閑話 鬼木玲花の独り言
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契約企業へのノルマも終わり、新幹線で帰宅しようとした時に携帯電話が鳴った。
まずその音にびっくりして、マナーモードにしていなかった自分の迂闊さにちょっと自分を叱りつけて耳につけた。
「はい、鬼木です」
『飯田だ。急ぎで悪いが、福岡の甘木市まで行ってくれ』
「急ですね。福岡はいいですが、甘木市? 何処ですか?」
『福岡県の中央から南の境ぐらいにある市だ。田畑が多い田舎をイメージすればいい。そこで少年を1人スカウトしてくれ』
電話の相手は組合の本部長だった。
普段無駄に詳しく説明してくれるのに、今日は珍しく要領を得ない電話だ。
「もうちょっと情報をください」
『残念ながら、私もそう多く情報を得ていない。だが、この数時間の情報だけだが、C級のカマキリタイプのモンスターを倒したらしい』
「・・・その少年は何歳ですか? 状況によっては私はその子をぶちのめしますよ?」
『ぶちのめすな。まあ、性格が悪ければ矯正しても構わん。だが、確実に引き込め。何かしら強いスキルを得ていなければ、C級を単独討伐はあり得ない』
「単独ですか!?」
モンスターはそもそも、1人で相手するものではない。
探索者になったとしても、最初は気の合う仲間を探して、役割を決めてから向かっていく相手だ。
ましてや、C級なら尚更だ。
「スキルの名称も情報無しですか?」
『まだ無い。分かり次第追って伝える』
福島のダンジョンアタックで出た魔石を渡したから、金属バットは自宅に置いてこっちに来てしまった。
面倒ごとが無ければいいのだけど・・・。
新幹線に乗って博多を目指す最中に、福岡県のダンジョン情報を調べると、警察のダンジョン注意サイトに甘木市の未確認ダンジョンがアップされていた。
SNSを調べていると、警察と自衛隊が陣取り合戦している情報があった。
・・・私も急がないと。
博多について急いでタクシーに駆け込んだ。
そこに行くまでに何人かに声をかけられ、サインや握手を求められたが、本当に急いでいたため握手だけして車の中に入った。
「甘木市までお願い」
「高速使いますけど良いですか?」
「早く着くならそれで良いわ。いつまでに着きそう?」
「ざっと1時間はかかるかと」
「電車で行くよりはマシね。お願い」
「はいよ」
向かっている途中でメッセージが届き、対象が甘木高校在籍していて瀬尾京平という名前であることがわかった。
「ごめんなさい、甘木高校ってわかる?」
「いやー、地元の高校だと思うけど、信号で止まったらナビを入れるよ」
「お願いね」
平日の高速だからか、渋滞もなくスムーズにタクシーは走り、対象の情報を確認していると、あっという間に目的地に辿り着いた。
「鬼木さん、こっちです」
「藤森! あんたも来てたのね」
「鬼木さんが間に合わなかった時の代理としてです。間に合って良かった。警察は甘木署長の梶原と自衛隊は西部方面隊長の城島が出てきました。向こうも本気みたいです」
「こっちも本気よ。C級単独討伐出来る人材は逃してはいけないわ!」
最近、私が個人的に追っている相手の情報も全く入ってこなくなった。
しばらくはこっちに意識を集中して、陰鬱な気分を吹き飛ばさないと参ってしまう。
私は校長室にノックをしてから入って既に中にいた2人を見る。
2人からも鋭い視線が突き刺さるが、この程度屁でもない。
私は堂々と3人がけのソファーの端に座った。
「まさか鬼子母神が来るとはな」
「探索者組合も本気というわけか」
「情報がちょっとでも遅かったら危なかったわ」
牽制をして待っていると、ドアがノックされた。
入ってきたのは、平均的な体型の高校生。
顔はそれなりだろうか? 私の趣味ではないけれど、女性ウケは良さそうだ。
顔合わせと探索者組合へのアプローチを終えて、私たちは一旦外に出た。
「どんな感じでしたか?」
「うーん、ちょっと荒事には不向きな性格かもね。本人も今の状況に戸惑っているみたい。藤森は本部に連絡してくれる? 今の状況と彼の個人情報ができるだけ欲しいのよ」
「承知しました。鬼木さんはこれからどうしますか?」
「私は彼が出てくるのを何処かで待つわ。せっかく他の2人がいなくなってくれているのだから、今のうちに押しておかないとね」
「押しすぎて嫌われないように注意してくださいね」
「引き際は弁えているつもりよ。あ、あと受肉祭が起きている可能性もあるから、県か市から探索要請が来てないかも確認しておいて」
「分かりました」
藤森と別れた後に瀬尾くんと一緒に行動し、なるべく探索者組合に悪いイメージがつかないように話をする。
しばらく移動していると、藤森から電話が来た。
山狩りを警察が計画しているとのことで、スピーカーにして瀬尾くんにも聞いてもらった。
今の甘木市がどれほど危険な状況にあるか知ってもらいたかったのと、あわよくば探索者として加勢してくれないか期待した。
もちろん、今すぐモンスターを殺すことに慣れろとは言わない。
でも、ちょっとでも興味が引ければ・・・。
それなのに、別の問題児に手間を取られるとは・・・。
「み〜や〜し〜た〜!」
「ぎゃあああああ! 鬼木さんが何でここに!? 広島に行ってたんじゃ!」
「スカウトで呼び出されたのよ! 断じてあんたという問題児の相手をするために来たんじゃないの!」
「痛い! 痛すぎる! 般若ですか!? 渾身の力を般若にこめてるんですかぁぁぁぁあああああああ!」
「正解よぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!」
頭から手を離すと、その場でぐったりと倒れ込む宮下を私は見て横に座った。
「だいたい、何で貴方は福岡に来てるのよ。活動拠点は阿蘇でしょ?」
「いやー、何となく遊びに行きたいなーって思ってて、丁度数日休みにしようってみんなで決めたから、こっちに来てました。そしたら受肉祭だって聞いたものだから、いても立ってもいられず」
「遊びに行くにしても、3級探索者は申請を出さないといけないって私は何度も伝えたはずよ?」
「え? あ・・・あれ?」
「・・・そろそろ物理的に覚えさせないといけないみたいね」
「暴力反対! 覚えます! ちゃんとします!」
私はため息を吐いて立ち上がった。
彼女は韋駄天という超レアスキル持ち。
以前あったレアスキル狩りに遭う可能性もある。
あの人みたいな被害者は絶対に生み出してはならないと意思を強く持った。
「ほら、もうすぐ山狩りの時間よ。立って行くわよ」
「はい〜」
「気の抜ける返事をしない!」
「はい!」
それから組合からの参加者全員で山の中へ入って行くと、ゴブリンが複数確認され、警察の拳銃の発砲音と共に森がざわつきだした。
「うーん、めぼしい装備をしている個体はいないですね」
警察は積極的に山狩りをしているが、探索者チームは、まず標的の装備を確認して狩るかどうかを決める。
もちろん、こっちに向かってくる時は迎え撃つが、無駄に体力を消耗しないのが長期戦のコツだ。
「ちょっと私も奥に行ってきます」
そう言って、宮下も韋駄天を使って樹々を蹴り跳んでいく。
私は地上を走る派だから、あんな動きは出来ない。
宮下だからこそ出来るのだろう。
ちょっと才能の差に嫉妬を感じながらも私はみんなの後をゆっくりと移動する。
この場での私の役割は、漏れ出たモンスターの討伐だ。
率先して狩る役割は他の探索者に任せる。
結局、大平山の奥にゴブリンキングとその取り巻きがいたが、大した装備はしていなかったので、探索者と警察の混合で無理なく倒すことができた。
良さそうな装備はしていないが、これでキング?
私はその場を離れて何か落ちてないか確認していると、向こうから白狼のパーティがこっちに来ていた。
「クソ! あのガキのせいで無駄足だった!」
「いくつか良さそうなアイテムあったのに・・・」
どうやら誰かと揉めたようだ。
しかし、ガキというキーワードが気になる。
「何か揉め事ですか?」
私は努めて笑顔を作って、彼らの味方をして問いかける。
彼らの言い分を聞いていると、藤森からメッセージが届いた。
・・・なるほど。
はぐれモンスターが居たのか。
キングの装備が貧相だったのはそのためか。
私は表情を変えて白狼のメンバーを睨んだ。
「貴方たちが絡んだ相手だけど、私がスカウトしている子なの。C級を単独で討伐できる子なのよ。貴方たちのせいで組合に入らないかもしれない。お願いだからこれ以上絡まないように・・・いいわね?」
「あ、ああ、分かった。俺たちはこれ以上あいつに近づかない。それでいいだろう。みんな、行くぞ!」
聞き分けのいい子たちで良かった。
宮下みたいに、我が道を行くタイプだったら鉄拳制裁しないといけないとこだった。
それから瀬尾くんと再会して、私を化け物扱いした日野さんを睨んでやった。
あの人なんか、超レア無くても私と渡り合える化け物なのに!
それから瀬尾くんは、一旦自衛隊に席を置くことになった。
どうも、話に聞くダンジョンがブレイクの可能性があるとかで、早急な完全攻略しなければいけないらしい。
ここにいる高ランクの探索者は私と宮下、藤森の3人だけ。
中途半端な戦力なので、今回のアタックは自衛隊と警察にお任せする。
時間を見つけて瀬尾くんに面会に行くと、何だか少し逞しくなった彼に出会えた。
ああ、ここは鬼のやつが居るんだ。
可哀想に。
すごく扱かれているのだろう。
彼に扱かれると、途轍もなく成長するのだが、鬼に対するトラウマができるため瀬尾くんには乗り越えてもらいたい試練だ。
その後、瀬尾くんのスキルを体感してみた。
流石に般若を使っていれば問題ないだろうと思っていたけど、しっかり効いた。
凄い効果だ。
私の手に負えそうにない。
そして、瀬尾くんの記憶を奪った相手の話をして私は予約したホテルに入った。
「鬼木さんお帰り〜」
「何でここにいるのよ、宮下ぁ!」
「ぐへ!」
私の渾身のラリアットが決まって、ベッドに倒れ込む宮下。
彼女の上に、私は素早く馬乗りになり、右手で顔面を掴む。
「さあ、答えてもらいましょうか、問題児。私は阿蘇に戻るよう言ったはずなのに、何でいるのかな?」
「え? ・・・あ、あのね・・・えへへ」
「笑って誤魔化せると思うな!」
「いたああああああああい!」
「だいたい、どうやって部屋に入ったの!?」
「フロントでお願いして私の分のお金を払ったら入れてくれました! 今日は一緒に寝ます!」
「ここはシングルの部屋よ! フロントが止めたはずでしょ?」
「鬼木さんと一緒に寝ますって恥ずかしがりながら言ったら入れてくれました!」
「誤解を与えるようなことを言うな! 私にもイメージってものがあるのよ!」
「ぎゃあああああああああああ!」
この問題児は!
私のアイアンクローを食らっても反省しないのはこの子だけ。
いい加減にしてほしい。
それからアタックの日になって、私はホテルで結果を待っていると、藤森からメッセージが来た。
最後は城島が鬼にドーピングしてボスを倒したらしい。
「はぁ!? ベルゼブブ!? 大悪魔じゃない! そんなやつにまで生命力吸収が効いたの? ・・・規格外だわ」
「どうかしたんですか」」
「山狩りでキングのアイテム一式を手に入れた子がいたでしょ? あの子がダンジョンアタックで大活躍したのよ」
「へー、どんな子でしたっけ?」
「ちょっと大人しめな子よ。この前見た時は身体ががっしりして頼り甲斐があったけど」
「フーン」
「・・・興味ないなら聞かないで」
宮下の頭にチョップをして、私は窓の外を見た。
また東京に戻って情報を集める日々が戻ってくる。
日野さんも警察としてあいつの情報を集めているんだろう。
窓の外には、田んぼと畑と家の光がチラホラあって、ザ・田舎といった風景が見える。
遠くではちょっと明るくなっていて、消防車が向かって行くのが見えた。
火事だろうか?
まあ、大したことにはならないだろう。
・・・私は葬式に出席していた。
喪主は瀬尾くんだ。
彼の祖父母が何者かによって殺された。
彼の目は赤く充血し、何処か遠くを見ている。
私は何も言わずにお辞儀してその場を離れた。
「玲花も来たのか」
「日野さん」
日野さんが久々に私を名前で読んだ。
「向こうで話そう」
どうも、人が多い場所では話せないことがあるらしい。
私たちは、彼の車に乗ってドライブすることにした。
「安部浩というやつが火を放ったらしい」
「・・・どんなやつなの?」
「火魔法のスキル持ちだ。詳しいことはまだ不明だが、最低でも3つのスキルホルダーで認識を改竄できる厄介なやつだ。瀬尾の祖父母のアイテムを奪って行ったらしい」
「アイテム狙いの強盗ね」
「・・・反神教団が絡んでいる可能性がある」
「・・・本気?」
「本気だ」
拳を固く握る。
上手くいけばやつの尻尾が掴めるかもしれない。
私が泊まっているホテルで別れた。
必ず仇を取ります。
紗良先輩。
第一章の追加です。
アルファポリスとの差別化を図ります。