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人類はレベルとスキルを獲得出来ませんでした  作者: 妹尾真拓
灼熱ダンジョン編
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閑話 松下魔力電機工業 営業課長の日常

ブックマークありがとうございます。

応援よろしくお願いします。

今日、私の耳に奇妙な情報が入った。


「B級魔石を30個を阿蘇の探索者組合が売りに出した? 何処にそんなストックを保管していたんですか?」

「どうも・・・1人の探索者が納品したそうです。ガセですかね?」

「魔石自体は実在している?」

「みたいです。阿蘇の探索者がネットに発信してました。それも何人も」

「私も見ましょう。教えてください」


信じられない。

本当に写真で上がっていた。

これはまずいのでは?

もし本当に1人でこれだけの魔石を集めることができるのであれば、魔石の独占状態になる。

急いで契約しなければ、他の企業に生産力で差が出てしまう。

なのに・・・


「ガセだ」


私の上司はその一言で終わらせた。

巫山戯るなと思った。

B級を1ヶ月に一個手に入れることができる川島重工がどれほど生産量を上げたか知らないわけがない。


「せめて調査しませんか? ガセじゃなかった時のリスクが高すぎます」

「ガセだったらどうするつもりだ? 阿蘇までの調査費用を考えると、該当する探索者は居ませんでしたじゃ済まないぞ? だいたい、B級30個とか普通の探索者には無理な話だ。何処かの探索者チームが溜め込んでいたのを話題性のために吐き出したんだろ」


今の状況だと、上司の言い分の方が現実味がある。

だが、もしこれが本当だったらどうなるか?


「では、私の独自で・・・できる範囲で調査するのはいいでしょうか?」

「・・・旅費や護衛費は認められんぞ?」

「はい。あくまで東京で調べることができる範囲でいかがでしょう」

「・・・お前の勘では居るにの方を針が指しているんだな?」

「はい。ほぼ恐らくですが」


その数日後、テレビがこの件を放送した。

コメンタリーの中でも、出鱈目か実在するか論争が始まっていた。

上司と同じように、探索者チームが溜め込んでいた説が強い。

私はその人たちに感謝しながら情報を集めていく。

誤情報は多ければ多いほどいい。

それだけ他の企業も二の足を踏む。

私はその間にある未成年の名前に辿り着いた。

あまりにもふざけた話で、この子はどれほど運が強いのか疑問視するほどあり得ない話だった。

だが、この子ならB級魔石30個もあり得る。

実在すればの話だったが・・・。


「ファイアドラゴン討伐!? ・・・まさか、阿蘇の瀬尾って名前の少年ですか?」

「松嶋さんもその名前に辿り着いたんですね。事実みたいです。ですが、もうネットやテレビでは、情報が錯綜しています。何が真実か」

「・・・出張をもぎ取りましょう。真田も申請しましょう。もう現地で実在を証明しないとはっきりしないでしょう」

「分かりました。ダメ元で出しましょう」


そしてついに、ほぼ確定的にインターネットニュースに彼の情報が載った。

これはもう、どんなに情報を集めるのが下手な人でも目に付くレベルだ。


「部長! 何で出張を認めないんですか!?」

「相手が悪い! 自衛隊、警察、組合が守っている相手だぞ! そう簡単に接触できる相手か!」

「だからこそですよ! 最初に接触しないと他の企業に持っていかれますよ! 契約次第では、B級魔石を毎月5〜6個得られる可能性が高いんです! 何を二の足踏んでいるんですか! ここはリスクを承知で行くべきでしょう!」


部長は唸るだけで答えを出さない。

・・・別部署のイチャモンか!


「何処の妨害ですか? 柏木班ですか? 前田班ですか?」

「・・・憶測で物を言うな」


クソ!

自分たちの利益しか考えない奴らめ!


そうして遂に彼がテレビに登場した。

華々しく、輝かしく。

屋久島の解放。

攻略不可能と言われた縄文杉の討伐。


これで各社が彼の存在に確信を持った。

素早さがこれからは勝負を決める。


「部長、もういいでしょう。私に出張の許可を」

「・・・分かった。他は私が抑える。阿蘇に行くための手続きをしなさい。あと、組合にも事前連絡を入れるように」

「はい!」


だが、それからも妨害がいくつもあった。

社内もそうだが、まさか探索者組合や自衛隊、警察からも妨害されるとは思わなかった。

それだけ彼が有益だということなのだろう。

私もあらゆる手を使い阿蘇の探索者組合に連絡を入れてアポを取ることができた。

その間に、彼は阿蘇の未確認ダンジョンに踏み入れた情報が入った。


「これは・・・?」


極秘で手に入った魔石の写真に、私は思わず呟いた。

その魔石は通常のB級よりも大きいが、A級というほどではない。

ゾクリと背筋が震えた。

瀬尾さんはどれだけ、自分の価値を上げるんだ!


これは一社独占は難しいかもしれない。

だが同業他社だけは排除しなければならない。

私は大津町に入って、そこで明円という、最近頭角を現してきたパーティに阿蘇入りを手伝ってもらった。


「みなさんは瀬尾さんとお会いしたことはありますか?」

「ありますよ。彼は情報の宝庫ですからね。彼から直接アドバイスももらったことがあります」


リーダーの武田さんが和かに答えてくれた。

彼からなら信頼できる情報がもらえそうだ。


「実は瀬尾さんとお話がしたくて阿蘇に行くんですが、彼の人なりを教えていただきたくて」


私がそういうと、彼は難しい顔をした。


本来は凄く優しく、色々と教えてくれるらしいが、阿蘇に来た当初は凄く刺々しい性格だったらしい。

どうも探しものがあったらしく、情報が全く入らなかったのでイライラしていたと。

そんな時に一度声をかけた彼らは、酷く反発されたらしい。


「今はどのような状態ですか?」

「落ち着いていると思いますよ。天外天のメンバーとも話してますし、以前より声はかけやすいと思います。ところどころ抜けているところも見られますしね」

「彼の情弱っぷりは有名だから」

「ホント。ほぼ毎日ネットサーフィンやってるのに、何で自分のニュースに気づかなかったんだろ?」


笑えるよねっと女性2人がその時の光景を思い出して笑った。


阿蘇入りして、早速組合に入り、受付で支部長に面会を求めた。


「まさか、こんなに早く来るとは」

「時間との勝負だと私の勘が言ってましたので」


目の前に、阿蘇の探索者組合の支部長がいる。

体が大きく、現場上がりということが一目瞭然だ。

しかし、だからと言って、全くの脳筋ではなく、私を見る目に警戒と言葉に注意をしなければっという意思が見えた。


「それで、私としては是非とも瀬尾さんにお会いしたいのですが?」

「今はダンジョンで探索中だ。今日戻るのにかけて待つのであれば、17時までに戻ってきることを願ってくれ。それ以降は時間外になる」

「分かりました。組合の中で待たせていただいても?」

「・・・あんたみたいな一流企業の社員にロビーを彷徨かれるとかなわんから、応接室で待っててくれ。瀬尾が戻ったら呼びにくる」


私は少人数で接客する部屋に案内され、ホットコーヒーを飲みながら時間が過ぎていくのを待った。

そして・・・賭けに勝った。


「初めまして、ご紹介に預かりました松下魔力電機産業の営業本部で課長を務めております松嶋といいます。よろしくお願いします」


目の前に、数々の輝かしい実績を収めた人物がいる。

是非とも一対一で話をして私の企業と契約をしてもらいたかったのだが、そう上手くは事は進まず、支部長が同席することになった。

それからの会話も、邪魔はしないと言いながらも、支部長が守るように彼にアドバイスをした。

どうも先に支部長を攻略する必要があるみたいだ。

私はすぐさま思考を切り替えて、支部長と話をして、結果を彼に伝えて考えてもらう案を出した。

支部長も、その案の有用性を認めたのか、すぐに頷いてその場に自衛隊関係者と警察の関係者が同席することを言ってきた。

いずれ攻略しなければならない相手だ。

だが、その前に一つ確認をしなければならない事があった。


「ところで・・・私は何番目でしょうか?」

「1番目だ」

「会社にいい報告ができそうです」


今夜は美味しいお酒が飲めそうだ。



次の日、探索者組合のロビーは色々な業種の営業が詰めかけてきた。

私はその様子を笑みを浮かべながら余裕を持って中に入る。


「遅かったですね、松嶋さん」

「時間通りですよ。支部長こそ、早いのでは?」

「部屋で待っていたんですが、受付に呼び出されたんですよ。対処してほしいと」

「ああ、それは仕方がありませんね」


ざっと周囲を見ても、一流企業の一癖も二癖もあるメンバーがここにいる。

その面々が、私と支部長が普通に話をしているのを見て眉間に皺を寄せていた。

そうですよ。

貴方たちは遅かったんです。

私は心の中で思いっきり笑った。

営業として、私は彼らより一段上にいることがハッキリと証明されたからだ。


それから私は支部長と副支部長、自衛隊関係者と警察関係者、さらに鬼木玲花を交えて話をした。


「それでは、これからの各社を入れた合同打ち合わせの場では、私は何も言わない方向でいます」

「危なくなったら、助け舟が欲しいですね」

「私の船は高いですよ?」


相手は私の言葉をどう読み取ったか分からないが、本当に私の利益まで他企業が侵害してきたら、遠慮なく口を出すつもりでいる。

せっかくの優先交渉が無駄になるような事態は避けなければならない。


私の考えは杞憂で終わった。

各社の猛攻を5人はしっかりと答えて蹴散らしていく。

FK保険や化成工業なんかは細かく詳細を確認していたが、結局席を立つことになった。


残ったメンバーは、確かに癖はあるが、手を組めばより多くの成果を共有できそうな企業だった。


「貴方たちに念を押させてもらうけど」


鬼木玲花が私たちを鋭い目で睨んだ。


「瀬尾京平は日本の至宝と言っても過言ではないわ。彼を守るために私たちは保護者代理になってるし、少しでも傷つかないように細心の注意を払っている。もし仮に彼を食い物にしようと考えているのであれば・・・許さないわよ」


鬼木さんの背中に般若が映し出され、私の心臓が、キュッと縮まった気がした。

恐怖か何かが私の体に影響を与えているようだ。

私は笑顔を浮かべる。

私たちは営業マン。

どんな苦しい状況でも、笑顔で突き進むことを役目として担っている。

この程度の恐怖は、プレゼンの失敗を社長に報告するより容易い。



Aに近いB級魔石のデータを持って会社に戻った。

先ずは部長に報告した。

データを見せると、彼も目を大きく開いて、すぐに生産部門の部長と広告部門の部長、経理部門の部長と時間を作って打ち合わせをした。

その際に、耐火耐熱装備の話をした。


「このデータが本当なら、特別費用を出してでも手に入れて欲しいのだが?」

「広告としても、彼が我が社の装備を使っているという事実だけでも十分利益につながると思う」

「・・・この話を役員に通して、その結果次第で予算を作りましょう。ほぼ承認でしょうけど」


社長まで、あっさりと話が通って承認が降りた。


そこから先は、生産部門が瀬尾さんや天外天のメンバーと個別に要望を確認し、東京通信の生産部門を入れてあーでもない、こーでもないと言いながら専用装備を作り上げた。

私たちだけでは手が足りず、兼良さんと話をして、B級魔石の権利を譲渡して、他社を巻き込むことにした。


その結果・・・大成功を収めた。


後で参加した担当者の、スモモの魔石を見る目が心地良い。

流石にA級は国が全て回収するそうで、私たちは見送ることしかできない。

なので、ちょっとした意地悪をする事にした。


「A級魔石をもし民間が手に入れようとしたら、最低50億です」


みんなが煮湯を飲んだような表情をした。


ああ、今日も美味しいお酒が飲めそうだ。

次回より第5章に入りますが、もうすぐストックが無くなります。なので、しばらくは一話更新となりますのでよろしくお願いします。

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