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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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122/554

120.こんなところに

ジュリエットさんから話を聞きつつ歩みを進めていた私たち。

そこで次のキーパーソンだった魔法協会の刺客、ビックス・ミラーなるツルッパゲを私たち『魔女っ子旅団』がテラノバ連邦で既に討伐済みである事が発覚!

でもツルッパゲが潜伏してた森は立ち寄ろうぜって事で今に至る。




とりあえずドマウ街道とやらに分岐する地点まで、特に走るとかでもなく歩みを進めた私たち。


ジュリエットさんの今の実力を聞き取り調査する事に。

そう。いくら鍛えど鍛えど、巻き戻ったら鍛えた身体も元に戻るはずなのだ。

だって、そうじゃないと死んで巻き戻った時に、どこも怪我無く無傷で始まるのはおかしな話になっちゃう。


「その辺は「そういう物なんだ」とあまり深く考えないようにしていますが、鍛えれば鍛えた分だけ力も付きますし、ちゃんと思考に対して身体がついて来るんです」

「にゃにゃー?でもジュリエットさんは全然筋肉がないにゃ!貴族令嬢っぽい線をしてるにゃ!」


ナターシャちゃんの言うとおり!

どー考えても非力なお嬢様にしか見えません。

それを言うなら私もか…

端から見りゃ私もこんな感じなんだなぁ。

私こそ瓶のふたとか開けられなさそー。


「面白そうだね!ちょっとあたしの手をギュッとしてみてよ!!」


フリーデリケさんは本当にこーゆーのにすぐ飛びつくなぁ。

大人モードのままだし、フリーデリケさんだってなかなかの腕っ節だ。


「良いですよ、それでは失礼して…」

「あたし魔人族だからね!人間と違ってさ、魔力が高いと身体能力もたかぁぁいでででででっ!!!」


うわっ、めっちゃ痛そう!

悶絶してる…!!


「すいません、こんな感じで人間族の成長とは異なる成長の仕方をしているんです」

「それは確かに深く考えても答えは出てこなさそうですね」


うーむ、確かに考えたってどーこーなる話じゃない。

それよりフリーデリケさん、手は大丈夫かな…?


「ひゃーっ、凄いね!あっと驚いちまったよ!!これまでアメリ嬢にいっぱい鍛えて貰ったんだろう?」


あ、ケロッとしてるな。

流石魔人族、すげー強い。


「そうですね。格闘術と剣術と弓術に絞って鍛えて貰っています。先生は回復魔法も非常に優れていますので、容赦なく稽古をつけて貰っていますよ」

「よ、容赦…なく…!」


えっ!?

うわぁ、こんな美人に容赦なくビシバシ打ち込んでるの?

ちょっと躊躇っちゃいそうだなぁ。




もし仮に魔物溢れとビックス・ミラー戦が無くなるのであれば、明後日の昼までは平和との事。

明後日の昼までっ!?

通常回は本当に休む暇なしだね…!


ジュリエットさんは今回のイレギュラー回に対して興奮気味。

こっちは私とフリーデリケさんが居るんだ。

今までとは違うってトコをバッチリ見せてビシッと終わらせないと!


そんな訳で私達は分岐点に到着。

結構近かった。

確かに分岐点の左側に森が広がっている。

ふーん、ここに潜伏してた訳か…

馬はとりあえず手綱を木に結び付けるのね。


「ビックス・ミラーが潜伏してたと思われる森はここです」

「こちらは殺気に敏感なアメリさんと、対男性最強のフリーデリケさんが居るんです。サクッと捜索してみましょう!」

「男相手なら任せなっ!!この前大勢の盗賊相手に廃人になるまで精気を吸ってさ、もう力が有り余ってモリモリムラムラしてるよっ!!」


はは、めっちゃ吸い尽くしたもんね。

フリーデリケさんに容赦なく精気を吸われてた盗賊たちも干からびてたもんなぁ…


「私も森の中だと気配に敏感にゃ!ケットシー族の本領発揮にゃ!」

「わっ、私も…が、頑張りますっ…!」

「ふふ、頼りにしています。それでは行きましょう」


ジュリエットさんを先頭に森の中へ足を踏み入れる。




まぁ至って平凡な森。

意外なことに魔物はおろか、動物の気配もない。

鳥のさえずりと、風に吹かれた木々がカサカサ言う音だけが聞こえる。


「静かな森ですね」

「本来この辺りは魔物が少ないエリアなんです」


魔物の多い少ないってやっぱりどこにでもあるもんなんだ。

でもナターシャちゃんは凄く集中してる。

獲物を狙ってる猫みたい。


「よーし、あたしに任せなっ!」

「え?」


フレヤさんの「え?」に、にやっと不敵な笑みを浮かべるフリーデリケさん。

こーゆー時のフリーデリケさん…いやな予感が…!


「ほらほら魔法協会のボーヤ!!さっさと出てきな!!ナイトメアクイーンのフリーデリケ様がぶっ壊れるくらいの最高の快楽で!!天国に連れてってやるよーっ!!」


うわぁっ!!

このサキュバス、マジでなに考えてるの!?

ほ、本当に攻撃され始めたらどーすんのさ!!


「ちょっ!!フリーデリケさん!?」

「慌てなさんなフレヤ嬢!!相手が男ならチャームにあてられてさ、ふらふらーっとこっちに来るよ!!」


あーそうか!!

強力なチャームで誘き出すのか!!


「な、何というか…四人体制の『魔女っ子旅団』はデタラメですね…」


ジュリエットさん、完全に引いちゃった。

私も大概破天荒だと自覚してるけど、フリーデリケさんも負けず劣らず破天荒なんだよね。

この人、ロクに確認もせずに間違ってユルシュルにとっ捕まったし!


「にゃ!!気配!!逃げたにゃ!!」


あっ!!

ナターシャちゃんが走った!!


「あっちにゃ!!待つにゃ!!」


凄いっ!!

本物の猫みたいに四つ脚でびゅーんと走った。

マズい、強者に出会ったらマズい!!


「わ、私も追います!!」


返事なんて待ってらんない!!

ナターシャちゃんを追わな!!




暫くナターシャちゃんの背中を追って木を縫うようにして走った。

離される事はなさそうでホッとしたのと同時に、すいすい木々を縫うようにクネクネ走る自分自身がちょっと気味悪い…


「あの大木のウロにゃ!!」

「わ、私が確認しますっ…!!」

「にゃ!!」


お誂え向きな大木の根元にパックリ大きな空間。

居たっ!!

誰か居る!!


「か、覚悟して下さいっ…!!」

「にゃ!!魔法協会の刺客にゃ!!」


見つけたぞ!!

こんな森深くに居て、しかも逃げ出すなんて怪しいに決まってる。


右手で杖をギュッと握ってうずくまってる人影に突きつける。


「お、おしまいです…ゆっ、許しません…!!」

「諦めて出てくるにゃ!!」


ナナッ、ナターシャちゃん「フーッ!!」って威嚇してる!!

ちょっ!!ま、待ってよー!!

なんで今「かわゆい」で私の頭を急にぶん殴ってくるのー?

むほーっ、たまらんっ!!

わしゃわしゃしたい!!

撫でくり回したいっ!!


おっと!!

出てきたっ!!!


「アメリさん!!ナターシャちゃん!!大丈夫ですか!?」

「チャームが効かないって事はあたしより魔力が高いか女かだよ!!注意しな!!…そ、そいつ魔力の圧が異常だよっ!!ま、ま、魔力が…!!」


フリーデリケさんの様子がおかしい!?

ま、魔力が?

コイツ…全力でやらないとやられる…!?


「た、助けて…!!ひっく…助けて…ううっ…」


えっ?

お、女の子…ちびっ子!?


「助け…ナーちゃん!?」

「ににゃっ!?」


なんだなんだ!?

ナターシャちゃんの事?

ナーちゃん?

えーと…知り合い…?


「ナーちゃん!!ナーちゃん!!ううっ…ナーちゃん…!!」

「にゃっ!?にゃにゃあ…??」


抱きついちゃった。

敵意は…まぁ無いね。

えーと、こ、これは…


「ジュリエット嬢!こ、このパターンはなんだい?」

「い、いえ…全く訳が…ええっ…?」


いやいや、ナターシャちゃんと初対面のジュリエットさんが分かるわけないでしょ!

っていうかジュリエットさんも真面目に答えなくていいよっ!!


「ナターシャちゃん、その人間族の子のお知り合いですか…?」

「にゃにゃっ、全然知らないにゃ!でも家族から呼ばれてた渾名で呼んでくるにゃ!」


へえ、ナターシャちゃんって「ナーちゃん」って呼ばれてるんだ!

また一々可愛い渾名だなぁ。

ってそれどころじゃないよこれ!


「あの、お嬢さん?あなたは一体何者ですか?」


ナターシャちゃんに抱き付いてワンワン号泣する人間族の少女に恐る恐る声をかけるフレヤさん。

人間族の女の子はナターシャちゃんをギュッと抱きしめてワンワン泣くばかり。


この場にいる全員が困惑…




少なくとも敵じゃないでしょうって事で、とりあえずその場に座る事に。

こーゆー時は暖かい紅茶とレベッカさんから貰った『デリクシーラ』の焼き菓子かな。


「あ、あの…紅茶と、や、焼き菓子です…」


グズグズとしゃくりあげちゃってる。

お、コクコク頷いた。

とりあえずこれでいっか…


「にゃー、あなたは何者にゃ?」


ナターシャちゃん、すっかりこの謎の女の子に懐かれちゃったな。

背中をさすりながら心配そうに声をかけるナターシャちゃん、かわゆい。

さ、流石にそんな場合じゃないか…


「…日本から…ぐすっ、こ、この異世界?来ました…」


ふーん、ニホン?

どの辺りの国なんだ…イセカイ?

この辺りの地方ってイセカイっていうの?

ほへー、サッパリ!


教えてフレヤさん!

考え込んでるなぁ、知らなそうだなぁ。

フレヤさんが知らないんじゃ誰も分かんないよ。

みんな不思議そうな顔をしてる。


「ニホン?はて、どこかで聞いたことが…うーん、イセカイ…えっ!?わ、わたっ!!渡…りし人っ!?」


なっ、なっ、なんだってー!?


「わ、『渡りし人』は異常な魔力をしてるってマテウスが書いてるにゃ!!ニホンってイサムの故郷にゃ!!」

「…あたしは納得だよ…。こんな魔力の圧が強い人間なんて、そう滅多に居ないよ!『渡りし人』だって説明の方が納得だよ!」


ふーむ、解る人には解るのかな?


「あなたは魔法協会の人にゃ?」

「こ、この前のね?…凄い嵐の前の日に…ぐすっ…この世界に来ました。ううっ…なんとか連邦のナグ州?そんな…トコの森で…」


ん?

あの歪みじゃないか!?


「ゆっ!!歪みっ…!!」

「私たちがシャールビル検問所で見つけた歪みでこの世界に来たんですかね」


女の子、小さく頷いた。

うむ、じゃあ意識がある状態でこの世界に来たのか?

なんか言葉巧みに私達を騙すような子…じゃないねこりゃ。

物凄く不安そうな…心細そうな、迷子みたい。

まるでちょっとした私だ。


「魔法協会…の人たちが、ぐすっ、来てね?「君と同じ日本から来た仲間が大勢いるよ」って…」

「魔法協会は『渡りし人』を抱えていて、この少女が世界を渡るのを察知し、国に保護される前に抱え込んだと…」


ジュリエットさんの推測通りだろーね。

この困惑ぶり、ジュリエットさんも数千回繰り返した中で完全に「はじめまして」な出来事っぽい。


「今日はここで何をしてたにゃ?こんなとこに一人で危険にゃ」

「ちょっと急な用事が出来たって…変な巻物渡されて、この先の町で使ってこいって…」


巻物…スクロールかな?


「こ、この子が…ビックス・ミラーの…代わり…?」

「この子の話からするとどうやらその様ですね。ジュリエットさん、このようなパターンは…?」


フレヤさんの問いに、困ったように苦笑しつつ肩を竦めるジュリエットさん。

美人はこーゆー仕草もよーく似合う。

美人はお得である。


「無いですね。お嬢さん?」

「あ…はい」


ジュリエットさん、優しい微笑みを女の子に向ける。

綺麗な人だなぁ、つくづくそー思う。


「その巻物…スクロールを町中で使うとね?」

「はい」

「凄く大量の魔物が召喚されてね?みんな殺されて町が壊されちゃうの」

「えっ…?」


ナターシャちゃんの手を握ってた女の子。

握ってた手に力が入ったのが分かる。

…知らなかったんだ。


「お嬢さんはそれを知ってて使おうとしてたのかしら?」


ジュリエットさんから告げられた、これから起こる未来の出来事。

女の子がガタガタ震えだした。


「…知らない…知らない!知らなかったの…!」

「にゃ!危なかったにゃ!もう大丈夫にゃ!!」

「ナーちゃん、怖いよ…怖い怖い怖い!!日本に帰りたいよ!!お父さんとお母さんに会いたい!!会いたいよ!!ここどこ?怖いよ、うちに帰りたい!!殺すとか殺されるとか…もうヤダよ!!」


ナターシャちゃんに抱きついて大泣きしちゃった。

いたたまれないな…この子はまだ全然子供。

なんか事情があってこの世界に飛ばされてきたのかな。

だとしたらもう家にも帰れず、両親にも会えず、悪い奴に良いように使われて、便利な人殺しの道具にされようとしてる。


「にゃー、よく分かんないけど私が居るにゃ!私たちと一緒に居ようにゃ?」


時間に余裕はありそうだし、とりあえずここでゆっくりするかね…

面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

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