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人類はレベルとスキルを獲得出来ませんでした  作者: 妹尾真拓
阿蘇ダンジョン攻略編
99/198

炎の魔人vs炎帝

いいねありがとうございます。

毎話読んでいただいているとわかるので嬉しいです。

これからもよろしくお願いします。

魔人の拳が巨人化した木下の顔面を貫いた。

お返しのように木下の拳が魔人の肩を貫く。

お互いが防御も回避もせずに攻撃し続ける。

距離が近いため、二人の攻撃は必中でダメージは計り知れないだろうにその攻撃は怯むことを知らない。

だが・・・僕にとって当座の問題はそちらではなかった。


「バカ! バカ! バカ! 何のための仲間よ! パーティよ! 私に相談すれば、その火傷も少しはマシだったはずよ! インカムで私に協力を依頼することぐらいできたでしょ!」


ズルズルと引きずられながら説教を受けている。

結構耳が痛いのだが、如月さんが魔人に有効な氷使いだと知られると、標的になる可能性があった。

あの場で協力を仰ぐ事は不可能だっただろう。

まあ・・・カケラも頭になかった事は確かだが。


「もうダメよ。後は和臣くんに任せて待機! エイジだっけ? 君も瀬尾くんに協力しないでね!」

「分かってるぜ、炎の小僧の奥方。流石に今の主人にこれ以上の無茶はさせられねー。氷の拘束具でも檻でも何でもしてくれ」

「そんな・・・奥方って、まだ結婚してないのに」


心なしか、僕を滑らせている地面を覆う氷が凸凹になった気がする。

スキルのコントロールをミスったのだろうか?


それから火口の縁近くまで引きずられて、二体の化け物の戦いがよく見える場所に止まった。


「このヤロー!」

「燃えカスが!」


魔人の拳がいくつも木下の右側を殴る。

頭から腰まで満遍なく襲いかかるそれらを、木下も炎を絡めて全て封じていく。

お返しに更に巨大化した左拳が魔人と衝突する。

ドォォォン!

強烈な音と共に衝撃波が発生した。


「アイスドーム!」


石が衝撃波と一緒に飛んできて如月さんが作ったドームに音を立ててぶつかった。


「ちょっと待ってね」


如月さんが集中すると、空気を含んだアイスドームの壁から空気が抜けて透明に変化する。

外側には石の礫がいくつもくっついていたが、ポロポロと落ちていき凹んだ箇所も修復された。


「和臣くん・・・」


木下と魔人の戦いがはっきりと見える。

殴って掴んで引っ張って押して・・・互いに一進一退。

決定打はまだ見出せない状況だ。

問題は二体がどこまで力を出しているのか。

全力なのか? 余裕を持たせているのか?


「うぉぉぉぉおおおお!」


木下が声を上げて魔人の首を掴み、魔人を持ち上げる。

そして背負うように体を捻って、足を溶岩から引っこ抜き、魔人を頭から地面に叩きつけた。

人間なら即死攻撃だが、木下は続け様に馬乗りになって顔面に拳を振り下ろす。

激しい音が何発も続き一際大きな音がゴツン! と響いて彼の拳が止まった。

・・・魔人はまだ消えていないのに?


「おい、何笑っていやがる」

「笑ってる? 俺が?」

「ああ、お前だよ」


僕の背筋がゾゾッと震えた。

嫌でも思い出してしまう、あの戦いを。


「そうか・・・笑っているか。そうだな。当然だろうな!」

「なにっ!」


魔人の体が跳ね上がって立ち上がった。

木下は勢いで飛ばされ、転がって立ち上がる。


「楽しい! ああ、何ということか。まさか燃えカス如きにこんな楽しい思いをさせられるとは!」

「テメー、狂ってんのか? 俺たちは命の奪い合いしてんだぞ!」

「ああ、そうだな。この命の奪い合いを楽しいと感じることが狂っているというのなら、俺は狂っているのだろうさ」


魔人の口が大きく開く。

口が耳まで裂けて笑みを浮かべる。


「ダンジョンの最下層でただ一人・・・待ち続けた。いつか解放されるのを、いつか自由を得ることを。だが、まだまだそれは先の話。その前に、たまたま辿り着いた挑戦者にちょっかいをかけて、まさかここまで楽しい思いをするとは思わなかったぞ。何という幸運。自由を得れば、こんな楽しみが俺を待っている! ああ、楽しみだ! 楽しみだ! もっともっと俺に教えろ! 俺が生きているということを!」


ダメだ!

あの時の牛頭と魔人が重なる!

この状況で狂乱状態はマズイ!


だが、狂乱状態になるのかと思った魔人の全身が真っ赤な炎に包まれる。

それが形を作り鎧へ変わる。

右手と左手にそれぞれ剣が握られた。


武装した!?

これまでとは雰囲気がガラリと変わっている!


「マジかよ!」


木下も炎の大剣を作り出すが、魔人ほどはっきりした形にはなっていない。

力の差がこんな形で現れるなんて!


「さあ、続けるぞ、カス・・・いや、挑戦者。うん。俺を楽しませた者がカスでは俺の格も落ちてしまう。挑戦者が適切だな」


ニヤリと笑みを浮かべて剣を構える。

更にいくつも出ていた腕が、まとまって2本の腕になり脇の下から出てきて胸の前で手を合わせる。

まるで木下を憐れむかのように・・・。


「さあ、ゆくぞ!」

「このクソヤローが!」


2本の剣と1本の大剣が衝突した。

衝撃がここまで届いたのか、アイスドームに大きな亀裂が入る。

如月さんがすぐに修復したので大事には至らなかったが、二体の巨人の戦いはより激しいものへと変わっていた。


一体は喜びの雄叫びをあげて剣を振り回し、もう一体は表情のない顔のまま大剣を振る。

拳の時のように安易に攻撃は受けず、剣同士が何度も衝突して炎を撒き散らした。

力は拮抗しているように見えるが、魔人の方は笑みを浮かべていて余裕が見える。

戦闘経験は乏しいはずなのに、木下のフェイントにも対応し始めた。

長期戦は不利だが決め手は阿蘇からの攻撃しかない!


木下の横薙ぎに魔人が身体を引いて避けた。

木下が作った大きな隙を見逃さずに、魔人が2本の剣を振り上げて襲いかかる。

だが、木下は大剣を杖のように地面に刺して身体を預け、左足で魔人の腹を蹴った。


「はははっ! そうか。足もあるんだ。それを警戒から外してはいけないな!」


魔人が一回転して剣を振り回す。

木下が一撃目を大剣で受けると、魔人は二撃目を木下の足に向けて振る。

木下はそれを跳んで避けるが、魔人の押す力に負けて後退した。

魔人はその間を詰めようと一歩踏み出すが、その足を止めて目の前に現れた大剣の剣先を両手の剣で受け止める。

木下が間を詰めさせないように、大剣の柄を伸ばして先に攻撃していたのだ。

やっぱりあいつの戦闘センスだけは超一流だと思わずにはいられない。

対人になるとまた違うのだろうが、モンスター相手に的確な攻撃をしている。


木下は柄を長くした大剣を振り回して魔人に攻撃を仕掛けた。

魔人が2本の剣を重ねて防ごうとしたが、勢いの乗った大剣を押し返すことができずに弾かれて一歩後退する。

更に続く木下の猛攻を避け、回り込もうとしたところで木下の大剣がその進行方向の空間を切り裂いた。

そこから先には行かせないと言わんばかりの攻撃に魔人は足を止めて剣を構える。

木下も立ち位置を変えて大剣を長い柄のまま構えた。


「なるほど・・・なるほどな・・・」


魔人が不気味に笑う。


「さっきから何かがうるさく騒いでいて、何やら危険が迫っているらしいのだが・・・奥に何かあるな?」


危険察知か!?

マズイ、今のタイミングで阿蘇市を攻撃されるのはダメだ!


「ふざけんな! 何をごちゃごちゃ言っている!」

「誤魔化さなくていい。もう分かっている。貴様の攻撃は確かに俺を殺そうという意志を感じるが、残念だがまだまだ足りない。それを理解しているのだろう? なのに、その目には力がある。普通なら逃げて時間を稼ぐのに、そうしない理由があるはずだ」

「・・・」


木下が両足にグッと力を入れて体勢を低くした。


「通らせてもらうぞ」

「ぜってー行かせねー」


魔人が不気味に笑って胸の前で合わせていた手を開いた。

そこに炎がまた集まって形を作る。

今度は2つの独鈷だった。

何故独鈷?

そう思ってみていると、魔人が少しだけ首を傾けて口を開いた。


「貴様はよく頑張った」


そう言い終わると、先ほどの独鈷から真っ赤な光が2つ伸びて瞬きするまもなく木下の身体を貫いた。


「がああああああああああああああああ!」

「和臣くん!」


木下が苦痛の叫び声を上げてその場に膝をつく。

大剣は形を維持できずに消えていき、彼の横を魔人が悠々と歩いていく。


「ま、待ちやがれ!」

「落ち着け、挑戦者。俺は逃げたりしない。ただ、先に向こうにあるものを壊すだけだ。その後また戻ってくるから待ってるがいい」

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