157.フェンデリーの町
セラミアの傭兵組合事務所にて、セラミアを拠点としている傭兵から話を聞いて、どーやらこの辺りには良さげな仕事が殆どないと知った私たち。
当面の活動についてどーすべきか考えつつ今に至る。
「受付でも確かに同じようなことを伺いました。今、申し出れば提出した拠点異動の書類にひと手間加えるだけで次へ行けるとのことです」
「にゃ。私ももうちょっと仕事があるところへ行っても良いと思うにゃ。常設依頼も悪くないけど、昇級には繋がりにくいにゃ」
「何よりですね、頼むパーティーを選ぶ類の依頼については、事務所側も地元のパーティーを優先しがちです。信頼関係のようなものがありますし、地元のパーティーの生活もかかってますから無理もない話です。なので我々のような流れの傭兵パーティーは依頼の数が少ない町でわざわざ粘る必要性はありませんね」
うーむ、フレヤさんとナターシャちゃんも同意見だ。
だよなー、この辺りは魔物被害で苦しんでいる訳ではない。
一応地元の傭兵だって一定数は居るわけだし、常設依頼をこなしまくってお金を稼がなきゃいけないほど、私たちはお金に困ってる訳じゃない。
「それで良いと思う。暫くは今回のように受付や事務所で話を聞き、それで次の町へ進むべきか否かを考えよう」
「だねぇ。あたしも別に進んじゃって良いと思うよ!」
ジルさんもフリーデリケさんも賛成だ。
「わ、私も…それで良いかと…」
「私はみんなについて行くー」
リンちゃんも同意、決まったね。
「よし、それでは受付でお願いしてきますよ」
フレヤさんもこの事態を見越して連泊にしなかったんだね。
そんな訳で私たちは次の町へ向かうべく、ロカスリーから歩いてきたローカスランド街道という街道を歩いている。
この街道も平時であれば馬車が行き交う、そこそこ賑やかな街道らしい。
それが今は閑散とした寂しい街道だ。
時折すれ違うのは傭兵パーティーと、たまに商人の馬車みたいなのを見かける程度。
そんな中、私たちの背後、つまりセラミア方面からやってきた商人さんに声をかけられ、有り難いことに馬車に乗せて貰っている。
「乗せていただきありがとうございます」
「いやいや、いいんだよ!最近じゃ護衛を依頼しても全然見つかんなくてねぇ。こうやって傭兵さんたちに声をかけて乗せる代わりにさ、護衛して貰おうってな算段さ!」
歯をむき出しにしてニカっと笑ってるこのオジサンはロックさん。
ウィルマール王国の東にあるモンフォール領を中心に商いをしているらしく、私たちが次に向かう町であるフェンデリーにお店があるみたい。
そこまで年齢は重ねてなさそうだけど、若者って感じでもない。
薄緑色の髪は丁寧に後ろに撫でつけられ、髭も綺麗に剃られているから清潔感があるオジサンだ。
馬車は二台。
先頭の馬車に私とフレヤさんとフリーデリケさん。
後ろの馬車にはナターシャちゃんとリンちゃんとジルさん。
ま、フリーデリケさんはオープンの荷台の上あたりでプカプカ浮いたままついてきてるけど。
「護衛の確保に難儀しているんですね。やはり最近は護衛は見つかりにくいですか?」
「ああ、そうだね。モンフォール領は特にテラノバとの緊張が続いてるせいかさ、傭兵の数も少ない上にさ、今は常設依頼でも十分に稼げちゃうもんだから、平時より金を積まないと誰も護衛依頼を受けてくれないのさ。手練れのパーティーは討伐依頼で忙しく飛び回ってるらしいし…まぁ固定パーティーばっかだし仕方ないね」
固定パーティー?
あー、特定の町に腰を据えて活動する傭兵パーティーのことかな?
私たちは旅烏、流しの傭兵パーティーだもんね。
「でも護衛なしで出発してしまって平気なものですか?」
そーだよ!
流石に危なくない!?
「最近はさ、めっきり魔物も見なくなったうえに、この辺りは街道を行く商人たちの数が激減してカモがいないってな訳で盗賊たちも別の稼げそうなところに行っちまったみたいだから割と平気なんだよ」
「それで道行く傭兵が居れば声をかけて乗せる代わりに、という訳ですね」
「そうさ?お嬢さんたちにはこの辺では見かけない流しの傭兵パーティーっぽいけど、ケットシーも居るしハーフリングもいるときた!そんなの見るからに誠実なパーティーだろう?」
「ふふ、見た目通りの安心安全なパーティーですよ?」
「なっ?しかもお嬢さんたちは手ぶらだ。見た感じ戦闘向きな子はさ、後ろの馬車の戦士の姉さんくらいなのに六人もいる。これはつまり相当やり手のパーティーだなと踏んだわけだ」
ほへー、そーゆーところが見られるんだなぁ。
そー考えるとさ、フレヤさんやナターシャちゃんの存在ってかなり大きいよね。
「あ、ハーフリングがいる!こりゃ悪いパーティーではなさそうだぞ」って判断される訳だ。
絶対悪巧みして騙し討ちしそうにない、見たままに平和なパーティー。
「見る目があるねえ!」
「はは、伊達に商人やってないさ!ま、最近特に見かけるのは顔見知りの傭兵ばかり。今は特に余所から来た傭兵が少ないからさ、昔から地元で活動してる傭兵を見かけたら「乗ってけよ!」なんて声をかけてる感じだね」
逞しいなぁ。
報酬とかはないけど、こーゆー出会いも楽しいかも。
ちょっとした旅の思い出だ。
その後もフレヤさんとフリーデリケさんはロックさんと雑談をしていたけど、ロックさん曰く、次の町であるフェンデリーもセラミアと殆ど変わらない状況らしい。
でもロックさんが最近の情勢について話してくれた。
「ロカスリーで聞いた噂話なんだけど、どうやらテラノバのマクヌル州に集まってた兵士たちがボチボチ解散してるらしいんだよ。テラノバから来た傭兵がみんな「街道で大量の兵士たちとすれ違った」って。直ぐに検問所が通れるようになるかっていうとちょっと微妙なんだけどさ、少なくとも開戦はもう無いんじゃないかって商人の間ではその話で持ちきりだよ」
あー、ちゃんと開戦は回避できたんだ…
良かった良かった、ロカスリーであった色んな出来事は無駄じゃなかったんだね。
「私たちもテラノバからウィルマールへ来ましたが、かなりの数の兵士が集まっていましたよ。結局解散したんですね」
「何だろうね本当。さっさと元に戻って欲しいよ」
往来の制限が無くなればウィルマールにもドッと傭兵や商人がやってくるのかな。
だとしたらモンフォール領が元の姿に戻る日もそう遠くないかも。
「ちなみにフェンデリーもやはり歴史の長い町なんですか?」
「あの『マテウスの冒険譚』に出てきた町だからね、あの頃とは名前が変わってるけど、やっぱそんだけ歴史は長いよ!」
ほほー、この辺はやっぱりマテウスも歩いたんだ!
そーいやロカスリーの町の近くにあったアルカナ神殿の地下遺跡も冒険譚に出てきたって言ってたもんね。
「アルカナ神殿に立ち寄った前後だから…デリーカ村ですか?」
「そう!その千年前のデリーカ村が今のフェンデリーさ!セラミアは千年前とそんな変わんないらしいけど、フェンデリーは千年前は何もない村だからなぁ」
「でもマテウスとイサムは魔物討伐のお礼として、それは賑やかな宴を催して貰ったって言ってますよね」
「お陰で平時は冒険譚の愛好家が今でも来るんだよ。「ああ、ここが宴の場面で描写されてた井戸か!」なんてさ。ま、井戸くらいしか面影がないんだけどね」
そーゆー愛好家が千年経っても訪れるって本当にとんでもない事だなー。
なんか私も『マテウスの冒険譚』を読みたくなってきたぞ…
「わぁ!それは是非見てみたいですね!」
「やっぱり「うわー、ここがあのナントカかぁ」ってなるさね!あたしもこの前のアルカナ神殿でちょっと思っちゃったもん」
そーいやマテウスが行った時代の時点で何もない遺跡だったって言ってたもんね。
「はは、この辺りじゃ冒険譚でもまだ魔族とは戦わないもんね!なかなか地味なパートだよ」
魔族?
そーいやマテウスはどんな敵と戦っていたんだ?
「あ、あの…!」
「ん?アメリさん、どうしましたか?」
「マ、マテウスの旅は…何かその、ど、どんな旅だったのですか?」
「マテウスとイサムの旅はズバリ、魔族との戦いでしたね」
魔族…
初めにカントの町に行く途中にサラさんとダンさんから聞いたな。
魔族なんて有名な冒険譚や御伽噺にしか出てこない。
そっか、それが『マテウスの冒険譚』なんだ。
「魔族…」
「はは、ガキの頃は胸を躍らせたもんだ!鏡のリリヴェバー、大将軍ゴズィガリオン、鉄扇のルルイソ…本当にあんなデタラメな強さの魔族なんて実在したのかねぇ…ははっ、案外冒険譚を売るために吹かしてたんじゃないかね?」
怖っ…!
でも確かに魔族なんて全然見ない。
いや、或いはデーモンが…
「冒険譚には書かれていない詳細が手記に残されていましたので、魔族は架空の存在ではなく確かに存在したと私は信じていますよ!詳細なディテール、攻撃パターンや弱点、どんな状況からそれに気がついたか、イサムやソフィアの考察も交え、かなり細かく残されています!適当な作り話ではありません!」
うわっ、ロックさんの発言がフレヤさんの怒りに触れてたっ!!
フレヤさん、メチャクチャ早口!!
ほっぺがぷっくり膨れてる…!!
急にかわゆい!!
「しゅ、手記…!?」
「ええ、私たち子孫にだけ残した手記の中には事細かに攻略法が残されていました!手記は実家に残してきましたが、内容はしっかり頭の中に叩き込まれています!!」
「し、子孫っ!?えっ!?お、お嬢ちゃん…マテウスの子孫なのかい!?」
「あ!す、すいません…つい熱くなってしまって…はは。カントの町出身でして、私はマテウスの直系の子孫なんです」
はは、すいませんなんて言いつつさ、ちょっと自慢気。
そんなフレヤさんもまたかわゆい!!
あー、私はこの人をお嫁に出したくない!!
このかわゆいをどこの馬の骨か分からん輩に渡したくない!!
「おいおいっ!!マジか!!あっ!!じゃ、じゃあ…えっ!?その腰のベルト…まさか…!!」
「ふふ、その「まさか」です」
ロックさん、少年のように目を輝かせてる!
この人もまた冒険譚に虜にされた少年だったんだ。
「うおぉっ!嘘だろ!?すげえ、ハーフリングが言うなら本当の事なんだろうなぁ!いやぁ、マテウスは実在してたんだな!そりゃあ…アレだ、じゃあ特注で作らせたベルトの本物なんだ!?」
そこからロックさんはあれやこれやフレヤさんにマテウスについて尋ねていた。
カントの町でも、冒険譚の愛好家が町にやってきた時のガイドとしてお小遣い稼ぎをしてたというフレヤさんは、慣れた調子でロックさんに色々と話をしていた。
そんな訳で夕方には無事、目的のフェンデリーへ到着した。
フェンデリーはここまでの旅で見てきた町の中でも、ロボロ村とかのリグビーへと向かう道中にあった村によく似てる。
良くも悪くも平凡な感じの町だ。
町全体が先を尖らせた丸太を組んで打ち込んだ柵でぐるりと覆われている。
そんな様子からも、平時も割と平和な町なのかなという事が伺える。
そーいや道中、ひたすら平原ではなく森があった。
多分森から切り出してきた丸太なのかな?
リンちゃんとジルさんだけ通行料を支払って、無事フェンデリー入り!
「どうせ一泊して次の町へ行くんだろう?だったらうちの店に泊まりなよ!」
「にゃ?本当に良いにゃ?」
「ああ!道中、フレヤちゃんの話を聞かせて貰ったからなぁ。そのお礼とでも思ってくれよ」
ロックさん、相当楽しんでたもんね。
これはお言葉に甘えちゃって良さそうかな?
「話によればロックさんのお店は旅に必要な道具も取り揃えているようです。せっかくなのでお言葉に甘えようと思いますが、皆さんもそれで良いですか?」
「にゃ!フレヤさんがそう言うなら大賛成にゃ!」
「だねぇ、せっかくだし厄介になろうかね」
ふんふん、リンちゃんとジルさんも頷いてるし、今日の寝床は確保だ。
お店かー、なんかワクワクしてくる!
私も何か買って貰っちゃおうかなー!
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