146.ゴーレム?
暗殺絡みの証拠隠滅のために適当に受ける依頼。
私が大した考えもなしに「これなんてどうだ!」と選んじゃった依頼は薬草採集。
掲示板に残ってる依頼には裏がある訳で、但し書きでワイガル湿原にて強力な魔物の目撃情報ありなんて余計な一言が。
フレヤさんがフリーデリケさんに唆されてしまい今に至る。
「ほれ、いっぱい摘んできたよ!」
なぬっ!?
フリーデリケさん…手際が良いだと…!?
私、圧倒的大差で負けてる!!
おかしいな、フリーデリケさんはこーゆー繊細な作業は苦手だとばっか思ってた。
「さてと…シュカ草はこれとこれと、これだけですね。葉っぱがザラザラしているのはマダラシュカ草ですって説明したじゃないですか」
「えー?似てるんだから良いじゃないか!」
「ダメですよ!マダラシュカ草は嘔吐と下痢を引き起こします。全然、驚くほど要らないので捨てますね」
ぶっ!!
やけに早いと思ったら、フリーデリケさんフレヤさんから怒られてやんの!!
「カーッ!!チマチマチマチマ…七面倒くさいねえ!!」
「普通の傭兵はこうやって常設の薬草採集なんかをするんですよ?フリーデリケさんはこの手の下積みなしでトントンと等級を上げてしまったので、こういう作業にも慣れておいた方がいいと思います。はい、引き続きお願いします」
やーいやーい!
真面目にやんないから怒られるんだ!
マダラシュカ草、ぽいって捨てられてやんの!
「ぬぅ…やいっ!なーにさっきからニタニタと!!このっ!!」
のあっ!?
ジロジロ見てたら飛び火したっ!?
うわーっ!く、くすぐってきた!!
「ご、誤解です…!ふひっ!!ぐふっ!!」
「はぁ…アメリさんフリーデリケさん!!遊んでないでさっさと終わらせましょう!」
なにぃっ!?
なな、なんで私まで…!
そう、結局薬草採集を受けることにした私たち。
薬師からリストアップされた薬草採集をしてくるだけの平凡な依頼。
んで、何が注意事項かと言えば、やっぱりゴーレムらしきものが居た気がするという情報がつい数日前、組合事務所にあったよーだ。
ちなみにワイガル湿原はスライム系の魔物と中型の虫系の魔物ばかりで、流石にゴーレムはいないだろーけど、一応注意喚起してるらしい。
摘んできた薬草の品質によっては追加報酬あるでっていう、異空間収納を持つ私やフリーデリケさんにお誂え向きな依頼だ。
他の常設依頼の品々も採集すればなかなか儲かる良い依頼ですとルンルンなフレヤさんが言ってた。
なお、ゴーレム目撃のタレコミをした傭兵パーティーは駆け出し。
組合は「いやーこりゃあなんかの見間違えかね」って見解みたい。
ここ最近、期間限定の常設依頼として大人気だったこのチョロい依頼。
数少ない傭兵たちはゴーレム目撃の話を聞き、途端に誰も受けなくなってしまい、仕方なく報酬を引き上げて、目を引くために通常依頼として出し直していたようだ。
私達みたいな余所から来た傭兵に、ついでにゴーレムの真偽を暴いて貰える期待をしつつ、みたいな。
受付のお姉さんもそんな説明をしつつ苦笑いしてた。
「ありゃ、なんだい、種類ごとに袋に入れるのかい?」
採集に飽きちゃって、プカプカ飛び回って辺りの警戒をする事になったフリーデリケさん。
ふふん、フレヤさんはただ几帳面だからマメにそーやってるって訳じゃないんだよ?
「キノコは特にですが、毒のある物が多く、見分けにコツがいります。万が一毒性のものが紛れ込んでいたら、他の食べられるはずのキノコも汚染されますから、こうして分けているんです」
「へえ!なるほどねえ、そっかそっか、言われてみりゃ確かにそうかもしんないね!ふぅん」
リストアップされた薬草は、別にワイガル湿原の奥深くまで進む必要もなく、手前の方で一通り採集完了。
今は折角だからと食べられる野草やキノコなどを採集している最中だ。
「それにしても…気味が悪いくらい魔物が出ませんね」
ん?そ、そう言われれば…
「結構スライムが多いなんて受付のねーちゃんから聞いたけどね?こりゃあ見落としてるのかねえ」
「いやいや、スライムなら移動した通り道の草が線上になって倒れていて分かりやすいですから、見落としていないかと思いますよ?」
うーむ、確かにそんな跡はない。
居たら居たで嫌な魔物だけど、居なきゃ居ないで不安にさせる。
本当にほとほと厄介なヤツである。
「ま、だよね。粘液とか残るしさ。んー、スライムをひょいひょい拾ってパクパク食べるすんごい魔物がウロウロしてるのかもしんないね!」
なぬっ!?
そ、そんな魔物がいるのか!?
「スライムを捕食する魔物なんていませんよ」
ほっ…そりゃ良かった。
いやー、それにしてもずーっとしゃがんで作業してたからか、まあ伸び甲斐がある。
んー!結構あれやこれや入手したなぁ。
しっかしゴーレムか…本当に居たらヤダな…
んー…ん?
湿原の奥の方…ん?
「アメリさん?」
「あ、あっ…!あっち…」
おいおい、ちょっと待ってよ。
なんかウゴウゴ蠢いてない?
えー?どうしてこうタイミング良く…
「フリーデリケさんっ!湿原の方!!」
「任せな!空から見てくるよ!」
飛んでっちゃった。
そしてそのまま闇魔法的ななんかでサクッとやっつけてくんないかな…
「ひょっとしなくても…あれはゴーレムのようですよ」
「え、ええっ…?」
「しかしアメリさんの視力の良さは異常ですね…こんなとこから良く見つけましたよ本当に…」
異常な視力をもつ女アメリ。
うーむ、なんかあんま格好良くないなぁ。
「おっ、フリーデリケさんが闇魔法でちょっと様子を…」
むむっ、黒い刃のやつだ!
シャドウブレイドだったかな、おーなんだよ、全然余裕そう…
ああっ!!
「吸収された…!?いや、相殺したのかな…ゴーレムらしからぬ行動です」
「どどっ、どうしましょう…!」
ちょっと待って!
落ち着こう落ち着こう。
魔法…全然効いてないんだけど…!
「魔法効かないわ!悪いね、あたしはパス!」
ぐぬぬぬ…速攻諦めた。
とは言えチャームが効く相手とも思えぬだよ。
「アメリさんの無詠唱魔法では分が悪いかもしれませんね。うーん、このまま逃げてしまうのもなぁ…」
えー、逃げて良いと思うよ!
魔法を相殺?
そんなん肉弾戦になるんだろうけどで勝つだ負けるだの前に近寄りたくないよ!
「アメリ嬢のマギアウェルバの火柱でさ、ゴーッと焼き物にしてやろうよ!泥みたいだからカッチカチになるよ!」
「ガチガチになって、再び泥を纏って動き出したら余計手出ししにくくなりそうですよ!あれ、魔法を吸収してませんでしたか?」
「んー、効きが良いとか悪いとかじゃなさそうではあったね」
もう無理、諦めよう!
「あっ、諦めて…にげ、逃げましょう…!」
「ダメです」
「えっ?ええぇ…?」
「あんな訳の分からない魔物、今のロカスリー界隈でなんとか出来そうなのはアメリさんくらいなんですよ?逃げたら顰蹙を買うのでもうちょっと頑張ります」
思った以上の責任感である。
うわっ、なんかドンドン近寄ってきてる!
「水でビシャーッと押し戻そうよ!ほれ!なんかほら!」
「泥のゴーレムに水をかけるなんて、フリーデリケさんはゴーレムの回し者ですか?ダメに決まってます!」
「えー?そーかい?困ったねえ、正直あれ臭いから近寄りたくないんだよねえ…」
うわっ、臭いんだ…
いやー益々肉弾戦は嫌だ。
乾いたりしない、吸収されない、うーーーむ。
「あっ!!」
「おおっ!アメリさん、妙案があるんですか?」
「か、かっ、雷!雷なら…カチカチにも、吸収もされないかと…!」
そーだよ!
水に雷って結構いい感じで効きそうじゃないか?
なんか行けそうな気がしてきたよ!
「うーん、確かにマギアウェルバなら普通の魔法と違うようですし…試しにちょっと撃ってみて貰っていいですか?」
「あ、はい…!た、ただちょっと…まだ遠い、です」
流石に離れすぎである。
とは言え足元も悪そうだし、もうちょっと引きつけるかね。
「こちらから沼地方面に行くのは悪手ですね。よし、それじゃあギリギリまで引きつけてから一気にお願いします!」
「は、はい…!」
よし来た、任せろ!!
久しぶりのジョルトサンダー、ガツンとお見舞いしてやる!!
さあ来い、ヘンテコなゴーレムっぽいやつ!!
とにかく歩みがのろい。
うーむ、さっさと来て欲しいもんだ。
こちとら常設の採集とか晩飯の具をもうちょっと取ってから帰りたいんだ。
結構近くなってきた。
ルートゥムゴーレムとやら、風向き次第で臭さを感じるよーになってきた。
ヘドロのよーな…く、臭い。
「臭いよ!あたし空から見てよーっと」
「あっ、ズルい!!」
空から観戦!?
そしてフレヤさん、ズルいとは!?
私だってもう逃げたい。
なんでこうニキシー然り、臭いものに縁があるんだろ…
「あっ、い、いけます…!」
「それではやっちゃって下さい!」
やっと魔女っ子らしい活動が出来る!!
「みっ、耳をふさいで、下さい!!」
任せなさいっての!!
『
マギアウェルバ
雷よ雷よ
禁足地に足を踏み入れるは愚か者
愚か者には神の鉄槌が下る
轟く怒声
ジョルトサンダー
』
耳がおかしくなる轟音、目がくらむ閃光。
やっぱりこれ、ド派手過ぎ…って、うわぁぁぁっ!!!
「うっ!!ヘドロみたいなのが飛んできたよ!!うわっ!!きたなっ!!」
「く、臭い臭い!!アメリさんっ!!洗浄洗浄!!」
「ギャーーーッ!!」
ヘドロみたいなのが口に入っちゃった!!
泥の塊に向けて雷をズガドーン落とせば、とーぜんズガドーンと爆散する訳で。
浮いてたフリーデリケさんは危機を察知してヒラリと回避。
私の後ろで様子を見てたフレヤさんは私を盾にしつつ、まあまあ袖とかは汚れた。
そして攻撃を仕掛けた私。
もう最っ悪なんですけどっ!!
頭からつま先まで広範囲で疎らに汚れたうえ、詠唱してただけあって口の中にもヘドロみたいなのが入ったっ!!
あまりの悪臭にその場で盛大に戻してしまった…
出来る女は「ボエェェッ!」って吐かないし、こんな泥まみれになんない。
どーにか無詠唱の洗浄で身なりを綺麗にし、ルートゥムゴーレムが蠢いていた場所へと歩みを進める。
「ふふ、本当にごめんなさいって!」
「そーだよそーだよ!泥がビシャっと飛んできたらさ、誰だってササっとかわすよ!」
フリーデリケさんも逃げたし、フレヤさんは私を盾にした!
しかも吐いてる姿を見て笑ってた!
実に失敬!
「あっ、あ、あんまりです…!ゲラゲラ…!笑われたっ…!」
「ほらほら!ふふ、お陰様で一撃でしたよ!魔核はどこかな?」
ぐぬぬぬ…後でフレヤさんにはたっぷりと甘えてやろう。
んで魔核か。
結構な大きさだったけど、こりゃなかなかの魔核が期待出来るんじゃないかい?
大金!大金がガッポガッポ!
「あーあーあー、砕けたのかね?細かい魔核ばっかじゃないか!こりゃ酒代の足しにしかならないねえ」
「そうですね、どれどれ?うーん…あれ?この魔核…えっ?あれ?こっちも!」
ん?
なんだなんだ?
「ありゃ、なんだい!このグニグニしてる魔核…スライムの魔核じゃないかい?ほれ、こっちも!!」
「ああっ!!これ…スライムの魔核ですよ!!あ、こっちも!!これも!!この独特な模様もですが、何よりちょっとグニグニしますもん!!」
なぬっ!?
どれどれ私も!!
わぁ、なんだこれ、凄く癖になる感触!
「わぁ…フニフニ、や、柔らかい…!」
「ちょいと!これ!」
ん?
泥の中に何か落ちてた。
なんだなんだ、おっ!?
お宝かぁ!?
「おっ!!おたっ!!お宝…ざ、財宝…!!」
「えー?スライムが抱え込んでいたのかな…なんでしょうね、金属の枠かな?半円状ですね」
「魔力を帯びてるよこれ!生活魔法で洗ってみるかね!いやぁ、まさかこんなラッキーがあるなんてね!」
むっほー!!
まさかのお宝ゲット来たーっ!!
ワクワク!ワクワク!!おいくらっ!?おいくらになるのっ!?
「あっ!!これっ!!」
「ん?ああっ!!」
「リンちゃんの首について首輪じゃないかい!?」
「本当だ!アメリさんが馬鹿力で破壊して投げたやつですよ!」
な、なな、なぬーーーっ!?
そんな馬鹿な…そんな偶然あるわけが…あ、本当だ。
「この辺りまで飛んできて、消化しようとしてスライムが捕食。しかし魔力を帯びたミスリルなので消化出来ず。そして次から次へスライムが魔力に集まってくっついてくっついて…ああ…頭が痛くなってきました…」
原因、私じゃん!!
私がぶん投げなきゃこんなルートゥムゴーレムもどきが発生することなんかなかった訳か…
「沼地でそんな偶然が重なって、ルートゥムゴーレムに見えたって事かい?あはは!嘘だろう?はははっ!冒険譚にお誂え向きなエピソードができたじゃないかい!っていうかあの分岐点からどんだけ距離があると思ってるのさ!」
「アメリさんは本当に次から次へ…はは…ルートゥムゴーレムって…こんな偶然有り得ます?」
ご、ごめんよフレヤさん。
よもやこんな事になろうとは…すんません。
思わぬ形でゴーレム出没騒動は収まってしまった。
ほら、口の中にスライムの破片が入って吐いたしさ?
それでおあいこって事で…ねっ?
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