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人類はレベルとスキルを獲得出来ませんでした  作者: 妹尾真拓
灼熱ダンジョン編
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第二回灼熱ダンジョン1日目

「さて、どうやって進みましょうか」


僕の質問に莉乃さんが手を挙げた。


「今回は、京平くんの生命力吸収は極力使わない方向で行きたいな」

「そうね・・・今回のアタックは装備と道具の性能確認ではあるけど、私たちが瀬尾くんの足手纏いではないことを証明する場でもあるわ」

「不甲斐ない動きしかできなかったら、瀬尾くんが別のパーティと組んでアタックするってことね」

「莉乃ちゃ んは捨てられてしまうのか」

「捨てられるの!? 何それ聞いてない! 京平くん! 本当なの!?」

「捨てるわけないでしょ! 植木さんも出鱈目言わないでください! 今回はライブ発信してるんですよ!」

「そうよ。今回は真面目にいくわよ乃亜」

「はいはい。中に入ったら本気出すわよ、私も。これでも二つ名持ってるんだから、恥ずかしい真似はしないわ」

「それじゃ、ポータルまで移動しましょう。莉乃さんも僕にしがみつかないで、行きますよ!」

「うう、分かった。麻生ちゃんバフお願い」

「私もお願いね。瀬尾くんは2人と一緒に移動ラインが確保できたと思ったら来て、危険だと思ったらスキル使っていいけど、可能な限り私たちを信じて」


自分の装備に自信を持っているのか、高城さんも残像を残しながら、ファイアバードのエリアに足を踏み入れた。

高城さんの残像はよく見られる歪んだ影とは全く異なり、鮮明な画像でしかも少しの時間だが、本人が動いた後を同じように動くため、視覚的には全く見分けがつかない。

莉乃さんも速度上昇のバフを受けた上に韋駄天を使って飛んだ。

飛んだことに、まず僕は驚いた。

B級魔石を組み込んだ背中の装置が、強烈な風を吐き出して莉乃さんのスキルと相乗効果を生み出しているのだ。

これにファイアバードたちは慌てたようで、咄嗟の判断ができずに莉乃さんに叩き落とされ、高城さんに斬り殺された。

『やったぞ』っという声が聞こえた。

おそらくライブ映像を見ている開発担当の人が叫んだのだろう。

僕から見ても、鮮やかに姿勢制御をしながら次々に襲いかかるファイアバードを叩き落とす莉乃さんを見て凄いと思った。

もし莉乃さんに火力が備わったら、ファイアバードソロ攻略も容易に出来るようになるだろう。


僕は2人が作った道を進んで、真っ直ぐポータルへ辿り着いた。

B級魔石を拾いながら到着したが、前回よりも個数が少ない。悪いように見えるが、これは前回よりも効率よく辿り着くことができたということだ。

麻生さんが時々戦っている2人に合図を送って、バフの更新をして周囲の安全を確保する。


「莉乃、四葉。安全を確保出来たわ。戻って」


2人が戻ってきたので最新のカートの追跡機能を一旦オフにして僕が抱え上げた。


「では、前回と同じで」


4人が頷いたのを見て、僕はポータルに飛び込んでスキルを使う。

続いて飛び込んできた莉乃さんたちを受け止めて、安全を確認してスキルを切った。

全員2回目なので落ち着いてゆっくりと進み、莉乃さんと高城さんの敵意察知を頼りに、飛んでいる敵は莉乃さんが叩き落として僕が踏む。

阿蘇駅から加重を付けっぱなしにしているため、もう結構な重さになっていた。


「瀬尾くんの加重も、結構強いよね」

「このコウモリって結構固いから斬撃特化でもついてないと切れないのよね」

「莉乃もよく当てれるよね。コウモリって回避能力が高いでしょ?

「フェイントを入れればあっさりひっかかるんだよ。所詮は獣だからね、知恵があったら怖いけど」


こうなってくると、斬撃特化というスキルがいかに貴重だったのかが分かる。

あの時売った刀は活躍してるかなっと考えながら進むと、最初の広間に辿り着いた。


「カバ・・・いた」


広間を覗くと、大あくびしながらのんびりと巨体を揺らしているカバ擬きがいた。

多分、画面の向こう側で、あの4人はガッツポーズでもしているかもしれない。

僕がスキルを使おうと、広間に踏み出そうとすると、それを植木さんが止めた。


「植木さん?」

「ごめんね。でも、ここは私に任せて欲しいの」


彼女の言葉に、僕はどうすればいいか決めかねて莉乃さんたちを見た。

正直、安全面から見たら、僕が単独で進んだ方がいい。

それを分かってて、それでもやりたいと言うことは、何か考えと倒せる算段があるのだろう。

高城さんが頷いて僕は植木さんに場所譲った。

彼女は広間の入り口で右腰と杖にあるバッテリーのスイッチを上げる。

彼女装備は僕のとは大きく違い、杖とローブがついていて、見るからに魔術師となっていた。

だが今の時代、杖やローブは格好でしかないと思われている。

受肉祭の素材が高いから、満足のいく威力を出せる装備を作ることができない

そのイメージを払拭出来るだけの力を彼女が出せるのだろうか?

杖とローブに光の線が幾重にも走っていく。


「土蜘蛛の糸を私が考えた模様で編んでもらったのよ。杖も大王杉の大枝を手に入れてもらって杖として作ってもらったの。開発チームも一部マニアックな人たちが積極的に手伝ってくれたわ。この私たちの傑作で威力が上がらなかったら、私たちの負けよ!」


杖を振ると、輝いていた光に線が一気に広間を駆け巡り、ドカンっと大きな音を立てて・・・広間が棘で閉じた。


「え? ちょっと」

「まさか、広間全体に棘を出したの?」

「植木ちゃん・・・凄い」


中にはカバ擬きと火の精霊、コウモリやカエルみたいなものもいた。

それらがどうなったのか・・・。


「ううぅ・・・やっぱりきつい。威力は出たけど、制御に体力持って行かれた。もっと効率考えないと」


植木さんがガクッと膝を崩して倒れそうになったところを高城さんと麻生さんが両脇を支えた。

棘が消えた広間にはカバが瀕死の状態で転がっていて、他のモンスターはすでに消えていて魔石が転がっている。

そのカバも、莉乃さんが目に単槍を捩じ込んで魔石に変える。

スモモの魔石がついてくるカートの中に収まった。


「前回のジャイアントファイアゴーレムの場所まで行きましょう」


植木さんを十分に回復させて先を進む。

ただし、まだ前回行った場所にしか行かない。

罠については莉乃さんがスキルで発見できるはずだから心配はほとんどしていないが、万が一がある。

通路の壁にへばりついていたイモリやスライムを倒す。

スライムは流石に慎重に、僕の生命力吸収で確実に弱らせて、武器を溶かされないように、そこら辺の岩で叩き潰す。

武器破壊や装備破壊だけはされてはいけない。

それをされたら即帰還となってしまう。


慎重に広間の入り口まで進んで中を覗いた。

僕の後ろから莉乃さんも一緒に覗き込む。


「うわー、これは嫌ね」

「ファイアデススパイダー。ああジャイアントがいた。ってことはこいつら子供ですか」


これは確実に僕が行くしかない。

みんなに合図して、十分に距離をとって生命力吸収を使用する。

ボトボトと入り口から順に蜘蛛が落ちていき、僕は床で動けないそれらを無造作に踏んでいく。


「ギギギィィィィィィ!」

「ああ、怒るのか? 装備の耐久力も試さないといけないけど、消化液は避けないとな」


口から吐き出される液体を避けながら親蜘蛛に近づいて、尻から糸を出そうと構えたところで、僕はダッシュで一気に距離を詰めた。

糸は出たが弱々しく、シュルシュルと地面に落ちていく。


「あれ? 魔石を落とさない?」


麻生さんの声を聞いて、僕は後ろを見た。

蜘蛛を何匹か踏み潰したのに魔石が落ちずにモンスターが消えている。


「子供は魔石を落とさないのか? 倒し損というか、でも倒さないと危険だし。とりあえず、こいつは倒そう」


まずは背中から踏み潰す。

それから頭を潰し、確実に光に変わるのを確認する。

右足の重さがA級を踏み潰せる重さになった。

後はジャイアントファイアゴーレムを打ち砕く攻撃力があれば、この広間での安全は確保できる。

まあ、僕に考えはあるのだが、正直早く試してみたくてウズウズしている。


「さて、一旦ここで食事にしましょう。ただし、トイレは作りますがテントは別の場所を探します。まだみなさん余裕みたいですし」

「前回よりもはるかに楽だよ。多分、精神的にも前より余裕があると思うよ。前は瀬尾くんに全てお願いしていて、私たちはほとんど何も出来なかったからね」

「そういえば、テントとデッキも作ってもらってた」

「いたせり尽せりだったんですね」

「ダメ女メイカー」


まず、目隠しを立てて全員が一度画像と音声を切った。

その上で全員用を足して再度画像と音声を戻した。

それからはさらに奥を目指して進んでいくと、次の広間に辿り着いた。

今の時点で、魔石の量はA級1個、スモモ1個、B級は20に届かないぐらい。


「Aが1個あれば国としては十分な成果でしょうね」

「メイン企業としては、各社に1個ずつスモモが欲しいところね」

「あ、B級は僕がいくつか使うと思うので、3つください」


魔石をカートから貰って、右足装備の三つのカードリッジにそれぞれ入れていく。


「新装備?」

「ええ。莉乃さんと植木さんに驚かされたので、僕も驚きを返さないと」

「私と四葉にはそんな驚きの機能はないんだけど」

「動物系だったら、私たちの装備も効果を見せれるんだけどね」


僕たちは広間を覗くと、そこには噴火の時に見た大猪が闊歩していた。

広間も前のものよりも広く、大猪が突進して立ち止まれるほど広い。

周囲には精霊とゴーレムが10体近くいる。


「あれを天外天で倒せたら、ちゃんとした実績になるんじゃない?」

「あれ以外を僕1人はきついですよ。ゴーレムは火力が出ますので倒せますけど、精霊が・・・攻撃が届きません。仕掛けても避けますから。捕まえることができれば、今回は踏み潰せると思いますけど」


縄文杉の外殻が伊達かどうかがこれで分かるかもしれない。


「じゃあ、最初は私が全体のサポートに入るわ。相手の行動を阻害することぐらいは出来るわよ」

「私は莉乃ちゃんと四葉ちゃんをメインに支援するね」


それぞれの役割を決めて、麻生さんから支援を受けた莉乃さんと高城さんが一気に飛び込み、その後に植木さんの体から光が走る。

一瞬でモンスターたちを棘で行動を封じる。

前回はゴーレムたちに破壊された棘だが、硬度が上がったのか今回は壊れずに維持している。

僕はすぐさまゴーレムから踏んでいく。

重さがありすぎて、頭を踏んだら胸の半ばまで砕けた。

急いでゴーレム4体を砕いて精霊を見ると、壁近くの空中で檻に囚われていた。

囲われている棘の檻から抜け出せないようだ。

僕は最初に掴んで踏み潰す相手を指差して飛び上がる。

精霊につかみかかる瞬間、最初の精霊の檻が消え、自由になった瞬間に僕が掴んで、足の下に敷いて地面とのサンドウィッチにする。

それを5体もやったため時間がかかってしまった。

大猪を見ると、莉乃さんと高城さんの2名に足をズタボロにされていた。

大猪の足元はいくつもの穴があって、瞬時に走れないようになっている。

多分、そのせいで反対方向への突進ができなかったのだろう。

こんなに広い場所なのに、全く無駄になっている。


「あー、もう! 硬い!」

「硬い! 刃が通らない!」


ただ、皮膚が分厚すぎてダメージを与えられないようだ。

やり方としては、足を動けなくして目や耳を突き刺すのが一般的だ。

口の中は最後の力で噛まれる恐れがあるのでお勧めはできない。

僕が生命力吸収をすれば、目を貫いて倒せるのだろうが、元気すぎるので目を狙っても瞼を閉じて弾いてしまう。

後は耳なのだが問題は穴が深すぎて光が届かず、さらに狭い場所なので出られなくなるらしい。


決定打に欠ける状況だったので、そろそろ出ようかと考えた瞬間、それは起きた。


「ブモオオオオオオオォォォォォォォォォ!」

「まずい!」


大猪が狂乱状態に入った!

ああなると見境なく周囲を破壊するため、どんなモンスターでも、距離を取ることが推奨されている。

僕は急いで右足のレバーを上げて叫んだ。


「植木さん! 足止め!」


僕の声を聞いて、大猪の足元から大量の棘が生えて大猪の行動を阻害する。

その隙に僕は一足飛びに、身体強化を使って大猪の正面に飛びかかった。

狙うのは大猪の額。

最も硬いと言われているそこに向けて、僕は右足の踵を当てた。


ズドォォォォォン


右足が強烈な音を発して閃光を放ち、額と背中を抉り取って壁にぶち当たる。

見ただけで即死と分かる大猪は、すぐに光になって消えていった。


「瀬尾くんのそれって・・・」


高城さんが僕の右足を指差す。

僕はカードリッジを一つ外して中の砕けたB級魔石を捨てた。


「ドラゴンバスターの小型を組み込んでもらいました。威力は申し分ないですね。ただ、あの時の炎龍だとどのくらいダメージを与えれたかは不明ですが」


空のカードリッジをそのまま戻して立ち上がる。

一回使ってしまったので、最低でも20分休憩を置かなければならない。

カードリッジ自体も連続して使うことができず、空の状態でしばらく放置しなければ歪みが出て使えなくなる代物だ。


「あー、残念。私たちじゃ、まだまだ火力が足りないってことか」

「そうね。でもドラゴンバスターは・・・それ、大丈夫なの? 反動で骨とか砕けない?」


みんなの視線が集まる中、僕は両腕をみんなに見せる。


「ああ、なるほど」


衝撃無効。

このスキルがある限り、どんな反動も僕にはダメージを与えない。

今回の結果で、類似スキルは政府が買い占めると思われる。

しっかり見ているだろうし。


流石に大猪との戦いは体力を消耗したのか、天外天のメンバーはぐったりと疲れていて、今日の残り時間は周囲の軽い探索で終わることになった。


それから僕は、この場所にテントを張ろうと材料を取り出して、まず土台を作りテントを乗せた。

今回のテントも、松尾食糧がアウトドア用に作った自社製品で、床が寝袋を使わなくてもある程度のクッション性を持つ物を用意してくれた。

そして、モンスターからの襲撃を少なくするため、大鷲製薬が特殊なお香を開発し、ゴーレム以外は近づけないエリアを作り出した。

何故ゴーレムは除かれたかというと、香り関係が全く通用しないから、らしい。

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