ライバルとの共闘
遅くなってます。
ゴールデンウィークのせいです。
嘘です僕のせいです。
木下が炎の大剣を作り出して魔人に切りかかる。
僕も大鎚を横に振り回して叩きつけた。
「おのれぇ!」
横振りのためか、そこまでダメージは与えられていない。
やはり、上から加重を乗せて叩き潰さないといけないようだ。
魔人の視線が僕に移る。
木下がその隙に大剣を振り回した。
それを無視できなかった魔人は、両腕を巨大化して炎を纏わせ迎撃する。
僕は奴の注意がそれたのを見て、攻撃範囲から一度離れた。
「主人! 主人! さっきの距離にいてくれ!」
「え!?」
突然の要望に理解ができず、僕は右腕に聞き返す。
「あの範囲ってかなり危ないんだけど、何かある?」
「あの距離にいさえすれば、魔力が吸収できるぜぇ」
「魔力を?」
聞きながら走り出し、大鎚を振り上げる。
「ああ! あいつらみたいな魔力が主体で構成されたモンスターは魔力を吸収すると弱るんだぜ!」
「生命力吸収みたいに動けなくなったりは?」
「それはないぜ。魔力は生命力じゃないからな、あいつが動けなくなるのは消滅する時だけだ。まあ、俺様ならある程度弱らせれば喰ってやるけどな!」
「分かった。喰えるタイミングになったら教えてくれ」
「アイアイサーだぜ、主人!」
話をしながら大鎚を振るう。
魔人にはそこまでダメージはないのに酷くこちらを気にしているみたいだ。
「この残火が! 小賢しいスキルを止めろ!」
魔人の口から炎が吐き出される。
「おっと、主人にそれは浴びせられないぜ。浴びせたかったら綺麗な水を持ってきな」
炎が全て肘の口に吸収されていく。
その間に、木下が大剣を魔人の腹に叩きつけた。
「おっしゃあああ!!」
「ごはぁ!」
いいダメージが入ったみたいだ。
両断は流石にできないみたいだが、このまま続ければこいつに勝てる。
「木下、注意は僕が惹きつける。頼むぞ!」
「お・・・おお! 任せろ!」
木下は十分に休憩が取れている様子で、足取りもしっかりしている。
問題はさっきまで戦っていた僕の方だろう。
スキルが進化したからといって体力が全快することはない。
「近づくな燃えカスが!」
大鎚が届く前に魔人が口から炎を吐き出した。
だが、それは再度僕に届く前に肘の口に吸い込まれる。
「主人に下品な炎を何度もかけるんじゃねーよ!」
僕は大鎚を振り上げようとしたが、先に魔人の巨大化した拳が襲いかかってきて、大鎚でそれを防ぐ。
「この!」
「弱い!」
僕の身体が大鎚ごと飛ばされる。
身体強化していても木下の付与が無いこの体ではこいつの攻撃は抑えきれないようだ。
木下がまたも魔人に一撃を入れた。
魔人は身体をよろめかせるが、倒れることはない。
「木下! 僕に付与!」
「無理! 俺が弱くなる!」
確かにそれは無理だ。
こいつにダメージを与えたかったら、木下の全力でなければならないようだ。
上の階なら僕への付与でなんとかなってきたが、やはりダンジョンのボスとなると、更に格が上がるらしい。
普通なら僕は役立たずなのだろうが、今は魔力吸収がある。
「そぉりゃ! 俺様に魔力をよこしやがれ!」
近場をうろちょろして魔力を吸収する僕に、魔人が視線を移すため木下が完全にフリーになる。
「くらえ!」
大剣が魔人の顔面に叩きつけられる。
ついに耐えきれず魔人が溶岩の上に倒れた。
今だ!
僕は飛び上がって大鎚を振りかぶる。
木下も追撃しようとひと回転して大剣を振りかぶった。
「加重!」
「俺の炎に食われろ!」
僕の大鎚が魔人の顔面に振り下ろされ、木下の大剣が胴体に叩きつけられる。
確実にダメージを与えた手応えを感じた。
「どうだ!? 喰らえるか?」
「・・・いや、あれは無理だな」
沈んでいく魔人を見ながら僕は右腕に確認すると、意外な答えが返ってきた。
「さっき弱らせたら喰えるって言っただろ」
「いやいや、俺様も言ったことは覚えてますぜ。ただ、あれって本体じゃない。単なる枝端だぜ」
「・・・嘘だろ」
沈んでいく魔人を見ながら気を張った。
木下と二人がかりとはいえ、僕が参戦する前に木下と激戦を繰り広げていたはずだ。
頑丈さも僕の攻撃がほとんど効かないぐらい硬かった。
あれがボスの枝端?
じゃあ本体は・・・
「木下! 注意だ!」
「何があった!?」
「あれは本体じゃないらしい。気をつけろ。もっと強い奴が出てくるぞ!」
「・・・ねえよ」
否定したい気持ちはわかる。
だが、沈んだ魔人がまだ出てこない。
気を張って待っていると、地響きと共に溶岩が盛り上がっていく。
「・・・このような事もあるのか。初めての事だからよく分からないのだが・・・最近の燃えカスはこんなにもしつこいのか?」
何に対しての疑問なのか分からないが、僕らはそれどころではない。
出てきた身体は巨人のよう。
縄文杉とまではいかないが、明らかに蝿の王クラスはある。
「もう手加減はすまい。叩き潰すとしよう!」
魔人が大量の溶岩を掬って、僕らにかけてきた!
「吸収!」
「承知だぜ!」
襲いかかってきた溶岩が、熱を奪われて岩に戻る。
それでも元の姿に戻った岩が僕に降り注ぐ。
木下は急いで如月さんに近づこうとする溶岩を止めて押し返す。
体が大きい分、近づくのは容易くなったが、問題はあいつの一撃の大きさだ。
振りかぶったと思ったら移動しないと避けることができずに押し潰されてしまう。
「あいつは本体か?」
「ここからじゃぁ分からねーかな。魔力をそれなりに吸収しないと底が分からね」
「やるしかないか!」
近づくために走り出す。
だが、そのための足場が突如大爆発を起こし始めた。
「何があってる!」
「あのクソ野郎! 足場の下に爆発系のスキルを仕込みやがった! 主人! 気をつけて!」
「吸収は!?」
「スキルの発動場所が特定できない! 避けてくれ! 主人!」
足場にヒビが入る。
僕はその場所を避けて走る。
ヒビから火柱が上がった。
熱気が襲いかかるが、それは全て吸収される。
僕には心地良い風しか届かない。
少しでも近づき、大鎚を振りかぶった。
「燃えゴミが!」
「魔力を吸収しろ!」
「やってますぜ、主人!」
空中に突如として巨大な火の玉が出現した。
だが、すぐに右肘の口に吸収された。
「離れろ!」
大鎚を当てようとしたところで足場ごと持ち上げられ押し離された!
斜めになった足場から転がり落ちそうになって、僕は地面にしがみつく。
「俺を忘れるなよ!」
「貴様も所詮は燃えカスにすぎない!」
「俺がカスってか? 試してみろや!」
木下が宙を飛びながら持っている大剣をさらに巨大化して魔人の腕にぶつけた。
うまく行けば切れるかと考えたが、威力は互角のようで両方とも互いの力に弾かれる。
「カスが!」
「まだ足りねーのかよ!」
衝撃が発生して溶岩は波を起こす。
僕はさらなる波に対して足場にしがみつくしかないのだが、如月さんは!?
心配になって彼女を見ると、彼女の周囲が炎で守られてた。
その内側は彼女のスキルなのだろう、氷の壁が見えるが、先ほど発生した衝撃と波は全て炎だけで防いでいる。
・・・力をそっちに回しすぎだろ!
木下の方を見ると、魔人がタコみたいに腕を増やして殴り出した。
木下もその猛攻に防御の姿勢だ。
「主人!」
「どうした!?」
木下を援護しようとした僕に右肘が大きな声をかけた。
「奴は枝だ!」
「枝!?」
「そうだ! まだ、幹か根がいる! 体力は温存してくれ!」
アルマジロ戦で体力が枯渇している僕に温存しろって、どういう無茶振り。
「木下ぁ!」
「何だぁ!」
「そいつも雑魚だってよ!」
「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
叫びたい気持ちはわかる。
既にアルマジロよりも遥かに強い。
これから更にパワーアップするんだ。
僕も叫びたい・・・。