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人類はレベルとスキルを獲得出来ませんでした  作者: 妹尾真拓
宝箱探索編
62/197

ラストアタック・・・そして

アイテムを見つけてから、またちょっとのんびりして天外天のメンバーと打ち合わせをした。

ラストアタックは絶対安全が最優先だが、心残りも消したいとのことで、灼熱ダンジョンの残り2つの部屋を見て戻るということになった。

A級も莉乃がどれぐらい強くなったかによるが、最初は僕は前に出ず、みんなに任せることになった。

宿泊はせずに1日だけのアタック。


そうしてメンテが終わった装備に着替えながら、僕は胸のお守り確認した。


「また・・・使わなかったな」


進化の実が申し訳なさそうに揺れている。

僕はそれを装備の中に入れて、外装を付けていく。


ちょっとセンチになっているのかもしれない。

何のかんので、天外天とは2年ぐらいの付き合いだから寂しさも覚えてしまうのだろう。

僕が装備を終えてロビーに行き、天外天メンバーが来るのを待つ。

周りの探索者たちも、今日が天外天のラストアタックだと知っているので、彼女たちが降りてくるのを静かに待っていた。

そして高城さんから順番に降りてくる。


何処からともなく拍手が沸き起こった。


探索者として成功を収め、そして引退する彼女たちに向けて最高の賞賛。

天外天のメンバーはそれぞれが恥ずかしそうにして、手を振って組合を出た。


「だから裏から出よおって言ったのに」

「仕方ないじゃない。私たちみたいに無事に引退出来る人って少ないんだから。ちゃんと賞賛を受けないとダメだって支部長も言ってたでしょ」

「流石に顔が赤くなった気がする」

「私は引退しないんだけどねー。鬼木さんのシゴキが待ってるんだよねー」


いつも通り、阿蘇駅から南下してファイアバードの巣で鳥たちを追い払ってポータルに向かう。


そしていつも通り、灼熱ダンジョンの中に入った。


「さて、それじゃ分かれ道のある二つ目の広間にまず向かいましょう。前をお願いします」

「よーし! 今日は私の活躍を見せるぞ!」

「莉乃、頑張って!」


最初の広間の入り口で一度止まって、莉乃が腕輪を装備した場所に左手を添えた。


「風神招来!」


莉乃の掛け声を合図に、風が彼女を包み込んだ。

僕らも突然の突風にバランスを崩しかけたが、何とか踏ん張って莉乃を見守る。


そして突風が収まると、そこにはまるで精霊のような人形の存在が浮いていた。


「莉乃さん?」

「うん、私だよ」


その人形が、莉乃の声で返事をした。


「凄いね、これ! 全部分かるよ! これが神器! これが私の力!」


そう言うと、彼女は広間に突入した。


僕らも急いで彼女に続いたが、その時にはゴーレム2体とカバが細切れにされて光に変わっていた。


「早い!」

「これは・・・強すぎない?」

「神器ってどれもこれもこんなに規格外なの?」

「1級レベルも越してるんじゃない?」


ハッキリ言って、僕より強い。

遠距離近距離どちらも完璧にこなしているし、感知能力もあるみたいだ。


「早く来て! 次行くよ!」


莉乃が張り切って手を振っている。

姿形がいつもの莉乃じゃないため、多少違和感があるが、行動は莉乃のままだ。


それからすぐに次の広間に移って、また莉乃が無双する。今回は大猪とその取り巻きを1人で秒殺した。

もうお手上げ状態である。


「うぉぉぉぉ! 凄いよ、凄いよ!」


莉乃を除く僕らは何も言わず目を見て、莉乃に任せようと伝え合った。

今日は彼女が望む通路で進んだ方が良さそうだ。

魔石を拾って浮遊しながら移動する彼女を追いかける。


「こっち行くね!」


右の未踏エリアから行くようだ。

僕らはおとなしくついて行ってモンスターを狩っていく。


後をついていく僕の腕を、後ろから高城さんがトントンと叩いた。

どうも直接話したいことがあるようで、耳のダイヤルを指差して僕と高城さん自身を指差す。


「どうかしましたか?」

「いや、ちょっと心配になってね・・・」


楽しそうにモンスターを倒す莉乃を見て、高城さんは言った。


「ちょっと最初の頃の莉乃を思い出したのよ。あの時は楽しそうにはしてなかったけど、周囲を見ずに突っ走ってて・・・私たちは追いかけるのに必死だった。装備のおかげで追いつけたかなって思ったけど、今こうして何歩も先を行く人になっちゃったからね、同じ景色を見ることが出来る瀬尾くんにお願いしたいのよ。何かあったら、莉乃を助けてあげてね」

「はい」


ポンポンと最後に僕の肩を叩いて、高城さんは耳のダイヤルを回した。

僕も同じようにダイヤルを回してみんなと話せる回線に切り替える。


それからも莉乃の無双劇は続いて、部屋をさらに2つ進んだ。

まだ1時間も経っていないのに、この先進めは溶岩の海がある場所に出ることになる。

ラストアタックだし、それもいいかなっと考えて周囲を見渡すと、もう一つ出入り口があった。


「莉乃さん! 莉乃さん!」

「なに~、どうかしたの?」

「こっちの通路も行ってませんよ。多分、隣に行くると思うんですけど、行きませんか?」

「え? 隣? 先に溶岩の海を見ようかと思ったんだけど?」

「溶岩の海は前回みんなで見ましたからね、未踏優先で行きましょう!」

「そうよ。今の莉乃がいれば百人力だから。何にも問題はないわ!」

「え・・・う、うん。分かった」


何となく歯切れの悪い回答だったが、僕らは横の道を通って隣の広間に到着した。


「ここの部屋は真ん中の道を進んだ時にありましたね」

「あ、どうりで見たことあると思った。向こうに、また隣に行く道があるよ」

「それが、もう一つの未踏エリアに続く道かもしれませんね」


僕たちはそのまま反対の出入り口に向かうと、奥の方で爆発する音が聞こえた。

何かがいるのだろう。

でも、基本的にダンジョンのモンスターは、お互いに戦うことはない。

食事などはダンジョンから供給される魔力で賄われ、食べるという行為は、攻撃にしか使われないからだ。


「何かが戦っているみたいです・・・。みなさん待っててください。僕が行きます」

「待って、私も!」

「莉乃さんはここでみんなと待っててください。今、この場で一番強いのは莉乃さんなんですから。まあ、見て危なそうだったら僕もすぐに戻ります」


そう言って僕は通路に入った。

通路は3人が余裕を持って歩ける広さで、僕は少し身を屈めて慎重に先へ進む。

ドォン! と爆発音が響く。

爆発音? 灼熱ダンジョンの中で?


・・・ゾクっと背筋が震えた。

まるでムカデが背筋を這い回ったかのような感じだ。


僕は足早に、音はなるべく出さずに移動して、その広間を覗いた。


広い場所だった。

天井も高く、上の方に光が見える。

部屋の横は溶岩の海につながっていたが、無数の炎の槍が壁となって配置されていた。


「ギャオオオオオオォォォォォォ・・・」


火龍の断末魔が響き渡り、光となって消えていく・・・。


・・・ああ、やっと見つけた・・・。


後ろ姿でも分かる。


目に焼き付けた姿と目の前の姿が重なって、僕の思いが・・・溢れ出した!


「安部浩ィィィィィィィィ!!」


僕の声に、アイツは首を一度傾げてこっちを見た。


あの日から3年近くが経った。

阿蘇に来てからも2年以上だ。


「ようやく見つけたぞ!」


振り向いた安部の顔にはアクセサリーが増えていた。

以前なかったピアスが口と耳に追加されている。

刺青かタトゥーか分からないが、首にも模様が見えた。

あれ一つ一つにスキルがついているとなると、かなり厄介な相手になっているのかもしれない。

だが、冷却装備などは一切着けていない。

何かしらの魔法やスキルでこの灼熱を中和か冷やしているか。


「はぁー、何でテメーがここにいるんだよ。キャハハウフフしてるはずだろ」

「何を言っているのか分からないな。それよりも、自分の心配はしなくていいのかよ」

「自分の心配? お前に見つかったからな~、まあ、怒られるだろうな。でもまあ、こいつで帳消しだろうから問題ないだろ」


そう言って彼は足元にあったメロン大の魔石を片手で持ち上げ、ふわっと浮かび上がった。


・・・ここで逃すわけにはいかない。


僕は一気に近づけるよう、足に力を込めて生命力吸収を使うタイミングを図る。


安部も僕のスキルを知っているようで、注意深く僕を見ている。


ジリ、ジリと近づこうとしたとき、フェイスガードのスキル範囲内に青色のマークがついた。


莉乃の色だ。


「莉乃さん! こっちに安部がいます! スキルを使うので範囲から出てください!」


小声で呼びかけるが、青のマークはそのまま僕へと近づいてきた。

一瞬マイクの故障かと耳のダイヤルを回してみるが、正常に作動している。


「莉乃さん! 聞こえていますか? こっちに安部がいます! 危ないので来ないでください!」


僕の声が聞こえてない?

カツ! と足音が後ろで響いた。

そのまま僕の方へ近づいてくる。


「莉乃さん! どうした・・・」


横を通る彼女を見ると、右肩とフェイスガードに赤黒い何かが付いている。


「どうしたんですか、莉乃さん? 莉乃さん!」


莉乃が何も言わずにそのまま通り過ぎて、ゆっくりと安部の方へ歩いて行った。

安部もそれが当然かのように待つ。


「ようやく戻ってくる決心がついたかよ、莉乃ねぇ」

「決心も何も、あんたと久我山のせいでそうせざる終えなくなったのよ。腹立つわね。こっちは穏便に抜けるつもりだったのに、あんた達のせいでメチャクチャよ」

「・・・莉乃さん」


信じられない・・・信じられるわけがない。


「久我山のことは知らねーし。アイツが勝手に付いてきたんだろ?」

「そんな言い訳が通じると思う? 言っとくけど、兄さんに全部報告するからね! 今まで黙っててあげたけど、最初の火龍にちょっかいかけた事から、ワイバーンにも攻撃した事も全部!」

「え! ちょっと待って! それは酷いぜ、莉乃ねぇ!」

「莉乃さん・・・莉乃!」

「・・・」


僕が大きな声を出して彼女を呼び止める。

莉乃もようやく歩みを止めた。


「莉乃? 何をしてるの? そいつは・・・僕の敵だよ? 」

「・・・」

「莉乃・・・」


僕は左手を出した。

莉乃が僕の手を握ってくれると信じて・・・裏切ってないと・・・言ってほしくて。


「京平くん・・・」

「莉乃・・・」


莉乃がぼくを見た。

その表情からは・・・何も読み取れなかった。


「3人をお願い」

「莉乃ォォォォォオオオオオオオ!」


身体強化で一気に近づき生命力吸収を使用する。

だが、それよりも先に莉乃がジェットで上空に飛び上がり、風神招来を使用した。

安部も更に上空に飛んで、スキルの効果を受けていない!


「莉乃! 待って! 初めからなのか? 最初からこうするつもりだったのか! 何のためにこんな事をしたんだ! どうして!」

「・・・」


黙る莉乃に代わって安部が僕を睨む。


「こっちの事情も知らずによく吠えるよな。・・・お前ウザいよ」


渦巻く火球が安部の前に現れて空気を唸らせる。

僕は避けるつもりで姿勢を低くするが、それは僕に向かって発射されることはなく、突然弾けて散った。


「・・・誰が京平くんを攻撃していいと言った」

「・・・わーったよ。そう怒るなよ」

「待て! 莉乃! 莉乃!」


2人の姿が小さくなって、上の小さな光へ向かって行った。


「莉乃・・・?」


何だ?

何が起きたんだ?

分からない・・・分からない。


さっきまで楽しくダンジョンアタックしてたはず。

なのに、何で莉乃は居なくなった?

え? 何で?


呆然として足に力を入れることができず、ドサッと尻餅をついてその場に座った。


それから、どのくらい時間が経ったか分からない。


「あ、3人」


莉乃の言葉を思い出し、横の広間に移動する。

莉乃のあの赤黒いものが人の血なら、誰かが怪我している可能性がある。


助けないと・・・。

彼女たちは探索者を辞めるんだ。

平和に暮らすんだ・・・。


僕は力が入らない足を必死に動かして、広間に辿り着き、彼女たちを探す。


そして僕は見つけた・・・自分たちの頭を抱いて座り込む彼女たちを。


「うわぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!」


必死に駆け寄る。

もう死んでいると分かっていても、彼女たちの元に少しでも近づこうと、足が上手く動かせず倒れても左腕と左足を必死に動かす。


「何で! 何で!」


疑問が幾つも駆け巡る。


「何で! 何で! 何で!」


分からない。

理由が何も分からない。


「何で!」


目玉を抉られた彼女たちの空虚な目が、静かに僕を見つめていた。


だが、嘆く僕を時間は無常にも過ぎていく。

彼女たちの体が、徐々に小さな光に変わりだした。


「ダメだ! ダメだ! ダメだ!」


僕は必死に彼女たちの体に触るが、光は止まらない。


「ダメだぁ!」


僕は彼女たちの頭を奪い取り、抱きしめる。

ダンジョンに対して所有権を主張する。


体は光となって消えて行ったが、僕が抱いた3人の頭だけは守ることができた。


ああ、帰らないと・・・。

寝たらまたいつもの日常が待っている。

また彼女たちと笑いあって、ダンジョンにアタックするんだ。

また・・・莉乃と・・・一緒に・・・。

以上で前編が終了となります。

次回から後編か中編に移ります。

閑話はなくなりますので今後ともよろしくお願いします。

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