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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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169.フレヤさん、対決!

シャスムで泊まってる野営広場でワイワイと夕食をとっていた私たち。

すっかりフリーデリケさんとガリウスさんにべったりなエリーゼちゃんとロザリアちゃんを見てほっこりしていると、町の衛兵から「行政官より沙汰があった」と告げられる。

とりあえず行きましょうということで今に至る。




私たちが衛兵の背中を眺めつつ町を歩いていると、途中から傭兵組合で熱い思いを告げてくれた真面目そうな兄ちゃんが合流。

でもフレヤさんも兄ちゃんと視線を合わせるだけで特になんのやりとりもない。

ここ最近別行動を取っていたのと何か関係あり?


ま、私はいざという時に行動するのみ。

口でものを言うのはフレヤさんが担当。

力でものを言うのは私が担当。


いやいやいや!

あれっ!?

私、魔法使いのつもりなんだけどね…




暫くして案内されたのは、町の中でも比較的大きめの建物。

別に豪華な感じではない。

行政官とかいうのは別に偉い貴族って訳ではなさそー。


会話は、時折ガリウスさんやフリーデリケさんが子ども達に「大丈夫」と励ますやりとりだけ。

フレヤさんも緊張してる。

何か仕掛けるんだきっと。


「こちらです」


衛兵の兄ちゃんはあくまで丁寧な口調だね。

高圧的じゃないのが却って不安になる。

こーゆー時は無駄に高圧的であって欲しい。

そっちの方が「こいつらは悪だ」って思えるし。


「失礼します。『魔女っ子旅団』の皆様をお連れしました」

「入れ」


ん?若そうな声だなー?

お、衛兵の兄ちゃんが扉を開けてくれた。


「どうぞお入りください」

「失礼します」


フレヤさんを先頭に部屋の中へとゾロゾロ入ってゆく。

私も行かな!




中には無駄に金の刺繍とかされてる趣味の悪い服を着た金髪の兄ちゃん。

腹が出てて二重顎。

はい、これどう見ても貴族のボンボンだ。

しかも悪い方の類の貴族…


ん?護衛みたいなのは居ないんだ?

へえ、側近みたいなのも居ない。

どっか隠れてんのかな?

いや、そんな気配はない。


「ご苦労だったな。よし、その犯人のガキどもをよこせ」


おーっ!

清々しい悪者キターッ!

もうアレだ、さっさと武力でかかってきて欲しい。

多分そっちの方がちゃっちゃと片付く。

まだ晩御飯食べかけだし、お腹が中途半端に減ってる。

あー、でもハッキリ言ってこのだらしない身体、手練れって感じじゃないよなぁ…


「それは出来かねます。彼女たちは既にそこの二人の養子として育てることになっております」


フリーデリケさんやガリウスさんが口を開く前にフレヤさんがピシャリと!

あわわわ…どうなるんだこれ。

杖を持っておけば良かったな…まぁ万が一の時はマギアウェルバでどうにかなるか。


「そんなことは知ったことではない。ほれ、さっさと引き渡せ」

「不思議ですね…この子たちは一体何の罪で裁かれるのでしょうか」

「そんなもの決まっている。街道をゆく男から精気を吸い取って害をなしていたのだ、当然のことだ」


いやー、確かに罪になりそーな行為ではある。

同意なしで勝手にちゅーちゅー吸うんだ。


「害をなす?被害者はどちらに?」

「そんなもの貴様ら平民風情に教えるわけがないだろう。さっさとそのガキを差し出せ。父上に言って貴様らを不敬罪にするぞ?」


なんだ偉そうな行政官の…アレだ、豚!

フーフーと汗をかきながらイライラ。

この部屋…汗臭い…!

父上だ?あっ、コイツ貴族か?

よし、ほら!豚野郎、さっさと柄の悪そうな破落戸を部屋に呼びなさい!

武力でサクッと終わりにしようよっ!


「おかしいですね…傭兵組合の方でも被害届を出した者というものを徹底的に捜索したようなのですが、被害者が一人も見当たらないのですよ」

「それは…事情が事情だからだ。被害者に…配慮して身元を伏せ、こちらで保護しているからだ」


フレヤさん、そんなことを調べてたのか!


「私たちの仲間がその子たちを引き取って育てますので、仲間として被害者の方お一人お一人を訪ね、謝罪と賠償を支払おうかと思っていたのですが…」

「その賠償については私のほうで預かっておこうか。後ほど被害者に届けておくよう手配しよう」


おいおい…この豚、着服する気マンマンじゃないか?

回りくどい…こーゆーやりとりは面倒くさいなぁ…


「ではお渡ししますので被害者が確かに受け取って頂いたという証書を下さい。賠償金を受け取ったということは我々の謝罪は受け入れられたという事になります。そうなれば、少なくとも問答無用で行政官様に引き渡すという沙汰は少々無理があるかと思いますが…」

「貴様ら平民風情に証書だと?笑わせるな!そんなものは不要だ、いいからさっさとそのガキを引き渡せ!」


平民風情、平民風情って…

コイツなんて豚風情じゃん!

やるかぁ?平民風情がさっさと拳でものを言わせてやろうかぁ?


ん?傭兵組合から来た兄ちゃんがずいっと…


「傭兵組合モンフォール子爵領支部、レスタール領シャスム事務所に調査員として潜入していたフィリベール・アンドリュー・ヒルドリックだ。平民風情ではない私であれば、今回の騒動の被害者についての書類や、賠償金を受け取った証書は用意して貰えるだろうか?チャールズ・ルドヴィーク・レスタール殿?」


うおっ!

この兄ちゃん貴族か!

あれ、ヒルドリックって伯爵家とか前に言ってなかった?

おいおい、この豚より地位高いじゃん!


「お金にばかり執着するあまり、町の人々の声をまるで聞いていないようですね。どうしても気になる点がありまして、ここ数日、町の人々に今回の件について訪ねて回ったのですよ。だって、この子たちはあまりに幼すぎます。大人の男性に一切バレることなく忍び寄って精気を吸って逃げるなんて…そんな事が果たして何度も何度も成功するものだろうか?見つかったら普通はその場で捕まるのではないだろうか?それに被害と呼べるほど精気を吸う器が幼い身体に備わっているだろうか?…そうしたら町の人たちはこの子たちの存在を知っていましたよ。サキュバスかインプだから食料は不要なのだろう、だからせめてでもと精気を吸わせてやっていたと。驚きましたよ、私がこの件について謝ると逆に謝られました「本来なら保護してやらなければならないとは思っていた。しかし最近は捨てられる奴隷が多く、自分たちも税金税金で生活が苦しい。しかもサキュバスかインプを保護となると、チャームなどの制御の事ばかり考えてしまい、どうしても一歩が踏み出せなかった」とね」


フレヤさんは連日、あちこちにこの件について訪ねて回っていたんだ!

確かにその通り過ぎる。

なにも知らない幼い子供のコソコソなんて、大人からすりゃモロバレだった。

それによくガリウスさんからは口から、オットーさんからは背中や胸に手を当てて精気を分けて貰ってるエリーゼちゃんとロザリアちゃん。

ハッキリ言ってガリウスさんはともかくとして、オットーさんですら全然ケロッとしているどころか、むしろマッサージをして貰った後みたいにニコニコしてる始末。


「王国が奴隷の扱いに対してどのような姿勢を取っているか知っていての所業か?レスタール家の奴隷購入の履歴とな、あちこちに引き上げた奴隷の数とが一致していない。逃亡奴隷の数が国内のどの家よりも突出している、それがレスタール家だ」

「聞けば他の貴族家は買ってしまった奴隷を自由民として解放して生活基盤を与え、領地内の仕事に従事させたり、子供であれば新たに孤児院を整備するのに奔走していると聞きます。また子供の奴隷を「見習い」や「奉公人」として家事や農業を教え込み、成人した折に正式に解放したりと、あれこれと助成金を工面しつつ対応していると聞きます。レスタール男爵家は今回、一体どのような対応策を講じるのでしょうか」


すげー…フレヤさんはどこまで追及するつもりなんだ?

フリーデリケさんもガリウスさんも多分ついていけてない。


「もう諦めろ。今頃お前の親兄弟に親戚筋、方々にこうして私のような調査員が向かっている」


これは我々の勝利という事かな?

なーんだ、荒事なく今回は無事終わりそうだ。


「お前たちレスタール家がテラノバ連邦のサンズマル州や魔法協会と繋がっていた件についても証拠は上がっている。お前の親であるレスタール卿からの指示書やお前が手下に渡した指示書などな、そんな書類の証拠など最早要らん。お前たちレスタール家のしていることは国家反逆罪、爵位剥奪程度で済むといいのだがな」


爵位剥奪されちゃえ!!

本当こういう悪いやつは…って、ええっ!?

レスタール家って今回の戦争騒動に加担してたの!?

あばばば…急に話がドカンと広がった!!

やっぱ武力だ!!

これは血が流れる展開になるっ!!


「くそっ…」


ん、あっ!

この豚野郎、なんか机に手をかけたぞ!?

引き出しか!?

おおっ?やるかやるか?

ナイフをピュッと投げて右手使えなくした方がいいかな?


「おっと、苦し紛れに魔法協会から渡された魔導具などを使うのはオススメしませんよ!」

「黙れ黙れ黙れっ!!何の脅しのつもりだぁ?こ、この僕に刃向かったことを後悔させてやるぞっ!!」


えっ、うわぁ…勝手な思い込みだけどさ「僕」って…!


「はぁ…ここにいるメイドの存在に気がついていないようなので、私は脅しではなく親切心から忠告させて頂きました」


どわっ!!

フレヤさん、急に私に水を向けてきた!!

まさか話を振られるとは思ってなかったな…


「な、何が言いたい…?そんなクソガキ、ただのサポーターだろうが…」

「行政官様がいかにお金にばかり目を向けていたかよく分かりましたね」

「そのようだ。フレヤ嬢、哀れな罪人に説明をお願いします」

「ええ。ここにいるのはただのメイドではありません。行政官様程度のお方と面識があるかは分かりかねますが、魔法協会の代表のアムラスやカズヤ・ミナミダイラを圧倒的な力で倒した伝説のクイーンスレイヤーがここにいるアメリです。行政官様は今、机の引き出しに手をかけておりますが、その奥の手はアムラスやカズヤ・ミナミダイラより強いですか?ロセ・クイーンスパイダーより強いですか?うちのアメリは例えば何千もの魔物が襲ってこようと、一瞬で倒してしまいますよ?」


わ、私はどんな顔をして立っていればいいの?

まぁ…こーゆー展開になるからこそ、私には一切何も言わなかったんだ。

もしこれが先に説明されていたら、多分私はドギマギしすぎて出だしから不審者だったに違いない。


「さあ、どうしますか?確実に時間の無駄だと思いますが、試してみますか?」


豚野郎、後ずさった。

壁にペタリと背中をつける。

なんかするのか?

どんな仕掛けだ?

こちとらいつでも動けるぞー?


いや…何もしないのかいっ!


「そ、そんなハッタリ…信じるわけないだろ!!」

「はぁ…アメリさん」

「ひゃ、ひゃい!!」


どわっ!!

フレヤさんか…!


(スローイングナイフで体に傷を付けずに張り付けにしてください)

(あ、はい…)


えー?

ま、まぁ…出来そうではある。

それじゃあそんなんで良いなら…


豚野郎の両手の袖と…両方のわき腹を…

机越し、6本。

うーむ、この状況だとこれくらいが限界か。


「さて、大人しく捕まるというのであればおしまいです。どうなさいますか?うちのアメリは指定された場所へ的確に投げられます」

「お、大人しく…捕まります…」


うへぇ、なんか部屋がオシッコ臭くなってきた!




結局、フレヤさんとフィリベールさん?あの傭兵組合で熱い思いを語っていた兄ちゃんだけで決着がついてしまった。

分厚いメガネは伊達メガネ、七三分けも仮初めの髪型。

ってな訳で、フィリベールさんは変装をとき、それがまたかなりの美丈夫!

まぁ私はあんまタイプじゃない美丈夫って感じかな…


豚野郎はズボンを濡らしたまま、衛兵たちに引きずられるよーにして、この建物の地下にあるという檻になっている牢屋へ連れて行かれた。

そんな姿を豚野郎の部屋の外の廊下で見守っていた私たち。


「皆さんを利用するような形になってしまって申し訳ありません」


そんな謝んなくてもいいのにね。


「いえいえ、逆にエリーゼちゃんとロザリアちゃんの件もついでに絡めて頂いて感謝してます。私もまたフィリベールさんを利用しちゃいましたから、おあいこですね」

「はは、おあいこですか!しかしフレヤ嬢の聞き込み調査には本当に助けられました」

「所詮余所者ですし、何より私たち『魔女っ子旅団』がエリーゼちゃんとロザリアちゃんを保護し、うちのメンバーが養子にするという事で、町のみなさんや衛兵さんも後ろめたさが無くなったのか、とても協力的にあれやこれやと行政官の不正疑惑をペラペラ喋ってくれましたよ」


ここ最近はフレヤさんとフィリベールさんは繋がっていたんだね。

流石フレヤさん、人の懐にさっと入り込める。

多分これフィリベールさんじゃフレヤさんの真似事は無理そう。

変装していたフィリベールさんは融通が利かなそうな真面目くん。

そんなフィリベールさん相手に本音をポロッと漏らすとは思えない。


「フレヤ嬢、本当に…本当にありがとうよ…!」

「エリーゼとロザリアの為に骨を折ってくれていたんだな…ありがとう」


フリーデリケさんもガリウスさんもここ最近「ありがとう」ばっかだ。


「何よりフィリベールさんをはじめとした王国の調査員の皆さんが方々で目を光らせてくれていたから便乗させて貰ったんですよ」

「先日事務所で申し上げた通り、ウィルマール王国を思い出すだけで嫌な国になって欲しくないのです」


確かに、二人が大人になったとき、きっと素敵な思い出として記憶に残ってるんだろうね。

大好きなお父さんとお母さんに出会えた町、そして悪い奴をとっちめてくれた大人がいた町。


「にゃにゃあ、フレヤさんはそんな活動をしてたにゃねー」

「うんうん、全然気がつかなかった!凄かったね、偉い人相手にずっと堂々としてたもん!それに最後の脅し!」


ほほう!

フレヤさんはマジで誰にも言わなかったのか!

しかし確かに最後の脅し、なかなか効いてた。

なるほどって感じだったね、あんな風に収まるならさ、私という存在でビビらせて穏便に終わらせた方がいいね。


「先生の投げナイフも流石といったところでした!私は荒事になった時の立ち回りばかり考えてしまって…まだまだ精進が必要だなと痛感させられました」


うっ…ジルさんが目をキラキラさせながら言ってるけどさ…

言ってるけど、私だってメッチャ荒事のことばっか考えてた。


「アメリはずっと荒事で片付かないか考えていたと思うがな…」

「ははっ!あーゆー時のアメリ嬢ってばさ、面倒だからあっちから手を出してくんないかなーなんて思うよ!ねえ?」


ぐぬぬぬ…

わざわざ口に出さなくても良いよ!


「アメリさん、身内のことになると喧嘩っ早いですからね。こういう時は何も説明せず、ひたすら「私はどう動けばいいんだろう?」と、思案させるのがコツです」


わ、私のあしらい方を…!!


「お姉ちゃん、ありがと!」

「ねちゃん、ありがと!」


エリーゼちゃん!ロザリアちゃん!!

ふへへ…ぐふふ、幼女から抱きつかれた!!

私はこれでもう十分に報酬を受け取りました。

はー、全てどーでも良くなった、終わりよければ全てよしっ!!

面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

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