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11.捜索

ネーベルタイガー討伐で北の森へやってきた私とフレヤさん。

自らを囮としてウロウロ歩き回ろうと言う話になり今に至る。




私は木の杖を、フレヤさんは適当に拾った棒きれを手に2人でブンブンと振り回しながらガサガサと音を立てて森の中を闊歩した。

あんなに震えてた私もフレヤさんとお喋りしているうちに警戒感も薄れ、足取りもスッカリ軽くなっていた。




「魔法の詠唱って、詠唱が聞き取れないのですが、あれは一体何と言っているのですか?」


フレヤさんが手帳を片手に私に質問をしてきた。

確かに今喋っている言語とはまるで異なる言語形態ではある。


とは言え聞き取れない?

うーむ、まぁ他言語っぽいしそんなもんか……


「あ、な、何語で喋っているのか……じ、自分でもよく分からないのですが……そうですね……い、今喋っている言葉で……えーと、む、無理矢理翻訳しますと……


魔法の言葉

闇よ闇よ 土よ土よ 

乗り越えようとしてよじ登った壁の向こう側で、

転がってる死体が一体何なのか

その人覗いた人は知ることになるよー

闇にそびえ立つ壁

アビスランパード


……と、言った、ぐ、具合でしょうか……」


うー、もっとカッコ良く解説したかった……!

でも概ねこんな感じのどうも気味の悪いような変な詠唱文なんだよなぁ。


「ほうほう!何だかまるで教訓じみたと言いますか、思ったより文章じみてますね…。そのような意味合いの言葉を紡ぐことで魔法として発現するわけですね!凄いです!ふんふん!」


フレヤさん、夢中になって手帳に何かを書きたくってる。

な、何だか小恥ずかしい。

ちょーっとばかし手帳を覗き見しちゃおうかなぁ!

気になる!


「ふふ、ダメです!後程纏まったモノをお見せしますからね!」

「も、もうちょっと格好いい詠唱文に……ほ、翻訳すべきだったなと……!」

「私がアレンジしちゃいますのでご安心を!」


そう言ってウインクしてみせるフレヤさん。

きゃわゆい!

思わずフレヤさんに抱きついてしまう私。

不可抗力だよ不可抗力。

女の子同士、問題なかろう!


「えへへ、抱きつかれました」

「す、すいません!つ、ついつい!」


多分今とても気持ち悪い笑みを浮かべてるだろうな、私。


その時、茂みから何かが飛び出してきた。

物凄い悪意。敵意。

私は怖いとかどうしようとか思う前に身体が動いていた。

何かに向けて杖を突き刺し、足で挟み込んで首を折ったり。


『マギアウェルバ


水よ水よ

幻想的な氷柱は容赦なく

お前を幻想の世界へいざなう


背筋が凍るほどに鋭い牙


アクティデンテス』


残りは氷柱がその身体を一斉に貫く。




フレヤさんは身を屈めたままじっと様子を見守っていた。

私は漸く肩の力が抜けてその場にへたり込んでしまう。

ま、魔力自然回復してて良かった…!

っていうか黙っててもアビスランパードの反撃が発動してたか…

無駄な殺生を…どっちみち殺生するか。


私が屠った敵意むき出しの『何か』は緑色をした子供のようなものだった。


あれ!?えーと…

わ、私…人殺ししちゃった…?

ま、魔物だよね?魔物であってちょーだいっ!


「ひえっ!!つ、つい…殺しちゃった…!あわわわ…ここ、こ、これ、殺人ですか……!?」

「あー、ゴブリンですね。まごう事なき魔物です。他種族のメスがここに二匹。差し詰め私たちを捕まえて子でも産ませるつもりだったのでしょう。」


見るも無惨なゴブリン?の亡骸にスタスタ近寄るフレヤさん。

いやぁ、強いなぁ!

なんかもうゴブリン…気持ち悪いよ!


「そ、それ…魔物なんですね…よっ、よ、良かった……!ひ、人殺しになったかと……」


ゴブリンって名前は何となく知ってる。

まごう事なき魔物だし、魔物じゃないと困る。

初依頼でいきなりお尋ね者は流石にマズい。

そんなぶっ飛んだ冒険譚はないよ!


「思い切り魔物です。単体では所謂雑魚ですが、このように森で群れて襲われるとそれなりの脅威ではあります。討伐証明として左耳を切り取って組合に持ち込みましょう。後は胸の辺りに魔核という赤い石がありますので、それを頂きます」


フレヤさん、嬉しそうにカバンからナイフを取り出した。

うわぁ…ゴブリンの耳を切り取り始めた!


「ひえっ……!み、耳を!……よ、よく平気で、そ、そ、そんな事が出来ますね……!」

「ふふふ、私から言わせて貰えば、よくゴブリンを杖で突き刺したり足だけで首をへし折ったりできますね!ですよ」


うっ…!ぐうの音も出ない…!

クスクス笑いながらも手は休めず手際良く処理をしてゆくフレヤさん。

かっけえ!

頼りになる!


「ちなみにこの手の解体や処理は私の仕事ですから、アメリさんは休憩しつつ見てて下さい」

「あ、えー!?そ、そ、そんな訳にいきませんよっ……!あ、あの……お手伝いは……?」

「このパーティーにおいてお手伝いはサポーターである私の役目ですよ?アメリさんが何でもこなすようになってしまうと、サポーターである私の立場が無くなっちゃいます」


あ、まーたウインクしてくれた。

かっ、可愛いしもうそれでいいやぁ。


とは言えだ。

確かにフレヤさんの意見は一理ある。

私までもが一から十まで何でもこなしてしまうと、フレヤさんの仕事は無くなってしまう。


声をかけられた時だけお手伝いするようにしようかな。

傭兵とサポーター。

領分は守るって事なのかね。




その後ゴブリンの血で汚れてしまったフレヤさんを生活魔法で綺麗サッパリにした。

流石にこの手の生活魔法は他の傭兵もかけてくれるらしい。


そして見せて貰った魔核。

鈍く光る、まるで磨く前の宝石のような濃い赤色の石だった。

手のひらにポツンと乗っかる程小さい魔核。

半透明で黒っぽい赤。

あんま綺麗な代物じゃなかった。

宝飾品とかには向かなさそう。


所詮ゴブリンの身体から出てくる魔核だけあり、実際大したお金にはならないけれど、依頼後の酒代の足しくらいにはなるらしい。

放っておくとアンデッドになる可能性が無きにしも非ずなので魔核は必ず取るのが常識らしい。


危なかった、私一人だったら間違い無く常識知らずのアンデッド製造屋さんだ。

実際私単体は相変わらず常識知らずのままではあるけど…




「あの、こ、これは一体……な、何に使うんですか?」

「これは魔導具を動かすために必要となりますね」

「へえ……」

「ちなみにですね……」


フレヤさんが丁寧で凄く分かりやすい説明をしてくれた。

魔導具と呼ばれる魔法陣やルーン文字が施された道具には魔核が必須なようで、魔核に魔力を補充する事で道具に施されたギミックが動き出すみたい。


へぇ、めっちゃ便利なんだなー!




「……という訳ですが、この程度の大きさだと手元を照らすライトですとか、魔導水筒などに使われますね」

「そ、そんな便利なものがあるんですね!へえ!いっ、いいなぁ!」

「ふふふ、魔法が使えるアメリさんにはどれも無用の長物ですよ。」


そ、それもそうか…!


「町の人とかで生活魔法が使えないような人たちに需要がありますね。後は人間族で魔力が豊富でない人は魔力節約のために魔導具で済む事は魔導具で済ませたりもしますね」

「ふぅん、な、なるほどですね……!」




とりあえず切り取った耳が入った袋も魔核も私の異空間収納に仕舞っておいた。

他の道具と同じ空間に切り取った耳があるのは何となく嫌だけど、だからと言ってフレヤさんに持たせる程私はワガママ娘でも人でなしでもない。


「あ、あれ……?そ、そう言えば残った死骸は……?」

「生活魔法で燃やすにも時間がかかりますし、埋める穴を掘るのも労力と時間がかかりますので、大抵そのまま放置ですね。こんなに死臭がしていればじきに魔物か動物が食べに来ますよ」

「な、なるほど……」


いやぁ、そんな気はしてたけどやっぱほったらかしなんだなぁ。

だって、死体が灰になるのってそんな短時間じゃないよね。

何より可燃物だらけの森の中でそんな盛大に火を焼べるなんて正気の沙汰じゃない事くらいは流石に分かる。


「さ、ここから離れましょう。獲物がネーベルタイガーじゃなければ良い撒き餌になりますが、茂みに潜んで獲物がかかるのを待っていたら、ネーベルタイガーからは警戒され、動物や違う魔物ばかりが釣れてしまいます」


そう言って肩を竦めるフレヤさん。

お目当てのネーベルタイガーじゃないヤツを狩っても時間の無駄だね。

怖いし、さっさとずらかろう。




ゴブリンを倒した後は特段何も起きず。

わざと音を立てて歩き回る白々しさが良くないのか、ネーベルタイガーはまるで引っかからず、私たちは結局依頼主の材木屋の報告にあった作業場にテントを張る事にした。


悲しいくらいにテントの組み立て方が分からない私。

結局、私がマゴマゴしているうちにフレヤさんが手際良くぱぱっと組み立ててくれた。

聞けばこの手の一人二人用の小型テントの組み立て方は大抵同じようなもので、一度覚えてしまえばどんなものでも組み立てられるようにはなるらしい。

ちなみにこの作業も「私の仕事ですよ」と言って詳しくは教えてもらえなかった。




そしてそして!

たった今、驚愕の新事実が発覚!

私の異空間収納は時間が流れない優れものでした!

朝、なぜか町の人から貰ったパンが暖かかった!

すげー!これ便利すぎない?

私もフレヤさんも大興奮!


「これは凄い事ですよ!時間が止まる異空間収納はかなり高位の精霊系種族や魔人系種族が使えると言われてます!人族が使えるなんて私も書物で見ただけですが『渡りし人』くらいだと思いますよ!」


また『渡りし人』かぁ。


「や、やっぱり私……『渡りし人』なんでしょうかね……?」

「うーん、そうは言いましたがどうでしょうね…。書物で見た限りはこの世界に進んだ文明をもたらす存在だと共通して書かれてますし、なんせアメリさんは頭に怪我を負った訳でもないのに記憶を失っていますからね。私は『渡りし人』の趣旨と言いますか、使命と言いますか、兎に角何かちょっと違うなと思いますよ?」

「そ、そうですよね……」


何だかフレヤさんにそう言われるとホッとする。


「今は焼きたてのパンを今朝アメリさんが運良く貰えていたという事実が何より重要ですよ!これは思わぬ時間節約です!今後も街で暇なときに料理を作り置きするスタイルにしましょう!」

「でっ、ですね!そ、そうしましょう……!」


万が一『渡りし人』だったら面倒に巻き込まれそうだなぁ。

すっごい技術で富を与える?

そんなん絶対面倒じゃん。


ま、何時でもどこでも作り立てのご飯にありつける幸運に感謝しよう。



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