首の多頭龍ゴウホンオロチを倒しています」
ふーん、なんか思ったより楽そうだね?
「アメリさんとジルさんとガリウスさんで首を落として回って、私が魔法で切り口を焼けば…案外簡単に勝てそうだね?」
そうなんだよリンちゃん。
これ結構意気込んだのは良いんだけどさ、楽勝じゃん!
今は領都ナーアスへと向かう馬車の中。
オットーさんの馬車と、フィリベールさんが手配した馬車との二台でかっ飛ばしている。
私は先頭のフィリベールさんの馬車に乗っている。
ちなみに私の他には御者をしているフィリベールさん、フレヤさんとナターシャちゃんとリンちゃんが乗ってる。
「アメリさん、リンちゃん、残念ながらそんな簡単な話ではありませんよ」
あー…やっぱそらそーだよなぁ…
なーんかそんな気はしてた。
リンちゃんも「なんだってーっ!?」って感じじゃない。
言ってはみたものの、だ。
「そうにゃ」
「まず首が何本もありますのでアチコチに目が届き、常に隙がありません。それにあくまでドラゴンですので、その硬い鱗に阻まれ並大抵の戦士では首を落とすなんて至難の業と言われています」
「再生も2つ数えると即元通りって書いてたにゃ!」
おいおい…怒涛の回復力よ!
私が斬って私が燃やして…いやいや、かなりキツい!
っていうか無理じゃないか?
リンちゃんもだろーけど、私も実はドラゴンって見たことないんだよなぁ。
「ドラゴンってやっぱ硬いんだね」
「ドラゴンの鱗を使った武器防具はメチャクチャ高いにゃ!それだけ頑丈って聞くにゃね」
私が戦士ならば、そーゆー装備の一つや二つあった方がいいだろうけど、私の本懐はあくまで魔法使い。
魔法使いはドラゴンの鱗を駆使した鎧は着ないよね…
でもちょっと格好いいな、いやー…ドラゴンかぁ。
胸当てくらいしててもバチは当たらないかな?
いやいやっ、これから成長する予定がある胸だ。
数年で「胸がキツくてちょっと…」はもったいな過ぎる。
成長する、うむ、成長する。
「そして切り口を焼くのも、詠唱魔法の火魔法では焼き切れないと言われています。現に千年前にマテウス達が戦った際、首を落としたのは専らイサム、そして切り口を焼いたのはドラゴンの姿になったソフィアだったと語られています」
おぅふ…ダメじゃん!!
マジかぁ、でもリンちゃんの無詠唱魔法なら…!
「じゃあ同じ『渡りし人』の私の魔法なら…!」
「それじゃあダメにゃ!火魔法の最上位魔法「クリムゾンサークル」よりも強いって言われたイサムの消えない火魔法「赫焰の焔、ショーイダン」でも頭が再生してるにゃ!多分リンちゃんの火じゃ無理かもにゃ!!」
か、かくえんのほのお!?
なんじゃそりゃ?えーと…ショーイダン?
『渡りし人』の使う技だとか魔法だとかの名前はいちいち訳が分からんね…
「イサムさん…多分私の生きてた時代からえーと…80年くらい前の人かも。ショーイダンって学校の歴史の授業で最近習ったんだけどね、それは世界で大戦争が起きたときの爆弾の名前だよ」
うわぁ…リンちゃんの方が頭良い。
ものっそい頭良い発言だよ。
こりゃ私じゃ太刀打ちできない!
「リ、リンさんはまさか…『渡りし人』なのですか!?」
あ、フィリベールさん居るの忘れてた。
「あっ、そうかそうか…他言無用でお願いします。彼女は最近この世界に来たばかりでして、はじめはテラノバで魔法協会に保護されています。大量殺戮出来る魔法使いとして奴隷化されていたところを私たちが助け出しました。ですのであまり目立って魔法協会に目を付けられてしまってはいけないのです」
「しょ、承知しました。魔法協会のカズヤ・ミナミダイラも『渡りし人』であると言われています。こんな短期間で何人も…と、とにかく知れ渡らないよう手配しましょう」
とりあえずリンちゃんについては大丈夫かな。
さて、とにかく倒す方法だ。
「話を戻しまして、世に出ている冒険譚には書かれていないマテウスの手記によればですね、実際に大勢の兵士や傭兵がともに戦ったようですが、イサム以外に首を落とせる者は一人も居なかったとされています。結局、致命的な傷を負わせる事が出来たのはイサムの斬撃と、後は古代兵器を持っていたマテウス自身であったと記されていました。マテウスは後世に攻略法を遺すべく、オロチのアチコチを撃って検証してみたようですが、結局どこもすぐに再生してしまうので、世に出回っている冒険譚のように『まるで歯が立たないが、注意を引くことに関しては効果的だった』と簡単に済ませてしまったのですね」
うわぁ…これ、まさか…?
「にゃにゃあ…!じゃあ今回は…」
「ええ、アメリさんが斬って、アメリさんが焼くしか手立てがありません。詠唱しながら攻撃、首を落とすタイミングで魔法を発動…という具合かと。アメリさんのマギアウェルバの中に、三属性で強力な火魔法がありましたよね?マギフレイムブラスターですが…」
ですよねー。
苦しい戦いになりそうだなぁ。
いやー、相当忙しくないか?
「あ、はい…」
「いくつかある中でまずエクスクレオフレイム。これはヴァンガードスパイダーに使っていましたが、切り口を焼くのには向いてないですね」
「か、かも…一属性ですし…」
うーむ、私の中では小手調べ魔法である。
エクスクレオフレイムでどーにかなるとは私すら思わない。
「次は見たことないのですが、二属性でインフェルノブレイズって魔法がありますよね?同じ二属性でもバーニングオルガは火柱なので、切り口ってよりは全体的に燃やすので効果がイマイチっぽいかなと思いますが…」
す、凄いよフレヤさん!
これ何もメモとか見てない状態で言ってるのが本当に凄い。
「イ、インフェルノブレイズは…く、黒い炎をですね…て、てて、手からバーッと撃つ…みたいな…?こ、効果…あるかもです」
これは何か行けそうな気がしてる。
試した事がない理由はバーニングオルガ同様、魔物の死骸が残らないから使いたくない。
防がれたとはいえカズヤ・ミナミダイラに使ったのはさ、カズヤ・ミナミダイラは別に素材とかないじゃん?
別に燃えて消し炭になってもお金には関係ないというか。
あれれ、ちょっと頭がぶっ飛んでる人っぽい危ない発言だな…
「一旦インフェルノブレイズで様子見しましょう。ダメなら強力なマギフレイムブラスターですね。他の類似魔法を見るからに、切り口を焼き切る事は出来そうですが、如何せん魔力の消費が…」
「わ、私一人になったので…多分何発も、う、打てます」
フィリベールさんもいるし、あんま直接的な表現は難しいね…
「そうかそうか。とは言え無駄打ちは出来ませんね。それでも焼き切れなければ…ジルさん、ガリウスさん、そして最後の最後にアメリさんにバーンアウトエクスタシーをかけ、再生する前にすべての首を落とす…というのも手かと」
まぁ…最後はそーなるよね…
バーンアウトエクスタシーかぁ…うーむ。
「私が考えるに、バーンアウトエクスタシーは術者の魔力残量により効果時間が変化しているのではないか?と考えています」
ん?
効果時間…確かにクイーン戦の私とアムラス戦のジルさんとでは持続時間が違った。
魔法をそこまで使わなかったアムラス戦では、ジルさんはかなり長い時間動けていた。
片や私がクイーンと戦った時は相当魔力を消耗してた。
だからか、本当にあっと言う間に効果が切れてしまった。
魔力残量次第なのか、はたまた対象者の強さ次第なのか。
「い、今の私なら…くく、比べものにならないくらい…魔法、使えます」
「バーンアウトエクスタシーをかけられたジルさんとガリウスさんがアサルトジャックフラッシュで立ち回る。効果切れによる反動や、アサルトジャックフラッシュの使用制限などを考えれば本当に最後の最後の手段です。なんせ、その手段を行使してオロチを倒せなかった場合、こちらの負けが確定したようなものですからね…」
でもお姉ちゃんは最後にこう言ってた。
マギアウェルバには副作用なんてない、と。
「お、お姉ちゃんは…マギアウェルバにふふ、副作用…ないって…」
「にゃにゃ?この前のアメリさんの説明だと、気絶とか髪が白くなるって副作用はないって言ってたにゃ」
「そうですね。アサルトジャックフラッシュやバーンアウトエクスタシーの制限まで無くなるという事は無いと思いますよ?それらは副作用ではなく制限です」
「私もそれはちょっと意味合いが違うと思うな。その制限まで無くなっちゃったらさ、この世界でアメリさんに勝てる人なんていなくなっちゃうよ」
うっ…!!
みんなから即否定されただと…!?
でも仰る通りかも。
副作用と制限はまるで別モン。
世の中、そんな都合のいい話はないか…
「話を戻しまして、リンちゃんはカズヤとアムラス戦の時のように立ち回って貰います。ナターシャちゃんは私と古代兵器でオロチの隙を作ります。フリーデリケさんは魔力譲渡ですかね」
兎にも角にも、オロチ戦で鍵を握っているのは私という訳だ。
勝てるかな…
不安な気持ちを抱えつつ、それでも馬車は一路、領都ナーアスを目指す。
話によれば、このペースなら夕方には到着するらしい。
今は夕方前。
馬たちの四回目の休憩。
寝るまでの暇な時間にチクチク直してた古代兵器。
今こちらにある古代兵器はフレヤさんのメイン武器である改造ツインサイクロン。
ナターシャちゃんにあげたスターコーラー。
いや、実はスターコーラーって製品名に実はあんま自信はない。
ま、どーせ五千年前の人なんて私しか居ないから別に好き勝手命名しよーが、訴えられることなんてないのだ。
歴史とはそーゆーもんなのである。
あとはフレヤさん向けの予備としてツインサイクロンが二丁。
見るからにチャチな小さいやつが一つ…これなんだけど…
「あ、それはいつぞや直してたやつですよね?他に比べて随分と小さいですよね…それ」
「で、ですね…ツインサイクロンとお、おお、同じところが作ってるので…直せますが、初めて見ました。オモチャみたいです…」
「それはいくら見てもピンと来ないのですか?」
「あ、はい…何となく見たことくらいは、あ、あるかもですが…」
はは、私たちちびっ子が使うならいい感じのサイズ感ではある。
でもこれをさオットーさんだとか、フィリベールさんだとかが使うにしては小さすぎて格好が付かない。
「にゃにゃ、それは何て名前にゃ?なんか文字が書いてるにゃ!」
いやー、これさ、私が考えて命名した訳じゃないんだけど、口にするのが恥ずかしい。
「私読めるよ。えーとね『フェニックス・グレイヴ』あと…英語と数字だ。えーと『NMS-PG500』だってさ」
「…えっ?も、もう一度良いですか!?ちょっとメモします」
「にゃにゃあ、訳わかんないにゃ」
あらゆる言葉が理解できる私やリンちゃんでも訳わからん。
リンちゃんの言葉を一生懸命聞き返しながらメモをするフレヤさん。
そして「その『フェニックス・グレイヴ』とやらの意味はわかりますか?」と聞かれ…
「あ、あのですね…不死鳥のお墓って意味です…」
「私のいた世界の言語だよ。エヌエムエス…とかってやつはね、多分その物の…えーと…、品物にそういうのがね?えーと…」
「あ、あ、それは多分、型番です…」
「型番?」
フレヤさんもナターシャちゃんもキョトンだ。
「注文する時とか…その型番で指定するとですね、メ、メーカーが…とと、届けてくれる…みたいな、確か…」
「ほほう!なるほどなるほど!理解しました!それにしても…不死鳥の墓ですか…」
わ、私が命名した訳じゃないけどね!
なんかこっ恥ずかしい…
「にゃあ…大袈裟な名前にゃ。伝説の神鳥を仕留めるような武器には見えないにゃ」
「そうですね。少々仰々し過ぎる印象です。恐らくこの筒の先から発射するんでしょうけれど…大きさからしてもいざという時の御守りみたいにして懐に忍ばせる類の武器だったのかもしれませんね」
何となく、ここの中心の細い穴が7個ある筒に魔力を込めるのはわかる。
「それピストルだね。私もよく分かんないけど、そういうピストルはお巡りさん…えーと、衛兵みたいな人が腰に下げてた気がする」
「ほうほう…なるほどなるほど!リンちゃんと同郷の人たちが作ったのでしょうね。『ピストル』ですか…そこの中心あたりの筒に魔力を込めて使うのですか?」
「多分そうだと思うよ。地球でもね、そこの穴に鉄の弾を入れるの。異世界で使うってなると、弾は魔法なんだろうね」
リンちゃんいるとマジで助かる。
下手すると私よりこの手のヤツに詳しいかもだ。
私にはリンちゃんの故郷の知識は皆無っぽいからなぁ。
王女殿下の侍女…武器のことなんか詳しい訳ないわな…
偶然隣で見てた程度の知識なら、中途半端で当たり前か。
とりあえず私が持っておこうかな。
いや、一応フレヤさんの護身用として持たせておくか。
「こ、これは…フレヤさんのごご、護身用として…」
「おっ、ありがとうございます。困ったときに使うとします。ベルトにでも挟んでおこうかな…」
うむ、どーせ大した武器じゃない。
万が一の時にフレヤさんを守ってくれよ。
その仰々しい変な武器よ!
ちなみにフェニックス・グレイヴはダブルアクションのリボルバーです。
中二病を拗らせた日本人が作り出したものでして、まるで知識のないアメリたちでもトリガーこそ重いけど、問題なく撃つことができます。
古代兵器ホイホイのアメリ、どうしても暇なときに暇つぶし程度の感覚で修理しています。
オークションに出せば目玉が飛び出るような大金を生む古代兵器たちですが、残念ながらフレヤは世に放出する気はありません。





