118.相違点
ついにアウレアブリッジ国境検問所を通ってウィルマール王国入りした『魔女っ子旅団』
このまま一路、領都ロカスリーを目指すぞ!…と思いきや、賺さず声をかけてきた妙ちくりんな格好のねーちゃん。
私の失敗…いやいや、ドレスのねーちゃんの策略?でまんまとねーちゃんと歩くことになって今に至る。
私がね、関わらざるを得ないキッカケを作ったのは認めよう。
認めるからナターシャちゃん…そんなじっとりした目で見ないで…
ああっ、フレヤさんまで!!
ぬおっ!!フリーデリケさんまで!!
おろろーん!
私の中に流れる侍女の血が悪い!
私は悪くないっ…はずだっ!
「それでアナタは一体何者ですか?」
「失礼しました。私は今回、フレヤさんと先生が受注した案件の依頼主である、ウィルマール王国のモンフォール子爵家が長女、ジュリエット・モンフォールと申します」
ふーん、やっぱ貴族令嬢かぁ。
ややっ!むむっ?
先生先生ってさっきから呼ぶ度に私と目が合う。
おっ、先生ってひょっとして私のこと?
むふー、先生か…こりゃ中々にいい気分がするね!
アメリ先生?いやー参ったなぁ、アメリ先生ってかぁ!
なんだよ、このねーちゃん良い奴じゃん!
この私が醸し出す有能な女オーラが、よーくわかってるんだよ本当にさ!
殊勝な心がけ、くるしゅーないよ!
間違いなくこのねーちゃんは良い人!怪しくない!
ん?あれっ?ひ、一人で迎えにきたの?
そんなに人手不足なん?
むむーっ?やっぱり怪しいなぁ?
あ、目があった。
むほっ、笑顔がステキ!やっぱ良い人で決まりっ!
「これはこれは…ええっ…?そのモンフォール子爵家のご令嬢がわざわざ…!?」
『魔女っ子旅団』絶賛困惑中です。
なにこのシチュエーションって顔してる。
ま、まぁ…家臣とかが迎えに来るよね、普通。
「今回の依頼は私に武術を指南して頂きたく、私の父であるモンフォール家当主ドミニクが傭兵組合に依頼しました」
「変にゃ!」
うんうん、「変にゃ」なんすよナターシャちゃん。
普通貴族令嬢がわざわざ一人で武装して歩いてお出迎えなんてさ…
そりゃ私が先生なんだからさ、お出迎えがあって然るべきとは思うよ?
「何で私達『魔女っ子旅団』がモンフォール子爵家の指南役の依頼を受けたと知ってるにゃ!?普通この組み合わせを見て、貴族家の指南の依頼を受けたなんて思うわけ無いにゃ!!それにもし仮に「指南役の傭兵が決まった」と、高いお金を払って傭兵組合の職員から早馬で知らせを受けていたとしてもにゃ、いつどのタイミングで私たちが来るかなんて、私たちの事を見張ってないと解るわけないにゃ!!」
え、あれ?
論点が違うだと…!?
「ああっ!?本当だよ!!このドレスの姉ちゃん、まーたきっと魔法協会の邪魔者だよ!!」
ぬおっ!!
ほっ、本当だぁっ!!
このドレスのねーちゃん、ここで私たちを待ってたってシチュエーションは、どんな言い訳をしようとも、かなーり苦しい。
傭兵組合の早馬サービス?
そ、そんなサービスあるんだ?
っていうか早馬って事はそこまで具体的な到着時刻までは把握してないでしょ。
諜報員?
だとしたらこの格好は一体なんなんだ?
私を「先生、先生」なんて言葉巧みに騙しちゃってさ、普通なら「コイツ怪しいぞぉ?」ってなるところをそうさせないこの手腕っ!
この女狐、かなり出来る諜報員だぞ。
鋭い女アメリの手に掛かれば、こんな女狐の正体なんざ即暴かれる。
間違いない、絶対悪い刺客だねっ!
「冷静に考えて下さい。仮にですよ?もしこの方が魔法協会の刺客だったとして、何故こんな妙な格好で堂々と接触してくるのですか?私たちに滅茶苦茶疑われてますよ」
「にゃー…そ、それもそうにゃ!魔法協会は関係なさそうだけど、でもやっぱり変にゃ!」
そーだよ、変だよ!
ナターシャちゃんの言うとおりだ!!
「その点について私の口から説明させて下さい」
「とりあえずそうしましょう?害意はなさそうです」
フレヤさんがそう言うなら…
「ま、上等なドレス着てるもんねえ。多分貴族だろうけど…」
「にゃ!どうせ町まで行くにゃ。聞くにゃ」
私も頷いとこ!
「それでは道すがらお願いします」
「ええ。馬は引いて歩きますね?」
おっ、向こうに白馬が手綱で木に結ばれてる。
マジか、この格好で馬に乗って走ってきたの!?
私よりデタラメな人が登場しちゃったな…
ジュリエットさんとやらは馬の手綱を持って私たちと同じ歩調で歩き始めた。
凄く真剣な顔だ。
奇天烈な事をいって笑かそうとかそーゆー類の愉快な人ではなさげ。
しかし白馬!!
つぶらなおめめがクリクリ可愛い!!
うおっ、お鼻が薄いピンク!!
目が宝石みたいに青い…凄いかわゆい!
後でナデナデしたい…
「単刀直入に申し上げます。私は何度も何度も人生をやり直しています。今回のやり直しでもフレヤさんと先生の協力が必要でして、こうして最短で接触させて頂きました」
あー…人生を何度もやり直す?
ははっ、そうかそうかー!やり直しちゃってるかぁ!
ほっほっほ!ねーちゃん面白いやっちゃなぁ!!
ってバカヤロウ。
こりゃアレかぁ?新手の宗教の勧誘かぁ?
やっぱさ、これ関わっちゃダメな感じの人じゃん!
なんか徳の高いアイテムとかいってしょーもないガラクタを金貨一枚とかで売りつけてくる人でしょ?
知ってるんだからね?
私、幸せですから!
かわゆいに囲まれて幸せですから!!
お金いっぱい、かわゆいいっぱい、全然幸せですっ!
「あー…ははは、それはどういう意味ですか?」
フレヤさん呆れ顔。
ナターシャちゃんとフリーデリケさん、視線を合わせて肩を竦めあってる。
「毎回私は必ずこれから始まるテラノバ連邦と魔法協会による騒動に巻き込まれ、生き延びようと死のうと必ず昨晩…同じ頃合いの夜に戻って、またやり直しになるのです。どんなに生き延びようと、私に与えられた日数は五日間。私はあと四日経てば昨晩に戻ってしまうのです」
「私たちのことを馬鹿にしてるにゃ、やっぱり関わっちゃダメにゃ!」
「ちょーいっ!ちょいと勘弁しとくれよっ!真面目に話を聞いて損したよ!フレヤ嬢、こりゃなんかの勧誘だよ!姉ちゃん、分かったから、しっしっ!そーゆー奇天烈な感じはもう間に合ってるよ!!ほれ、他をあたりな!」
はは、フリーデリケさんが虫を追い払うようにジュリエットさんとやらを追っ払おうとしてる。
ナターシャちゃんも呆れ顔だ。
って待て待て、奇天烈な感じは間に合ってるとは一体どういう意味だ?
聞き捨てならん!
私がまるでトンデモ奇天烈女みたいな物言いじゃないか!!
「あのですね…遊び相手が欲しくて依頼したのであれば、組合に申し出て無効にしますよ?」
あっ…フレヤさん滅茶苦茶怒ってる…!
あわわわ…本当勘弁してくれよ、ジュリエットさんとやら。
貴族の戯れに付き合えるよーな時勢じゃないでしょ!
「証拠として過去のフレヤさんに聞いた、フレヤさんしか知らない事をお伝えします。フレヤさん、耳を貸して下さい」
「ま、まぁ…どうぞ?」
ん?
なんだなんだ?
フレヤさんしか知らない秘密の言葉?
あっ…ひょっとしてとんでもなくエッチな場所にホクロがあるとか!?
むふー、知りたいっ!!
私も耳を貸します!!いくらでも貸します!!
盗み聞き出来ないかな…どうにかっ!どうにかっ!!
私の耳も貸しちゃうっ!!
いらない?いけずな事言わないでよ!!
金か?金なのか?金ならある!!
フレヤさんが全部持ってるけど…あるっ!!
「にゃ!盗み聞きしちゃダメにゃ!」
「ははっ!ちょいと!!イヤらしい娘だねえ!いくらジュリエット嬢が胡散臭くても聞き耳立てちゃダメだよ!」
くそー、当たり前の事で窘められた…!
うー…何を話してるんだろーなー。
いい加減なホラ話じゃ、うちのフレヤさんは流石に納得しないよー?
名サポーターのフレヤを舐めるんじゃないよ!!
そんないい加減な…あーでも本当だったら…ぐぬぬぬ、知りたいっ!
ん?んんっ!?
フレヤさん、耳が激しくピコピコしてる!!
顔が林檎みたいに真っ赤!!
「どどどっ、どうしてそれを…!?」
「ですから過去に会ったフレヤさんご自身が「私であればこの話をすれば絶対に信頼します。時間が惜しいので真っ先に伝えてさっさと信用させちゃって下さい。それでも疑うようであればアメリさんにも言うと言えば良いですよ」と伝言を預かって…「信じますっ!!し、信じますから言わないでっ…!!」
ぬおおおーーっ!!
なにこのきゃわゆい反応はっ!!
絶対知りたい!!絶っ対知りたいっ!!
どうしても知りたいっ!!
「フ、フレヤさんは…うっ、疑ってるときのかっ、顔をしてます…!!」
「そんな顔してませんよっ!!言えません!!ダメーッ!!誰にも言わないでっ…!!」
耳ピコフレヤさん、かわゆすぎる!!
むふー、抱きしめちゃお!!
「にゃ…フレヤさんがそういうなら…」
「ま、事実なんだろうねぇ…」
抱きしめるといつも思うけど、フレヤさんめっちゃいい匂いする…
「両親にも話してない…事でした…これは本当の事を仰ってます…」
おっとっと、いい匂いは置いといて…
このジュリエットさん?
どーやら本当に何度も時間を繰り返してるって事か。
フレヤさんがこんなに慌てふためく、フレヤさんしか知らない秘密を知ってる。
多分何度も私たち『魔女っ子旅団』に会ってるんだろう。
今までも大概とんでもない事になったと思ってきたけど、今回は更に上をいくとんでもない事に巻き込まれてしまった…!
気を取り直して…主にフレヤさんが。
とにかく、再び歩みを進める私たち。
「初めに驚いてしまったのは…『魔女っ子旅団』は何度繰り返そうとフレヤさんと先生…アメリさんの二人だけだったからです」
なぬっ!?
フリーデリケさんもナターシャちゃんも、これまでは居ないとなっ!?
ど、どういう事?
「それは…何故でしょうね?繰り返してる割にはそんな差が生まれている…これまでの私はここに来るまでどんな風に来たと言ってましたか?」
フレヤさんはよっぽど恥ずかしい過去を暴露されたのか、もう完全にジュリエットの言うことを全面的に信じてる。
フレヤさんが全面的に信じるなら私も信じよーっと。
「よもや繰り返しの晩より前の出来事に差が生まれるとは夢にも思わず、概要だけで事細かな旅の行程などは詳細は伺った事はないんです…とりあえずテラノバ連邦入りして、はじめの町であるナグ州のニーセンで数日適当に依頼をこなして、傭兵組合から勧められて受けたこの依頼とセットで、ナグ州依頼の物資輸送の護衛としてマクヌル州のバーン・ミュールまで来たと…」
「にゃにゃ!!ぜ、全然話が違うにゃ!!」
「なんだい!!まるっきり話が違うよ!!それにニーセンでは水龍の咆哮で二日は足止め喰らったから、適当に依頼なんざ受けらんないよ?」
なんだなんだ?
ナターシャちゃんとフリーデリケさんの言うとおり。
もうまるっきり話が異なってるじゃんか。
「いえ、今年の水龍の咆哮はまだですね。えっ…もう嵐が来てるのですか?」
「そうですね。サレティオ川の河原の草が倒れていたのが何よりの証拠かと。ゴミも流れ着いたまま放置されていましたし…」
あー、言われてみれば水かさが増してたって名残があったかな?
じゃあなんだ?
ジュリエットさんはこれまで水龍の咆哮が起きてない歴史から来てるの?
「どうして繰り返す期間より前の出来事から変わったの…?なんで…」
なんか…御伽噺だね…
「兎に角、私とアメリさんは嵐の有無は関係なくシャールビル国境検問所でフリーデリケさんと出会って、一緒に旅をするようになりました。まずはそこからおかしいですね。なぜフリーデリケさんと旅をしなかったんだろう…」
「まずあたしが「ここは潮時だな」って思ったのはさ?あの空の向こうが歪んで人が落ちて来ただろう?西の空の。そんで兵士の数が調査でガクンと減っちゃってさ、「ま、そろそろ半年過ぎたし、ボチボチ移動しようかね」って。ホントその場の思い付きだね」
そういやそうだったね。
そうだそうだ、じゃあその空の歪みが発生してないとフリーデリケさんは『魔女っ子旅団』入りしてないって事か。
「お二人についてはお名前も伺っていません。護衛旅も専ら魔物ばかりで退屈なものだったと」
「にゃー?私はシャディシリング商会の護衛旅で『魔女っ子旅団』と出会ったにゃ。ナグ州の物資輸送の護衛なんてしてないにゃ」
うむうむ、してないね。
「あっ!!そういやシャールビルの検問所でさ、マクヌル州まで支援物資を輸送するだなんだって話を小耳に挟んだよ!!でもそりゃ水龍の咆哮も来そうだし、西の空の歪み問題で人が足りなくなったから計画がおじゃんになったんじゃないかね?」
「そ、空の歪み…発端で…れっ、歴史が変わった…?」
そーとしか考えられん。
歪みのせいで水龍の咆哮が早期に発生?
で、兵士たちが忙しくなってフリーデリケさんが仲間入り。
ナグ州からの物資輸送が無くなって、代わりにシャディシリング商会の護衛旅に変更。
で、ナターシャちゃんと出会う。
「今この瞬間の繰り返しの回は、非常に重要な意味を孕んでいる可能性がありますね。なんせ繰り返しの開始地点の昨晩より前の出来事から変わっているようです。ちなみに今回が何回目とかって分かるものなのですか?」
おっ、そーだよ!
フレヤさんの言うとおり。
これ何回目?
もし二回目とかだったら失笑もんだ。
「…千回を超えたあたりから…数えることを辞めました」
なっ…!?
「数千回…そうですね。うーん、何回目なんでしょうね…」
苦笑いを浮かべるジュリエットさん。
私たち『魔女っ子旅団』の皆にとってジュリエットさんの口から飛び出した回数…それは想像を遙かに上回った答えだったのだろう。
みんな口を開いたまま言葉を失ってしまった。
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