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人類はレベルとスキルを獲得出来ませんでした  作者: 妹尾真拓
ドラゴン来襲編
50/197

戦いの終わりと・・・予感

お気に入りとブックマークありがとうございます。

完走まで頑張ります。

人は寝ないといけない動物だ。

例え灼熱の世界であっても氷しかない世界であっても、数十分でも数分でも数秒でも寝ないと体が壊れてしまう生物だ。

・・・朝になった。

こいつはまだ居る!


「いい加減に帰ってくれよ! お呼びじゃないんだよ!」

「グォォォォォォオオオオオオオオオオオオオ!」


咆哮が僕を襲う。

でも、何度も受けたためもう気にならない。

風に押されるのでそれだけが厄介なのだが、動けなくなるということはなくなった。

その直後に、小分けにした野球ボールぐらいの炎の散弾が僕を中心にばら撒かれる。

威力は大きいやつよりは劣るが、それでも石を破壊できるため、人間相手なら十分に致命的なダメージを与えることができる威力だ。

なのに・・・それでもこいつは全力を出していない!

やろうと思えば、この地域を火の海に出来るぐらいこいつには出来る。

炎の壁が作れるのに、ピンポイント攻撃は火球だけ。

そんなことはあり得ない。


「何故全力を出さない!」


僕は散弾から逃げ回りながら周囲を確認する。

ドラゴンを中心に広がる黒い土地。

根こそぎ食われたみかんの木の残骸。

まだ残っているみかんの木・・・。


食い意地か!!!

僕の突進は食い意地に負けているのか!


腹が立ってどうしようもないが、突破口がどこにも無い。

全てにおいて相手が上手で、攻撃の糸口が掴めないのだ。

みかんの木が無くなればこいつはどこか遠くに行くだろうが、その代わり愛媛の宇和島市のみかんが日本から消え去ることになる。

今の日本において、食糧は少しでも生産しなければならない物。

消し去られていい物じゃない!


「何としてでも!」


もう一度突撃をしようと構えた瞬間、僕の体が上から押し潰された。


ここに来てまさかの風魔法!?


完全に不意をつかれた攻撃に、僕はなす術なく顔を地面に押し付けられた。

それでも殺傷能力までは無いようで、急いで首に力を入れて顔を上げる。

この後に炎が来るにしても何が来るにしても、確認しないと避けようがない。

フェイスガードに付いた土を急いで拭うと、前には何故か震えながら僕の上を見ているブラックドラゴンがいた。


・・・僕の上に何かがいる。

それも、あのブラックドラゴンが怯える何かが。

僕は四つん這いの状態で、恐る恐る上を見た。


白いドラゴンがいた。


何処かのカードゲームのイラストになっていそうなドラゴンだった。

そのドラゴンが・・・生命力吸収を無視して僕の横に降り立った。

スキル範囲内に確実にいるはずなのに、このドラゴンが倒れる様子がない。

スキルを無効化されてる・・・。

恐怖で体が震え出した。

真横に僕を殺せる化け物がいる。


「みんな・・・ゆっくり逃げてください」


装備についているマイクに囁く。

いざとなったら、壁になってでもみんなを逃がして見せる。

グッと体に力を入れて無理矢理震えを止める。

胸にある進化の実を装備の上から強く握った。


「グァアア・・・(何してるの・・・)」

「ガ、グァァ(ま、待って)」

「グァァァグァアア!(夜には戻るって言ったわよね!)」

「ガァァァ! グァァァ!(待ってくれ! 話せばわかる!)」

「ガアアアアアアア! グァアアアアアアアア!(子供残して! 何ほつき歩いてるのよ!)」


ドゴーン! っと強烈な音を立てて、ホワイトドラゴンがブラックドラゴンに頭突きをかました。


・・・何が起きている?


「ガアアアアアアア! ガアアアアアアア!(たまにはゆっくりしておいでって! 仏心出したら!)」

「ガーア! ガーア!(かーちゃん! やめて!)」


バシバシという音が正しいのだろうが、翼で叩いている音がドバシ! ドバシ! っと凶悪な音が響いている。

さらに、僕からは感じれないが途轍もない風が巻き起こっているようで、向こうにいる人たちが必死に周囲の物にしがみついていた。


「ガァァァァァァァアアアアアアアアア!(いい加減帰るよ!)」

「ガ! ガガグァ(あ、ちょっと待って)」


突然ブラックドラゴンが頭を低くして、無事だったみかんの木を一気に3本口に咥えて引き抜いた。


「ガ! グァ!(これを! 土産に!)」

「(ふん!)」


2体のドラゴンが飛ぶ。

ブラックドラゴンが僕を最後に一回見て遠くへ飛んでいった。


「グルルルルル、グールルル(これ、すっごく美味しいから)」


2つの巨体が小さな点になって、僕はようやく体から力を抜いた。


「あっ」


足から力が抜け過ぎてその場にへたりと座り込んだ。


・・・生き延びた。


まさしく九死に一生を得た。

おそらく同じ状況は今後ないだろう。


「しばらく・・・働きたくないでござる」



ドラゴンとの戦いが終わった。

ムー大陸も東の方に流れていって、小笠原諸島も大陸の影からようやく解放されたらしい。

僕は、本当に疲れて見知った顔のいる場所に歩いていく。


「お疲れ様」

「頑張ったねぇ。ありがとぅ」

「疲れました。とりあえず、トイレ行ってシャワー浴びてから寝たいです」


僕の言葉に、入江さんと土尾さんは笑みを浮かべた。


それから僕たちはパトカーで移動し、愛媛県警察署に向かうことになった。

広さや打ち合わせ室の関係で、そっちの方が都合がいいらしい。


「そういえば、あのホワイトドラゴンってどうやって僕の上に現れたんですか? 僕にはいきなり出てきたように感じましたけど?」

「分からん」


土尾さんが短く答えた。

見ていたことは見ていたのだろう。


「えっとねぇ、私たちからもぉ、突然出てきたように見えたのぉ。こぅ、空間がぐわぁって捻じ曲がって気づいたら現れてたぁ。見てて分かったのはぁ、それぐらいだよぉ」

「・・・それって、瞬間移動の類いでは・・・」

「まだ分からん。迂闊に言えるものではないしな」


確かに。

もし本当に瞬間移動というスキルが存在するのであれば、ムーやアトランティスのせいで不可能となっている国交が復活する。

今まで存在しないと思われていたスキルに、政府が動かないわけがない。

・・・しばらくスキル調査が、探索者組合でも行われるだろうな。


僕たちは、警察署の中に入って土尾さんが受付で何かを話し、僕だけ取調室に行くことになった。


「すまないな。着替える場所がそこしかなかったらしい。私服やタオルも一式そこに置いているということだから、まずは着替えに行ってくれ。取調室3番だそうだ」

「分かりました」


県警の人に案内されて僕は取調室に入り、専用装備を外して体をタオルで拭った。

だいぶん汗をかいていたようで、拭うだけでもスッキリとした。


「パンツの替えもある。ありがたい」


全部着替えてベルトを閉めていると、コンコンと扉がノックされた。


「はい!」

「土尾だ。入っていいか?」

「あ、いいですよ」


僕は急いで白Tシャツを着た。


「どうか・・・?」


僕の前で、入ってきた土尾さんが刀を横に振っていた。

一瞬状況が掴めず、扉が閉まる音がして・・・僕の右腕がゴトリと落ちた。


「ぐぁ! な! 何が!」


血が溢れ出した。

焦って左手で右腕を押さえる。

脇のどこかを何かすれば血は止まるらしいが、そんな専門知識はあいにく持っていない。

痛みが僕の脳を刺激して状況を把握するよう促す。

土尾さんは、どこかで見た事のある刀を持ったまま無造作に僕に近づいてきた。

僕は後退りして彼を見る。

土尾さんは何も言わずに僕の右腕を拾い上げた。


「終わったぁ?」


入江さんが中に入ってきた。

まずい! このままだと!


「入江さん! 入ったら!」

「ああ、今終わった」


入ったらダメだと言おうとした僕の言葉を無視して、土尾さんが入江さんに近づく。


「入江さん?」

「そぅ、それならよかったぁ」

「土尾さん! 入江さん!」


僕の叫びに、2人が無感情な視線を僕に向けた。


「あんたたちグルだったのか! 元から裏切るつもりだったのか!? 何でこんな事を!」

「・・・」

「・・・まぁ、聞く権利はあるかなぁ」


入江さんが僕の前に立った。


「私たちねぇ、反神教団に入ることにしたのぉ」

「!」


グッと歯を食いしばった。

それは、もしかしたら安部浩がいるかもしれない団体の名前だった。


「偶然接触できてぇ、入団を希望したらぁ、条件があってねぇ。超レアスキルを持っていないとダメなんだってぇ」

「何で! そんな得体の知れないところに!」


僕は2人を睨みつける。

痛みで汗が浮き出てくる。

ダメだ、倒れるわけにはいかない。


「何で・・・かぁ。そういえば、瀬尾くんからは嫌な視線なかったねぇ」

「そうだな・・・普通だった」


一瞬、2人の目が優しく僕を見たような気がした。


「私のこれぇ、どう思う?」


そう言って入江さんは、自分の目の・・・周囲の黒い痣を指差した。


「・・・どうも思いません! そんな人もこの世の中他にもいるでしょう!」

「・・・うん、そうだねぇ」


そう言って、彼女は左手の義手を外した。

そこには、手になりきれなかった手首が姿を見せた。


「でもねぇ、子供のときぃ、家族を含めて周囲の人はそう思ってくれなかったのぉ」


土尾さんが泣きそうになっている入江さんの肩に手を乗せた。


「きっとねぇ、私たちは魅力の値がマイナスで生まれてきたんだよぉ。だからねぇ、レベルを上げてマイナスをゼロにすれば普通になれるんだよぉ」

「・・・土尾さん、あんたもか?」

「ああ」


土尾さんは自分の顔の傷を指差す。


「口蓋裂というらしい。本来なら生後3ヶ月ぐらいで手術をするらしいが、俺の場合、母親が生まれたての俺を化け物扱いして手術の同意を得ることができなかったらしい。結局、小学校高学年になるまで歪な顔で通うことになった。周囲の反応は・・・想像通りだよ」


歪な顔に向けられる周囲からの視線。

同世代から投げかけられる無遠慮な言葉たち。


「俺たちは普通になりたいだけだ」

「魅力なんて値がないかも知れないですよ!」

「それでも・・・一番普通になれる確率が高い。・・・すまないな」


僕に背を向けて2人は部屋を出ようとする。

まだだ!

もっと情報を!


「待って! あんたたちにその話を持ってきたのは誰だ! いつそいつに知り合った!」


僕の質問に、土尾さんは僕を見ることなく首を振る。


「教えることはできない。そこから色々と漏れる可能性があるからな。それじゃ、すまなか」

「いえ、話してもらいますよ」


僕は生命力吸収のスキルを使用した。

力が抜けてその場に崩れ落ちる2人。

仰向けに倒れて「何で?」と言いたげな土尾さんの視線を無視して、僕は右腕を拾った。


「装備」


ああ、久々の感覚だ。

数年ぶりに感じる激痛とともに、周囲の時間が止まった。


『装備の意志を確認。対象、瀬尾京平。装備物、元瀬尾京平の右腕』


久々の激痛は相変わらずで、僕は止まった時間の中で叫び声を上げることも叶わず激痛に耐える。


『骨の接合・・・不可。筋肉の接合・・・不可。神経の接合・・・不可。・・・不可、不可、不可、不可、不可・・・・・・魔力の接合・・・可』


そしてようやく激痛が去った。

上手くいけば、スキルをもう一つ手に入れることが出来るだろうか?


『魔力による接合開始。装備物との適合性・・・100%。魔力の同一化を確認。装備物の腐敗防止のスキルを確認。スキル取得履歴を確認します。・・・元瀬尾京平の右手のスキル付与を確認しました。元瀬尾京平の右腕は同一アイテムとみなされます。スキルを取得出来ません出来ません出来ません出来ません出来ません出来ません出来ません出来ません』


ブツンっと何処かの誰かの言葉が切れた。

どうやらスキルを新しく取得はできなかったらしい。

僕は時間が戻ったのを確認して、左手で二の腕から感覚がなくなった右腕を撫でた。


「切られ損だな」


僕は一度、脱いだ装備の場所に行き、ベルゼブブの籠手だけを装備した。

もうないと思うが用心するに越したことはない。


「これから人を呼ぶので、色々と話を」


ゴロンとそれは僕の足元に転がった。

目の前には、黒い衣装と仮面を着けた人が剣を持って立っている。


「誰だ!」


身構える。

おかしい!

僕はスキルを解除していない!


僕の質問にそいつは一言も喋ることなく、落ちていた刀とネックレスを二つ拾って部屋から出ていった。


汗が溢れてきた。


スキルが効かない相手がいる。

それも、味方ではなく多分敵方に・・・。


「見張り・・・か」


体から力が抜ける。


今日2回目だ・・・。


疲れ果てた体とは裏腹に、僕の中で、何かが始まる予感がした。

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