ダンジョンのボスという存在
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魔人の攻撃が激しくなってきた。
僕に対しては足場下からの爆発と溶岩をかける物理攻撃。
可能な限り僕を近づけさせない様子だ。
木下に対しては、タコのように生やした腕で息もつかせぬ乱撃で攻撃させない。
僕の魔力吸収もそうだが、木下も魔人の炎を奪うことができずにいるようだ。
唯一安心できるとすれば、如月さんに攻撃の矛先が向いていないことだろう。
木下の炎の防壁と彼女の氷の壁もあるので、そう容易くは攻撃されないだろうが、矛先が向いたら、僕らは攻撃の手を止めざるを得ない。
そんなことを考えたら目の前に炎の拳が迫っていた。
「京平!」
「主人! ハンマーで防ぐんだ!」
大鎚を前に出す。
ドン! と音が響くと同時に僕の体が力を押し返すことができずに、足が宙に浮いた。
ズドォン!
壁に背中から激突して冷却装置がベキベキと音を立てて砕けた。
右腕が進化していなかったら、僕はこれで確実に死んでいただろう。
「衝撃無効はちゃんと働いているな。よしよし、いい子だぜ」
埋まった壁から体を剥がして溶岩を冷やした足場に降り立とうとして、ガクっと膝が崩れた。
左手で膝を抑えると微かに震えを感じる。
・・・体力の限界か。
「・・・エイジ・・・でいいか?」
「ん? 主人、どうした?」
「名前がないと呼びにくい。だから、エイジってこれから呼ぶ」
「エイジ・・・何だかかっこいいな! 俺様気に入ったぜ! てっきりミギーとか安易につけられるかと」
「それ以上はダメだ。人の名前を批判すると碌なことにならない」
「・・・ミギーだぜ? まあ、俺様の名前でないからいいか。由来とかあるのか?」
「伝説のピン芸人の名前からもらった。ワイルドだろ~って言ってたから、頭に思い浮かんだんだ」
「・・・いいね、伝説のピン芸人。俺様も伝説のスキルって呼ばれるようになるか?」
右腕が・・・エイジの声がウキウキしている。
名前をもらえてたことが、それだけ嬉しいのだろう。
「エイジ。お前の環境吸収でアイツにどのくらい近づける?」
「やろうと思えば密着できるぜ」
「そうか・・・じゃあ、そうしよう」
大鎚を戻して手のひらにある口を見る。
大鎚を出し入れ出来るほど形状を変化できるのなら、しがみつきやすい形にもなれるか?
「エイジ」
「はいさ、主人!」
「形状変化を頼む」
イメージするのは鋭いかぎ爪。
一度引っ掛けたらそう簡単に振り落とされないほど食い込ませることができる爪。
ベキベキと音を立てて右腕が変化する。
その姿は、さながら龍の腕のように変わり、右腕自体を守るかのように大きく硬そうな鱗が何枚も張り付いていた。
「それじゃ、エイジ。僕にはもうほとんど体力がないから一発勝負だ。吸収は頼んだぞ!」
「ガッテン承知だぜ、主人! たかだか溶岩と熱と炎! 主人の邪魔はさせねーぜ!」
これが通用するなら、次の幹か根でも同じことができるはずだ。
巨大な溶岩の塊は腕を振り回して目の前を飛び回る木下を叩き潰そうとしている。
今なら行ける!
目標を定めて一直線で駆け抜ける。
アイツに触れればいい!
しがみついてその時が来るのを待てばいいだけだ!
だが、流石に僕を無視することは出来なかったのか、溶岩まみれの拳が降ってきた。
「京平!」
「大丈夫! 予想通りだ!」
更に加速して拳の影を駆け抜ける。
後ろで大きな音がして足場が揺れたが、バランスを崩さないように何度か手をついて前へ走る。
そして・・・その体に向けて跳んだ!
「エイジ!」
「承知だ! 主人!」
飛びつこうとした魔人の体が溶岩から岩肌に変わり、僕はそこに右手を伸ばして指をかける。
大丈夫だ、熱くない!
「ぐぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!」
魔人がとてつもない叫び声を上げた。
耳を塞ぎたいほどのひどい叫び声だったが、何とか手を離さずに乗り切った。
「離れろ! ゴミカスが!」
溶岩の拳が降ってきた。
背中の冷却装備が壊れたいま、外装のアイスドラゴンと縄文杉のパーツが壊れた瞬間、僕にダメージが飛んでくる。
僕は覚悟を決めて目を閉じた。
「させるかぁあああああ!!」
木下の大声と共に衝突音がいくつも響いた。
僕が目を開けて上を見ると、そこには木下が炎の剣と炎の腕を使って巨大な炎の拳を弾いていた。
「何やってんのか分かんねーけど、やるならさっさとやっちまえ!」
「流石、主人の相棒だ! こっちがやって欲しいことを無意識に理解しているぜ!」
「・・・相棒じゃない」
そう。
あいつは相棒じゃない。
単なるムカつくやつで、絶対に負けたくないやつだ。
ただそれだけだ。
「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!」
木下が吠えながら剣と腕を振り回す。
僕はしがみつくことで精一杯だ。
「エイジ! いつ終わる!?」
「もうちょっと待ってくれ! 流石ダンジョンボスだ。枝なのにすっげー魔力だぜ」
「僕たちの限界が近い。急いでくれ!」
「ガッテンだぜ! ちょっと主人に負担がいくかもだが、超ミラクルスペシャルハイマックスデラックスワイルドバキュームで行くぜ!」
上から途切れることのない衝撃音が僕の耳を打つ。
どれだけの猛攻を木下は防いでいるのか分からない。
多分、見たとしても、今の僕の動体視力では微かに残像が見える程度だろう。
それよりも、しがみつく方に集中しなければならない。
「離れろぉぉぉぉぉぉ」
僕がしがみついている場所が上下左右に揺らされる。
激しい!
右手をかぎ爪にしていてよかった!
この引っ掛かりがあるだけでも安定感が全然違う!
「おっしゃ! 凌いだぞ!」
木下が叫んだ。
上を見ると、先ほどの乱打が嘘のように攻撃の手が止まっている。
そして、魔人の体が徐々に崩れ始めていた。
「木下! 叩き切れ!」
「任せろ!」
木下が飛んで炎の大剣を振り上げる。
「さっさと本体を出しやがれ。俺たちを相手すんには、こいつらは雑魚すぎんだよ!」
炎の剣が魔人を両断した。
更に、魔人が纏っていた火を吸収して崩壊を加速させる。
「主人。もう大丈夫だぜ。こいつはもう崩れるだけだ」
「そうか・・・木下! 如月さんの近くに戻るぞ!」
「分かった!」
また何処かに飛ばされるとも限らない。
突然の転移に対抗できないのなら、せめてバラバラになることだけは避けなければならない。
如月さんは戻ってくる僕らを確認して、氷の壁を解除した。
「終わったの?」
「いや、まだ本体がいるらしい」
「エイジの・・・僕の右腕の判断ですけどね」
「絶対だぜ! 俺様が主人に嘘なんかつかないぜ!」
「分かってるよ。信用してる」
ゴゴゴゴ・・・と空間が鳴り響いて地面が動いた。
「地震!」
「二人が戦っている時もずっと鳴ってたわ。私には分からないけど、何かの兆候だったりするの?」
「・・・噴火・・・」
阿蘇山が鳴り響く時は、必ず2、3日後には噴火が起きていた!
外が危ない!
「支部長に連絡を取らないと!」
「ッ!」
「何これ!!」
ゴガァン! と音を立てて地面が跳ねた。
亀裂がいくつもできて、そこに落ちないように木下が炎の手で僕と如月さんを掴む。
まずい・・・。
外でどれほどの地響きがあっているのか分からないが、僕らがボスと戦っていることは無関係じゃないはずだ!
「早く上に戻り!」
「またか!」
「もうイヤ!!」
僕らの身体を魔法陣が包んだ。
この場面での強制転移。
僕は歯を食いしばって次の戦いに備えた。