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不思議な魔女っ子とちびっこサポーターの冒険譚  作者: 三沢 七生


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105.あの丘

護衛旅二日目。

商隊はナグ州からレバウ州に突入。

そして出るわ出るわ盗賊に魔物!

そこは私が先頭の馬車で敵を蹴散らしつつも今に至る。




お日様がてっぺんに登った辺り。

ちょっとした湖畔で馬たちを休憩させる為に商隊の馬車五台は動きを停めた。


流石にちょっと疲れたね。

この「ちゃんと働いた」感が後ろめたくなくて心地良い!

やっぱり地面に立つって事の有り難さがよーく分かるね。

んー!穀潰しじゃないって素晴らしい!

堂々と伸びができるってもんよ!


なーんかまだガタガタグラグラしてる気がする…


「なんかあれだねえ?全然止まんなかった気がするけどさ、なーんも出なかったのかい?」


フリーデリケさんが真ん中の馬車の中からピューッと飛び出してきた!

ふふ、私の頑張りでフリーデリケさんの平穏な睡眠を守ったんだなー。


「で、出ましたよ…!盗賊は2回…で、出ました!」

「ありゃ本当かい!?へぇ!あたしはグッスリ寝てたからサッパリ分かんなかったよ!こりゃあれだねえ、昼のアメリ嬢、夜のアタシ!2人だけで護衛余裕じゃんねえ?」


ちびっ子モードのフリーデリケさんは本当に可愛いなぁ。

この見た目が偽りだろうが何だろうが、フリーデリケさんは明るくて、そこに居るだけで明るい気分が移っちゃう。


「にゃにゃーっ!アメリさん、凄すぎにゃっ!!」


うひょひょー!

ナターシャちゃんも颯爽と駆けてきたと思ったら抱きついてきた!

なんという役得!

こんなんでキャッキャハシャいでくれるならさ、盗賊くらいいくらでもやっつけてあげるよ!


「せっ、生死問わないので楽です…!」

「クイーンスレイヤーとして名を馳せたお陰で堂々と魔法が使えるようになりましたからね。以前はちょこまか走り回って獲物を仕留めていたので、なかなか異様な光景でしたよ」


むむっ!

ぐぬぬ…異様な光景となっ!?

ニコニコしながらいらんことを…!

意地悪フレヤさんには抱きつきの刑だ!


「い、異様とは…!このっ…!」

「ふふっ、事実です事実!」


はあぁ…やっぱり抱きつくならフレヤさんだよ。

疲れた心が癒されていく…


「人は見た目じゃないってのを痛感させられるパーティーだな!商人としてその辺は心得てるつもりだったが、いやー世の中は広いんだなぁ!」


フリードリヒさんだ。

この人も凄く人が良さそうな人だ。


「うちのアメリの場合は特別だと思います。なんせこんな細腕で、涼しい顔をしながら屈強な大男の腕をボキボキへし折ってしまうんですよ」

「はは、それは凄いな!あとでうちのガリウスと腕比べでもしてみるといい」


エリックさんも来た。

腕比べ…あれかぁ。

っていうか腕をボキボキって!

純度高めの暴力女みたいじゃん!


「馬鹿言え、俺は腕を折られるのはごめんだ」


ふふ、ガリウスさんがちょっとニコッと笑った。


腕がどうだこうだ言っててふと思い出した。

あの…えーと、なんじゃらサイクロプス?の死骸ってお金になるのかな?

なんかとてもじゃないけど食用とは思えない…

魔核くらいかな?


「あ、あの!さっきの…なんとかサイクロプス…あれの死骸ってお金に…な、なりますか?」

「アメリさん、良い質問ですね!」


ややっ!フレヤさんに褒められた!

むふー!

…で、何が「良い質問」なんだ?


「ナターシャちゃん、魔核以外で後は何がお金になるか分かりますか?」


あ、なーるほど!

フレヤ先生的には生徒のナターシャちゃんに最適な質問なんだ!


「にゃ!まず目にゃ」

「目…ふむふむ」

「魔法素材として結構貴重にゃ。視力強化ポーションなんかの遠くを見ることができるポーションとか、夜目が利くようになるポーションの材料として薬師に有り難がられるにゃ!」


ふふ、ナターシャちゃんってば、尻尾がピーンと立った。

かわゆいなぁ、かわゆいよ!


「正解です、次は何かありますか?」

「にゃ!次は皮膚、爪、牙にゃ!パルヴィサイクロプスは魔法耐性が高い魔物にゃ。だから硬い皮膚は防具の素材として優秀にゃ!爪や牙は毒とか呪いとか付与する用途として粉状にして武器に練り込んで打つにゃ!」

「そうですね、それだけですかね?」


す、すげー…!

そんな事を暗記してるんだ…

もうさ、「食えなさそう」イコール「金にならなそうだ」って考えてた単純な自分が恥ずかしいよ…!


「にゃにゃ、血もポーションの素材にゃ!身体強化ポーションなんかの素材になるにゃ!多分それくらいにゃ!」

「ふふ、良くできました!」

「にゃー…褒められたにゃ!」


あー、良いな良いな!

ナターシャちゃんからゴロゴロ甘えられたい!

フレヤさんにゴロゴロ甘えたい!

どっちも良いな良いな、ズルいなぁ!


「ふふ、でも場合によっては骨が素材になるケースもありますから惜しいですね」

「にゃ?そ、そんな事があるにゃ!?」

「この界隈では値が付かないケースが多いかと思いますが、大陸南部では儀式用として人型魔物の骨に価値が生まれる事があります。組合に査定買取を依頼する際に骨の処遇について確認、値が付かないとなれば肉と骨は引き取りにして、あとで肉を切り離して綺麗に処理した骨を取っておくと良いですよ」

「にゃー…勉強になるにゃ!」

「異空間収納持ちがいる場合に限りますけどね」


へえ、凄いなぁ!

サポーター…本当に大変な仕事だ。


「フレヤ嬢もナターシャ嬢も博識だな!あれだったらパルヴィサイクロプスはうちの商会で色付けて丸ごと引き取るぞ?」

「本当ですか!?それは有り難いです!」

「状態もかなり良さそうだったしな、売る宛はいくらでもあるってもんだ!」


商魂逞しいフリードリヒさんと、しっかり者のフレヤさん。

あー分かったぞ?

商売相手が貴族だから、この手の一体丸ごと買取とかのコネがいくらでもあるんだね?




フレヤさんナターシャちゃんはそのままフリードリヒさんと話しながら自分たちの馬車に戻った。

ちなみに途中から話に飽きていたフリーデリケさん。

大人モードになってフワフワーっと馬車まで戻ったかと思ったら、御者のオジサンの隣にピッタリ座った。

なんだなんだと思ったら、なんと口移しでオジサンから精気を貰ってるみたいだ。

この人もある意味商魂逞しい…

もう見てらんなくて目を背けちゃった。




馬の休憩も終わって商隊は再び州都ハンフート目指して出発。


暫くぼんやり進行方向を眺めてると、なんとなーくいやーな予感。


「あ、あの…!あの丘…」

「ん?おう、あの丘…か?」


そう。

進行方向、ちょっと小高い丘。

その丘が邪魔で街道はカーブしてる。

これは絶好の潜伏ポイントなのかも。

ここからは見えないけど…盗賊が潜んでいても可笑しくない訳で。

なんかこう…殺気を受けたとき、胃がムカムカするような…兎に角、変な気分になる。


「はい、まだ姿は…」

「潜伏する場所としてはベタ過ぎる。こんな潜伏しやすそうな丘はどんな傭兵だって警戒する」


ガリウスさんの言うとおりかな。

確かにこんな分かりやすい潜伏する馬鹿は居ないか…


「逆に盗賊に襲われないポイントではあるね!俺も長年この仕事をやってるけどさ、流石にあの丘に潜伏するようなお粗末な盗賊は見たことないよ」

「だな。あそこに潜むようじゃ二流、三流だ」


まー確かになぁ。

『アイアン・シールズ』は護衛専門の傭兵みたいなモンだし、私だってあのイザベラさんより殺気に敏感。

いやーな感じがするだけで、確実な殺気みたいなものは一切感じない。


「で、ですね…」


とは言え警戒はしないと、だ。

できる傭兵以前に…何となく嫌な予感が拭い去れない。




邪魔くさい丘を避けるようにぐにゃりとカーブしているアウレア街道をゆく商隊。


ん、何だ?

馬車が立ち往生…?


「商人…かねえ?故障かあ?」


商人…っぽい人と、子供がえーと…見た感じ2人。

スカートを履いてる犬みたいな獣人は奥さんかな?


「殺気は感じねえな」

「で、ですね…」


ガリウスさんも平気と判断した。

うん、私もあの人たちが盗賊には見えない。


「おーい!どうしたんだぁー?」


道を塞ぐように立ち往生。

これは流石にオットーさんも無視出来ないか。


「さ、さっきあの丘から…と、盗賊が…!!」


よ、よく見たら怪我してる!!

うわっ!一家揃って怪我してんじゃん!?

えっ!?マ、マジか!!


「止まれ!盗賊が出たらしい!けが人が居るぞ!」


馬車が止まるとガリウスさんが荷台からヒョイと降りた。

と、とりあえず私も行こう!

回復は私がすべきかな?

いや、残党が残ってるかもだ。

回復ならベネディクトさんがやってくれるかな…


「馬車も手酷くやられてるな…」

「わっ!…しゃ、車輪が…」


うわぁ、なんだこれ!

ガリウスさんの言うとおりだ!

前輪がどっちも完全に壊れてる。

しかも馬を繋げてる部分の…くびき?だっけ?

くびきがぶっ壊れてるせいか馬もいない。

こんな事言っちゃあれだけど、大概ボロそうな馬車だ。

盗賊に襲われて一気に壊れたのかな?


「品物をごっそり奪われてしまいまして…!馬も逃げてしまいました…」

「おやおや!これは大変だ!怪我でしたら私が治しましょう」


ベネディクトさんが走ってきた。

エリックさんもだ。

治療はベネディクトさんとエリックさんに任せといて、私は周辺を警戒した方がいいかな…


それからすぐに襲撃されたという商人さん一家の馬車の確認、商人さん一家の手当て、アーチャーのマルコムさんと斥候のダリウスさんはだだっ広い茂みの調査に。


この場はとりあえず『アイアン・シールズ』に任せておけば平気かな?

ま、まぁ…私は何気にめっちゃ働いてるし?

少なくとももう少し警戒はしとくか…


フレヤさんとナターシャちゃんもそのうちやってきた。

フレヤさんはツインサイクロンを手に持ち、ナターシャちゃんはそんな勇敢なフレヤさんの背中に隠れるように。


「被害の詳細を商人組合に速やかに報告するために、調書を作成しておきましょう」


フレヤさん、こんな時も冷静だなぁ。

っていうか商人組合の諸々についても精通してんだ。


「おー、そりゃそうだ!フレヤちゃんの言うとおりだ」


さっきフリーデリケさんに精気を分け与えてたオジサンだ。


「です。まずはあなた達の出発地と目的地、そして運搬していた商品のリストがあれば用意を。無ければこれから纏めましょう」

「え、あ、ああ…はい」


いやぁ、とは言え襲われた商人さん一家は気が動転してるだろうに。


「次に、襲撃が発生した時間と場所、そして襲撃者の特徴や人数についても詳しく書き出して下さい。最後に、被害額の見積もりと、失われた商品や破損した物品の詳細も忘れずに記載してください。これらの情報が揃っていれば、商人組合も迅速に対応できるでしょう」


フレヤさん、ツインサイクロンを構えたままじりじりと歩みを進める。

フレヤさんは何でこんなに警戒してるんだ?


「あの…あー」

「商人組合の等級はいくつですか?まだ4以下でしょうか」


ん?あれ?

商人組合って確か…


「そ、そうです。まだ…さ、3等級でして…」

「あなた達は商人ではありませんね?皆さん!罠の可能性があります!!うちのアメリが殺気を感じていないのでこの方々自体は盗賊ではないと思われます!!これは囮です!!」


ツインサイクロンの銃口をガタガタ震える商人さん一家に向け、声を張り上げたフレヤさん。

一気に緊張が走る。


「マルコム!!ダリウス!!これは罠だ!!戻れ!!商会の皆さんとフレヤとナターシャは三台目の馬車へ!!ガリウスとベネディクトは三台目を守れ!!アメリは俺と!!フリーデリケ!!緊急事態だ!!三台目でみんなを守ってくれ!!」


エリックさんの指示が響き渡る。


その時、私の背中に物凄く不快なゾワゾワ感が…!


面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。

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