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人類はレベルとスキルを獲得出来ませんでした  作者: 妹尾真拓
阿蘇ダンジョン攻略編
90/197

探索者のマナー講座

ブックマークありがとうございます。

ようやく20を超えたので、ちょっと感動しました。

拙い文章ですが、これからもよろしくお願いします。

氷の壁が見えて、僕は少しホッとした。

まだ会ってないだけで他にもモンスターがいる可能性があったからだ。

戻ってきた合図として壁をコンコンと2回叩き、少し間を開けて3回叩いた。

僕が屈めば入れるほどの入り口ができてそこから中に入ると、腕を組んだ如月さんと正座をしている木下がいた。

・・・既に足は痺れているようだ。

木下からヘルプの視線が送られる。

僕はため息を一つついた。


「どうしたんですか?」

「おかえり、瀬尾くん。和臣くんには、今探索者のマナーを教えています」

「・・・何を言った?」

「怒らせることは言ってない! ただ、トイレに行きたいから日和子が出してた場所を教えてもらおうとしただけだ!」

「アホか」


呆れてものが言えない。


「お前は女性用トイレに入る趣味でもあるのか?」

「そんな趣味あるわけないだろ!」

「さっきのセリフは同じ意味を持つんだよ」

「・・・」


表情からしてよく分かっていないようだ。

仕方ないので如月さんに許可をもらって木下を立たせ、彼女に声が届かない場所へ移動した。


「さて・・・流石に呆れるしかないけど」

「何でだよ・・・日和子のマンションでは一緒のトイレに入っているのに」

「それはちゃんとした水洗トイレだろ。今ここにそんな便利なものがあるか?」

「いやないけどさ」

「彼女みたいにスキルで一定範囲を支配下に置くと、物も簡単にはダンジョンに吸収されない。地面も硬すぎて掘って排出物を隠すことも出来ない。臭いとか出ないように凍らせるのが精一杯だろうよ」

「・・・」

「見られたくないだろ、好きな相手に」

「・・・じゃあ、俺は何て言えば良かったんだよ」

「トイレに行きたいから、出していい場所を教えて欲しい。あと、見えないように囲ってくれると助かるってとこかな。態々如月さんが出した場所を聞かなければ良いだけだよ」

「そうだったのか・・・。京平は? トイレ大丈夫なのか?」

「今この状況で僕に聞く? まあいいけど。僕の装備のお尻にオムツみたいなものがついてて、出したら下から包むようにして出す。それで終わり」

「お尻とか拭かないのか?」

「お尻拭きを持ってきてるから、拭ける時は拭くけど、今この環境じゃ出すときに可能な限り拭きながら出すぐらいか」

「下痢だったら大惨事になるな」

「・・・お前マジで他の人に同じこと言うなよ。デリカシーが無さすぎる」

「・・・ぉぅ」


話が終わったと思ったのか、木下が戻ろうとしたその肩を僕は掴んだ。


「まだ終わっていない」

「何だよ・・・日和子に謝りたいんだ。早くしてくれ」

「これはいったい何なんだ?」


僕は左手に炎の大鎚を出現させて木下に見せた。

こいつの反応次第では、本気で1発殴る必要がある。

対して、木下の反応は・・・口を開けて眉間に皺を寄せ、首を横に傾けていた。


「何だこれ?」

「どう考えても、お前の付与による武器の具現化現象だろ」

「いやいや、こんな能力付与した覚えないし。俺は普通に付与しただけだ。京平が武器が欲しいって思ったから変な反応したんじゃないのか?」


確かにあの時僕は武器を望んでいた。

それも、今ここにある大鎚を完全にイメージしていた。


「つまり、僕に隠して危険になったら自動的に武器が現れるように仕込んでいたとか、そういうことじゃないってことか?」

「そんなことしねーよ。だいたい、こんなの無くても、お前の右足で踏めば一瞬だろ?」

「・・・」

「・・・え? 反応がねーけど・・・」

「・・・加重は逆に危険なことが判明して、今はスキルを切ってる。ボス戦でもこの大鎚は使わせてもらうから、よろしく」

「え? いや・・・そりゃ、いいけど・・・」


僕が頼りなくて隠れて仕込んでいないのなら問題はない。

話を終えて如月さんの元へ戻り、木下が「デリカシーがなくてすまない」と謝った。

如月さんは彼の言葉に組んでいた腕を解いて、「帰ったら私が知っているイロハをちゃんと教えるからね」と言って木下の頭を撫でた。

それから僕を見て、何も言わずに頭を一度下げる。

彼女なりの感謝の意思表示なのだろう。

それから木下は、如月さんに連れられてトイレで用を足してスッキリした顔で戻ってきた。


僕は手首や肩の調子を確認する。

これからボスに挑戦する。

支援があるとはいえ、牛頭馬頭にあれだけ苦戦したんだ。

アレ以上の激戦を想定しておこう。

少なくとも、生命力吸収に関しては対策をされていると考えた方がいい。

その上で戦う。


「すみません、如月さん。アイスアーマーの修復をお願いします」

「・・・今更だけど、本当に挑むの?」

「ええ、挑みます」

「・・・いくら超レアスキル保持者でも、ボスに単独なんて・・・いや、そもそも単独でモンスターの戦闘は勧められないって分かっているよね?」

「分かってます。ですが、今回も2人の支援をもらって挑みますから、厳密には1人ではないんですけどね」

「1人で戦うんだから単独って言葉はあってるよ。なかなか強情ね」

「如月さんも、少しは分かるでしょ、メインダンジョンの先駆者なら、それを別の誰かに、しかも他のダンジョンの探索者に更新されることの意味が」

「・・・分かるけどね」


ブラックアイズは霊峰富士の先駆者だ。

そのダンジョンの顔となるべき存在は、それだけで同じダンジョンをメインとしている探索者たちの誇りになることが多々ある。

その誇りが、全くの部外者に更新されたとき、周囲の探索者のテンションは一気に落ちてしまう。


失望・・・軽蔑・・・。


もしこのまま帰ったとして、僕の装備の記録から木下が最新の先駆者と記録されたとき、僕はそれらの視線に晒されることになる。

無関係な第三者の感情なのだが、憧れの存在が少しでも落ちてしまうと、好意は一気に嫌悪になってしまうからだ。


僕はこれからもこのダンジョンを攻略し続ける。

おそらく、パーティも組むことになるだろう。

その時に、好意を持たれているのと嫌悪を持たれているのとでは、状況が変わってしまう。


前に進むためにも・・・僕はこの階のボスを1人で倒す!

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