164.宿探し
濡れ衣でとっ捕まりかけたフリーデリケさんを救うべく、傭兵組合からやってきたのは何故かガリウスさん!
チャーム精気ちゅーちゅー騒動を指名依頼で貰った私たち魔女っ子旅団は、ガリウスさんから説明を受けつつ組合事務所へと歩みを進めて今に至る。
いざシャスムの事務所!
いざ扉が開かれる!!
頼もーっ!!
開くのは私じゃなくてフレヤさんだけどっ!
うわぁ…凄い数の人、人、人!!
なんかこーゆー活気ある事務所は久しぶりだよ!!
こりゃ通行税で一儲けしようと企むわけだよ!
そう考えてとーぜんである。
すげー人で溢れかえってる。
「私たちは受付で諸々の処理をしてきますので、皆さんは適当に依頼でも眺めてて下さい」
フレヤさんとナターシャちゃんはガリウスさんと衛兵のお姉さんを引き連れて受付か。
よし、私たちは依頼でも眺めるかぁ。
「あたしも行くよ!この依頼はあたしが解決するよ!」
「ん、フリーデリケも来るか」
「とーぜんだよ!」
ああ、フリーデリケさんまで行っちゃった!
話が拗れないと良いんだけどな…
「行っちゃったね…」
「ああ、余程怒り心頭のようだ。そうだ先生」
「ひゃい!」
ビックリした!!
ジルさんか…急に話しかけないでよ!!
「あの、ガリウスさんとは…」
「いよう!」
ん?私たちか?
なんか声をかけられ…あっ!!
「オ、オットーさん…!?」
「アメリちゃん元気そうだねー!そうそう!ロカスリーで聞いたよー?なんか魔法協会相手に圧勝したらしいじゃんね?」
「あ、は、はい!なんか絡まれて…」
「はは、なんか絡まれただけで魔法協会の偉いヤツらははっ倒せないでしょー」
ガリウスさん、オットーさんと一緒に来たんか!?
お使いを頼まれて一人でトボトボ来たわけじゃないんだね…
その後、適当なテーブルの席について、私の代わりにオットーさんが『魔女っ子旅団』との関係性を説明してくれた。
流石オットーさん、人懐っこいからかとっても分かりやすい説明!
助かった、私じゃこうはペラペラ説明できない。
ちなみにオットーさんは傭兵でもなけりゃ商人でもなく御者、なんとガリウスさんと一緒なら普通にテラノバからウィルマールに入れるらしい!
そして今回ここまで来た理由は、クラウディアさんからフリーデリケさん宛に伝言があったよーだ。
人を遣わせてまで伝える伝言。
こりゃ多分結構重大な事かもしんない。
「…ってな訳でさ、ガリウスのヤツ「俺が行く」って聞かなくてさ、仕方なく俺がここまで馬車に乗せて連れてきたって訳さ」
「話によればガリウスさんはかなり等級の高い傭兵だと伺いました。そんなガリウスさんがなぜわざわざ伝言を?」
ジルさん、初対面の人には多少丁寧さが残るね。
いやいや、今はなんでわざわざガリウスさんが立候補したのかだ。
「ここだけの話さ、俺たちが『魔女っ子旅団』と別れてからさ、ガリウスのヤツ、ずーっとぼんやり上の空なんだよ。もうみんな困り果ててベアトリクスのヤツがガリウスから話を聞いてみたらさ、ガリウスのヤツ、なんとフリーデリケちゃんに惚れちまったってんだ」
「へー!フリーデリケさん、何だかんだ良い人だもんね?」
「ああ、そうだな。しっかりとした信念のある人だ」
えっ!?
ガリウスさんが?
フリーデリケさんを!?
ありゃ?っていうかガリウスさんは夜のお相手を頼んでなかったはずだぞ?
興味ないとばかり思ってたなー?
「えっ、あっ、で、でも…ガリウスさん…フフ、フリーデリケさんに…よっ、夜の相手を…頼んでない気が…」
「そうなんだよ。俺も「おいおい、興味無かったんじゃねえの?」って聞いたんだけどさ、ガリウスのヤツ、顔を真っ赤にして「お前…アレだ、そういうのは…ちゃんと筋を通してだな…」なんてさ、あんなナリしてもじもじとウブな事を言ってんだよ」
「誠実な人なんだな」
「かねがね真面目なヤツだなぁとは思ってたけどね。もうガリウスとは付き合いも長いけどさ、あのガリウスが女に惚れるなんて初めて見たよ!クラウディア様もガリウスの事を聞いて面白がっちゃってさ「じゃあアナタ、うちの娘のところまで伝言をお願いするわ」ってな感じさ。面白かったんだよこれがさ!出発は明日の朝だって何遍も何遍も言ってるのにさ「おい、まだ出発しねえのか」「もう明日になってないか?」「遅れたら事だぞ」ってしつこいのなんの!こっちはしっかり寝たいからちったぁ黙ってろよ!ってな!お使いの話が出るまでは抜け殻みたいに「あぁ」とか「おう」とか譫言みたいに言ってボンヤリしてたのに、本当に現金な男だよ」
へー!へーへー!
人の恋路って面白いなぁ!
いやー、全然そんなの知らんかった!
「はは、そんなに大好きなんだね」
「大好きなんだねなんて可愛いもんじゃないよ、リンちゃん!ウィルマール入りしてから傭兵組合の事務所で『魔女っ子旅団』の足取りを確認しながら来たんだけどさ?もう夜なのに「ほら、急いで行かねえと間に合わねえぞ」「次の町に行ってたらどうするつもりだ」とかさ?しきりに俺にけしかけてくるんだよ!うるせえな!慌てなくたって追い付くよ!なんてさ!本当に笑っちゃいけないんだけどおかしくておかしくて!」
でも確かに言われてみれば、休憩の時とか晩御飯の時にガリウスさんがフリーデリケさんに話しかけてる姿はよく見かけた気はする。
単純にフリーデリケさんが面白いからって訳じゃなかったのか!
「お、おいっ!!余計なことを言ってないだろうな!」
「ん?おお、おかえり!なんだよガリウス、俺も来たって誰にも言ってないのかよ!」
あ、ガリウスさんだ。
はは、顔が真っ赤!
「それは…ウッカリしてたな」
「アメリちゃんも俺から話しかけられてビックリしてたぜ!」
いやーまさかこんなとこでオットーさんに会うとは夢にも思ってなかったしなぁ。
「ありゃなんだい!あんたも来てたんだねー?」
「いよう!フリーデリケちゃんも元気みたいだねー?フレヤちゃんとナターシャちゃんも!」
「あ、オットーさん!どうもその節はお世話になりました」
「にゃにゃっ!お久しぶりにゃ!!」
オットーさんが居るとなんかみんな笑顔になるね。
私はテラノバの護衛旅で長く付き合ったからかもだけど、このオットーさんとガリウスさんのコンビは好きだ。
そんな訳で諸々の受付も終わり、衛兵のお姉さんは詰め所に帰り、私たちはとりあえず宿を探すことに。
しかし人でごった返すシャスム。
なかなか宿が見つからない訳で…
「ここもダメでした。空きはないようです」
「にゃー…雑魚寝の部屋もいっぱいにゃ」
うーむ、何となくそんな気はしてた。
「すまんな、俺とオットーは馬車があるし馬を預ける必要があるから宿は取ってある。町の南側にテントが張れる広場があるから、そこで寝るといい」
「使用料は取られるみたいだけどさ、ずっと衛兵が見張ってるから割と快適そうだったよ?出店も結構出てるしさ、夜は酒飲んで騒ぐヤツが出ないように衛兵が目を光らせてるみたいだね」
ほほう!
それはちょっと楽しそうかも!
「へえ、それは良さそうですね。皆さん、我々はそれでも良いですか?」
「にゃ!仕方ないにゃ!」
うんうん、みんな納得だね。
「んー、あたしは前もって空から森でも偵察してこようかねえ」
「それはダメだ!」
ぬおっ、ガリウスさんか。
えー?
フリーデリケさんなら夜でもよく見えるし、別に悪くない案だと思うけどな?
「なんでだい!別にあたしなら夜でも昼みたいに見えるから平気だよ?」
「その…アレだ。空の魔物と鉢合わせたらどうするつもりだ?この辺りは割と普通に魔物がいるぞ」
そ、そうか。
ワイバーンみたいなのとかに絡まれたら大変かも。
「あー…確かにそうかもねえ。なんだいガリウス、あたしの心配してくれるのかい?」
「あ、当たり前だ。フリーデリケに何かあったらどうするんだ。心配くらいする」
「はは、嬉しい事を言ってくれるじゃないかい!心配してくれてありがとよ!」
あ、ガリウスさんのほっぺにちゅーした!
魔性の女だね、フリーデリケさん。
ガリウスさんは真っ赤っかだ。
ふむふむ、ここがオットーさんとガリウスさんが言ってた広場か!
いやー、結構な数のテント!
そして衛兵の人が槍を持って立ってる。
辺りが暗くなった訳だけど、この広場は人が多いからか、やたらと明るい。
ふーん、こりゃ確かに安心して寝泊まりできそう。
「わぁ、いい匂いがしてくるね!」
「にゃあ!美味しそうな出店がいっぱいにゃ!!」
町の人たちも今が絶好の稼ぎ時なんだね。
出店で晩御飯を買ってる人も多そう!
なんだかお腹がすいてきちゃったなぁ!
「とりあえず宿泊する手続きを行いましょうかね」
フレヤさんもちょっと浮き足立ってる。
ワクワクしてる時のフレヤさんだ!
フレヤさんが代表して、掘っ建て小屋の前で立ってた衛兵の人に話しかけた。
どーやらテント一張りにつき大銅貨6枚で泊まれるらしい。
テントを張らずに寝る場合は一人につき大銅貨2枚。
何とも商魂たくましい町だね。
衛兵が常に巡回しているとは言え、荷物から離れる事はないようにってーのと、後は大声を出さない、暴れない、揉め事は起こさない。
そして売春行為はしないと、フリーデリケさんをみながら衛兵の人が言ってた。
とーぜんつまんなそうにぶーたれるフリーデリケさん。
とは言え従うより他ないので、私たちはテント二張りでお金を支払うことに。
全部でテントはいくつあるんだ?
これ…毎晩結構な収入になってないか!?
出店からもなんかマージンとかせしめているとして…あわわわ、こりゃ大儲けじゃないか!
その辺の出店を見て回るため、私たちは総出でワッとテントを設営。
折角だから晩御飯は買って済ませよう!って事で、各々があちこちの店でご飯を購入。
ナターシャちゃんは焼き魚とパンとチーズの盛り合わせ。
リンちゃんとジルさんは野菜と肉が入ったシチューと黒パン。
フレヤさんは黒パンに焼いたウルフ肉とチーズを挟んだやつと、自家製エール。
そして私はホーンラビットの肉串とフルーツの盛り合わせ!
いやー、なんかさ、めっちゃ美味そうに見えるの!
焼き魚も捨てがたかったけど、どうしても肉串が食べたいなーってね。
ちなみにフリーデリケさんは自前の空き瓶にエールを詰めて貰ってた。
どの料理も一品につき精々大銅貨で収まる範疇の良心的な価格。
「犯人だと疑われてさ、野宿な上に男漁りはダメと来た。あたしはこの町嫌いだね!不愉快、つまんないよ!!」
はは、これにはみんな苦笑いだ。
確かにフリーデリケさんからすればシャスム入りしてからろくな事がない。
「でも事件を解決すればかなり美味しい報酬ですよ。それにジルさんとリンちゃんの等級アップにも繋がりますしね」
「あとは討伐系の依頼とか、盗賊を突き出すとかしたいにゃ」
ふむー、モンフォール領では常設みたいな依頼ばっかだった。
私の時はどーだったっけ?
「でもこの雰囲気は良いよね。ちょっと特別感!」
「にゃにゃ!その通りにゃ!夕食選びでワクワクしたにゃ!」
ふふ、リンちゃんとナターシャちゃんは目を輝かせて選んでたもんね。
「エールもなかなか美味しいですよね」
「いやーそれだけは良い点だよ!エールはさ、作る人によって全然違うから楽しい酒だよ!何種類か瓶に入れて貰ったけどさ、どれも個性的で美味いよ!」
「ちなみに明日の作戦だが、何か打ち合わせをしたほうがいいのではないか?」
おっ!
ジルさんは真面目だ。
そりゃそーだ。
出たとこ勝負でなんとかなる相手じゃ無かったら厄介。
「そんなの簡単だよ!アメリ嬢があたしにさ、あのピュンピュン移動できる…えーと、ナンジャラって魔法をサッとかけてさ!パッと移動して、ガッととっ捕まえるって寸法さ!」
擬音ばかりで作戦といえないよーな単純な作戦だ。
「にゃあ、サッとかパッとかガッとか、そんな適当じゃ不安にゃ!」
「うーん…でも相手は恐らく手練れではないと思いますし、正直その程度考えておけばいいと思いますよ」
なぬ?
いやいや、これがとんでもない手練れだったらどーすんの!?
チャームで操られたガリウスさんと戦闘になったら…あばばば…!
本当にこんなんで大丈夫だろうか…
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