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12.奇襲

初日の野営の際、私の異空間収納がとんでもなく凄い物だったという新事実が発覚。

私もフレヤさんも興奮醒めやらぬ中、夕食の準備をしつつ今に至る。




私の異空間って時間止まるのね。

すげー便利じゃん!

この異空間収納は仕事に繋がるんじゃないのー?


「でもこの件についても、暫くの間アメリさんと私だけの秘密にしましょうね」

「あ、はい……えっ?し、暫く……ですか?」


えー?なんでなんで!?

絶対お金になりそうだよ!?


「ええ。暫くです。少なくとも傭兵として二桁の大台に乗ったら、もう下手に手出し出来ない名のある傭兵になっているハズですので、その頃には別に知られて大丈夫ですよ」


フレヤさん、ニッコニコ。

今朝何故か貰えた、暖かくフワフワで香り高いパンの優しい香りを満喫してる。

まぁニコニコもしちゃうよねー、分かります。

まさか外で一夜明かすってのに、焼きたてのパンが食べれるんだもん。


で、話を戻すとだ。

悪用されるって事なんだね。

そりゃそうかー、滅茶苦茶便利だもん。

有名な傭兵になりゃ、例え便利だから悪用しようと企もうが、下手に手出し出来なくなるって事かな?


「そ、そこまで……わ、私たちが上り詰めたら……こっ、国家とかも、あの、て、手出しできなくなる……という事ですか?」

「ご名答です。まぁ私は兎も角としてアメリさんは今の所どこかの国の国民という訳ではなさそうですので、権力を笠に強制的に呼びつける事などは出来ないとは思います」

「ほうほう……」


まぁ私はこの辺のどっかの国民って訳じゃなさそうだしね。

何か嫌ならさっさとその国から出て行けば良いだけの事だ。


「どうせ買い物なんかをすれば知られるとは思いますけどね。こちらから積極的に吹聴するような事だけは避けましょう。貴族に目を付けられるのが一番面倒ですから」

「そ、そんなもん……なんですね……?」

「そんなもんですよ。傭兵組合はどこにも属さない組織です。よって各国の情報も相当量持っています。そんな傭兵組合を怒らせて敵に回し、万が一その国から全面撤退なんて事になったら、情報が漏れ出るだけでなく、日々の雑事をこなしてくれる便利屋の傭兵がごっそり居なくなるので魔物被害が拡大。その国は一気に傾きます」

「な、なるほど……」

「さ、食べましょう!」


そう言ってワクワクした顔でパンを両手で持つフレヤさん。


「で、ですね……!いただきます……!」


私は両手を合わせて拝むようにしてそう挨拶する。

自然にそうしたくなるというか、身体が覚えてるのかな。


「それは食前の祈りですか?初めてお目にかかりましたね」

「あー、け、今朝兵舎の食堂でも、そ、そう言われました。……どうやらこの身体が、おっ、覚えている事らしくてですね……」


そんな風に私が解説を始めようとしたその時。

フレヤさんの背後でけたたましい音が響いた。


「ひっ…!!」

「フレヤさん!あっ、危ない!!」


フレヤさんは咄嗟に身を屈め、私はそんなフレヤさんの頭を抱きしめる。


「アメリさん…な、何事ですか…?」

「あ、えーと……これは?えーと……」


これは…一体何なんだろ?

鋭い氷柱?

いや、黒っぽい…岩、岩かな?

兎に角鋭いトゲが地面からせり出ていて、そこに動物が刺さっている。


うわぁ…喉の辺りをグサッと貫かれてる!

そんな岩に貫かれた動物も当然、誰がどう見ても絶命してる。


「これは……何が起きたのでしょうか……」


私の胸に顔を埋めたままそう呟くフレヤさん。

早鐘のような心臓の音が聞かれちゃうな。

そ、それより本当に何これ?


「な……なんですかね?」


他に誰かが居て、助けてくれた?

それとも地面に何かトラップとかが埋まってた?

トラップ?トラップ……?

あーっ、これひょっとして……!


「あっ!こ、これ…アビスランパードです!まっ、魔法が……はっ、は……反撃したんです!あの、い、いい匂いがしたから……この動物が襲いかかって来たのかもしれません」


フレヤさんったら私の背中に両手を回してる!

フレヤさん……いい匂いがするなぁ。

ふへへ……たまりませんなぁ……!


いかんいかん、今はそんな感想を思い浮かべる場合じゃない!


「あ、ネーベルタイガーですね……これ」

「えっ?ど、動物じゃないんですか……?」


魔物ってか!!


「はい。虎はこんなに大きくないですし、そもそもこの辺りに虎は生息してませんからね」


へえ、そうなんだ。

言われてみれば私が知ってる虎よりも随分とデカい。

尤も虎の記憶なんてどうでもいいから、もっと自分のことを覚えていろよ!と言いたい。


兎に角、これがネーベルタイガーなんだね。

へぇ…デッカいなぁ!


「ネーベルタイガーはスニーキングという気配を消す魔法が使えますし、胸の辺りに魔核がありますので紛れもなく魔物です。ね?一撃でしとめてしまえば単なる虎でしょう?」


私に抱きついたままの姿勢で!ウインクしたよ!

か、かわゆすぎる!!

とりあえず今のうちにフレヤさんを堪能しとこう…!


「と、とりあえず……た、食べてから処理ですかね?」

「そうですね。そうしましょう」


空腹には勝てない訳で。


ネーベルタイガーの亡骸に見守られつつご飯を食べる私達。


初めは亡骸の虚ろな視線が気になってチラチラ目がいったけれど、パンの素朴な美味しさを前に、そのうちそんな事はどうでも良くなり、私はまたフレヤさんからあれこれ話を聞きながら晩御飯を満喫した。




普通の野営だと傭兵が交代で起きて火の番をするらしい。

サポーターは緊急時以外は朝まで眠れるようだ。

今回みたいな二人きりとか、そーゆー少数のパーティーだとサポーターも火の番をするとの事。


「あのアビスランパード。はっきり言って無敵ですね。想像以上の威力でした…」


た、確かに……

こんなの大抵の魔物は一撃ではないか?


「常時、アビスランパードをかけていれば、大抵の敵はそのネーベルタイガーのようになる。もしくはアメリさんに気取られて、昼間のゴブリンのように返り討ちに合うか。兎に角これさえかかっていれば、野営で二人揃ってグッスリ眠れますよ」

「べっ、便利なんですね……!ま、町の外では常にかけて……っおきましょうか」


ついつい他人事のように感心しちゃう私。

フレヤさんはクスクス笑う。


「ふふ、ちなみにアビスランパードも内緒ですよ。そんな異常な性能の結界なんて聞いたことがありません。国に知られたらしつこく勧誘されますね」

「王様とか偉い人にかけたら……」

「それだけではありません。戦場で味方陣営にかけたら、戦場を呑気に歩くだけで弓さえ気をつけていれば圧勝。異空間収納…いやいや、それ以上に異常な性能の魔法だと思います」


フレヤさんに言われるまで『いやぁ便利だなぁ』としか印象が無かったけど、私はとんだバランスブレイカーだ。

だって、物資だって時を止めたまま大量に運べる上に、戦場で敵無し状態にだって出来ちゃう。


それだけじゃない。


私は私という存在を、私自身が過小評価し過ぎている。

もしこのまま旅烏として気楽にやりたいのなら、私はフレヤさんが言うように気をつけて振る舞わないと駄目だ。

今度紙にでも私が使える魔法を書き出しておこうかな。


「わっ、わ、私……人前で魔法は抑えます。わ、私は私の事を…のか、軽く見過ぎてました……」


ちょっと反省だ。


フレヤさん、私の拳に手を乗せた。

暖かい手だ、柔らかくて暖かい。


「アメリさんがそんな風に思えるなら、きっと大丈夫です。そうですよ、アメリさんが歴代の記録を抜くような凄い等級の傭兵になって、私が冒険譚を発表して有名人になって、誰にも何も言わせない伝説のパーティーになればいいんです!」


凄腕の傭兵と著名な作家兼サポーター。

ふふふ、凄くワクワクしてきた。


「が、頑張りましょう!でっ、で、伝説のパーティー……!」

「アメリとフレヤ。小さい女の子なのに凄腕!頑張りましょう!さっきのネーベルタイガーの討伐方法だって、ある程度の地位を得てから冒険譚として出せば、初依頼から中々面白い滑り出しでしたよね!」

「あ、わ、私はもっとこう……あっ、鮮やかにバシッと!……が良かったです。コ、コミカル過ぎます……」


初めての大物討伐が『ぎゃー!なんだなんだ!?』はちょっとコミカル過ぎるよ。

見るも鮮やかな立ち回りでバシッと決めたかったな。

カッコいい魔女がさ?華麗に鮮やかにさ?


「ふふ、ギャップが良いんじゃないですか!それに演出し過ぎるのは良くないです。必ずどこかで無理が生じます」


やっぱり真面目だなぁ。

でも確かになぁ、自分でもカッコいい魔女には見えないもん。


「な、謎のクールな……ま、魔女がいいなぁ……」

「あはは!ちょーっと遠いかもしれませんね!アメリさんは可愛いからそれでいいじゃないですか!」

「ふふ…はは!」


胸を張って得意気にそう言ってのけるフレヤさんが可笑しくなって、私はクスクス笑ってしまった。

そのうちフレヤさんもつられて笑ってしまい、2人で暫くクスクス笑った。




食後、フレヤさんのリクエストでネーベルタイガーは生活魔法で凍らせてそのまま私の異空間収納へ仕舞うことにした。


ネーベルタイガーはフォレストウルフとは違って希少性が非常に高く、毛皮も中々良い値がつくので綺麗に処理する必要がある。

そういうのは初めから傭兵組達に丸ごと渡して解体の専門家に手数料を払って解体を任せた方が逆に査定額が上がるらしい。


慌てる乞食はもらいが少ないって言うもんね。

少しでも儲けようと思ってズタズタにしたら目も当てられない。


何より、今回は殆ど傷がない状態なので相当良い値がつきそうだとフレヤさんはニコニコしながら言っていた。


そして就寝。

明日の朝、カントの町へ帰る。


寝る前にテントにも念の為アビスランパードをかけておいて、フレヤさんと添い寝するような形で横になることに。

フレヤさんは私がテントの中に浮かべた生活魔法の明かりで手帳に冒険譚のネタであろう何かをスラスラ書いている。

横からチラッと盗み見た感じ、フレヤさんの書く字は印象通りの丁寧なものだった。


へぇ!あんなにスラスラ書きたくってたのに…!

どんな文章を書くのかな…

うーむ、手が邪魔だね。

もうちょっと…どれ、ほれ。


「あっ、まだ見ちゃ駄目です!」


覗き見してたら流石にフレヤさんに見つかった!

あー残念、隠されちゃった。

あ、頬をぷっくり膨らませた。


「あ、し、失礼しました。そ、そうですよね……」

「これはまだネタを箇条書きしているだけですので、ちゃんと綺麗な字で清書して、納得いったらお見せしますね」


こ、これよりも綺麗な字が書けるのか…!

今の時点でも相当綺麗だと思うんだけどなー。

まあこの手の創作物って完成まではあまり誰かに見せたくはないものだもんね。


かわゆいなぁ……!

くそー、とりあえずフレヤさんの横顔を見て満足しよう。




歳の近そうな女の子同士。

何だか無性にワクワクして「今日は眠れないなぁ」なんて思っていた私。

しかしながらフレヤさんの羽ペンを走らせる音を聞いているうちにすっかり眠りこけていたらしく、気がつけば外は既に白んでいた。

生活魔法……大丈夫だったかな……?


「ふぁぁー……」


つい口からでる大きな欠伸。


「ん……おはようございます。あー……もう朝ですね……」


フレヤさんも今起きたんだ。

私と同じく大きな欠伸だこと!


照れくさそうにはにかんでる!

何その可愛いやつ!

そんな姿を見られたくなかったのかな?

フレヤさんってばいちいち可愛すぎるんだよなぁ!

フレヤさんに悪い虫が付かないよう、私が頑張らなければいけないね!


「さてさて、とりあえず外へ出てスープでも作りましょうね」


そう言ってそそくさとテントから出て行くフレヤさん。

ちょこちょこと動きも可愛いなぁ。


うーむ、眠い。

まだ眠いけれどここは魔物も出てくる森の中。

私も傭兵の端くれとして少しも油断してはいけないのだ。

そう。凄腕傭兵となる予定のこの私。

常に神経的な何かをこう…ね?

何というか研ぎ澄ませるようなさ…


「キャーーーッ!!」


フレヤさんの叫び声!

た、大変だっ!!


私は慌てて外へ飛び出す。



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