166.見つけた!
フリーデリケさんから聞いた幼い頃の話。
自分の本来の姿がなぜそんなに嫌いなのか、奴隷の子供の扱いについてなぜ我を忘れて激高するのか、そんな色々なことが知れた。
翌日からは森の調査、もし本当にサキュバスかインプの子供が犯人だとしたら、絶対助けるぞと意気込みつつ今に至る。
「なぁ、これ本当に大丈夫なんだよなぁ?」
「男がみっともねえ声出すな。俺がいるんだ、大丈夫に決まってる」
「とは言えいつもの斧を持ってないだろう、魔物とか出てきたら戦えるのかぁ?」
「当たり前だ。こんな場所にノコノコ出てくる魔物なんざ敵じゃねえ」
「本当かねぇ…」
終始怯えるオットーさんと、俄然張り切っているガリウスさん。
そう、犯人を誘き出すために引っ張り出されたのはオットーさんだった。
ナターシャちゃんの「ガリウスさん、強そうにゃ。自分が犯人だったら絶対狙わないにゃ」という意見に、誰しもが「そりゃそうだ」と納得。
そんなわけで白羽の矢が立ったのがオットーさんだった。
とーぜん武器を片手に戦うことなんて皆無なオットーさん。
全力で拒否するオットーさんをガリウスさんが半ば強引に説得して引っ張り出してきた。
そんなガリウスさんはシャスムの町にいた物乞いから売って貰ったボロを身に纏っている。
一応私が生活魔法の洗浄をかけているので臭くはないけど、どう見ても強そうには見えない、なんともみすぼらしい姿だ。
急に銀貨10枚貰った物乞いのオジサンは大喜び。
ガリウスさんはフリーデリケさんの為とでも思っているのか、なんの躊躇いもなくボロを身に纏った。
「本当にみんなついてきてくれてるだよな?」
「おう、アメリの魔法でしっかり消えてる。安心しろ、アメリが良いと言うまで絶対に看破されねえ代物だ」
はは、オットーさんがしきりにキョロキョロしてる。
私たち『魔女っ子旅団』と『ツバサ』の面々はみんな女。
という訳で私のエアサイレンチアとソラサイエンチアで隠れて一緒に歩いてる。
あ、フレヤさんがオットーさんの腰をポンポンって叩いた。
「ひゃっ!お、おお…ちゃんと居るんだね」
「な?だから安心しろ。まず命を落とすことはねえ」
ガリウスさんは肝が据わってるなぁ。
まぁ実際12等級の傭兵だ、別に体術でも問題なく戦えるだろうね。
「その言い方じゃ怪我はするかもしれないじゃないか!」
「アメリの治癒魔法でいくらでも治る。安心して怪我しろ」
「えー!?俺は非戦闘員だよ!絶対嫌だよ!!」
「ふん、情けないヤツだ…」
オットーさんの気持ちはよく分かる。
でも犯人を誘き出すのに絶対必要な人材。
ここはどーにか我慢してもらうしかない。
森の中の小道なんて聞いてたけど、一応馬車がギリギリすれ違える程度には広い。
今日はいい天気、木漏れ日が爽やかな気分にさせてくれる。
目の前にはビクビク背中を丸めるオットーさんと、ジッと前を見据えたまま歩くガリウスさん。
消えている私たちはずっと辺りをキョロキョロと警戒しながら歩いている。
結構歩いた頃、フレヤさんがオットーさんの服を引っ張る。
そろそろ目撃証言が多数報告された地点に着いたって合図だ。
「んあっ!!」
「どうした?」
はは、オットーさんったら素っ頓狂な声を上げちゃって!
あーいや…私も多分似たような反応をするかも…
「あ、そろそろ休憩しようか?なっ?」
「ん?おいおい…まぁそうだな」
ガリウスさんも芝居が上手い!
本当にウンザリしてるよーな仕草。
でもガリウスさんもちゃーんと合図は知ってる。
私たちは念入りに警戒しなきゃ!!
大分慣れてきたのか、オットーさんはいつもの調子でガリウスさんとお喋りしてる。
まぁ傭兵が多すぎるからか、この辺りには本当に魔物が出てこない。
唯一、さっきホーンラビットが襲いかかって来た。
でもガリウスさんは突進してくるホーンラビットの角をパッと掴んだかと思うと、勢い良く角を根元からへし折っちゃった!
んで、そのまま角でホーンラビットの頭を串刺しにしてオシマイ。
その光景にオットーさんはドン引きしてた。
ガリウスさん、強すぎる…!
おっと、偵察に集中せねば!
「…ってな訳でさ!そのモルガンじいさんが拾ってきた子犬ってのがさ、育てりゃ育てるほどさ、どう見てもタヌキなんだよ!「おいおい、こりゃ犬じゃなくてタヌキだぞ?」って言ってんだけど、じいさんは「絶対犬だ」の一点張りよ!「馬鹿言え、目の周りが黒くなる犬なんているかよ!」なんてさ、みんな言ってるのに「犬だ」って聞かねえんだ!」
「ふん…くだらん。ふふ…」
本当にくだらなくて笑える。
声が出せなくなってる私たちだけど、オットーさんのしょーもない話がまた面白いこと面白いこと。
そもそも何でタヌキの話になったんだっけ?って感じで、気がつけば話題は明後日の方向へぶっ飛んでる。
「そういや後どれくらい歩くんだ?」
「ん?お目当ての場所について、引き返して…まぁ夜には町に戻る」
「はぁ…歩くってのは難儀だなー。普通の傭兵なんかはみんなこーやって歩くんだもんな」
「そうだぞ。みんなひたすら歩く」
日頃御者をやってるオットーさん的には、こんなにひたすらトボトボ歩くなんて滅多にないんだろーね。
「馬がいないって大変なんだなぁ」
「馬鹿言え、馬の世話の方が大変だろ。生き物だぞ」
「アミクスもヘクターもさ、俺の相棒で親友だよ。親友の世話が大変なことあるかよ」
オットーさんの馬たち、アミクスとヘクターって言うのか。
ふーん、男の子かな?
ただの仕事に必要な道具じゃない、大切な親友でもあり、頼もしい相棒なんだ。
確かに休憩の度にオットーさん、とっても優しい顔で馬たちの世話をしてた。
「そんなもんか、まぁそうだな。馬か…そのうち俺もロバでも飼うか」
「おー、可愛いぞー?ロバは馬より用心深いからさ、懐くまで大変かもしんないけどさ、ガリウスはあんま予測不可能なヘンテコな行動とか取んないだろ?」
「ん?ああ、まぁ…そうかもしれん」
「用心深いロバにとってさ、そういうヤツは一緒にいて安心するんだよ、これが。ガリウスは話しかけねえといつまでも喋んねえけヤツだけどさ、それでも弱いヤツには優しい。ロバはそういうヤツも好きだな」
へー、かなり参考になる。
馬とロバじゃ性格がちょっと違うんだ?
ん、フリーデリケさんが動いた。
ガリウスさんの肩をトントンと叩く。
来るって事だ。
「なるほどな…おい、分かってるだろうな」
「ん?お、おう…分かってるさ」
オットーさん、緊張を必死で隠そうとしてる。
古い倒木に腰を下ろして一息ついてたガリウスさんとオットーさん。
来る…二人の背後から…!
あっ…やっぱりだ。凄く小さい。
ロカスリーで全力を出して極限まで小さくなったフリーデリケさんそっくり。
あ、でも背中の羽がないのかな?
とっても不安そうな顔をしてる。
…怯えてるんだ。
なんかやるせなくなるね…
オットーさんに来るか?
意外だ、ガリウスさん狙いだ!!
姿を消したままのフリーデリケさんが取り押さえる準備をしてる。
フリーデリケさんと目があった!
今だ!!解除だ!!
「お嬢ちゃん、捕まえたよ」
フリーデリケさんはとっても優しい声だった。
優しい表情、優しい声、優しい手つき。
「あっ…!」
「捕まえたか、おいおい…羽がねえな、まだ子供じゃねえか」
「あの…ご、ごめんなさい…ごめん…なさい…!」
目に涙をいっぱい溜めてる。
「よしよし、もう安心しろ。俺もその姉ちゃんもお前さんを捕まえていたぶってやろうとは思ってねえ。お前さんの噂を聞いて、ひょっとして子供の仕業じゃねえかと心配で心配でな、こうして保護しにきた」
「そうさ、お嬢ちゃん。あたしの本当の姿、見せてあげるよ」
フリーデリケさん、本来のサキュバスの姿になった。
あんなに嫌がってた本来の姿。
でもフリーデリケさんの表情はとっても優しい。
「あっ…」
「お前さんと同じ種族、サキュバスだ」
「サキュ…バス?」
やっぱり自分が何者なのか知らなかったんだ。
オットーさん、こっちまで来た。
ま、ここはガリウスさんとフリーデリケさんに任せてみるか。
フレヤさんとナターシャちゃんも黙って見守ってる。
「そうさ、あたしもお嬢ちゃんもサキュバスっていう種族さ。安心したかい?」
「…うん」
「ふふ、良い子だ。で、お嬢ちゃんは一人かい?」
ああ、この優しいフリーデリケさん、私の好きなフリーデリケさんだ。
「…ううん、妹…いるの」
なっ!?
い、妹…!?
すっ、直ぐに保護しないと…!!
「そりゃ大変だ…!よう、俺たちを妹のところに案内してくれるか?」
「あたしらが妹ちゃんも保護するよ!安心しな!」
「私たち…どうなりますか…?また…捨てられますか…?」
ボロボロの服とも呼べないボロの裾をギュッと掴むサキュバスの女の子。
やっぱり捨てられたんだ。
「捨てる?馬鹿言え、子供をこんな森に捨てるわけがあるか」
「そうだよ!あたしらが妹ちゃんも一緒に守ってあげるさ。だから妹ちゃんのところに案内してちょうだいな?」
女の子を優しく抱きしめたフリーデリケさん。
ガリウスさんも抱きしめられた女の子の頭をソッと撫でてる。
ふふ、女の子、ジッとフリーデリケさんの胸の中で目を閉じてる。
「うん…」
とりあえず良かった…かな?
とにもかくにも妹ちゃんの保護!
って事で、森の道無き道を歩く私たち。
いきなりあれやこれやメンバー紹介とかすんのはどうかとなって、私たちはガリウスさんとフリーデリケさんの仲間たちという程度の紹介だ。
ガリウスさんは私の異空間収納に仕舞い込んでたいつもの服や装備に着替え直し、見慣れたガリウスさんに戻った。
お姉ちゃんはフリーデリケさんが縦抱きしてる。
「でさ、お嬢ちゃんと妹ちゃんはどうしてここに居たんだい?」
「…奴隷?のお店にいたの。みんななんかに乗ってね、どっかの町の外に行ったの」
「うんうん、そうかい」
「何日かみんな町の外にいてね?また来た道に行ったの。そしたら私と妹だけ森の中で降ろされたの」
「そうしたら置いて行かれたってことか…」
使い道がない、じゃあ途中で捨てていくか。
そんな感覚だったんだろう。
クズだ、そんなの…許される訳ない。
「うん、でね?通りかかった人に食べ物貰おうとしたの。そしたら、なんか元気になるなんか…なんかを吸った?なんかね、男の人から元気を貰ったの」
自分の特性も知らないまま、本能で精気を吸うところまで辿り着いたんだ。
凄いな…それでどうにか凌いでたのか…
「なるほどねぇ」
「ふむ、そういうことか」
「うん。妹にね、その元気を分けてあげられるの。だから、私が元気貰ってね、妹にあげるの」
精気を精気と分からないまま、通りかかった男から精気を吸って、それを妹に分け与えて生き延びてたんだ。
お姉ちゃん、立派にお姉ちゃんだね…
「妹とはその…なんだ、奴隷の店からずっと一緒だったのか?」
「ううん、知らない」
ん?知らない?
なんだなんだ?
フレヤさんと目があった。
肩を竦めるフレヤさん。
「知らない?そりゃどういうことだい?」
「なんかに乗った時にはじめて会ったの。私のことね、お姉ちゃんって呼ぶから妹なの」
な、なんと…
ほぼ初対面の年下の女の子の為に、必死で精気を吸って分け与えてたって訳か!!
「そうか、お前さん、本当に立派なお姉ちゃんだな。ここまで良く頑張ったぞ。後は大人の俺たちに任せろ」
「そうだよ。もう大丈夫さ。大変なのはもうオシマイ。後はあたしらに任せてちょうだいよ!な?」
二人の言葉にはにかむお姉ちゃん。
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