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人類はレベルとスキルを獲得出来ませんでした  作者: 妹尾真拓
宝箱探索編
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支部長の無茶なお願い

「頼みがある!」


装備をメンテに出して、暇つぶしに天外天のメンバーと組合に来ると、僕らの姿を見た支部長が突然頭を下げてきた。


「・・・嫌な予感しかしませんが、何がありました?」


嫌な顔の僕を見て、支部長が手を合わせて頭を深く下げた。


「フェスを開きたいんだ!」

「フェス?」


僕は他の人を見ると、莉乃は何のことか分からずに首を捻っているが、高城さん、麻生さん、植木さんは嫌そうな顔をして支部長を見た。


「探索者に何をさせるつもりですか? 私が知ってるのは腕相撲大会とかコスプレ大会でしたけど」

「安心してくれ。そっちはプロを呼んでいる。お前たちには・・・その・・・」

「何ですか」

「サイン会をお願いしたい!」


全員の表情が凍った。


「いや! 大丈夫だ! 一つの色紙に5人の名前を書いてもらうから、誰かの列だけというのはない!」

「あ、安心した」


麻生さんがほっと胸を抑えた。

あなたの心配どころはそこですか?


「え、嫌だよ私。ずっと座ったままでしょ?」

「瀬尾の隣にずっとだな」

「そ・・・そっか」


やばい、莉乃が落ちた!


「これは組合からの依頼ですか?」

「色紙代を1000円で売り出す。それじゃないとサインをもらえないシステムだ。いくら欲しい?」

「・・・赤牛食べ放題。旅館でグータラ1週間」

「ぐっ! ・・・いいだろう!」

「よし!」


金の亡者だ・・・。


「私に利点はないよね?」

「建設関係者を呼ぼう。最近のトンネルは設備がすごいらしいな」

「やる」


植木さんまで!

そして最後に支部長が僕を見た。

もう堀は埋められている状況だが、僕だけでも逃げれるかもしれない。


「人が集まりすぎるでしょ」

「一般人は阿蘇市限定だ。一部富裕層だけが探索者同伴で参加できるようにしている」

「時間がかかりすぎるのでは?」

「日が出ている時間しかサイン会は行わない。開始は16時でどうだ?」

「1人で何枚も持ってくるかもしれません」

「色紙を購入する段階で1人一枚と制限をかける」


こ・・・この支部長・・・できる!


「僕も莉乃と楽しみたいのですが?」

「サイン会が終わった後に人気バンドのマイ・ラバーズがライブを行う予定だ」

「マイ・ラバーズ!? 私好き!」


まさかの莉乃推しバンドだった。

マズった。

自分で逃げ道を塞いでしまった。


「瀬尾のために、出店を楽しめる時間も取ってやろう。サイン会は18時で列をストップさせる。まだ19時なら薄明るくムード満載だろ。・・・キスする場所も探せばあるぞ?」


顔に血が昇った。

クソ!

絶対顔に出てる!


それを見て支部長が余裕の表情を見せ始めた。


「何が欲しい。指輪か? ネックレスか? カタログは用意するぞ。好きなブランドを言え。無ければティファニーはどうだ? 絶対に喜ばれるぞ?」


こ・・・このクソ親父がぁ!


「・・・」

「明日には用意しておいてやる」


僕は負けました・・・。


後から知ったことだが、阿蘇市市民から凄い量の嘆願書や苦情が届いたらしい。

主に、僕と握手できない、僕と話せない、僕のサインが貰えない等々。

・・・僕が原因か。


「今回のフェスに関して費用面は気にしなくて済みそうだ。なんせ、色々な企業が協賛してくれるからな。花火も上げれるぞ」


支部長は調子のいいこと言っているが、この時代、花火はドラゴンを呼び寄せるとして一部の地域でしか上げられない。

それこそ、花火をあげるのに1級探索者と自衛隊に依頼をしてフィールドダンジョンの近くでやるしか方法がないのだ。

・・・全部クリアしてるな!


「花火職人って、東京の方にしかいないんじゃなかったっけ?」

「だから呼ぶのさ」

「来てくれますか?」

「瀬尾の名前があればな」


僕が花火を見たいと言えばいいらしい。


「分かりましたよ・・・花火なんて滅多に見れませんしね。やるなら景気良くやってくださいよ?」

「もちろんだぁ! 全員聞いたな! フェス開催するぞ! 阿蘇市全住戸にチラシを配れ! 松下魔力電機と東京通信、松尾食糧、大鷲製薬の協賛だ! ド派手にやるぞ!」


支部長の大声に、ロビーにいた探索者たちが応える。

そして楽しそうに外に出て、ところ構わず話し出した。


瞬く間に阿蘇市中にフェスの話が広がった。


・・・マイ・ラバーズとか、さっき言ったばかりだよな?

本当に呼べるのか?



数日後・・・、


「初めまして、マイ・ラバーズのアコアです。よろしくお願いします」


目の前にマイ・ラバーズのアコアさんがいた。

支部長を見ると、フフーンとドヤ顔をしている。

ちょっとあの短い髪を引っ張り回さないといけないらしい。


「支部長の話を聞いた時はちょっと驚きましたが、確かにこの嘆願書の数は凄いですね」


そう言って松嶋さんが、箱に入った手紙のいくつかを取って目を通す。


僕の後ろでは、莉乃が小声で「アコアだ、アコアだ。脳内に永久保存! あ、でも私忘れちゃう。録画、録画しないと。グフ! 1日寝る前1時間浄化タイムに必須アイテムゲットです」と言っていた。

僕の知らない莉乃が、まだいたみたいだ。


「支部長さん、食材は基本私どもの会社を経由ということで宜しかったですよね?」

「もちろんです。と言いますか、松尾さんクラスじゃないと、この規模は賄えないでしょう」

「・・・ちょっと確認する必要がありますね」


松尾食糧の大森さんが携帯を出して何処かと連絡をとり始めた。


「社長たちの家族も来たいとのことですが、大津町からバスなどは出せますか?」

「組合から探索者に依頼を出しましょう。私の方でも見極めてつかせるので安心してください」


兼良さんの質問に、スムーズに答える支部長。

その姿に、どうもストレスを発散させたいという思いが透けて見え始めた。

まあ、国との交渉をしたり、熟練の営業の相手をしたり、アホな行動をする探索者たちを抑えたり、色々神経をすり減らすことも多いのだろう。


「当社としても、携帯食糧や飲料の試食ブースをいただけるとありがたいですね」

「当然ですね。目立つ場所に大鷲さんと松尾さんのブースを確保しましょう。広さは具体的な区分けが済んでからでよろしいでしょうか?」

「はい、そうしていただけるとありがたいです」


平石さんも、携帯を取り出してどこかに電話を始めた。


急に街が活気付き、人が慌ただしく動き始める。

僕自身も、祭りは随分と昔に経験しただけで、花火に関しては初めての経験になる。


ちょっとだけ僕の心がワクワクしていた。

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