宇宙人からのメッセージ
ある日、宇宙局は地球外からの謎の電波をキャッチした。
分析の結果、音声変換することに成功し、そしてそれが地球人類に向けてのメッセージであることがわかった。
以下は原文ママである。
『お前ら地球人共こんにちはこんばんはおはようございます。
我々はピーロガット星の者ですよ。ヨロピク。
おまんらアホンダラたちに人を食った説明をするとですね。
新歓コンパしたいわけだ。今、我々月の裏側。返事待つ。拝啓』
「と、いうわけなんですが……いかがいたしましょうか、閣下」
「うーん……まず、返事はできるんだな?」
「ええ、こちらも同じような方法で音声を送れます。しかし、月の裏側にいるということでしょうか、近いですね……これは、すぐに返事を送った方がいいかもしれません」
「そうか……でだ。このメッセージだが、まあ我々と友好関係を結びたいということで合ってるな?」
「ええ、ただ……」
「ああ、滅茶苦茶だが不勉強とは言ってやるな。彼らなりに我々の言葉を学び、精一杯やってくれたのだろう。
考えてもみれば地球の言語の数は膨大だ。大変だっただろうに」
「はい、それでどのように? やはり同じ言語で、因みにここに学者や作家、手紙協会の講師らと練り上げた原稿がありますが、これを送ってよろしいですね?」
「どれどれ……丁寧すぎるなぁ」
「はい?」
「これだと、お前らのメッセージは文法も何も滅茶苦茶すぎると言っているようで嫌味っぽくないか? 相手に恥をかかせてしまうかもしれない」
「あー、まあ確かにそれはありますね」
「だろう? せっかくの宇宙人との交流のチャンスなのに怒らせてしまうかもしれん。こちらも、もっと崩して書くべきだ」
「なるほど……」
『お前らのメッセージ届いたぜサンキューサンキュー。
コンパ嬉しいぜウェーイ。ビール片手にフラフラになるまでやろうぜ歓迎会。
種族なんか関係ない。腹の内まで見せ合おう。とことん語ろうぜパーカッションツーマンショー』
と悩みに悩み、時間に追われ送ったこの地球側のメッセージの返信は、二十分ほどで送られてきた。
『貴様らのソウルは伝わった。いつやるかはこちらが決める。
間もなくだ。準備があるだろう。穴を掘り花を植える。
しかし本当に良いのか良いのか一張羅。我々と奏でようか鎮魂歌』
「速いな。もう返信が来たか」
「はい。こちらも相応のスピードで送らないと無礼に当たるかもしれませんね」
「ああ。で、このメッセージを読み解くとつまり、今すぐにでもあなたと会いたいけど本当に良いの?
準備とか平気? お気に入りの服着ていくけど似合うか心配よ。ああ、早くあなたと会って声を、私たちで最高のセック――」
「閣下……愛人のことを考えてませんか?」
「な、何を馬鹿な。私は妻一筋だ。だ、だがそう感じたのなら、そう、私は彼らを愛人のように愛おしく思っているということだ」
「はぁ……まあ、いいですけど、しかし相手が遠慮がちなのは間違いなさそうですね。意外と慎ましい種族なのかもしれません。で、どうなさいますか?」
「なあに。もう考えてある」
『今すぐ会おう。すぐやろう。俺をこの野郎呼ばわりの妻なんかアンノウン。アカウント削除。
愛情持って君を迎えるよブカレスト。邪魔する者はいないぜ未体験謹賀新年みんな死ね』
さすがに死ねという単語はマズいのではないですか、という尤もな意見も、閣下の迸る熱意により却下された。
そして、その返信は前回よりもさらに早く、十五分と経たずに送られてきた。そしてその後もさらに早く。
『あなた方の話はよくわかった坊主頭。ナムアミダブツ、アイラブユー。
でもでもでもでも本当にいいのか緊張感。金の王冠は我らの頭上。
あなた方の穴はいっぱい。責められはしないかその判断』
『へい! 蜜月な俺とお前。
お前の穴にぶち込みたいぜ月の岬。
お前の蜜を飲みたいぜミサキちゃん。
邪魔者はマナーモード。黙らせるぜガマガエル。
太った妻の要チェックノーセンキュー。
今はお前だけを震わせ、喘がせ、攻めたいぜファッキュー!』
『本気か? 正気? これが最終確認マッチングアプリ。
会いに行くから居留守は不可。イン・ブルー青ざめた顔。
キャンセルするならいまのうち遺憾の意』
『くどいぜ。グローリーの前ではその感情、不良品。
ホテル従業員気づいてもノープロブレム。ウォール・オブ・デス。
とことんやるぜ妻と裁判。とことん打つぜお前にマシンガン。
もう言葉はいらない。いい時間帯。声上げてこうぜ完全燃焼。俺とお前で勝ってレジェンド!』
「……閣下。返信が来ないどころか、宇宙船が姿を消したようなのですが」
「そうか……じゃあ、後は任せる。私は忙しい身なのでな」
慌ただしくその場を後にする閣下。宇宙局局員の誰もが愛人と会うつもりだと察した。
しかし、あのメッセージは宇宙人が実は最初から宣戦布告の意味で送ってきていたこと。
そして、閣下が考えたメッセージを地球側は徹底抗戦の構えと見なした上に、その自信と野蛮さに恐れをなし、侵略計画を保留にしたことまでは地球の誰もわかりはしなかった。サンクスメーン。