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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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125.娘の指南役

ついにモンフォール子爵領の領都ロカスリー入りした『魔女っ子旅団』

リンちゃんの傭兵登録も済み、馬チェーーーックも済み、さあかかってこいと勇ましく向かったユージーン広場。

しかしそこでは全くなにも起きず、フレヤさんの「それでも魔法協会は必ずやってくる」という推理を聞きつつ今に至る。




「残念ですがそれは無いと思いますよ?」

「えー?フレヤ嬢、そりゃどーしてだい?魔法協会のヤツら、被害すごいじゃんか!」


どーしてもこーしてもないっ!!

そんなの分かりきってるのだよ、フリーデリケの嬢ちゃんっ!!

ズバリだね、ヤツらは騒ぎを起こしてニヤニヤヘラヘラと悦に浸るのが大好きだからだよっ!!

名探偵アメリの前じゃねぇ、白いモノも黒になるんだ!!

あれ、それだと捏造って事か…?

あわわわ…えーとえーと…


「それは、彼らはテラノバ連邦から相当な金を積まれている可能性があるからですよ。これまでジュリエットさんが繰り返してきた回では、四回もこの町に刺客が来ているのです」


た、確かに…!!

いや絶対フレヤさんの言うことの方が正しい。


今のところ初回のジュリエットさんが闇討ちするヤツ、私たちが道中倒したヤツ、そして私たちにあっさり保護されちゃったリンちゃん、この三人。

少なくともあと一人は刺客がやって来ても不思議じゃない。


「それはつまり…恐らくですが、彼らの信頼と実績の為に、何としてでもこの任務を遂行してやろうと思っている筈ですよ。なんせ絶対的な結界で身を守れるという稀少な『渡りし人』のリンちゃんをわざわざ仕向けてきたくらいですから。彼らの慌てぶりと言いますか、失敗だけはマズいというなりふり構わない感じが分かりますよね。ウィルマール王国の中でこの領都ロカスリーだけが極端にテラノバ連邦から近い拠点です。顧客であるテラノバ連邦としては、ここを占領して侵略の足掛かりにしたいのでしょう」


うーん、とは言えなんでそんな重要な依頼をリンちゃん一人で仕向けちゃったんだ。

こんな幼い子が、それもまるで馴染みのない異世界で!

有り得ません。


「にゃー…あの首輪である程度の行動を制御出来るとするとにゃ。リンちゃん一人で行かせた方が、疑われず町の中に滑り込めるにゃ!誰だってこんな幼い子が一人でノコノコやってきたら保護するにゃ!」


お、確かに!

私だって速攻で保護された!


「本来の流れで言えば、次に刺客がやってくるのは明日の昼になります」


そう言うジュリエットさんの表情は暗い。

まぁそうだよね…この後に何かあるのが分かってるんだから。

束の間の暇が出来たぞ!そっこーでカフェに行かねばっ!オヤツ食べねばっ!なーんて浮かれられる訳がない。


「ジュリエットさんのこれまでの経験からすると、それは間違いなくですか?」

「ええ、今頃ここで戦っていないとおかしい筈の刺客を倒すと、必ず明日の昼、北門で魔物溢れが発生します。私と先生は魔物溢れの対処をしつつ次の刺客とも戦闘状態に突入します」


うわぁ…マジか!!

超大変じゃん…!

ふざけんなよ魔法協会。

なんでそんなに休みなく…疲労させるために連日仕掛けるのか。


ま、でもこれまでの歴史でも乗り越えてきたんだよね?

ふふん、流石私っ!!

そして私の生徒っ!!


「なんだい、じゃあ別に大したヤツじゃないんだね?」

「にゃにゃあ、たった二人で魔物溢れと刺客を!凄すぎにゃ!!無敵にゃ!!」


楽勝ムードです。

だって、今回フリーデリケさんが居るんだよ?

全然楽勝でしょ!


「いえ…最終日に影響する、とても…とても重要な回です…」


ジュリエットさん、暗い表情…

なんだ…?

なにが起きるんだ…?


「恐らく今はなにも起きません。詳しく聞いても?」

「ええ…」




閑散としてるユージーン広場で適当に腰を下ろし、私たちはジュリエットさんから、前回までの流れについて教えてもらう事に。


「明日の昼、ロカスリー北門にて突如魔物溢れが発生します。その場に張り込んでいた私と先生とフレヤさんの三人でまずは魔物溢れを制圧します。先生の魔法…単一属性のスターリーナイトを連発して数を減らし、私と古代の兵器…ツインサイクロンを持ったフレヤさんが生き延びた魔物を倒します」


うむ、如何にもって感じの展開。

私なら「むふー!」とか浮かれながらやりそーな対処だ。


「はい、それからどうなりますか?」

「ええ、暫くして魔物溢れの残処理を私一人でこなせる目処が立った瞬間、先生とフレヤさんは戦線離脱させます」


ちょっ!!

なんでさ!?

わ、私役に立つ女ですよ!!

いくらでも魔法使いますよ!!


「このタイミングが最も重要です。先生は私達が何も言わないと魔力を気にせず何度も何度も魔法を使いますので、私の方でタイミングを見計らって先生に引くよう指示します」

「あー…き、気をつけます…」

「毎回この説明をしても、残念ながら先生は気をつけません」


ぐふっ、私のバカヤローッ!!


「私が声をかけますので、声をかけたら魔法を撃つのを辞めてフレヤさんと北門の町から外へ向かって見て左側、壁にばつ印のヒビがある場所で二人並んで座って休んで下さい。たまに張り切って休まない回が存在しましたので、フレヤさん」

「はい」

「その時は先生に怒鳴りつけてでも休ませて下さい。フレヤさんから怒られるのが一番言うことを聞きます」

「分かりました。怒鳴りますね」


ぐふっ…わ、私の馬鹿っ!!

生徒から諦められてるじゃん!!

フレヤさんから怒られる…あばばば、もう既に嫌だ!


そ、それにしても随分と細かい指示だなぁ。

休む場所にも拘りがあるの?

不安だ…フ、フレヤさん、覚えてね?


「やがて魔法協会の刺客の男が来ます。こいつは兎に角強敵です。近接攻撃、両手にシミターを持って二刀流で戦うのが得意で、対魔法特化の未知の結界を操ります。先生の魔法でいう三属性の複合魔法、例えばマギバングブラスターあたりでもないと魔法は通りません。先生の毒の魔法であるヴェノムハイノスタルジアも二回に一回は決まる有効な手ではありましたが、それをやると刺客の男が死ぬ間際に二度目の魔物溢れを引き起こすパターンが多く、私たち三人が疲れ切ってしまうという最悪の展開になります」


うわぁ…ジュリエットさんは本当に何度も何度も戦ってるんだ。

私の戦い方や魔法、全てを知り尽くしてる。

あの、シミターってなに?

染みだったら私染み抜きは得意だよ!!

任せなさいってんだ!!


脱線しちゃうな…

それでそれで?


「詳しい作戦は言えません…というか言ったらうまく行かず破綻するので言えませんが、そいつ相手に魔法は絶対禁止です。先生は絶対に魔法は使わないで下さい。魔法なしで勝てている実績が何度もあります」

「あの、随分と細かい指定が多いですね?」


うーむ、流石の名サポーターフレヤもお手上げかぁ?

ちょっと細かすぎる。


「…それだけ、それほどまで繰り返してきた戦いです。最終戦をいかに万全の状態で迎えられるか…先生がヘトヘトになったり、気絶されたら、もう最終日は絶望的なのです。正直、最終日は未だに最適解が見つかっていません」

「た、大変じゃないか…そんなに強い奴なのかい?」

「明日の刺客は魔物溢れが厄介なのです。魔物溢れを未然に防ぐ方法が未だ見つかりません。どうやらそれまでのヤツらとはひと味違うようでして、何度繰り返しても魔物溢れは避けられないんです。刺客の男も神出鬼没、だから必ず先生の魔力を多かれ少なかれ浪費してしまい…翌日の最終戦に影響が出てしまうんです」


困ったなぁ。

最終戦…どんな壮絶な戦いになることやら…


「じゃあ明日はあたしに任せな!!たっぷり精気を吸ってさ、力が有り余ってるんだよ!!そりゃあたしの出番ってなもんさ!!」

「そうですね、先生はあくまで近接攻撃でお願いします」

「あ、はい…」


魔法使いなんだけどなぁ…




結局、その後も平和そのもの。

「ずっとここにいるつもりかなぁ」と密かに不安になっていた所、かっちりした格好をした執事みたいなお爺ちゃんがやってきて声をかけてきた。


「お嬢様、いつまでこんな所に…屋敷にお戻り下さい」


ぬおっ!!

ジュリエットさん、心配されちゃった!!

ま、まぁ領主の娘がこんな広場でちびっ子達といつまでもダベってたらメンツってもんがね…


「爺や!違うのよ!」

「お嬢様がユージーン広場で幼い子達と座り込んでお喋りしていると連絡が来まして…お話であれば屋敷の方でお願いします」

「この方々は私の依頼した傭兵組合の件で来て下さった高名な傭兵パーティーの方々よ!」


うーむ、高名な方々…

人間っぽいメイドのちびっ子。

ハーフリングの女の子。

ケットシー族のにゃんこ。

サキュバスのちびっ子。

そしてマジモンの人間のちびっ子。


凄い、ちびっ子女の子五人衆。

どーゆー意味で高名なんだって感じだ。

このパーティーを見て「物凄い手練れだ…」とは思わないよ…


どこの世界に行くとこのメンツが高名な傭兵パーティーの方々に見えるのか知りたい。


「でしたら尚更屋敷の方へお招きすべきではありませんかな?さ、屋敷へ帰りますよ。皆様方も是非どうぞ」

「もうっ…爺やったら!」


爺やったら!じゃない。

多分爺やは真っ当なことを言ってる。


「ジュリエットさん、ここは一旦屋敷へ戻りましょう。動きがあるとしても早くて夜中かと…」


フレヤさんの言うとおりだね。

まさかこんな広場のど真ん中で野宿する訳にもいかん。

ジュリエットさんにいたってはこの町の領主の娘。

流石に無理があるし、町の広場で野宿はなんか…浮浪児の集まりみたいで…ちょっと…




そんな訳で私達は町の中央に位置する立派なお屋敷にお呼ばれする事に。


もう既に夕暮れ時。

何か広い部屋に通されて紅茶が出てきたと思ったら、あれよあれよという間にご飯にお呼ばれする事に。


ただでさえモジモジオドオドする私。

お貴族様が待ち構えている食堂?に案内されて、私の口は貝になる。

ふ、不敬罪でお手討ちになったりでもしたら…あわわわ…


こーゆー時のフレヤさんは本当に頼りになる。

フレヤ姉さん、マジで頼んます!


「ジュリエットの指南役がよもやあのクイーンスレイヤーとは!いやはやアメリ殿が…」


ジュリエットさんのお父さん、ドミニクさん…いや、モンフォール卿?


とにかく、自分の娘の指南役のパーティーだって言ってこんなちびっ子女の子がゾロゾロ来たらそりゃポカーンともなる。

初対面は本当にそんな感じだった。

しかしそこはフレヤ姉さんがペラペラ饒舌に語り、ささっとモンフォール家の懐に飛び込んでくれたお陰で、ポカーンはすぐに消え失せ「こいつあのクイーンスレイヤーなのか!?」ってモンフォール卿や家臣たちは一瞬呆然としてた。


「先生は魔法もさる事ながら、どんな武器を使わせても右にでるものは居ない程に優秀な方です!こんな素晴らしい先生を斡旋して下さった傭兵組合に感謝しないといけません!」


なんかもうジュリエットさんの「先生凄いです」が凄いです。

熱狂的と言うか…ま、まぁジリ貧だった繰り返しの中で風穴を開けたのが、何を隠そうこの私なんだもんな…

狂信者みたいになるのも止む無しか。


「…もうこの国は…お仕舞いね…」

「こらっ、カルマン陛下に不敬だぞ!」


カルマン陛下?

あー、国王の名前かな?

勅命を出した人に不満を述べるんだから…多分国王か。

それにしてもジュリエットさんのお母さん。

この食堂で初めて顔を合わせたけど、見てらんないくらい窶れてる。


「いいじゃないの、お仕舞いなものはお仕舞いよ。ジャンちゃんとピエールちゃん…魔物溢れに駆り出されて…死んだのよ?こんな事なら王立学院で頑張りすぎて目立たないよう…言い聞かせるべきだったわ…」


これ確か長男以外の男兄弟もみんな死んじゃったんだっけ?

気まずい…何も言えない。

元から何も言えないけど、尚更何も言えない。

我が息子が二人も命を落としたんだ…


「残されたのはアンドレちゃんと…ふふ、ジュリエットなんか…まともに戦える訳ないじゃない」

「おいっ!!」

「王立学院で他の家の子より少しだけ秀でていただけなのよ?まだ婚約者すら決まってないただの子爵家の冴えない令嬢が、剣を握って部隊を率いる?そんなの無理に決まってるじゃない…」

「ジュリエットだってこうして指南役を探してだな!少しでも国の役に立とうと奮闘しているのだぞ!!」

「奮闘…、心が壊れた生き残りの兵士と女子供の部隊?そんなの長続きするわけ無いじゃないの…たったひと月でジュリエットが、ジャンちゃんやピエールちゃんに並ぶ実力になれるなんて、あなた本気で思ってるの?」

「そ、それは…それは……」

「そうしたら最後はアンドレちゃん…アンドレちゃんも殺されてモンフォール家は分家筋に取って代わられてお仕舞いね…」

「お客人の前だぞ…!これは失礼した、ははは…」


辛すぎるよね…

これは何としても運命の五日目を乗り越えないとダメだ。

私の魔力の温存、ジュリエットさんの必死な様子から察するに、かなり重要な事なんだ。


「お父様、お母様、私は大丈夫です。今は…今は多くは語れませんが、必ずや三日後にはお話します」


三日後…繰り返しの先にある、ジュリエットさんがまだ見ぬ、夢にてならなかった六日目だ。


フレヤさんも何も言えずにいた。

フリーデリケさんですらジッと押し黙っていた。


責任重大…魔法協会との全面対決みたいなもんかな。

面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

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