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13.帰り道

依頼の材木屋の拠点でテントを張って一泊した私達。

フレヤさんが朝食の用意をしようとテントを出たところ悲鳴が聞こえて来て今に至る。




フレヤさんの発した叫び声で慌ててテントから飛び出す。


しまった、私は馬鹿か。

テントは兎も角としてフレヤさん自身にかけたアビスランパードの効果なんてもう夜にテントの中でとっくに切れてるに決まってる。

あばばば…大変だ、とんでもない失態だ。


「だっ!!大丈夫ですかっ!?」

「あ、すいません………。あれ……ほら」


そう言ってフレヤさんが指差したテントの入り口の反対側には、嘴がある大きな熊が一匹、頭をグサリとアビスランパードの餌食になって事切れている。

それだけじゃない。

ネーベルタイガーももう一匹、ヘンテコな熊の後ろにいる。

ネーベルタイガーは胸のあたりをがっつりアビスランパードが突き刺していた。


「ひえっ……!あ、こ、これ……」

「火も無かったですし、油断だらけでチャンスとでも思ったのでしょうね。あまり賢くないオウルベアがまずやられ、そんなオウルベアを私達ごと食べようとネーベルタイガーがやってきてやられ……そんな感じでしょうか。ネーベルタイガー程ではないですが、オウルベアも中々お金になる魔物ですよ」

「海老で鯛を釣るとはこの事ですね……」


オウルベアとやらでネーベルタイガーを釣る。

私、寝てる間に全く気がつかなかったよ…

凄腕傭兵が聞いてあきれる。

私はとんだ平和ぼけのポヤポヤ傭兵だ。


「海老で鯛?」

「あ、えーと……や、安い海老を犠牲にして、たっ、高い鯛を釣るっていう…物の例えみたいなものです」

「ほうほう!どこかの国の格言ですかね?ふんふん、早速メモを……まぁエビをこの辺で買おうとすると、かなり高価ですけどね」


そして恐怖などどこかへ飛んでいったのか?

手帳の上で羽ペンをスラスラと走らせるフレヤさん。

この人は本当に逞しいよ……

私も見習いたいね、本当にさ……




フレヤさんの料理風景を眺めつつ話を聞いたけれど、こんなに状態の良いネーベルタイガー二頭とオウルベア一頭、これだけで依頼報酬を遥かに上回る臨時収入が見込めるらしい。

むふーっ!稼げる女、アメリッ!!


再び私が死骸を生活魔法で凍らせてから空間収納に収納。

フレヤさんは私が持っていた野菜でスープを作ってくれて、2人でスープとパンを堪能した。


ところでネーベルタイガー。

こやつら一体何頭居るのか分からないよね。

このまま帰って良いもんか不安になる。

依頼でも何頭いるかなんて書かれてないよ?


「あ、あの……」

「はい、なんでしょう」

「あ、ネ、ネーベルタイガーは……ほ、本当に二頭だけなんですか?」

「ええ、恐らくは。昨日のはオス」


オスだったんだ!?

そんなとこまで見てなかった……


「そして今朝のはメスでした。この一帯は今回の番の縄張りかと」


へえ、魔物にもちゃんと縄張り意識とかあるもんなんだ?


「昨日オス一頭だけでしたので、まだ相手を見つけていない個体なのかと思っていましたが……兎に角、良かったですよ」

「そ、そういうもんなんですね……」


ふぅん。

性別なんて気にも止めてなかったなぁ。

っていうか魔物にも性別ってあるんだ!?


ま、これで万事解決!

大手を振って帰れるって訳ね!




私が持っていた使用人の仕事道具で、フレヤさんの身なりをキチッと整えた。


ふふん、どーだい!?

身体が覚えてるんだろうね。

自然と手が動くんだなー、これが!


「アメリさん、立派に侍女だったのでしょうね。手際の良さだけでなくこの編み込みも凄いです!女主人に仕えていた侍女のように思えます」

「えへへ……な、なんか身体が覚えてるんです……」

「まるで良いところのお嬢様になった気分です。お粉をはたいて紅を引いてこんな素敵な髪型……初めてですよ!」


フレヤさん、めっちゃ嬉しそう!

いやーこれはやりがいがあるね!

女の子を可愛くするのって、本当に楽しいなぁ!!


フレヤさんってばさら本当にまるで……

まるで……

あれ?……誰に似てるんだっけ?

これは……失った記憶なのかな?

こんな風に誰かの後ろにたって身なりを整えていた気がする。


鏡越しの笑顔。

感謝の言葉。




ーー

ーーー




ーーー※※※、いつもありがとう


も、勿体ないお言葉でございます……


ーーーふふ、心から感謝してるの!


お褒めいただき……あ、ありがとうございます

こっ、今後もご期待に添えるよう、しょ、精進してまいります


ーーーもうっ※※※ったら硬いんだから!ねえ、ずっとそばにいてね?


はい、ずっと※※※様のそばに、お、お仕えいたします……




ーーー

ーー




微かに……

ダメだ、思い出せそうもないや。




帰りは平和なもんで、魔物の姿は一切なく、私達は時折木の実や食べられるという野草やキノコを採取しながら町を目指し森の中を歩いた。

材木屋の作業場だけあり、道がある程度整備されていたのは本当に助かった。


森を抜けてからもフレヤさんは疲れを見せずハイペースでスタスタ歩いていく。

サポーターってだけあるのかな?

フレヤさんは本当にタフだ。


「この後傭兵組合にて依頼の報告、そして魔物の解体依頼を出します。今回ネーベルタイガーもオウルベアも上物ですので、組合も少しでもいい状態のまま解体しようと優先的に処理してくれるかと思います」

「こ、凍ってるのだから……あの、べ、別に優先的じゃなくてもいいのでは……?」


どーせ凍ってるんだ。

というか私達だって別に急いでる訳でもない。

優先的に処理したから報酬から手間賃上乗せとかなったら……あわわ、それは何か嫌だ!


「いえいえ、ネーベルタイガーのような高級品はですね、凍ったままの状態を保つため、真夜中も定期的に生活魔法をかけ直す必要が出て来ます。それであればさっさと処理した方が解体屋も楽なんです」

「あ、そうかそうか……ふ、普通は時間が、と、止まる訳じゃないんですもんね……」


なるほどなるほど。

さっさとバラしてしまった方が圧倒的に楽なんだ。

お金になるって言うもんね。

きっと傭兵組合も自分達の儲けに関わってくるだろうし、優先したくもなるか。


「ですよ?なので万が一何か聞かれたら『ネーベルタイガーの番に寝起きを襲われたのでしとめた。その時すぐに凍らせてある』とでも説明おねがいします」

「こ、心得ました!」


フレヤさんは本当に隅々まで気が回るなぁ。

私、ぼろを出さないようフレヤさんの付属品みたいに口を閉じて黙ってよう……




なお、1日や半日すら待てない!というような先を急ぐ傭兵なんかはぱっと見で組合側がざっくり魔物の価値を見積もって即金が貰える買い取り方法もあるようだ。

でも当然組合が隅々までよく見ずにざっくり低めに見積もるのでどうしても安めに買い取られる。


「先を急ぐ旅ではありません。堅実に儲けましょう」


ニッコリ微笑むフレヤさん。

ああ、本当に頼りになるなー。




旧街道でもあるサン・モンジュレ街道に出てからは、私とフレヤさんは昨日の出会いから今に至るまでの流れについて確認し合った。

とは言ってもフレヤさんが手帳片手に順を追って説明。

私は完璧すぎるフレヤさんの説明に「そうです」とか「でしたね」とか言うだけ。

私だってその都度ちゃんと思ったことがあるので、賺さずその時自分がどう思ったのかしっかり主張しておいた。

フレヤさんもちゃんとメモしてくれている事を願う。


ちなみに魔法の詠唱についてはちゃんと私主導で解説したからね!


でもカッコ良く翻訳するのはフレヤさんの仕事。

結局フレヤさんが何から何までやってしまう。

いいんだ、私達のパーティーはそういう仕組みのパーティーなの!




「ここまでの流れは良いとして……アメリさん、宿は取っていないですよね?」


と言うフレヤさん。

そうか、そう言えば宿を取る必要があるんだ!

うむっ、うむうむっ!

なんと初歩的なミス!

どこも取ってない!

まさかまたサラさんの部屋に泊まるわけにもいかない。


個人的には今朝みたいな気候なら野宿でいいんだけど、流石に町の中で野営をするわけにもいかないのかな。


「あっ……と、と、取ってないですね……!マ、マズいですかね……」

「良かったー!それではうちに泊まるといいですよ!家族と同居していますが、それで良ければ歓迎します!」


実家に泊まる!

そーゆー手もあるのか!

そうか、フレヤさんの実家があるのか。


「え、きゅ、急に良いんですか?おっ、お邪魔じゃなければ……へへ……ぜ、是非とも、おっ、お願いしたいところですが……」

「ええ!我が家に泊まれるのに宿を取ったらお金が勿体ないですからね!節約ですよ、節約!」


フレヤさんは金銭感覚が凄くしっかりしてる。

私、本当にダメ人間になりそう。


っていうか本当に急に厄介になって良いのかな……?

こんな得体の知れない馬骨野郎、どうぞどうぞってご両親は言うか?




カントの町に着いた私達。

真っ先に傭兵組合の事務所へと歩みを進める。


フレヤさんの足取りが心なしかウキウキしている。

今にも小躍りしそうな!

そんなフレヤさんの様子を見るに、これかなーり報酬を期待しちゃっても良さそうだね!

むほほ、相場とか全然知らんけどお金はあるに越したことないもんね!


組合事務所もフレヤさんが居ると扉を開けるだ開けないだでグズグズ考える事もないね!

頼もしいよフレヤさん!!

扉を開けるという行為がこんなに何でもないなんて!!


受付は……おっ、昨日最初に来たときのやたらハキハキしたお姉さんだ。


「リンダさん、依頼の報告です!」

「あら、フレヤちゃんとアメリちゃんですね!早かったですねー!」


ほほう、リンダさんって名前なのか。

話しぶりから察するに、フレヤさんとリンダさんは結構親しそうな感じ。

リンダさんは多分人間族。

栗色のショートヘアで緑色の瞳がクリクリしている。

もう見た目通りハキハキしてそうで表裏のなさそうな印象。

っていうか私「アメリちゃん」だって!


「まずはマリリヤを。アメリさん、お願いします」

「………」


うーむ、リンダさんはいくつくらいなんだろう?

そもそも何歳で成人なんだろ?

その辺聞いてなかったね。

フレヤさんは17歳って言ってたよね、じゃあ……


「あのっ、アメリさん?」

「えっ、あっ!あっ!はい…!せ、成人の年齢が……!」

「ふふ、何の話ですか?ほら、マリリヤを出して下さい」

「え?あ、あっ!はい……」


いけないいけない、ボーッと考え事してた……

出すべき物は全部、私が持ってるんだった。

えーと、カウンターにマリリヤの束をっと……

数少ない役目でこの慌てよう。

情けない、実に情けないよっ……!!


「数も良し!瑞々しくて品質も最高!受領しました!」

「ついでに常設のみ薬草類も採取してきました」


あ、えーと薬草類ね。

はいはい。

アタフタちゃうな……

カウンターに並べりゃ……良さそうだね?


「なるほど!こちらも品質が良いですね!確かに受領しました!」

「それと途中討伐したゴブリンの耳と魔核もあります」


フレヤさんの視線を感じる。

今度こそ落ち着いて異空間収納から出すんだ。

切り取った耳が入った袋と魔核を入れた小袋を……

ひえっ……臭っ!!

耳の方の袋はあんまり触りたくはないな……


「全部で8体分です」

「はい!受領しました!」


リンダさん、袋を受け取って足元に置いた。

いやー慣れたもんだなぁ。

顔色一つ変えなかったよー。

こういう仕事をしてたら慣れるもんなのかな?


「後はネーベルタイガー二頭と、ついでにオウルベア一頭、持ってきました」


え、ここで出すってことなのかな……?

出来る女はこういう時になんて事なさそうな顔でサッと出す!

今度は凍ってるから「うわぁ……」とか「ひえぇ……」ってなんないよ?


「あ、あ、えーと……」


とりあえず足元でいいかな?

カウンターじゃ置けないし……


うっ、結構ずっしり。

引きずり出してそのままドサッと……傷付かないかな?


「えっ!?こっ、ここじゃなくて解体場でお願いしますっ!!」

「アメリさん!出すのはここじゃないです!しまって下さいっ!」


わー!ごめんなさーい!

思いっきり間違った!!

あわわ……い、異空間収納に戻さな!!


だって、流れ的に出すと思うじゃん?

なんて言うか……ごめんなさい。

周囲からめっちゃ注目されちゃった。


「すすす、すいませんでした……あ、あの、こ、ここで提出するのもかとばかり……!」

「あはは、アメリさんはまだ二日目の新人です!そういう事もありますよ!」


ニコニコハキハキ慰めてくれるリンダさん。

良い人だなぁ、フレヤさんとも仲良くなるわけだよ。


「と、とりあえずこのまま解体場行ってきますね?ネーベルタイガーとオウルベアはかなり状態が良いので査定は待ちでお願いします」

「はい!では私も念の為改めて討伐確認しますね!行きましょう!」


リンダさんは立ち上がってカウンターから出てくる。


「さっ、解体場へ行きましょう!」


解体場?

そんなのどこにあるんだ?

と、とりあえず彼女達の後をついて行くしかない。


演習場への扉を出たかと思ったら、解体場は演習場の隅にあった。

昨日の朝見たときは備品でも置いてるのかと思って流した建物だ。

身体を動かしている人達を横目にリンダさんとフレヤさんの背中を追いかける。


やがてリンダさんとフレヤさんは大きな扉が開けっ放しの建物にズカズカと入ってゆく。




面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

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