129.フレヤの推理
思いっきりパターンから逸れてしまった今回のロカスリーの戦い。
とりあえず本来、事が起こるはずのロカスリー北門へと歩みを進める『魔女っ子旅団』とジュリエットさん。
まるで決戦前夜、決意を固めて今に至る。
ふーむ、町は通常営業。
戦闘になったら町の人たちを巻き込むのは必至。
相手はここロカスリーをぶっ壊してでも落としたいのかな?
まー、鉱脈狙いなら、ここがぶっ壊れようと、テントやバラックでも最低限は機能するか。
魔物溢れも毎回起きるくらいだから「町が壊れると大変なので郊外へ移動しましょう」なんて呑気な提案は出来ないんだろうなぁ。
「結構人が居ますね。例のバツ印の下にでも立ってみますか?」
「そうですね…一旦そこから周囲を見てみましょう」
うむ、他にアテなんかないしね。
「ありゃま、先客だ!」
「あ、本当ですね」
どわっ、急に止まんないでよ!!
思わずフレヤさんを後ろから抱きしめちゃったよ!!
「もう誰か立ってるよ!流石に知らん人のそばに行ってさ、この人数でぼさっと立つのは変だよ!」
「にゃー、予約してた訳でもないし、文句は言えないにゃ。他の場所にするにゃ」
男二人組か、なんだよー空気読めないな!
そこは私たちが立つ場所なのに!!
なんでこんな広い町の中で、わざわざあんな壁際に立つのかね!?
結構まだ離れてるし、私たちが到着するまでに退いてくんないかな。
お、再び歩みを進めるか。
「それもそうですね。えーと、まぁバツ印が見える場所で且つ、立っていても不自然ではない場所なんかが…「止まりな」
フリーデリケさん、フレヤさんの言葉を遮った?
ん?なんだなんだ?
「あの二人組だよ…どっちも異常さ、あんなの人が纏う魔力じゃないよ…」
おいおい…嘘でしょ…
ふ、二人っ!?
カズヤ・ミナミダイラって二人!?
カズヤさんとミナミダイラさんって事なん!?
二人合わせてカズヤ・ミナミダイラ!って事かっ!?
「ジュリエットさん…これは…」
「片方はカズヤ・ミナミダイラです…しかしもう片方のエルフの男は…」
人間の男とエルフの男。
二人とも髪は黒い。
こちらに背を向けて壁の傷を見てる。
「なんの傷なんだろな、これ」って感じだ。
「え、偉い人だよ…魔法協会の偉い人…」
「にゃ?リンちゃん…会ったことあるにゃ?」
「うん、魔法協会に入ったとき、最初に部屋に連れてかれて挨拶した…代表だって」
カズヤ・ミナミダイラと、もう一人のエルフは代表?なんの?
「稀少な人材を真っ先に紹介する…つまり特定の地区の代表、カズヤ・ミナミダイラ所属の部隊の代表、もしくは…」
「魔法協会の代表、トップ…」
フレヤさん、ジュリエットさんの意見に同意だった。
緊張した表情でこくっと頷いた。
二人とも冷や汗を浮かべてる。
つばを飲み込む音が聞こえてきそうな程にみんな緊張してる。
これは多分最悪のパターンがやってきちゃったんだ。
ただでさえ毎回勝てないカズヤ・ミナミダイラにプラスして、偉い人まで来ちゃってる。
「…いや、私…あのエルフ、見たことがあるかもしれません」
ん?ジュリエットさんの知り合い?
「それはどこですか?」
「あれは…えーと…」
「よく思いだして下さい。朧気なら繰り返しの初期の頃、もしくは繰り返しが始まる前のはずです。あれだけ特徴的です、何か思い出せませんか?」
じゃあアレか?私たちの時間の感覚でいうとこの、ここ最近、ロカスリーに一度来た事がある?
「思い出し…思い出しました!繰り返しの開始地点より前、あの日の夕方…いえ、もう夜です」
「にゃ!どこで何してたにゃ!?」
「槍を持って町中の巡回をしてた時です。一応、今後町の守備隊長になる身として、多少の心得は有りましたし、町の巡回はしていたのです。…兎に角、何か黒っぽいガラス玉のような物を懐から出してブツブツ呟いていたので覚えています」
黒っぽいガラス玉?
デーモンだ!!
フレヤさんと目があった。
フレヤさんもピンと来たんだ。
「なんか話しかけたのかい?」
「不審というよりは、辺りも暗くなったし、旅人が道に迷ったのかと思って声をかけました。こちらからは「何かお困りですか?私でよければお助けしますよ」と告げ、あちらは「大丈夫です、親切なお嬢さん」みたいな返しが来たかと…」
うーむ、普通のやりとりだね。
黒っぽいガラス玉だとか、黒髪のエルフだとかの要素がなけりゃ絶対忘れる類の、何て事無いやりとり。
「その黒い玉は恐らく私とアメリさんが遭遇した魔法協会の刺客が持っていた物と同じかもしれません。デーモンというアメリさんよりも強い種族を召喚していました」
「でもさ、んな強い種族は初日に出てこないだろう?なんでそんなもん懐から出すのさ!」
ま、まぁそりゃ「なんでさ」だけどさ、んなもんこっちが分かるわけがない。
「使わないのに懐から出す。もし仮に騒ぎを起こすまさにその瞬間であれば、別にジュリエットさんに話しかけられようと実行可能です。しかしそれをしなかった…」
「リンちゃんはなんか知らないにゃ?」
「んーん、見たこと無い」
無いかぁ…
そんだけ貴重なもんなんだろーなぁ。
それこそおいそれと誰にでも目に留まるよーな類じゃない道具。
「ひょっとすると…あくまで仮説ですし、仮説の域を出られませんが…エルフの男はまさにデーモンを捕まえていた最中だったのかもしれません」
「えっ…つ、捕まえ…!?」
んなバカな!
こんな町にデーモンなんて居ないよ!!
「ええ、あまり時間もありませんが、今回の狙いに関わる話ですので、一気に説明しますね?」
お、フレヤさんの「一気に説明しますね」キターっ!!
私これ好き!
「ヤキムで戦ってからずっと不思議だったんです。アメリさんでも大苦戦するデーモンを、魔法協会は一体どうやって捕まえてくるのだろう?と。おかしいんです。デーモンはアメリさんより強いです。捕まえて魔法金属で作られた枷で行動を封じようとしても、魔法なんて使わずとも容易く破壊できます。アメリさんですらウッカリ無意識に破壊してしまう程度の強度です。ですので、デーモンに何かよからぬ事をしようものなら容易に抵抗されるか逃げられるか、返り討ちにされます。それにこの大陸の文明圏にはあのような異形で規格外の力を有する種族など居ません。アメリさんがデーモンと普通に会話できて連携できていた点からも、デーモン達は集団で暮らしているハズなのです。彼らのコミュニティへ赴いて捕獲?ちょっと考えにくいです。私たちが戦った下級デーモンと呼ばれたのは見たところ少女でした。子供がアメリさんと同格…拉致出来るはずがありません」
フレヤさんはそこまで仮説を立てていたんだ…
凄いな…私はあの困難を乗り越えたってだけで満足感を得てオシマイになってた。
「別の世界とこの世界がリンクしていて、何かしらの仕掛けにより、特定の位置で発動すると、別の世界のデーモンを捕まえられる…そういう可能性もあるのではないかと考えます」
「にゃ…そうなると魔法協会がテラノバの依頼を引き受けて、執念深くロカスリーを狙う理由もあるかもしれないにゃ!」
「そうです。ひょっとするとこの辺りはまだまだ別の世界のデーモンを捕まえられる絶好のポイントなのかもしれません。だとすると、何度も何度も刺客を送り、最後にはカズヤ・ミナミダイラとあの偉いというエルフの男が乗り込んでくるのも納得出来るかと」
仮説の域は出ないけど、とても腑に落ちる説明ではある。
デーモンを捕まえるのに最適な場所がロカスリーだとすれば、テラノバ連邦を焚き付けて戦争を仕掛けさせ、どさくさでロカスリーを滅ぼし、後でデーモン捕まえ放題。
だとすると、町中での魔物溢れに拘る理由もしっくりくる。
だって、侵略戦争だったら町を跡形無い程にボロボロにするなんて絶対おかしい。
「ジュリエットさん」
「はい」
フレヤさん、冷や汗を浮かべながらニヤリと微笑んだ。
「やはり今回は繰り返しから脱出できる最後の機会かもしれません」
フリーデリケさんに建物の屋根に隠れて貰いながら監視して貰う事に。
私達は建物と建物の陰に隠れてフレヤさんの仮説の続きを聞く。
「『なぜ繰り返すのがジュリエットさんだけなのか』これについてずっと考えていました。なぜ毎回関わる私やアメリさんではなく、元々腕っ節がある訳でもないジュリエットさんなのか」
「それは…散々考え…己の運命を呪いました」
だろーな。
なんで私なんだ?
もっと戦える人なんか居るだろう!
誰だって何千回も死んでりゃそー思う。
「ここからは仮説の中でも更に仮説、はっきり言って私の妄想と言っても過言ではありません」
「はい」
「繰り返しの呪いを掛ける相手はジュリエットさんしか居なかった。ジュリエットさんにせざるを得なかった理由があった。私はそう考えています」
相手はジュリエットさんしか居なかった?
黒い玉関連かな?
「私だけ…それは」
「あの黒い玉でデーモンが捕獲された瞬間にジュリエットさんが遭遇してしまった。そしてジュリエットさんは「何かお困りですか?私でよければお助けしますよ」と告げた」
「ええ…」
うむうむ、エルフの男に言ったって言ってたね。
「別の世界とこの世界とが繋がっていた瞬間だったとしてですね、別の世界側から藁にも縋る想いで、ジュリエットさんにそのような呪いを掛けた…という可能性もあるかなと」
あ、フレヤさん…ちょっと顔が赤くなってる。
いやいや、でも良い線いってる推論だと思う!
「実はこーゆー感じでしたー」って謎の集団から今みたいなネタばらしを受けたって、私は「ほえー、そーなんだ、すげーな!」って素直に思うよ!!
「にゃにゃー、フレヤさん、照れることないにゃ!童話みたいだけど、凄くあり得そうな説にゃ!」
「異世界の魔法とかおまじないなら、そういう事が出来たって不思議じゃないもんね。私もナーちゃんと一緒だなー」
「わっ、私も…!」
負けじと!
私だって同意だよ!!
「す、すいません。荒唐無稽が過ぎるなと思いまして…はは」
「いえ、それでも…とてもあり得そうな仮説だなと私自身感じました。他の誰でもなくこの私…あの場にあのタイミングで出くわして声をかけた、確かに初回において、他の原因は何も思いつきません」
仮説の域は出ないし、出ようもないけど、多分フレヤさん説で遠からず正解かもだ。
凄い、フレヤさんは凄い。
この僅かな間に、それも今から殺されるかもしれないという状況。
それでもフレヤさんは頭の中の情報を組み立てて、ここまでたどり着けるんだ。
ジュリエットさんを絶対に救い出す、目の前に迫る危機の中でもどこをどう狙うべきか、そんな事を考えてる。
凄い。
英雄とは…多分こーゆー人のことを言うのかも。
「だとすれば狙うべきは黒い玉です。私達は魔法協会側にあの時の黒い玉を使用させる必要があります。デーモンが出てくる前に玉を壊す事に全てを賭けましょう」
「にゃにゃ!違ったとしてもアメリさんより強いデーモンなんて召喚しちゃだめにゃ!!どっちみち壊すしかないにゃ!!」
そーだね!
もし繰り返しの原因と違ったって、どっちみち壊すかエルフの男を殺すより他無いんだ。
「そうですね!『魔女っ子旅団』の皆さん、これが最終決戦かもしれません。どうか皆さんの力を私に貸して下さい!」
ジュリエットさん、深々と頭を下げた。
みんな決意に満ちた表情だ。
もう後戻り出来ない。
私の中のお姉ちゃん、どうか力を貸して。
この武の才能…きっとお姉ちゃんの物なんだよね?
名前も知らないお姉ちゃん、お願い。
出来の悪い妹に…どうか力を貸して…!!
「動き出したよ!こっちの方に来る!」
フリーデリケさんだ!!
もう幕は落とされた!!
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