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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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17.大金

傭兵組合の事務所にてどういう流れなのか、受付を通さずに直接所長のビクターさんの部屋にやってきて今に至る。




応接セットに腰をかけ、ビクターさんはジャケットの内ポケットから折り畳まれた紙を取り出した。

紙に目を通しながら口を開くビクターさん。


「よし、早速買い取り価格を提示するぞ?腰抜かすなよー?」

「はいっ!」

「えーとだな……」


ビクターさん、ニヤニヤしてる。

フレヤさんまでワクワクした顔だ。

な、なぜこんな特別感のあるやりとりなんだ?

分からないけどとりあえず頷いとこ。


「ネーベルタイガー計二体。一体目は喉から頭に穴が空いているのみで状態は特優、査定結果金貨4枚。二体目は心臓を一突き、毛皮に多少の難ありと判断、それでも状態は優、査定結果金貨3枚と銀貨30枚。オウルベア一体。頭部損傷も嘴は無事、後は一切の怪我なし、状態は特優、査定結果金貨1枚と銀貨20枚。」

「凄い凄いっ!やりましたよアメリさんっ!金貨8枚と銀貨50枚ですっ!!」


フレヤさん、テンション爆上がり。

金貨5枚くらいが良いところでしょうなんて言ってたじゃん!

本当に?流石にお金に疎い私でも興奮を禁じ得ぬだよ!?


フレヤさんと両手を繋ぎ合ってニンマリ。


「き、金貨5枚どころか凄い事になりましたね!へへっ、やったやった!」


と、私が興奮しながらそう言うと、


「金貨5枚だぁ?がはは!そりゃ普通に討伐してきた時の強気な査定額だぞ!三体とも貴族だとか大商人だとかのオークションに出すつもりだから、俺達もがっぽがっぽよ!ありがとな!2人に頼んで大正解!今年の臨時収入は期待出来そうだな!がはは!」


ビクターさんはそう言ってカラカラと笑い出した。


ふむふむー、そうやって儲けていかないと僻地の傭兵組合事務所なんて成り立たないんだろうなぁ。

道理で依頼を任せる人を選ぶ訳だ。

そう考えるとやっぱり私達ってかなり期待の新人なんだね!


そうだよ、まだ疑問が残ってたんだ!


「あ、あの!」

「なんでしょう?」

「と、ところで、なな、なぜ私達は、その、う、受付に並ばに、こっ、ここでビクターさんから……う、受け取ったのですか……?な、何だか……その……ズ、ズルしてるようで……」


疑問に思っていた事を口に出してみる。

『順番抜かしだ』とか『特別扱いだ』とか、僻まれたら嫌だし怖い。

こういう疑問はさっさと解消してスッキリしておきたい。


「ん?フレヤは説明してなかったのか?」

「あー……あっ、そうかそうか!アメリさん、明らかに高額買い取りになりそうな物については、普通はあっちのカウンターでは換金しないんです」

「あ、へえ。な、なんでですか?」


なんで?

高額取引はセレブリティ感を出すとかそんな決まりでもあるの?


「おいおい、そこいらの兵士のひと月の給金の何倍あると思ってんだ?お前たち2人、昨日と今日だけで金貨10枚稼いでんだ。高額取引は人目に付かねえ場所で所長だとかそういう役職持ちがやるのが普通なんだよ」


あーなるほどなるほど!

人の目が多い場所で「やったー!金貨8枚っ!?」なんて騒いだ日には悪い奴らに狙われる恐れがある。

そ、それは怖い……

私、本当にサポーターが居ないと成り立たない傭兵だね……


「な、なるほどですね……!た、たしかに、わっ、わ、悪い人たちに目を付けられたら怖いですしね……」


私の、口をついて出た弱気発言。

怖いにーちゃんに絡まれたりしたらお漏らししそう。

考えただけで怖いよ!!


しかしビクターさんとフレヤさん、顔を見合わせてゲラゲラ笑い始める。

し、失敬なっ!


「がはは!おいおい!こんな有り得ない最高の状態で魔物が倒せて、この俺から杖で一本取れる傭兵をよ、なんとかできる破落戸なんて流石にこんな田舎町じゃいねえよ!うはは!」

「アメリさん、怯えすぎですよ!あはは!何か手を出されそうになったって別に抵抗していいですからね?ふふ、やっつけたって罪に問われませんよ」


ぐぬぬぬ……!


「こ、怖いものは……怖いもん……!」




そんな訳で懐がホクホクになった私達。

ビクターさんの部屋を出て、改めて掲示板へ足を向ける。


掲示板は既に閑散としていて、常設依頼と書かれた年季の入っている紙ばかりが申し訳無さそうに掲示板の端の方に貼ってある。

内容はゴブリンやホーンラビットとかいう角の生えたウサギなど、見るからに弱そうな魔物達の討伐。

薬草や野草にキノコ、後は鉱石類などの買取価格表、採取依頼だね。

更にはこの町の畑の手伝いや掃除なんかもある。




「どこの常設依頼も大抵こんなものだと聞いています。隣町なんかも大抵このような感じですし、他もまぁそうなのでしょう。なので皆さん頭の中に叩き込んでおくかメモを取っておくかして、依頼を受けたついでに並行して常設依頼をこなすのが普通です」

「な、なるほどですね……へえ」


ただひたすら受けた依頼だけをこなす人なんて居ないんだね。

こうしてお小遣い稼ぎを兼ねる事で日銭を稼ぐわけだ。


「ん?常設依頼じゃないものも残ってますね……えーと?」


何枚か常設依頼ではなさそうな依頼も貼り出されたまま残っている。

残り物には福があるって言葉があるね!たしか。


「あー……論外ですねこれ。この手の余った依頼はあれだけ大勢の傭兵達が群がったのに選ばれなかったという事で、大抵一癖ふた癖ある曲者な依頼です」

「うっ……、そうなんですね」


残り物には福が無いんだな。


「ですよー?どれどれ?……新薬の治験?えーと、スカールータもどき……あ、毒キノコですよ。それの解毒薬の実験体になって欲しい?あー……これは誰も受けないですよ」

「へえ……く、薬を飲むだけなら簡単そうな気が……」


飲むのは薬でしょ?

命を張って魔物を倒したり、危ない森の中をウロウロするよりよっぽど簡単そうに聞こえるけどね?

すぐ薬を飲めば何てことなさそうなのにな。

楽勝じゃん!!


「だって、迎えもなしで交通費も加味されず乗合馬車で結構かかる町までわざわざいって、しかも飲むのが毒の新薬ですよ?効果のない失敗作だったら丸一日キノコの毒でお腹を下し嘔吐を繰り返し続けます。これはみんなやりたがらないですよ。論外です」


そ、それもそうか……

新薬の治験って事はその毒をわざわざ受けてから新薬とやらを飲んで調べる訳だ。

安心安全な治験なら一々傭兵組合に依頼なんてするわけがない。

自分達で実験して完結する筈なのだ。


「じゃ、じゃあこれは……?」


この依頼はシェルリザード求むと書かれてるよ?

こんなの平凡な討伐っぽいのに、なんで残ってるんだろ。


「それは等級制限も無いですし、シェルリザード自体も初心者パーティーでもしっかり下調べした上で対策を練れば討伐可能です」

「へえ……よ、良さげじゃないですか?」


チョロそうじゃん?

常設依頼みたいな感じかな?


「問題は死骸の納品条件にあります。ほら、これ見てください」


フレヤさんが背伸びしながら指差した箇所に小さな文字で何やら書いてある。

どれどれ……


「えーと……『注意。死骸に傷がある場合は買い取り査定に影響あり』さ、査定?あ、えーと?『死骸の死後時間経過による品質の劣化は買い取り査定に影響あり』……あの、これって……」

「そうです。つまりシェルリザードという水辺に居る魔物を、一切攻撃せずに息の根を止めて、止めた瞬間の状態のものを隣町まで納品しなければここに書かれた満額は貰えません」

「えっ!?そ、そんな……!」


馬鹿言え!!

攻撃をしないで息の根を止める?

息の根を止めるって行為は既に攻撃ですよ!?


「ねっ?買い取り査定とやらで低い査定を貰うと損するだけでなく、依頼失敗扱いになる恐れがあります。ちなみにシェルリザードの皮は女性向けのハンドバッグなどに使われるものでして、皮は時間経過による劣化などそこまで関係ない筈です。つまり、世間知らずな新人傭兵から安く買い叩いて素材を手に入れようとする最低な依頼です」


そ、そんな詐欺紛いな依頼もあるのか!

フレヤさんがプリプリと怒りながら解説するわけだ。

私が使えるような異空間収納持ちが居て且つ、魔法的な手段で仕留める事が出来ないと満額査定なんて初めから不可能なのね。


ここは私の力をフル活用して一泡吹かせたい……!

あわよくばガッポガッポ……!

げへへ……ぐふふ……


「ちなみに!アメリさんなら問題なさそうですが、こんな阿漕な商売をする商人に手の内は明かしませんよ?これに書かれた通りに納品出来る人なんてまず居ませんから、アメリさんが悪用されるに決まってます」


うっ……!見透かされてる!!

チョロい依頼かなーなんて頭を過ったけど、賺さず釘を刺されちゃった。


「なるほどなるほど……!き、気をつけます」

「後の依頼なんかも等級制限と報酬額が釣り合って無かったり、報酬額の割にやたら時間を拘束されたりと、兎に角ここにこの時間に残っているのにはちゃんと理由があるんです」

「うまい話はないんですね……」


フレヤさん様々だね。

私一人だったら確実に騙されて搾取されてた。

アブネー……

常設依頼を説明すると言いつつ、こんな風に余り物には福なんて無いぞと釘を刺してくれたんだね。




とりあえず採取しつつも魔物討伐という事で私とフレヤさんは一旦フレヤさんの家で身支度を済ませてカントの町の外へと出た。


稀少な薬草!みたいな物は無く、フレヤさんの指導のもと、薬草を根絶やしにしないよう注意を払いながら地道に薬草を採取してゆく。

途中森の中ではゴブリンや数体の小さな群れのフォレストウルフなどに絡まれつつも難なく撃破。


しかしある意味恐怖な魔物も居るわけで……




「ななな、な……なんですかっ!ああ、あのデカい、くっ、く、蜘蛛!もじゃもじゃ動いてて……き、気持ち悪い!」

「あれはボーデンスパイダーですね。アメリさんの前では単なる雑魚です。糸を出す前に杖でサクッとやっちゃって下さい」


今、私達の前にいるのは、私やフレヤさんくらいの大きさはあろう蜘蛛!

体毛がフサフサしてて最高に気持ち悪い。

心の底からゾワゾワ寒気がする。


「うっ!うう……!」

「さあっ!」


しかしこの状況において戦えるのは私だけ。


「えいっ!!」


覚悟を決めて杖を突き出してみせる。

杖越しに伝わる、何かに刺さった感触。


「お見事です!この通りボーデンスパイダーは糸で絡め取られない限りは全然脅威ではありません」


フレヤさんはそう言いつつナイフ片手にボーデンスパイダーとやらの腹から魔核を取り出し始める。

この人、本当に逞しいね……

私はとてもじゃないけど触れそうもないよ。


「フレヤさんは……き、気持ち悪くないんですか……?」

「うーん、別に気持ち悪いとかそういう感覚はないですね。それにもう絶命してますよ?」


絶命してるとかしてないとか、論点はそこじゃないんだよなぁ。

私、絶対にフレヤさん無しでは生きていけないよこれ。

面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

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