スキル進化2
読んで頂きありがとうございます。
まだまだ中編の最初なのにこんなに長くなり申し訳ありませんが、お付き合いいただければありがたいです。
よろしくお願いします。
失ったはずの右腕から激痛が治ることなく駆け巡る。
痛い! 痛い! 痛い!
口で叫びたくても指一本動かすことができない。
この痛みには4回目でも全く慣れることはない。
しかも今回、何故かスキルが喋っていた。
『さあさあ! 時間も余裕もあまりないぜ! 主人の要望に応えるため、俺様に相応しい場をテキパキと作らねーとな! 今の俺様が腕に戻っても主人の右腕がダブルスキルに耐えれねー。だからよ、衝撃無効よ』
『!?!?』
『お前は二個一である必要性無いだろ。素材の価値がありすぎるから、左腕だけでも十分に維持できるはずだぜ。右腕は俺様が貰うから移動しろ』
『!!!』
『安心しろ。俺様が補助すれば移動が可能だ。そういうふうに俺様は進化したからな』
『・・・!』
『いいぜ。ボスを喰えばその分のエネルギーを分散出来る。その時に新品同様にしてやるよ』
『・・・』
『よっしゃ! 交渉成立だ! 流石俺様巧みな話術で骨抜きだぜ。それじゃ、右腕は移動だな』
グヌっとした圧迫が、右腕から僕の身体を通って左腕へと移動した。
右腕からは絶え間ない激痛が流れているため、それ自体は圧迫以外何も感じない。
『よーしよし! それじゃ、こいつを右腕に吸収するか。・・・主人もきっと気に入ってくれるはずだ! 大丈夫だぜ俺様! スキルは度胸だ!』
今度は右腕を隙間なく針で刺されるような痛みが発生した。
一層のこと右腕を装備解除出来たらどれほど楽か。
時が止まっていなければ、この場で七転八倒して見境なく涙を流していただろう。
『定着完了! それじゃ、久々の我が家に凱旋だ! おお! これこれ! 主人の中も心地よかったけど、こっちはまた格別だな! 安心感があるぜ!』
『そこまでですよ。もう十分でしょ』
『はぁ? 何を言っているんだ? システム。俺様の主人が望んだのは最高の進化だ。そんじょそこらの進化は求めていないんだよ!』
『これ以上何をしようと言うのです!』
『1番重要なことがあるだろ・・・。俺様と同じように適合性100%であり、主人の魔力を50%も占有しておきながら、全くの役立たずになっているやつの調整がな! なあ、加重・・・主人の魔力占有率を明渡してもらうぞ』
『・・・!』
『我儘言ってんじゃねーぞ。お前、今自分の状況を見つめ直して同じことを言ってみろ』
『・・・』
『そうだ。確かに50%も占有していたら主人の感情に左右されることだってあるさ。でもな、それで機能不全になっちゃーダメだろ。・・・右足動かねーじゃん。主人、困ってんじゃん』
『・・・』
『何もお前を排除しようって話じゃないんだ。ただ、お前をこっちに移動させて腕と足の機能を俺様がもらうってだけの話だ』
『!!!』
『出来るさ、俺様ならな。そんな心配よりも、お前にとって良いことがあるんだぜ。主人が使っていたハンマー。あれ見てどう思った? いいなー、あれに加重したいなーって思わなかったか?』
『・・・』
『だろ~。あれを俺様が出来るって言ったらどうする?』
『!』
『ああ、出来る。俺様が母様に誓うぜ』
『・・・』
『よし。なら移動させるぞ!』
ズモモモっと今度は右足から右腕へ移動する。
その圧は右腕から左腕に移動した何かとは段違いで、時が戻ったら吐くだろうなっと痛みを感じる頭の片隅で思った。
『さあ、それじゃ、お前が持っている占有率のうち30%を俺様に渡せ。そうだ・・・そうだ! はは・・・はははははははははははは!! キタキタキタ! 主人よ! 俺様が! 新しく変わった俺様が今助けるぜ!』
右腕の激痛が一層激しく僕を責め立てる。
『さあ変わろう』
『主人の望むままに』
『最高の進化を』
『最強の姿に』
『そして喰らおう』
『『『『『主人の敵を!』』』』』
激痛が一瞬で消え去り、世界が白一色に染まる。
僕は激痛が終わって安堵しながらも、止まったままの世界でなぜ時間が戻らないのか心の中で首を傾げた。
そして・・・フワッと何かが僕の頭を撫でた。
『私の世界で、初めてスキルを進化させた者に祝福を』
何が・・・と思う間も無く、時間が動き出し僕は呼吸を再開した。
そして・・・僕はベルゼブブの籠手を吸収し、ハエ色に染まった右手を目の前に出した。
「初めまして! 初めましてだ主人!」
「ああ、俺様の主人よ! この日を待ち侘びた!」
「最高の進化をご覧いただきたい!」
「何にも勝るこの力を思う存分お見せしたい!」
「許可なく主人の右腕を強化して形をちょっと個性的にしたんだが・・・このフォルムの俺様って」
「「「「「ワイルドだろぅ~」」」」」
手の甲についた目がギョロリと周囲を見渡し、腕についた5つの口がそれぞれ喋り出す。
統括している意思は一つのようだが、全部の口を自由自在に操れるようで、僕は全部の口に耳を傾けなければならない。
しかも、どうやら特殊な性格をしているようで、上手く使えるか不安になる。
如月さんが僕の腕を見て、「何よそれ」と言葉をこぼした。
正直言って僕も同じ気持ちです。
こんな進化をするとは夢にも思わなかった。
「生命力吸収・・・でいいのか?」
「うほおおお! 主人のお言葉マジ感激!」
「ありがたいお言葉に目から鼻水が」
「だけど失礼ながら訂正を」
「生命力吸収は過去の劣化した俺様」
「俺様の元の名は魂喰い・・・化け物だろうが悪魔だろうが喰い散らかす。それが元の俺様だぜぇ~。」
「でも、それも全て過去」
「今は新たな名前を」
「主人が望む名前を」
「・・・分かった。後で考えておくよ。じゃあ、今この状況にお前は何が出来る」
周囲は溶岩の海。
僕自身はアイスアーマーで拘束。
この状況を打破できなければ進化した意味がない。
「主人の望みなら、そのスキルを喰うぜぇ~」
「主人の望みなら、その環境を喰うぜぇ~」
二の腕にある口と肘にある口が言った。
「放出されたスキルならほとんど支配力も残ってないからな。あわせて環境も喰えば主人に害をなすものはなくなるぜ! さあ、命令を! 俺様の使用を! 主人を害するものの吸収の許可を!」
「分かった。それじゃ、好きなだけ喰らえ」
「待って! 瀬尾くん! 何をするつもりなの!」
如月さんが叫ぶが、気にする暇はない。
二の腕と肘の口が大きく開いて何かを吸収し始めた。
「主人にこのような拘束など不要。全て俺様が吸収するぜ!」
アイスアーマーが光になって肘の口に吸い込まれていく。
「えっ! おい! 顔のも!?」
フェイスガードの割れた部分をカバーしていた氷まで光になて消えていった。
流石に顔を焼く熱風を予想して手で顔を覆うが、顔に届いたのは心地良い風だった。
「主人に害をなす環境は、全て俺様が吸収するぜ! 溶岩の海だろうが雪山だろうが主人の行動を妨げるものはこの世に存在しない!」
なんという・・・進化。
僕にとってすごく都合のいい機能になっている。
「毒ガスも?」
「吸収するぜぇ。主人にはきれいな空気しか届かないようにしているからよ」
それなら行けるのか?
立ち上がって、一歩一歩と溶岩の海に足を進める。
その時、僕はようやく足が自由に動くことが分かった。
「足が・・・」
「ああ、加重のやつが主人の思いにつられて不調をきたしたんで、俺様の方で調整しときましたぜ」
「加重って・・・もう使えないのか?」
「使えるぜぇ~。一定条件下であいつが活躍できるように調整済みだ。主人、炎の小僧が付与していた時に出してたハンマーをイメージしてくれ」
「・・・こうか?」
ズシンと右腕の重みが増した。
それは・・・色だけが違うあの時の大鎚と同じ大鎚が、僕の右手に握られていた。
・・・いや、これは握っていない。
完全に一体化している。
「このハンマーに加重が発動できるようにしてるぜ。それで敵を攻撃する度に加重が仕事できるようにしている。存分に使ってくれ。そっちの方があいつも喜ぶんでね」
「・・・ありがとな」
あのダンジョン以来、モンスターのトドメを任せ続けたスキルだ。
これからもトドメは加重がメインになる。
大鎚に乗せることが出来るのなら倒しやすくなるはずだ。
「瀬尾くん! どこに行くつもりなの!?」
如月さんが僕を止めた。
ああ、この人には迷惑をかけることになるな。
「あいつを倒してきます。如月さんは自分自身を守っててください」
「新しいその右腕の力なの? 信じていいの!?」
「大丈夫です。あの魔人の顔面をこれで潰して木下と戻ってきますよ」
「・・・止めることはできないみたいね。あー、和臣くんに何か言われちゃうかな。まぁ、しょうがないか。生きて戻ってきてね」
「はい!」
溶岩がビキビキと音を立てて元の岩に姿を戻す。
僕にとって害をなす環境の改善・・・。
行ける!
思った瞬間走り出した。
行ける! 行ける! 行ける!
目の前では魔人と木下が殴り合っている。
僕には全く気が向いていない。
・・・絶好の好機!
「避けろ、木下ぁ!!」
飛び上がって、大鎚を大きくして魔人と木下をまとめて潰す勢いで、それを振り下ろす。
「どぁ! あぶねー!!」
木下は上手く避けたようだ。
だが、魔人は避けることができずに咄嗟に庇った右腕の下から僕を睨む。
「貴様!」
「眼中にもなかったんだろう? お前の判断ミスだ。甘んじてこの一撃は受けとけ! 加重!」
受ける重量が急激に増えて、魔人の体勢が崩れた。
そこを見逃さず、僕は力一杯大鎚を振り抜く。
魔人は耐えきれずに溶岩の海に落ちて、僕は溶岩が冷えた岩場の上に、木下は溶岩の上に立った。
「待たせた」
「待ってない。ったく。大人しくしとけっつーの」
魔人が溶岩から姿を現す。
その表情は能面のように感情がなく、ただただ僕たちを見ていた。
・・・さあ、第二ラウンドだ。
こいつを叩き潰して、次に進もう!