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人類はレベルとスキルを獲得出来ませんでした  作者: 妹尾真拓
宝箱探索編
58/197

阿蘇山大感謝祭(探索者組合主催)

人で溢れかえった。

駅前は人だかりで、特別ステージの上でマイ・ラバーズの人たちとギルギルという男性アイドルグループ、群雄割拠というバンドが立っていた。


「みんな! 今日は楽しんでるー!」

「はーい!」


莉乃がノリノリでうちわを振って、自分の存在をアピールしている。


「実は私たち、阿蘇は初めてです! ギルギルと群雄割拠はどうですか?」

「僕らも初めてですよ。ここに来るために、使えるスキルが3つは必要ですから」

「うちの事務所にはそんなにスキルを買うお金はない!」

「自分で手に入れるじゃないのかよ!」


わはははっと笑いが起きた。

こういう話術で会場を温めて司会が進行を進みやすいようにしているのだろう。


「これから、群雄割拠、ギルギル、マイ・ラバーズの順に歌っています! その間にみんなお楽しみ、瀬尾京平さんと天外天のサイン会が行われます! みんな住所が分かるもの、それかサイン会参加許可証は持ってますか?」


アコアさんの声に観客が大きな声で返事した。

僕のサイン会にあたって、サイン色紙を買う必要があるのだが、それを買うのに住民票や免許証か事前に審査された人に配られた物がないと買えない。


「私は許可証をもらいました!」

「え!? ずるい! 僕らもらえませんでしたよ!」

「日頃の行いかな」

「・・・ちょっとボランティア行ってきます」

「今から行くな。これからライブだ」


しっかり盛り上げてくれるキャストたち。

みんな笑顔で楽しんでいた。

それから群雄割拠が歌い出し、会場は盛り上がっていく。

マイ・ラバーズはサイン会の後に、花火までの間のカウント役として出番があるため、僕と莉乃はその場を離れて、彼女たちの出番まで着替えと出店巡りをするつもりだ。


マイ・ラバーズの時は特別席を作ってくれるらしい。


「夜が楽しみ!」

「僕はライブが初めてですよ。莉乃さんはありますか?」

「高校生のときに行ったのが最後かな。友達・・・ライブが楽しすぎて些細なことは忘れてしまった」

「当時の友達は些細だったんですか」

「それだけ今が充実しているということだよ」


僕と莉乃は、一度探索者組合に行き、そこで彼女が浴衣に着替えるのを待つ。

この日のために、探索者組合では浴衣の販売会と着付けの練習が行われていた。


「タオルを詰めるから、太って見えるんだよね」


ちょっと悩ましそうに自分の胸とお腹を見つめる。


「大丈夫だよ。莉乃さんはスタイルが良すぎるんだから、少し詰めた程度じゃ太って見えないから」

「ムフー! ありがとう!」


莉乃が僕の腕に抱きつく。


僕らはそのまま、まずは阿蘇神社前の出店に行き、輪投げや射的はもちろん、ボールを転がして穴に入れるゲームなどをして楽しむ。

ただ、普通の輪投げと射的では莉乃の方が有利だった。

なので、一度リセットして距離を取った上で細工された弾で挑むことになった。

それでも最後の一発がカップラーメンに当たって落とすあたり、莉乃らしいというか。

ここでは他にスパーボール掬いをやって、それだけ袋に入れてもらって一緒に出た。


「他のはいらなかったんですか?」

「うん。ちょっとぬいぐるみは大きかった。カップラーメンもいらなかったしね」


それから大通りを下っていき、みんなに手を振り返し、色々な物を食べ歩いた。


「ああ、SNSが氾濫しちゃった」

「何があったんですか?」


莉乃が携帯画面を僕に見せると、僕と莉乃のツーショット写真が、無数に現れた。

お店の人があげたと分かる写真もあって、なんとも言えず莉乃を見ると、なんだか嬉しそうにしていた。


「莉乃さんは大丈夫ですか?」

「何が?」

「いや、ネットで好き勝手言われるのが・・・」

「大丈夫だよ。逆にすごく助かってる。私はネットないと生きて行けないからね」

「ネットに依存しすぎでしょ」

「あはは、そうかも」


莉乃は嬉しそうに再度僕の腕をとり、僕を見て笑う。

楽しそうだからいっか。



しばらく楽しんで、駅まで戻ってギルギルの歌を聴いた。

僕たち専用に裏通路を歩いて準備スペースに辿り着く。


順序としては、高城さんが色紙の右上に書いて右下に麻生さん左下に植木さん左上に莉乃で、真ん中に僕がサインする流れらしい。


「サインは書けるようになりましたか?」


高城さんたちが視線を下に向ける。

正直、僕も最初はそうだった。

今でも率先して書く方ではないが、支部長に鍛えられたというのが正確だろう。

癪ではあるが、あの人の行動が為になった。


16時前20分で群雄割拠の演奏が終わり、アナウンスがあって僕らも準備に入る。

アナウンスは街中に響いて誰にも「聞こえなかった」と言わせない迫力があった。

僕たちも、楽器が下げられた舞台上で席に座る。舞台の下や列の整理にかなりの警察が動員されているのが見える。


「すみません」

「はい」


僕たちと打ち合わせをしていた人を呼んで、今回のために動員された警察の人数を確認した。


「何をあげたら喜ぶと思いますか?」

「瀬尾さんのサインがあれば十分です」


追加で書いてあげよう。


16時になって、サイン会が始まった。

最初の人は、何とアコアさんだった。


「特別扱いで」


何でもありにしてもらったそうだが、彼女はこの後ライブが待っている為、少しでも時間を使えるように最初にしたのだろう。


それからは阿蘇市民や自衛隊関係者やら協賛企業の人たちが来たりで、色々握手したり応援してもらったり頭を撫でたり大変だった。

でも、運営チームがしっかりと18時に列を切ってくれたおかげで19時を少しすぎた頃に最後の人にサインをした。


「みんな! サインはゲットできましたか!?」


うおーっと歓声が上がり、観客みんながサインを掲げる。

アコアさん自身もサインを掲げて足を広げて仁王立ちする。


「分かってると思うけど! 永久保存だからね! 転売なんかしたら、2度と手に入らないよ! それじゃ、花火の時間になるまで、私たちの歌を聴いてください! 『マイ・メモリー 愛が届くまで』です」


僕らがサインを書いた色紙を頑丈そうなケースに入れて係の人に渡してマイクを改めて手に取り、音楽が鳴り響いた。


「きゃあああああああ! アコアさん、素敵!」


隣で莉乃がノリノリで団扇を振っている。

僕もそんな彼女を見て、音に合わせて団扇を振った。


4曲ほど歌って司会者とのトークが終わった後、係の人が司会者に何かを耳打ちしてアコアさんに合図を送った。


「みんなー。今日はサイン会以外にも楽しみがあるよね! 今の時代、ほぼなくなってしまった花火! 準備が出来たみたいだよ! 君たちから見て! 左上だ!

カウントするよ!」


ギルギルと群雄割拠の人たちも舞台に上がって、それぞれマイクを持った。

同時に光が抑えられ、人がいることだけ分かる暗さになった。


「莉乃さん、こっち」

「え? 何?」


僕は莉乃の手を引いてライブ会場から出て、身体強化を使って抱き抱え、支部長に教えられた場所に移動した。

一の宮運動公園から上がるならこの場所がいいらしい。


「ごめんね、莉乃さん。ここが一番いいって教えられてたから」

「ううん、ありがとう。周りに誰もいないね」


辺りは静かで、ちょっと遠くでカウントが始まる音が響く。

・・・そして


ヒュールルルルルルル・・・ドォン!


「うわー」

「綺麗・・・」


最初に大きな花火が打ち上げられ、続いて色々な色や形に変化する。

もう目が楽しくて仕方がない。

莉乃も花火の饗宴に心を奪われたのか、集中して空を見上げていた。

・・・今だろうか。


「莉乃さん」

「なに?」

「まだ、答えが出ないことは分かっています。でも、改めて宣言させてください」


僕は莉乃をしっかりと見て、懐に入れていた指輪のケースを取り出した。


「好きです。答えはいつになっても構いません。でも、僕が莉乃さんを諦める日は来ないと思ってください。もし本当に嫌な時は・・・ちゃんと教えてください」


莉乃が目を大きくして僕を見る。

その顔は花火に照らし出され、すごく綺麗で・・・彼女の目から零れ落ちる涙を輝かせた。


「莉乃さん?」

「ご、ごめんね。泣くつもりはなかったんだよ。ただ、何でか零れちゃって」


そう言いながら、浴衣の袖で涙を拭き僕を見た。


「ごめんね。勇気が・・・本当に勇気がなくて・・・言えなくて。嬉しいよ。これさえ無ければ、今すぐにでも応えたいぐらい嬉しいよ。でも、ごめんね、ごめんね」

「大丈夫ですよ、莉乃さん。僕は待ちます。ずっと待ってます。だから、勇気が出たら言ってください。僕も真摯に向き合いますから」

「ありがとう・・・。ごめんね」


僕は指輪のケースから指輪を取って、左手を前に出す。


「この指輪だけでも、受け取ってもらえませんか?」


ドォンっと花火の音が響き、莉乃を照らす。


「・・・はい」


そして、莉乃は僕の手の上に左手を乗せた。

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