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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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160.次なる目的地

フェンデリーの町にてロックさんのお店で一晩厄介になった私たち。

欲しい物も手に入り、まぁフリーデリケさんはちょっと頭に血が上る場面もあったけれど、とりあえず有り難く一泊させて貰いつつ今に至る。




翌朝、ロックさんとマヒアさんにお礼を言って、私たちはフェンデリーの傭兵組合へと向かった。


この町の傭兵組合の事務所はカントと同じスタイル、所謂田舎スタイルだ。

「変化がない」「つまんない」と散々心の中で悪態をついてきたこの佇まい。

最近はなんだかんだちょっとホッとしている。

知らん町で慣れた建物ってのが良いのかもしんない。


「さて、私とナターシャちゃんは受付に向かいますので、皆さんはまた掲示板の確認をお願いします」

「あいよ!どーせ何もないだろーけどね!」


はは、まぁ無いんだろうなぁ。

とりあえず見るだけ見とくか。




事務所の中はセラミア同様、閑散としてるね。

中には二組の傭兵パーティーしかいない。

まぁ他の傭兵は薬草でも摘みに行ったのかな?


「ほれ、依頼を見るよ!」

「あ、はい…」


うーむ、そして依頼もロカスリーやセラミアと殆ど同じ。

商人の護衛依頼がポツポツある。

あるにはあるけど…短期間、それもロカスリーに戻るやつだ。

要求されてる等級も低い等級から受けられる。

えーと往復四日を予定、金貨2枚と銀貨80枚。

こっちも殆ど一緒で…あーと、この日付だと明後日出発と五日後出発?

これまでの地域から考えればかなり美味しい報酬ではある。

しかし町の周辺で薬草を摘んでりゃ短時間で同等な報酬は稼げる。

多分傭兵が少ないうえ、ロカスリーはまだ危険地帯と思われているかもしれない。

そー考えるとなんか危険手当みたいなのが上乗せされてんのかも。

それでもこりゃ確かにみんなお手軽に稼げるし、需要が高い常設の薬草採取に走るわな…


「えーと?薬草採取。町の警備の支援。町周辺の魔物討伐支援。ロカスリー行きの物資輸送の護衛。避難民の安全確保。どれも低い等級から受けられるね?」


うーむ、リンちゃんが言った通り、それが全てだ。

ここまでの町と変わんない。


「駆け出しの傭兵の手でも借りたい状況、といったところか…」

「そーでもしないとみんな薬草採取に走っちゃうじゃんね?ここに留まってまでこなす依頼じゃないね。掘り出し物もないや」


リンちゃんとジルさんの等級を上げるならコツコツこなすのも良いかもだけどね。

二人とも途轍もない実力者、私やフリーデリケさんの等級の依頼をガンガンこなしてさっさと等級上げて、適正な等級にしておきたい。


「つ、次の…まっ、町ですね…」

「だぁね。モンフォール領から出た方がいいよ、こりゃ」




ってな訳で早々に確認する依頼も無くなり、受付にいたフレヤさんとナターシャちゃんのもとへ。

うーむ、フレヤさんとナターシャちゃんの感じから察するに、なんか強い魔物の討伐とかの打診もなさげ。


「依頼はないね、次の町に行くよ!」

「そうでしたか。それではすいません、返却でお願いします」


フレヤさんもナターシャちゃんもガックリしてない。

予想通りの展開って訳だ。


「ええ、それではこの届けはそのままお返ししますね」

「はい、ありがとうございます。ちなみにこの先のマーシラスやハルジムも同じような状況でしょうか?」


あ、フレヤさん、町や村の一つ一つに立ち寄るのが面倒になってきているな?

いやーそりゃそうだよなぁ。

本当に良い依頼が無いんだもん。

この状況下ではまとめて買い出しするのも高くついて効率が悪そう。


「そうですね。流れのパーティーであれば、真っ直ぐシャスムあたりまで出てしまった方が良いかと思います。モンフォール領の各地の事務所で討伐依頼や護衛依頼が出たとしても、どうしても地元の固定パーティーに仕事を斡旋してしまいますので」

「にゃ、固定パーティーの維持の為にゃ。仕方ないにゃ」

「すいません。町のパーティー維持の為、何かとご不便をおかけします。交通の要所になっているシャスムまで行けば恐らく流れのパーティーでも十分に受けられるくらい依頼があると思います」


ふーむ、仕事が減ればそーゆー事になると。

じゃあ私たちがもしカントの町から異動届を出さずに活動してりゃ、いざってときは優先して貰えるわけか。




という訳で、私たちの次なる目的地が決定した。

ズバリ寄り道せずにシャスムの町なる交通の要所へ向かうことに。

とーぜん乗り合い馬車もなけりゃ護衛依頼もない。

本当に地道にテクテク街道をひたすら歩く旅だ。

フレヤさん曰く、寄り道せずに順調に行けば6日後くらいには到着出来そうとのこと。


そしてその道中はとても平和なもんで、たまに出てくる雑魚魔物はリンちゃんとジルさんに任せることに。

任せるったって全然苦戦する事もなく、ジルさんはフレヤさんやナターシャちゃんから魔物解体の手解きを受けることに。


「こ、これは…うっぷ…なかなか…」

「いくら平民を装ってたって、元貴族令嬢が魔物や動物の解体なんて慣れているわけがありません。慣れていなければ気持ち悪くて当然なので、あまり気負いせずゆっくり慣れていけばいいですよ」


フレヤさんはニコニコしながらそーゆーけど、笑顔でグラスランドウルフの首元にナイフをぶっさして血抜きするその姿はなかなか怖い。


「この手の雑魚は自分たちである程度処理しておいた方が少し高く売れるにゃ。まず太い血管にナイフを突き立てて血抜きをして全身を洗うにゃ。そのあと水でジャブジャブ汚れや虫を落として、内臓を取り出して凍らせるのが楽にゃ。それ以上は現地ではちょっと無理にゃ」

「な、内臓…うっぷ…」

「にゃ。皮を剥ぐところからは時間がかかるし慣れが必要にゃ。皮は素材を欲しがる職人によって拘りがあるにゃ、だから無理して傭兵がやらないほうがかえって高く売れることもあるくらいにゃ」

「異空間収納がない場合が殆どですが、大きすぎる場合は分割しちゃいますね。でも本当にそこまでですかね」


ナターシャちゃんも手慣れてるなぁ。

ナイフ捌きになんの躊躇いもない。

っていうかナターシャちゃんのナイフの柄が細い…ケットシー向けなのかな?

あのプニプニ肉球のモフモフお手でよくナイフが扱えるなぁ。

でもナターシャちゃんは普通の猫より手も足もデカい。

いくら見た目がかわゆい猫ちゃんだって、骨格も単なる野良猫とは違う気がする。


「あたしは昔から言われるままに仕舞っておく専門だったけどさ、旅の途中で皮を剥ぐまでやるやつは見たことないよ」

「旅から旅の傭兵は肉が欲しい時以外はそんなとこまでやんないにゃ。でもうちはリンちゃんが居るにゃ!最悪殺してすぐに異空間収納でも十分にゃ」


私は直視できるけど、リンちゃんは顔が真っ青。


「ぜ、絶対無理…!私…そんな解体なんて絶対出来ないよ」


そりゃそーだろうね…

魔物が居ない平和な世界でさ、晩御飯の肉欲しさに動物をとっ捕まえてその場で捌くなんてことをするとは思えない。


「これは本来、サポーターである私の仕事にゃ!リンちゃんまで解体が上手に出来ちゃったら私の仕事がなくなっちゃうにゃ」

「はは、私はあくまでナターシャちゃんの手に負えない大物だったときの為に覚え慣れておく為だ。ジュリエットのままなら兎も角、この見てくれと口調で解体出来なかったら少しみっともないからな…」


あくまで真面目なジルさん。

まーでもその通りではある。

こんな女の子に惚れられるよーな格好いい女性キャラクターのジルさんが、魔物の血抜きとか内臓取り出しをしてて顔を真っ青にして吐くのは、ちとダサい。


「そーいやアメリ嬢は解体をやんないけどさ、案外こーゆーの見てても顔色一つ変えないよね?あ、いや、ニタニタしたりキリッとしたりさ、顔色変えてないってのは言葉のアヤだけどさ」


ん?

なんか失礼なエッセンスが加えられた気がするぞ?

ぐぬぬぬ…

話を戻して、確かに見てても「気持ち悪くなってきた…」とか「吐きそう…」みたいな感じはないな。


「私もそれについては考えてましたが、恐らくお姉さんの魂が混じったからではないかと思いますよ」


えっ!?

そもそも本人の私も考えたことなかったよ!

フレヤさん…私のこと考えてばかりだね。

あっ…!

ひょっとして私のこと…好きなのでは!?


「なんで?アメリさんの話だと、お姉さんだって凄く偉い貴族のお姫様でしょ?ジルさんだってそんな真っ青になって手が震えてるのに」


ふふ、リンちゃんズバズバ言うなぁ。

ジルさんは苦笑いだ。


「それはリンちゃんの言うとおりですね。しかしお姉さんは立場ある貴族令嬢にもかかわらず『渡りし人』で、神様に武の才を要求したカズヤ・ミナミダイラをまるで子供をあしらうように圧倒しましたよね?」

「ああ、格好よかった…ふふふ、格好いい…」


私自身は格好良くなくてすいませんね!!


「神から賜った才能を凌駕する力、恐らく騎士団的な組織に属し、公爵家の令嬢ですので、必然的にそれなりの地位があったのではと推測します」


確かにだね。

お姉ちゃんはきっと部下からも慕われる人だったに違いない。

私の仲間への声のかけ方とかさ、なんかそんな気がする。


「まぁ他のバトロアン・ワービットの実力を知りませんから何とも言えませんが…兎に角、騎士団的な組織に属する以上、野外演習で泊まりがけで魔物を討伐したりする機会もあったはずです。五千年後の今の時代でも、その手の機会では貴族家の子息でも魔物や動物を解体して肉を確保する訓練は必ず行います。つまり、アメリさんが解体を見てもなんともないのは、間違いなくお姉さんの魂のお陰だと思ってますよ」

「にゃ?アメリさん自身の経験じゃないにゃ?」

「話によればアメリさんは王女の侍女ですよ?公爵家の令嬢、そして王女殿下の侍女になれるとなれば、アメリさん自身にそんな経験があるわけがありませんよ」


ぐぬぬぬ…断言するなぁ。

でもきっとそうに違いない。

侍女として王女殿下に仕えるって事は、記憶を失う前の私は所作だとかお作法だとか、きっと血のにじむような努力をして身に付けていたに違いない。

そーなれば、動物だの魔物だのの解体なんて縁のない世界の話じゃないと逆におかしい。


「確かに先生は常にビクビク自信なさげに背中を丸めていますが、所作に優雅さと言いますか、育ちの良さを感じます。身だしなみの管理を初めとした細かな手作業なども相当手慣れていますしね」


ぐふふ、ジルさんって私の事をいうときだけジュリエットさんにもどるんだよね。

先生か…なんと甘美な響きか。


「はは、社交スキルとかさ感情を抑制するみたいな貴族っぽい事に関しちゃあさ、ズブの素人も真っ青じゃないか!」

「ははは!お姫様の隣で立ってるメイドさんっぽくはないね!」


うっ…リンちゃんに笑われた!!

悔しいけどぐうの音も出ないや!!


「以前一度だけ王女殿下の意識が表に出てきましたが、とても気さくでかなり活発な印象を受けました。そしてアメリさんから伺った話から、アメリさんは親戚や親友を超えた、とても絆が深い間柄という印象を持っています。恐らくアメリさんはそんな王女殿下に足りない部分を影から補える、親兄弟よりも信頼できる侍女だったのではと思いますよ」

「にゃにゃ、フレヤさんはアメリさんのことをそんなに考えてるにゃ?多分本人よりアメリさんについて考えてるにゃ」

「ふふ、アメリさんはどうすれば「出来る女」に見えるかばかり考えている節がありますからね」


ぬおっ!!

鋭い人が多過ぎで恥ずかしいし、嫌だ!


「そ、そんな事…ないです…!むっ、難しいことばかり、か、考えてます…」

「はははっ、つまんない見栄を張るんじゃないよ!」


いでっ!!

フリーデリケさんに背中をバシンと叩かれた!!

悔しい…ぐぬぬぬ、悔しいよ!!


「はは、そんなアメリさんが大好きですよ。あーあ、私が男だったらなと時々思いますよ。もしくはアメリさんが男ならと」


ドキッ!

愛の告白…!!

こ、こんなみんなの前で!!


「アメリ嬢が真っ赤っかになったよ!あはは!ウブだねぇ!」

「にゃにゃにゃっ!耳まで真っ赤にゃ!!」


ぐぬぬぬ…フレヤさんの背中に抱きついてやる!!




休憩がてらの解体レクチャーだったので三体だけ処理。

あとは全部リンちゃんの異空間収納にしまい込んで、私たちは再びシャスムへ向けて出発!


面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

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