地下3階 坑道と亀裂
地下3階では、綺麗に整備された坑道が僕らを迎えてくれた。
同時に鉱夫の亡者たちが僕らに向かって来る。
動きは遅いが、その分怪力を持っているはずだ。
「ここは木下がメインで動く場所みたいだ」
「おう! 任せろ」
火の玉を三つ作り出し、前方に配置して木下自身は浮いて前へ進む。
「アアアアアアアアガガガ」
モンスターたちが木下に狙いを定めて襲いかかって来るが、その手が彼に届く間も無く火の玉が彼らの胴体に当たってすり抜けた。
「三丁あがり!」
すり抜けた亡者たちは、自重を支えることができずに炭となった胴体から崩れ落ちて光に変わる。
「罠には気をつけろよ」
「ああ、それにはちょっと考えがある。完璧に対策できるぜ」
自信満々にそう言って、木下は何かを振り撒いた。
・・・温度を操作したのか?
それも微妙な上がり方で繊細なイメージや集中力が必要なはずなのに、木下は平気な顔をして浮いている。
「よーし! 成功した! これで全部分かるぜ!」
「何をしたんだ?」
「炎帝は火と熱に絶対の力を発揮するからな。周囲の熱を知覚? してなんだか見えるようになった。落とし穴とかの形状も分かるぜ」
「・・・攻撃系のスキルなのに、何で斥候系の役割ができるんだよ」
「さあ・・・出来たもんは出来た。それでいいんじゃねーか?」
強力なデバフの生命力吸収でも、あくまで吸収だけの機能しか持っていない。
支配系というスキルは初めて聞いたが、これ程強力なスキルなのか・・・。
水系統のモンスターや水のフィールドとは相性は悪いだろうが、土のエリアでこんなことができるのなら、1人で完結してしまっている。
そのまま進んで行くとゴーレムやレイス系も出てきたが、木下の敵ではない。
全て火の玉で炭となって消えていく。
罠も、最初の時とは逆で、僕が教えられる状況になった。
・・・こいつはドンドン成長していく。
ギリッと歯が軋んだ。
こいつには聞かれたくない音だ。
「そこまで範囲は広くないけどよ、安全に行けるぐらいはあるぜ」
僕の思いも知らずに木下は進んで行く。
その進みに迷いはない。
・・・こいつは探索者として僕の上を歩いている。
僕は何も言わずに、木下の後ろをついてった。
しばらく進むと巨大な空間が広がり、目の前には大きな亀裂と木の吊り橋が見えた。
「・・・」
「どうした?」
立ち止まる僕に、木下が聞いてきた。
「僕の加重を一回解除する必要があるんだ。このまま進むと橋を破壊することになるから」
「俺がお前を運ぶことは?」
「多分出来ない。加重は僕以外の全てに影響を与えるスキルだから」
この時間までの積み重ねた重みが全て消え去るのはかなりの痛手だ。
先に進むためにはやむを得ないので、僕はスキルを解除して橋を渡り、再度スキルを使う。
・・・満足いく重さになるまでには、数時間は必要だ。
特に今回は防御特化だと思われる土の武者。
木下の手札はこれ以上見せたくない。
「てっきり、下から何か襲って来るかと思った」
橋の下を見ながら木下が言った。
僕も同じ意見だった。
橋が崩落して仲間が落ちていくのは定番のストーリーだからかなり用心していただけに、ちょっと拍子抜けした。
ちなみに僕たちは目の前のモンスターの大群には何も驚異を感じていない。
「木下・・・GO!」
「俺は犬じゃねーぞ! 行くけどよ!」
炎の巨大な波が一気にモンスターを襲いつつむ。
・・・って、おい・・・。
「木下・・・」
「何だよ!」
「手札は出すなって言ったよな?」
「・・・あ」
「最後に本命がいるって、そいつが見てるって言ったよな?」
「いや、待て。気分だ! 気分!」
「気分でお前は新技出すのかよ!」
「うっせーな! だいたいお前が犬みたいに指示したのがいけねーんだろうが!」
「それでも普通の火の玉で十分倒せただろーが! わざわざ炎の波にした理由はなんだ!? ド派手に大群を倒してドヤ顔したかっただけだろ!」
「ふざけんな、テメー! 自分の言ったこと無視して俺だけ責めてんじゃねーぞ! 俺が下手に出てりゃイイ気になりやがって!」
「イイ気になってねー! それに! お前の言動のどこが下手だったよ! 今までのお前の行動は! ただ、大人しくしていた! だけだ!」
僕たちは睨み合う。
何だか、胸の中のムシャクシャが一部顔を覗かせているような感覚だ。
「あーそうかよ。だったら京平が先を行けよ」
「はぁ? 何言い始めているんだ?」
「お前、あれだろ? 俺が強いから嫉妬してむかついているんだろ?」
「・・・」
頭に血が上る。
今の僕の顔は血管が浮き出ているに違いない。
その事に気にも止めず、木下が偉そうに胸を張った。
「今のお前は俺のスキルにおんぶに抱っこだからな。そりゃ、差を見せつけられて悔しいよな? 探索できるか? 火力出せるか? 今のお前は俺なしじゃって、おい!」
自慢げに喋る木下を押しのけて、僕は先の行動に進む。
「おい! なに意地はってんだよ!」
「・・・後ろで見てろ」
「京平!」
「真面目に知識を学べば、ちゃんとした経験があれば、しっかりとした装備があれば! この程度の罠も! 敵も! 目じゃないんだよ!」
意地と言われようが何だろうが、ぽっと出のこいつにあそこまで言われた以上、この阿蘇ダンジョンで先を進まれるわけにはいかない。
このダンジョンは、僕と天外天のメインダンジョンだ!
部外者が調子に乗るな!
僕はまず坑道の木枠に触れて、その強度を確かめる。
結構しっかり作られているようで身体強化を使っていない状態だと押そうが引こうがびくともしなかった。
これなら突発的な崩落は起きないだろうが、ドラゴンバスターや加重の最大状態だとどうなるかわからない。
「ドラゴンバスターは封印して加重は影響が出始めたらオフにすれば大丈夫なはず・・・。中のモンスターもB級でパワータイプだから倒せるはずだ」
レイスも精霊と同じ部類なので、蝿王の籠手で掴むことが出来るはず。
中を進んでいると、知識通りの罠が至る所にあり、僕は石を投げたりスイッチを押さないようにしたりして進んで行く。
どうしても押さなければ先に進めない場所は、少し離れてちょっと大きめの石を優しく投げてスイッチの上に乗るようにする。
進行速度は確かに木下よりも遅くはなるが、罠に関しては問題はない。
問題があるとすれば、モンスターの方だった。
「くっ!」
鉱夫のツルハシを避けたところに、レイスの魔力弾を受けてバランスを崩してしまった。
足の加重はまだそこまで重くない。
鉱夫の左フルスイングをかわして足を引っ掛け転ばせる。
それから、その身体を踏んでジャンプし、浮いているレイスを掴んで着地と同時に踏み、左右に引っ張って千切った。
鉱夫が起き上がった時には、僕は落ちてる石を振りかぶって投げつける。
胴体に命中するが、貫通までは出来なかった。
それでも2個3個と石を投げ続けると、僕に近寄る前に鉱夫はうつ伏せに倒れた。
僕はその頭を何度も踏んで潰した。
ちょっとした岩ぐらいの重さに戻ったみたいだ。
「・・・おせー」
「本当なら3人以上の前衛と後衛でやるんだよ。鉱夫がパワータイプだから僕1人で出来たんだ!」
遅いという言葉が出る時点で、木下が何もわかってない証拠だ!
こんな何にも分かってない奴が僕より上?
冗談じゃない。
こんな知識もない奴には負けられない!