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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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14.初めての報酬

組合事務所で依頼報告の際、うっかりネーベルタイガーをカウンター前にどさりと置いてみんなの度肝を抜いた私。

組合事務所裏手にあるという解体場へ歩みを進めつつ今に至る。




「ここです!引き取りでーす!」


リンダさん、本当元気良いなぁ!


「失礼します」


礼儀正しい感じのフレヤさん。


「し、失礼しまーす……」


そしてオドオド不審な私。


組合事務所の裏手の演習場の隅にある建物へやってきた私達。


中はなめした革が貼り付けられた板が並んでいたり、丸ごと一頭みたいな凍った肉がぶらーんとぶら下がっていたりと、素人の私でも分かるような分かりやすい解体場だった。

見た感じ3人ほどがたいの良いムキムキな男の人が働いてる様子。

汗にまみれて働く男って感じが……いいね!!


「依頼確認と解体依頼でお連れしました!」

「あいよ!おっ、フレヤとそっちは…えーと、おおっ!噂の使用人の魔女っ子か!」


丸坊主で髭を蓄えたオジサン!

血にまみれた手をエプロンでゴシゴシ拭きながらこちらへ来た。


わぁ!!

あれっ?


わ、私こういう人タイプかも……!?

ドキドキしてる!!

お、男臭い!

物凄い勢いで男臭い!


「俺はこの解体場で頭張ってるバルトロメオってんだ。よろしくな!」


ゴツゴツした手を私へ差し出したバルトロメオさん。


どうやら私はこの手の働く男に弱いらしいね。

いやー、こりゃかなーり格好いいっ……!

あれあれ?

マジか、私っ!?

首とかめっちゃ太いな!!

うーむ、この男らしさが堪らない……!!


「おっといけねえ!こんな血まみれのきたねぇ手で握手はねえな!」

「あはは!バルトロメオさんったら!」


苦笑いのバルトロメオさんとカラカラ笑うリンダさん。

そんな反応を無視する形で思わず差し出された右手を両手でウッカリガッチリ掴んでしまった!

だって……!し、仕方ないじゃんっ!


「よ、よろしくお願いしますっ!アメリですっ……!」

「お、おう…!さっきまで血まみれだったきたねえ手だぞー?」

「で、でも……職人の手です……!」


い、いかん!

ちょっと引かれたかな……!

慌てて手を離す私。

これは恥ずかしい、顔が上げられない……


「アメリさん、照れてないでネーベルタイガーとオウルベアを出しましょう」


フレヤさんはちょっと悪戯っぽく笑いながら肘でツンツン私を突っつく。

くそー、人前で恥ずかしい……


とは言え保管役はこの私。

私の成果を見よっ!

すげーできる女だってバルトロメオさんから思われたいっ!


ドカドカとネーベルタイガー二頭にオウルベア一頭を出した私。

どうだっ!えっへん!


「おお、すげえ……!驚いた……こんな殆ど傷のないネーベルタイガーなんて中々お目にかかれねえぞ……おい」

「本当ですねえ……そもそもこの辺りじゃネーベルタイガーの討伐自体珍しいですけどね」


ふふーん、リンダさんもバルトロメオさんもめっちゃ感心してる。

はは、フレヤさんも胸を張っちゃって、鼻が高いって感じだ。


「この虎の素材がやたらと高級なのはよ、毛皮の手触りが極上だとか肉がうめえだとかそれだけの理由じゃねえ。こいつらはスニーキングで常に隠れるから、ちょっとやそっとじゃ一撃で仕留めるなんて出来ねえ。だから大抵死骸になった時にゃズタボロだ。なもんでよ、状態が良けりゃ良いほど面白えくらい値がつり上がるんだよ」


ほほーん、解体のプロが言うくらいだから、本当に希少価値が高いんだね。

これはかなりの報酬を期待出来るんじゃないのー?

っていうか静かに驚かれると、ちょっと不安になってくるね。


「どっちも頭を一突き……で、こっちは胸をグサリか……。傭兵相手にどうやって倒したかなんて、細けえ事は根掘り葉掘り聞かねえ。商売の手の内を聞きたがるのは野暮ってモンだからな。オレから言えるのは、アメリ。お前さんがとんでもない実力を持っている傭兵だってこった」

「ふふん、どうやって倒したかについては、いつか私が冒険譚を世に発表してからのお楽しみにして下さい!」


腰に手を当てて得意気にそう言ってのけるフレヤさん。


「ははっ!俺が生きてるうちに頼むぜ!大先生よ!」

「むー、何だか引っかかる物言いですね……」


ほっぺをぷくーっと膨らませるフレヤさん。

かわゆい……!!


「ま、これは優先して解体しとくからよ、きっちり査定が終わるまで待っててくれや。なっ?」


そう言ってバルトロメオさんはフレヤさんの頭をグシャグシャと撫でる。

むむっ、後で直さねば!

侍女?の血が騒ぐ思いだよ!




その後、受付に戻って一旦ネーベルタイガーやオウルベア以外の報酬を受け取る事に。


「ちなみに報酬の受け取り方は……」

「銀貨ですよね!フレヤちゃんならそう言うと思って用意しておきましたよ!金貨で言いますが、ネーベルタイガー討伐が金貨1枚。マリリヤ採取は銀貨80枚。後は常設依頼で銀貨20枚。銀貨200枚入ってます!10枚単位が20個ありますのでご確認下さい!」


じゃらっと景気のいい音が鳴る袋を受けとったフレヤさん。


ほほー、10枚単位?

どんな感じなんだろ?

フレヤさん、早速中身を取り出して数えてる。

ふーん、銀色のお金が確かに10枚単位で紐で器用に縛られてる。

いちいち縛ってさ、随分と面倒臭そうだなぁ。


「確かにあります。ありがとうございます。ではネーベルタイガーについてはまた明日様子を伺いにきますね。」

「お待ちしております!じゃあねフレヤちゃん!」


そう言ってフレヤさんは頭をペコっと下げた。


「リンダさんありがとうございます!よしアメリさん、一旦うちへ帰りましょう」

「あ、はい…!」


フレヤさんに促され事務所を後にする私達。

リンダさんがヒラヒラと手を振っていたので真似してヒラヒラと振り返した。




フレヤさんの家は国境側の入り口の反対側にあるらしく、畑に囲まれた道の中、のんびりと歩みを進める。


「い、依頼分や……じょ、常設合わせて銀貨……に、200枚なんて言ってましたけれど、あの……な、なんで銀貨で貰うんですか?」


初めから金貨2枚貰った方が話が早いはずだよ。

ジャラジャラさせた方が儲かった感があるから?

いやいや、だとしたら10枚単位で縛るなんて嫌がるね。

尤もフレヤさんに限ってそんなアホっぽい理由は無いでしょー。


「街で気楽に使えないんですよ、金貨って。銀貨100枚が金貨1枚に相当するのですが、露天のちょっとした食べものや、野菜や肉など、そのような銅貨や大銅貨で買えてしまうような物をわざわざ金貨で買う人は殆どいません。金貨なんて出そうものなら嫌な顔をされるか、断られますよ」

「な、なるほど……!おっ、おつりも用意できないし……こ、高額なお金を持っているのがバレると……ぶぶ、物騒……!!」

「なので銀貨で貰うのが一番便利が良いんです。銅貨100枚もしくは大銅貨10枚で銀貨1枚ですので、銅貨類と銀貨さえあれば大丈夫です」


ちゃんと考えてるんだなぁ。

一般人はそうそう使わないんだね、金貨。


「あの、イ、イマイチ価値が分かりませんが、あの、す、凄い稼ぎな気がしますよね。へへ……に、200枚もジャラジャラあると」

「価値ですか……そうですね、一般的な兵士の給与は役職によりますが、大体ひと月あたり金貨1枚から2枚程度と聞いています」

「おお!わっ、私達それじゃあ、た、た、たった一日で……へっ、兵士ひと月の給与を、も、貰ったんですね……!」


ひと月か何日あるか知らないけれど、たったあれだけでひと月分も働いた事になるんだ!?

こりゃ凄い!

こんなボロい仕事があっていいの?


「恐らくはこの町の組合で今、一番手っ取り早く儲かる依頼でしたよ」

「そ、そうなんですか……。そ、そんなに美味しい話はそうそうないと……」

「ですね。簡単にはいきませんよ」

「し、しかし……よ、良かったんですかね?こ、こんな傭兵初日の私みたいな小娘が……あの……う、受けちゃって」


こんな美味しい依頼、私みたいな駆け出しに振ってしまって本当に良かったのだろうか。

他の傭兵からの妬み僻みみたいなのはちょっと勘弁だね。

後ろから頭を鈍器でブン殴られてお金を奪われるとか考えただけで怖い。


「ネーベルタイガーの素材は支配階級に高く売れるので、組合側も少しでも綺麗な状態で手に入れたいですからね」


貴族って如何にもそういう印象があるね。


「誰に頼むべきかビクターさんが頭を悩ませ始めた丁度そのとき、一人で上位種を含むフォレストウルフの群れを手際良くやっつけたアメリさんを見て『こいつだ!』と思ったのでしょう。誰だってあのネーベルタイガーの綺麗さを見たら『なるほど、これなら確かに依頼を貰える訳だ』と素直に納得すると思いますよ?」

「だ、だと良いですけど……へっ、へ、変に恨まれたりしたら……ここ、こ、怖いじゃないですか……」


弱気発言の一つも出ちゃうよ、怖いもん。

私の背中をバシバシ叩きながら声を上げて笑うフレヤさん。

ぐぬぬぬ……!な、なぜバシバシ……!!


「あはは!ネーベルタイガーをあんな簡単に仕留める魔女が何でその辺の破落戸にビクビクするんですか!ふふふ、その辺の破落戸がアメリさんをどうにか出来るわけないですよ」

「そ、それもそうでしたね……、ははは……」


いやー、それでも人に悪意を向けられるのは怖いし何か嫌だ。

そんなもん返り討ちにしてくれるわ!とは思えないあたり、私は元から消極的な人だったんだろうな。


でも何でだろ?


幼いうちからこんな異常な力があったのなら、今頃増長してた頃のクセが出てないとおかしい。

私ってば、そーんな物わかりの良すぎる子供だったの?


「あそこにポツンとある家が私の家です!」


フレヤさんが指差す方には、木と石で出来た家がポツンと建っていた。


その佇まいから、恐らく長年ここで暮らしているんだろうなと窺える年季が感じられる。

でも綺麗にしているようで、ボロさみたいなネガティブな印象はない。


「わぁ!しゃ、洒落たおうちですね!わぁ!」

「遙か昔から代々手直ししつつ住んでますので、年季が凄いんですよ」


ちょっと照れくさそうに鼻の頭を指でかくフレヤさん。

うーむ、いちいちかわゆい!




フレヤさんの後について、私もフレヤさんの家にお邪魔する事に。


「ただいまー!」

「おかえりなさい。あら、お友達も一緒なの?」


そう言いつつ奥から出てきたのは、フレヤさんそっくりな女の人だった。

見た目はまんまフレヤさんだけど、雰囲気がちょっと大人っぽい。

ふむ、こりゃあれだ。

お姉さんかな……?


「あ、はじめまして。わ、私フレヤさんと、パ、パーティーを組んだアメリと言います。まっ、魔法使いです……!」


こういう時は先制パンチ。

バシッとビシッと決めて、しっかりしてるんだぞアピールをしておく。


「あらあら、はじめまして。うちのフレヤがお世話になってます。フレヤが昨日の朝早くにすっ飛んできて言ってた例の強い子ね?町の噂になってるわ、御伽噺に出てくる英雄のようにデタラメに強いって」


右手を頬に当てながらおっとりした口調ながらもよく喋る。


「やっと素敵な相棒と巡り会えたの!アメリさんは今まで組んできたどの傭兵よりも圧倒的に強いんだからね!」

「ふふふ、やっとフレヤの冒険譚が序章から第一章になるのね」

「うん!あ、そうそう!この町を出るまでアメリさんをうちに泊めたいんだけどいいかな?」


フレヤさん、さっきまでのしっかり者フレヤさんというよりは、甘えん坊フレヤさんといった感じ。

それがまた可愛いのなんのって!

どうだよ!うちのフレヤ!


「勿論!娘の大切な可愛い相棒よ?」

「えへへ、ありがと!」


大切な相棒?

いやー、可愛い大切な相棒?

照れるなぁー!


ん?んんっ?


大切な娘?


「えっ!?おっ、おっ、お母さんなんですか!?」

「あらやだ!フレヤのお姉ちゃんだと思った?ふふふ、嬉しいわあ!」

「あー、アメリさん。説明し忘れてましたが、お母さんのミリアです」


身体をくねらせながら両手で頬を押さえているミリアさん。

おいおい、そんなわけあるか!!

だって、フレヤさんとそんな年齢変わんなさそうだよ?

ははーん、私を担ごうってか?

そ、そこまで馬鹿じゃないよっ!!


「そ、そんな!?だ、だって……!フ、フレヤさんと瓜二つですよ……!」

「ハーフリング族はお爺さんお婆さんになるまでずっと見た目が変わらないんです。なので特別お母さんが若いという訳ではないですよ」

「噂通り本当に記憶がないのね。こんな新鮮な反応をしてくれるなんて年甲斐もなく舞い上がっちゃいそう!」


ははは……そんなズルい種族が居るんだね……

未だに信じられないというか、私騙されてないか、これ。

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― 新着の感想 ―
[一言] しつこくてすみません。辞書の短い語義だけじゃちょっと伝わりにくかったですね。  わたしが今まで読んできた小説等で使われていた「溜飲が下がる」は、平たく言うと「ざまァ」でした。  相手に何らか…
[気になる点] 溜飲が下がる、は誤用だと思います。 https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E6%BA%9C%E9%A3%B2%E3%81%8C%E4%B8%8B%E3…
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