103.信念
『ブラッドレイヴン』包囲網。
本来なら『ブラッドレイヴン』のヤツらに、魅力的な積み荷に手を出させる状況を作り上げ、現行犯であえなく御用って算段だった。
だけど『ブラッドレイヴン』のヤツらの口から飛び出す悪事の数々にエリックさんとベネディクトさんの堪忍袋の緒が切れる。
まさかの初日でスピード解決してしまって今に至る。
「アメリさん」
ん?おっ、フレヤさんか!
思ったよりすぐ来た。
「か、解決…しちゃいました」
「ですね、ほら!ナターシャちゃんも座りましょう?」
ふへへ…フレヤさんの背中からひょこっと顔を出した!
ナターシャちゃん、かわゆすぎる。
「にゃ…」
焚き火を囲むように座るでなく、三人で並んでちょこんと座る。
ナターシャちゃんを挟むように座ってるけど、ナターシャちゃんのフワフワが腕に当たって…も、もう堪らんっ!
でもあれだ。
ケットシー族的には、まるで猫みたいに撫でたり可愛がったりするってどーなんだろ?
胸をわしゃわしゃ撫でたり、尻尾を執拗に撫でたりするのは、何となく変態っぽい気がする…
「今回『ブラッドレイヴン』は依頼放棄、ナターシャちゃんは恐らく置いていかれた扱いでパーティーから抜ける形になり、今後はフリーのサポーターになります」
「にゃ、そう思いますにゃ」
可愛い可愛いってのは一旦置いとこう…
そうだよ、この場合ってどーなるんだ?
依頼放棄でナターシャちゃんに何か不利益は?
ややっ!むむっ!?
ひょ、ひょっとして違約金的なものを…?
あわわわ…
「今回のようなケースで適用されるのは何条の何項ですか?」
な、なんじょ…え?んん?
何の話だ?
「にゃ!傭兵規則10条の第…3項にゃ!傭兵パーティーのうち、所属する全ての傭兵が死亡や大怪我、もしくは傭兵が依頼を放棄して失踪し、サポーターのみが残った場合、サポーターは依頼主への罰金支払いおよび個人等級に対するペナルティ処置を一切免除されるものとする。にゃ!」
「そうですね、ナターシャちゃんはよく勉強してますね!」
ななな、なんと!
フレヤさんもナターシャちゃんもそんな傭兵規則なんて覚えてるの!?
凄すぎないっ!?凄すぎないっ!?
私はそんなもんがあるなんて全然…あぁ、カントの町で登録したときに軽く聞いたかな?
「あ、あのっ!そっ、そんなのおぼっ、覚えてるもんなんですか…?」
「ええ。傭兵と比べてサポーターはどうしても立場上弱いですからね、傭兵規則を覚えて頭に叩き込んでおいて、いざという時はしっかりと権利を主張するんです」
「傭兵は規則なんて覚えないにゃ。サポーターはそういうのを覚えておいて、いざって時は組合を味方にして身を守るにゃ!」
ほほーう!
スッゴいな!
サポーターの方が大変だよ本当に。
こっちは力を振るって敵を倒しゃいいだけだし。
「凄い…!わ、私は…サポーターに、てっ、転職できなさそうです…」
「あはは!アメリさんったら、何があるとクイーンスレイヤーがサポーターに転身するんですか!」
「にゃにゃっ!アメリさん楽しいにゃ!」
クスクス笑うフレヤさんと、にゃんにゃん笑うナターシャちゃん。
可愛さぶっ壊れのコンビ…幸せ過ぎます!
「話を戻しますが、兎に角今回ナターシャちゃんが何か責任追及される事はありません。勿論個人の等級にも全く影響もありませんし、組合側に申し出れば手続きなしでパーティー登録を抹消できます」
「にゃ」
「そこで私たち『魔女っ子旅団』から提案なのですが…」
フレヤさんと視線が合う。
ああ、まだナターシャちゃんに提案してなかったんだ。
うんうん、是非提案しちゃって下さいっ!
「ナターシャちゃんが「これだ!」ってパーティーに巡り会うまで、私たち『魔女っ子旅団』に加入して一緒に活動しませんか?」
「で、です!」
ナターシャちゃん、目を輝かせてる。
むふー!かわゆい!
私を、フレヤさんを、キョロキョロ見てる!
「ほ、本当に…いいですかにゃ?凄く幸運な事にゃ!でも私、サポーターにゃ。フレヤさんが居たら私は…」
「私たち、同じヤツらに嫌な思いをさせられたんです。折角マテウスに憧れてサポーターになったのに…だから私たちでナターシャちゃんの夢を叶えるお手伝いが出来たらなって」
「そ、その通りです!」
ナターシャちゃんの目から涙がこぼれ落ちる。
「にゃ!お願いしますにゃ…!」
フレヤさんと両側からナターシャちゃんを抱きしめる。
はあぁ…フッワフワで気持ちいい。
こんなの絶対うちのパーティーメンバーにすべき!
ナターシャちゃんの『魔女っ子旅団』加入が決まった!
と、言うわけでこんな場所に魔物も盗賊も来ることはなさそうなので、私は紅茶を淹れてフレヤさんとナターシャちゃんに振る舞うことに。
戦闘以外で私が有能アピールできる数少ない特技。
私が武力だけの暴力女じゃないってところを見ててよ、ナターシャちゃん!
「ナ、ナターシャちゃん…あ、熱いのは平気ですか?」
どこまでが平気で、どこからが失礼か分かんないけど、ナターシャちゃんは見た目がまんま猫。
猫が熱々の紅茶なんて飲めるわけがない。
なんかミルクとかの方がいいのかな…それは失礼にあたるのかな?
何が差別に該当するんだろ…?
「熱いのにゃ?全然平気にゃ!」
「ふふ、ナターシャちゃんはあくまでケットシー族ですので、そこまで気にする必要はないですよ!」
「そ、そうなんですね」
ふーん、そーゆーもんなんだ?
「にゃ!美味しいにゃ!」
「アメリさんはプロ顔負けの腕前ですからね…って実際にプロだったのでしょうね」
むふー!尊敬の眼差し!
私がただのニタニタ気持ち悪い挙動不審のメイド見習いじゃないって所をバシッと見せておかないと!
あ、そういやナターシャちゃんの等級って…
「あ、あの、ナターシャちゃんのとっ、等級って…」
「やっと4等級になったトコですにゃ」
あれ?ふむふむ、案外高いんだなぁ。
それなら一緒にウィルマール王国に行けそうだ。
「け、結構高いですね」
「怪我の功名というべきか…まぁ『ブラッドレイヴン』の面々の等級が高いほうでしたからね。と言うか、サポーターは4等級ではなくとも同行する傭兵の等級次第でも他国に渡ることはできますよ」
「な、なるほど…えっ?そ、そうなんですか…!」
ふむー、単純に一言で怪我の功名というのもアレでソレな…
まぁ…もう忘れよう。
っていうか私、傭兵組合のなんたるかについてまるで理解してないな…
しばらく他愛もない話をして過ごした私たち。
ナターシャちゃんがウトウトし始める頃になると、事務所の方からフワフワとフリーデリケさんが帰ってきた。
子供モードのフリーデリケさん。
焚き火の明かりに照らされたその表情はニッコニコの満面の笑み!
「いやー!ウハウハ!ついつい張り切っちゃったよ!」
「お帰りなさい、お疲れさまでした」
よし、フリーデリケさんも来たし、私達は寝る時間だね。
「聞いたよ聞いたよ!あの悪党どもねえ!いやー、すかっとしたよ!」
「会話の内容がそれは酷かったようでして、それに差し当たってナターシャちゃんを『魔女っ子旅団』に加えて旅を続けよかと」
「あらー!いいじゃないかい!可愛い子は大歓迎だよ!」
ピューッと一目散にナターシャちゃんに飛んでいくフリーデリケさん。
抱きしめたくなるよねー、わかるわかる。
「よろしくお願いしますにゃ!」
「よろしくねえ、ナターシャ嬢。いやー癒されるねえ」
ややっ!むむっ!?
フリーデリケさんってば、ナターシャちゃんをアチコチ撫で回してる!!
ナターシャちゃんはケットシー族であってその辺の猫じゃないんだよ!!
「にゃー…気持ちいいにゃ」
なっ、なんだってーっ!?
ナターシャちゃん、撫で放題なのかい!?
そ、そんなのズルい!
私もご相伴に預からせてくれーっ!!
「くすぐったいにゃ!にゃにゃっ!」
ぐふふ、パーティーメンバーにケットシー族が居るって最高かな?
たっぷり精気を貰ってやる気モリモリのフリーデリケさんに見張りは任せ、私たちは寝ようかとフレヤさんの髪を解いていた時のこと。
「よお姉さん!」
「あらー!カイ!」
ん?
あ、フリーデリケさんがお相手した人か。
商隊の商人の人かな?
「これ、良かったら後でパーティーメンバーで食ってくれよ!なっ?」
「ありゃま!果物!ありがとうね!」
わあ!
差し入れだ!
「ありがとうございます!後ほど美味しくいただきます!」
「にゃ!ありがとうですにゃ!」
あわわ…私も!
「いいっていいって!ゲスなアレだけどよ、こんな美人の姉さんに良くして貰ったからな!」
カイさんとやら、照れ臭そうに笑ってる。
「嬉しい事言ってくれるじゃないか!こっちこそまた頼むよ!」
フリーデリケさん、大人モードになってカイさんとやらに濃厚な口づけ!
「姉さんみたいなサキュバスに会えて本当に幸運だな!見張りよろしく頼んだぜ!」
「あいよ!見張りは任せな!」
流石にこの手のやり取りも見慣れてきたな…
妖艶な感じに手をひらひらさせるフリーデリケさん。
っていうかお礼言いそびれちゃった。
「にゃー…にゃ!また商人の人が来たにゃ!」
「本当ですね…フリーデリケさんが護衛依頼最強な理由がよく分かります…」
うわぁ…ニッコニコのおじさんがまたこっちに来た。
今度は両手に瓶を持ってる。
「みんな商隊の旅で立ち寄る町でさ、毎度女を買う金も時間の余裕もないのさ。砦の兵士なんかもみんなそう」
「そ、そんなもんですかね?べべ、別にがっ、我慢すれば良いのでは…」
別に我慢すりゃ良いだけの話である。
何もムラムラし過ぎて憤死する訳でも爆死する訳でもなかろう。
「はは!そりゃ男が可哀想ってなもんだよ!男ってのはさ、ちょくちょく発散しないといけない、そーゆー生き物なんだよ」
「そっ、そうなんですか…?」
「あーはは…、まぁ確かに「それくらい我慢しろ」と抑えつけるのは酷かもですね」
フ、フレヤさんがそう言うなら…そう言うもんなんだ?
「だからアタシみたいなのがさ、汗水垂らして頑張ってる男たちに束の間の安らぎを提供すんのさ」
「や、安らぎ…」
「ああそうさ?ほら、見てみなよ。可愛いもんじゃないか」
うーむ、なんか照れ臭そうにニコニコしてる。
「別にこっちはさ?精気貰ってるんだから良いんだよって言ってるのにさ、なんか差し入れでもってあたしに気を使っちゃってさ。あーゆー男の健気な姿を見るとさ、あたしは堪んない気持ちになるんだよ」
大人モードのままそう言ってウインクしたフリーデリケさん。
フリーデリケさんもちゃんと一本筋の通った信念があるんだ。
私たちが寝る支度をして、焚き火の側で横になるまでの間、フリーデリケさんの元にちょくちょくおじさんがやってきては差し入れを貰ってた。
何となく、フリーデリケさんがカッコ良くみえた。
さて、明日からは本格的な護衛旅だ!
『ブラッドレイヴン』が居なくなった分、私がガッツリ頑張るぞ!
たまに活動報告に魔女っ子アメリやダークエルフの裏話みたいなものを投稿しているのですが、あれって本来そういう使い方じゃないんですね…
他の人はどんな風に書いているのかなと思って見てみたけど、本来は「活動報告」ですもんね。
それはそれで良いかなと思いつつ、これからも皆さんの画面の邪魔にならない程度に活動報告も更新します。
ちなみに昨日は72話辺りの草原街道のモデルになった場所を紹介しました。
あれ、ちゃんと日本に実在する場所がモデルなんです。
面白かったという方はブックマークや☆を頂けますと幸いです。





