装備調整
木下を灼熱ダンジョンに連れて行くことになった。
甘木みたいな事にはならないから、問題無いんだが、こいつと行くというだけで不安が出てくる。
「装備を調整しないと」
「そんな事してるのか?」
「してるんだよ。精密機械の塊だからな。特に今回は、足の稼働を固くしてもらう必要がある」
僕の装備が見たいと2人が言ってきたので、今は僕も寝泊まりしている部屋へ連れて行く。
僕が松葉杖だから、2人の方が歩く速度は速いのだが、ゆっくりと僕の後ろをついて来てくれた。
こういう時も僕は木下の変わりように、内心ビックリしている。
以前のこいつなら、僕を押しのけて「何処がお前の部屋だ? 早く案内しろ」とでも言っていただろう。
部屋に入ると、中央に乾燥用の人形に装着された僕の装備が迎えてくれる。
「うぉぉぉぉ・・・マジかー」
木下が真っ直ぐ駆け寄って目を輝かせて見る。
触ろうと手を伸ばすが、微かな理性が仕事をしたらしく、触らずに手を下ろした。
そして・・・ガックリと肩を落とした。
「和臣くんはね、専用装備とか装備出来ないんだよ」
僕が木下の様子に首を傾げていると、如月さんが教えてくれた。
「スキルの弊害ですか?」
「そう。全身装備タイプのアイテムだったから、服や靴までは大丈夫だったけど、籠手も具足も武器もダメだったのね。スキルを手に入れるまでは、私たちの装備を羨ましそうに見てたから、憧れがあったっんじゃない?」
武器もダメとなると、それを補うくらい攻撃力もあるスキルなのだろう。
「ん? もしかして、もう他のアイテムを装備する事も出来なくなっているとか?」
「正解。試しに付けようとしたら、バチって静電気が走って弾かれてた」
独占欲の強いアイテムなのか?
しばらく見せていると、扉がノックされて、組合のメンテ担当者が入ってきた。
「えっと、右足の足首とつま先を固めるんでしたね」
「ええ。ちょっと今は右足が言うことを聞かないので、ギブスにように固めてしまおうかと」
「そうですね・・・ドラゴンバスターが違うとこ向いたら大変ですから、そちらの方が安全か・・・。何度か履いてみて調整しましょう」
それから何度も履いて、ダミーに蹴りを入れ向きや蹴り方を確認する。
今までのように身体能力任せのやり方では事故が起きてしまう。
そんな僕の様子を木下たちは眺めていた。
「専用装備も大変なんだな」
「彼のは特別だけどね。でも、私の装備も月に一回アタックしたらオーバーホールに出してるよ」
「・・・あるのと無いのとではやっぱ違う?」
「何が違うかは分からないけど、無いとダンジョンに入りたくないし、A級とは戦わないよ」
「そうか・・・」
そんな会話を側で聞きながら、僕は納得のいくまで装備を調整した。
途中で木下は飽きるかと思ったが、結局最後まで見て、ちょっと膨れっ面でどっかに行ってしまった。
如月さんも「またね」と言って、一緒に出て行った。
2人とも同じホテルでも予約しているのだろう。
・・・もう恋人同士なのだろうか?
・・・まさかな。
『それでは、準備ができたら阿蘇にラストアタックして別のダンジョンに行かれるんですね』
「専用装備が阿蘇を重視して作られているので、魔石関係はこっちに戻って手に入れるつもりです」
『そうですか。私どもとしましては、どこのダンジョンに行かれても問題ありません。ただ、お願いしたいことは死なないでほしいということだけです』
「・・・はい」
彼らが心血注いで作った装備を、身につけた探索者が3人も死んだ。
これ以上になるとジンクスが発生する。
そして、それはそのまま彼らの製品の信用に変わってしまう。
彼らのためにも、僕は決して死んではいけないのだ。
『それで、1人でアタックするのですか?』
「そのつもりだったんですけど・・・2人増えました」
『2人? 瀬尾さんの足手纏いにならないレベルが阿蘇にいますか? いたとしても専用装備の問題もありますよね?』
「1人はブラックアイズの人なので持っていると思います」
『お名前は分かりますか?』
「如月って人です」
『如月日和子さんですか。彼女は持ってますね。ブラックアイズのメインメンバーですから、氷の超レアスキル所持者です。もう1人は?』
「木下っていう僕と同世代なのですが、スキルの弊害で装備出来ないようです」
『・・・ブラックアイズに引っ付いていた子が、ちょっと前に宝箱を見つけたという情報がありましたね。その子ですか? 炎帝でしたでしょうか? まあ、帝級なら大丈夫でしょう。炎のスキルは阿蘇には適しているでしょうし』
問題無いでしょっと締め括ってその話は終わった。
炎帝の情報も仕入れていたようで、アタックに対して特に心配はしていなさそうだ。
『装備の話ですが、15秒がなかなか縮まりません。魔石とかではなく、ただ純粋にこれ以上早く冷却すると、金属が歪んでドラゴンバスターが撃てなくなるそうです』
撃てなくなるなら仕方ないのか。
『現時点で瀬尾さんが装備する物が、我々の最高傑作です。対人武器も、縄文杉やアイスドラゴンの素材が阻んで、瀬尾さんを傷つける事は出来ません。また、強烈な物理攻撃を受けても衝撃無効で、生身まで影響がくることはないでしょう。今瀬尾さんが持つ装備以上の装備は存在しないと考えても過言じゃありません。炎帝というスキルにも劣らないと自信を持っていますよ』
「それは心強い言葉ですね。にしても、向こうもかなりのチート性能を持っているみたいですが」
『そのようですね。私が聞いた話では、富士の風穴で、その身諸共大爆発を起こしてB級5体を粉々にしたそうです。ついでに魔石まで粉々になったそうで、館山さんから使用禁止を伝えられたとか』
「範囲攻撃ですか・・・」
羨ましすぎる性能だ。
物理攻撃無効もあるからこそ、遠慮なく自爆攻撃ができるのだろう。
あいつが暴れたら、対抗できる人なんて数えるぐらいしかいないんじゃ無いだろうか?
『それでは、ラストアタックが終わったら、また装備をオーバーホールという事で、製作陣にも伝えておきます。・・・実は製作陣も今回のことはショックだったみたいで、瀬尾さんの装備が今度メンテされるときは、斬撃関係に対して絶対防御ができるようにしたいと息巻いていました。それから、奪われた装備の一部の破壊をお願いされています。自分たちの作った物が人を傷つける物になって欲しく無いそうです』
「分かりました。必ず破壊します」
『お願いします』
そうして僕は、松嶋さんとの電話を切ってベットに寝た。
数日後・・・僕は阿蘇を離れる。
必ず追いつくよ・・・莉乃。