暴走する2人と土の武者
不調と高熱もあって大変遅れました。
楽しんでいただければ幸いです。
糸が張られていた。
ちょうど僕の踝付近で、普通に歩いていると引っ掛かる高さだ。
僕は慌てずにちょっと大きめの石を手に取って糸の手前に落とす。
石はただ落ちただけなので、僕はその場に移動して同じ石を拾った。
今度は、ちょっと強めに石を糸の奥に投げる。
ヴォグッ!
石は穴を開けて地面の奥に落ちていった。
このように、糸を見つけたら最低でも2段階の確認が必要になる。
ひとまず、落とし穴の広さを確認して、安全な壁際を歩いた。
その際にも壁に変なものが設置されていないか注意する必要がある。
罠察知のスキルを持っていないと、こういう事をアタック時に常に行う必要があるのだ。
僕はその後も天井床壁を注意深く確認しながら進んでいき、木下は僕の後ろからついて来る。
「レイス3か・・・」
姿が見えるギリギリの場所からモンスターの姿を確認した。
確認したからと言って、すぐに戦闘を行ってはいけない。
もしアイツらの足元にトラップがあったら、ダメージを受けたうえで不利な状態でモンスターの相手をすることになる。
不審な穴や段差などは存在しないが、安全が分かっている所に引っ張って戦うのがベストだろう。
野球ボールぐらいの大きさの石をいくつか取って、手前の何ヶ所かに投げ、落とし穴の罠がないことを確認してから、レイスに向けて石を思いっきり投げた。
当然ながら、物理無効のモンスターに対して石投げは全く意味がない。
それらはレイスの身体を通り抜けて、遠くの方でカツーンと音を立てて落ちた。
「来るぞ!」
「分かってる!」
木下の声にイラッとして、石で床の状態を確認した場所まで進む。
大丈夫。
壁や天井にもそれらしい物は無い。
レイスが3体、罠が絶対ない場所まで来た。
僕は床を蹴って走り、更に壁を駆け上がって1体のレイスを掴んで降り、右足で踏む。
ドォン!
足の裏が爆発した。
レイスは僕が引き千切る間も無く消えていく。
木下が僕の足に火属性か何かを付与したのか?
余計な事を!
僕が次を狙って上を見ると、2体のレイスを幾つもの火の玉が爆発してレイスは僕の方に降りてきた。
そのうちの1体を掴んで踏み、消えるのを確認せずに2体目を掴んで踏み潰す。
両方とも最初のレイスと同じように、踏まれて爆発が起こると光になって消えていった。
僕は木下の方へ歩いていき、胸の鎧を掴んだ。
「何のマネだ?」
「何もねーよ。こっちの方が早いと思ったからやっただけだ。日和子の命がかかっているからな。変なことに拘ってられねーんだよ」
木下が僕の腕を掴んで鎧から引き剥がして放す。
「俺が先を歩く」
「自分勝手だな」
「ああ、自分勝手だよ。でもこっちの方が確実に早い」
先を歩こうとした木下の横に僕は並ぶ。
そのまま追い抜こうとしたら木下が進むスピードを上げてきた。
負けじと僕も歩くスピードを上げるが、そうなると罠に対する注意が疎かになる。
木下が糸を切る。
僕が落とし穴を踏む。
ガスが噴射される。
矢が飛んでくる。
石が落ちてくる。
「何引っかかってんだ!」
「お前が焦らすからだろ! そっちガスを噴射させてるじゃないか!」
「何も無いところからいきなり出たんだ! 俺のせーじゃないし!」
「お前のせいだろ! 穴は隠れてなかったぞ! 自由勝手に突っ走って!」
「俺の横を走ってるお前は何だよ! 俺より罠にかかってるくせに!」
「誰にも迷惑かけてないからいいんです!」
「はぁ!? だったら俺も迷惑かけてないだろ!」
「僕に迷惑かかってますー。残念でした」
「おうめっちゃムカついた。外出たら絶対殴る!」
「そう簡単に殴らせるかよ! 来るときは覚悟して来いよ!」
ボコ! と地面に穴が空いた。
また落とし穴を踏み抜いたらしい。
僕は左足で地面を蹴って宙返りをして落とし穴を飛び越える。
身体強化があるからこそできる芸だ。
あと、落とし穴慣れも多少あるだろう。
木下は、矢や槍に全身を貫かれながらも進む速度を落とさない。
いくつか魔法かかっていなかったか?
ダメージがあったはずなのに、それを感じさせず飛んでいる。
互いに引かずに進んでいると、目の前に分かれ道が現れた。
「右行くぞ!」
「ふざけんな左だ!」
この野郎!
「おいマジふざけるな! お前の勘は当てにならないだろ!」
「テメーこそ何指示してんだ! 俺の運が良いことは知ってんだろうが!」
「お前の運だけだろうが! そのせいで僕がどんな目に遭ったか忘れてないだろうな!」
「今その話題を出すか!? 人命掛かってんだぞ!」
「だからこそお前のヘボ運に賭けたく無いんだよ!」
「ああ! もうウゼー!」
木下が強引に僕の首を掴んだ!
「こっちだボケ!」
「あっ! 木下お前!」
強引に引っ張られて左の道に引き摺り込まれた。
・・・そして早速毒ガスが視界を覆った。
「恨むぞ! 木下ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ウッセー! どうせ浄化フィルター付けてんだろ! 気にすんなや!」
加重を切っていなかったのでそれなりの重さがあったはずなのに!
こんな場面で馬鹿力を出して!
それからも罠やモンスターを潜り抜けて、ようやく大きな扉がついている部屋の前に着いた。
僕の手足には木下の火が付与されていて、捕まえれるB級モンスターなら加重無しでも倒せるようになっている。
「土は防御系だから、僕の加重とドラゴンバスターだけで十分だ」
「付与は解除しねーぞ。そっちの方が早く終わるだろ」
確かにその通りだ。
僕は扉を開いて中に入った。
中は無骨な岩肌だけの広い空間だった。
ドラゴンバスターを撃つと落石が起きそうだが、防御型にはあれを撃たないと倒せそうにない。
撃つときは覚悟を決めて撃とう。
そして、目の前に他の武者とは装甲の厚みが明らかに違う武者が座っていた。
「オテナミハイケン」
「!」
「最初から喋りやがった!」
僕が先制するため、一気に走って武者に向かう。
アイツはまだ立ち上がっていない。
今なら一撃が与えれる!
その考えを読んだのか、武者が僕を見て地面を叩いた。
「イッ!?」
地面から大量の壁が現れた。
突然の障害物に僕は突進を止めれず、壁にぶつかってしまった。
毎回思うが、ベルゼブブの籠手は優秀だ。
「クソ! こんなことで止まるか!」
周囲を見渡すとわざとらしく通路のようになっていることから、迷路のようにしているのだろう。
分断の意図か、それとも時間稼ぎか?
だが、相手の思惑に沿ってやる必要はない。
右足のレバーを上げて、踵を壁に蹴りつけた。
「ぶち抜けろ!」
ドラゴンバスターの光が壁を貫く。
奥の壁も何枚も貫いた音がした。
上手くいけば、武者の場所まで届いているはずだ。
壁に出来た大穴の先に・・・武者はいた。
遮る物はない!
「行くぞ!」
冷却のボタンを押して僕は走る。
武者も立ち上がって大太刀を構えている。
先ずは足を潰す!
武者が大太刀をまず振りかぶった。
僕は走りながら石を拾い、牽制で投げる。
ガギン!
鎧に当たったが、何らダメージは与えれなかったみたいだ。
太刀が振り下ろされた。
半身になってそれを避ける。
大丈夫だ。
スピードは風のと比べるとかなり遅い。
振り下ろされた太刀は、地面に大きな亀裂を作るが、埋もれることなくあっさりと引き抜かれた。
その間に、僕も武者の横に移動して右足の膝関節を破壊すべく右足で蹴った。
ドォン!
木下が付与した何かが効果を発揮して爆発を起こす。
武者がよろめくが、まだまだ膝は健在だ。
・・・部位破壊でもドラゴンバスターを使わないといけないのか?
残り2発。
青鬼やアイスドラゴンのように防御の壁を作らない事が救いか・・・。
距離を空けないよう、更に近づいて左拳で胴を殴る。
ドォン! と先ほどと同じ爆発が起きたが、膝の時ほど効果はない。
「チィ!」
武者が太刀を横一線に振る。
下がっても刀が届くため、僕はしゃがんで回避すると、目の前に武者の右腕が飛び込んできた。
コイツ!
左手だけであの大太刀を振ったのかよ!
人間には出来ないことを平気でやってくれるよな!
右拳をまともに受けて、僕の身体は壁に衝突する。
「あー、本当にベルゼブブの籠手様様だ!」
圧倒的な質量攻撃や装備を確実に破壊されない限り、打撃系の攻撃が僕にダメージを与えることはない。
僕が無傷で立った所に、武者は太刀で突いてきた。
身体を捻ってそれを躱すと、僕の目の前に刀の刃がギラリと光って見えた。
・・・マズイ。
思わずしゃがむと僕の頭上を太刀が通り過ぎていく。
このままではマズイと思い、急いで最初の位置に戻って構える。
向こうも太刀を構え直して、仕切り直しの状態だ。
だが、この武者はアイツのことを忘れてるみたいだ。
「間に合った!」
叫び声と同時に火の玉が次々と武者に襲いかかる。
火力は抑えているようだがそれでも無視できない数なのか、武者は火の玉をいくつか刀で振り払って消して足が完全に止まっている。
「遅いぞ、木下」
「壁をぶち抜いたら、そんな火力見せるな! って何処ぞの誰かが言うからな! 大人しく迷路を辿ったんだよ!」
「その誰かさんはこう言うと思うよ。『何で飛んで来なかった!』この壁3メートルぐらいで天井までついてないだろ?」
「・・・」
「・・・」
「知らん!」
「見たら分かるだろうが!」
とはいえ、状況は変わった。
これでドラゴンバスターが撃ちやすくなる。
「木下、火の玉の威力をもう少し上げて良い。だから、合わせてくれ」
「おう!」
レバーを上げて武者に向かって走る。
武者も僕を見ていたが、火の玉の威力が上がって僕への対処ができないでいる。
だが、それでも大太刀の範囲に入ると、武者は火の玉を無視して僕に対して両手で刀を振りかぶる。
木下の火の玉で少しはダメージがあるはずなのに、僕を優先させたようだ。
「来い!」
刀が振り下ろされる。
僕は加速して少しだけ左へ避ける。
僕の右側を刀が通り過ぎた。
僕は足を構える。
狙うは武者の右脇腹。
「もうチャンスはない」
狙った場所を正確に蹴りつけ、ドラゴンバスターが発射した。
武者がドラゴンバスターの光をまともに受けて吹き飛ぶ。
壁をぶち抜いて倒れた武者に、僕は飛びかかって右足で踏みつけた。
ドォォォン! と音を立てて武者の胸が凹み亀裂が生まれる。
僕は冷却ボタンを押して何度も踏む。
武者の刀を持った右腕が動いた。
ドラゴンバスターで手放さなかったのか!
「反撃のチャンスは、ない!」
踏む踏む踏む踏む踏む踏む踏む踏む踏む踏む踏む踏む踏む踏む踏む踏む踏む踏む。
何度も踏むつけると鎧も崩れだし、砂に変わっていく。
・・・これじゃない。
「騙されると思ったか?」
僕は足のレバーを上げた。
「最後だ!」
最後のドラゴンバスターを亀裂の入った胸に放ち、土の武者の身体が千々に飛び散って光に変わっていく。
それを見て、ようやく安心した僕を最後に残った兜が見た。
「・・・オミゴト」
「オボエタゾじゃないのかよ・・・」