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人類はレベルとスキルを獲得出来ませんでした  作者: 妹尾真拓
灼熱ダンジョン編
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3日目は帰宅(魔石は十分)

3日目はみんなフラフラだった。

なんせ、普通に寝ることができない。

B級の精霊やゴーレムが1時間おきぐらいに現れ、寝かせてあげようと思っても起こさないといけない状況になるのだ。

僕自身も、デッキに上がるときには加重を切るため、最大火力で踏むことができない。

植木さんをメインにして、みんなに時間を稼いでもらうしかない。


「もう、帰りましょうか」

「さんせー」

「魔石がこんだけあれば十分」

「宝箱はまた一緒に来てあげるよ」

「う・・・よろ・・・ぐぅ・・・」

「莉乃さん、寝ないでください」


古の企業戦士という特殊な職に就いていた人たちは2徹3徹は余裕だったらしいが、僕らには無理だった。

テントと土台をバラして魔石で一杯になったカートの上に乗せ、紐で縛る。

ガタガタガタとカートの音が響く。

麻生さんが引っ張ってくれて、僕はというと莉乃さんをおんぶしている。

最初の広場に着くと、そこには最初のカバがのんびりと座っている。

僕らは戦うのもめんどくさかったので、戦わずに通り抜けようとすると、巨大な火の玉を吐き出した。


「避けろ!」

「くっ!」

「か! 壁!」

「隠れて!」


魔法で作られた壁にみんな隠れて、莉乃さんを下ろした後、僕はすぐに飛び出てスキルを使う。


「この! カバ擬きが!」


一気に近づこうとすると、意外なほど素早く僕のスキル範囲外に避難する。

それでいて、次弾の準備を始めたため、僕も必死になって追いかける。


「バフ! 受けて!」


青い光を受けた瞬間、速度が上がり、カバの口の横に移動して顎を蹴り上げた。


「火を!」


そして力任せに上唇を掴んで地面に叩きつける。


「吐くな!」


鼻の上に跳び乗って、眉間を思いっきり蹴る。

一発では沈まないので何度も何度も蹴り続け、紫の光が見えてようやく蹴るのをやめた。


「こいつも・・・本当は強いんだな」

「・・・私たちだけだったら死んでたわ」

「急いで出ましょう!」

「もうヤバい。本当にヤバい」


僕らは早足で入り口だったポータルに辿り着いて僕が莉乃さんをおんぶしたまま飛び込み、すぐにスキルを使用すると、今まさに飛ぼうとしていたファイアーバードが落ちた。

続いて高城さんにたちが背中に飛び乗ってきた。

もちろん、スキルの影響を受けて力を失って地面にずり落ちそうになるのを何とかコントロールする。

流石にカートまでは無理だったので、多少魔石が飛び出たが無視をした。

・・・B級だったし。

とりあえず周囲のファイアーバードを踏み潰してスキルを切った。


「駆け抜けますよ。バフをお願いします」


麻生さんのバフがみんなにかかったところで、一直線にファイアーバードの巣を駆け抜けていく。


「ぎゃああああああ! 焼けちゃう!」

「金持ちになるのよ! 生きて勝ち組になるの!」

「私たちの冒険はこれからだぁぁぁぁぁ!」



探索者組合に僕たちが入ると、周囲の人たちが騒めいた。

装備のあちこちに焦げを作って、荒い息を吐いている4人と背負われた1人。

顔もフェイスガードのせいで遠くからは判別できない。

そんな集団がカートをガラガラ言わせながら受付に近づくものだから、受付の笑顔が凍ってしまうのも当然だ。


「すみません、瀬尾です。天外天と火口から灼熱ダンジョンに行ってきました。支部長か副支部長いますか?」


受付の人は僕の顔を見て、ちょっと安心して「少々お待ちください」と言ってどこかに電話をかけた。

それから少しすると、いつもの足音がして階段から支部長が降りてくる。


「なんだ、上で宮地さんとお前の今後について話をしていたのに」

「宮地さんもいたんですか?」

「おう。上に来るか?」

「今日は天外天の人も一緒なので・・・」

「そうか。で? 宮下は寝てるようだが、何かあったのか?」

「火口から灼熱ダンジョンに行ってきました」


灼熱ダンジョンってそういえば僕が勝手に呼んでいるだけで、他に正式名称があるかもしれないが、この場はそれで押し通そう。


「とりあえず、天外天と狩ってきた成果です。確認してください」


僕がそう言って、高城さんにカートの上に乗せたテントや土台の材料を外してもらって、中の魔石の山を彼に見せた。


「オイコラ!」

「うわ~」

「え? なになに」

「見えない、ちょっと」


受付もロビーにいた人たちも何事かと集まりだし、魔石の山を見た人たちは固まって動けなくなる。

ざっとB級が60以上、準A級と勝手に判断したカバの魔石が2個、A級が1個。


「・・・それを預けて上に来い。天外天も一緒だ」

「みなさん大丈夫ですか? 僕1人でも十分ですよ?」

「私はいいけど、莉乃がその状態だからね・・・仮眠室に寝かせましょうか。乃亜と一美も一緒に仮眠室行って休憩してきて」

「分かった」

「疲れたよー」


莉乃さんを植木さんに渡して、僕と高城さんは支部長について行って応接室に入った。


「失礼します」


部屋の中には宮地さんがいつもの笑顔で手を振ってくる。


「何かの打ち合わせですか?」

「瀬尾くんに、次何を頼もうか相談中でした」

「・・・しばらくは無しですよ?」

「分かってます。私は鬼じゃありませんから。それで? 今日は何をしでかしたんですか?」

「凄い偏見だと思いますが?」

「顔を見れば分かります」


僕の顔をではなく、支部長の顔を指差す。

確かに、頭を押さえて顰めっ面をしていれば何かあったかと感じるか・・・。


「魔石を持ってきただけですよ」

「またB級を30個ですか?」


それはもう過去の僕ですよ、宮地さん。


「B級数えきれず、Aに近いB級2個、A級1個だ。いち探索者がポンと持ってくる魔石の量じゃないぞ。捌く方の身にもなってくれ」

「・・・頑張ってください」

「何をおっしゃいますか、宮地さん。どうせ自衛隊も取り分を主張してくるんでしょ? 一緒に考えましょう」

「いえいえ、探索者組合の内部のことですからね、あまり干渉しては自衛隊からの圧力と言われかねません」

「過去の歪み合いからそういう言葉があることは知っていますが、今はその垣根を乗り越えようと、歩み寄っている時期です。苦楽を共にすれば、乗り越えやすいと思いませんか?」

「確かにそうかもしれませんが、今回は苦の方が多いように思えます。それに歩み寄りは時間をかけて行うもの、一足飛びに行うと、どこか歪みが出てしまいますよ。特に今回はA級魔石もあります。各省庁も顔を出してきますので、それより先に自衛隊が関わるのは良策ではありません」


支部長の首がガクっと落ちた。

頭脳派な人材を巻き込もうとして失敗したようだ。


「えっと、天外天の装備の借金もあるので、換金を早めにしてあげたいんですが」

「いくらぐらい借りたんだ?」

「4人で1000万ぐらいです。ペルチェ製のを購入したので。肥後銀行から借りました」

「そうか・・・まあ妥当な銀行だな。金利分も今回の狩りで十分賄えるだろ。しばらく借りておけ。そっちの方が銀行も喜ぶ。必要な買い物があれば数百万ならなんとかするが?」

「いえ、1週間は休みたいので生活できる分があれば大丈夫です。少し豪遊したいので」

「・・・そうか。瀬尾」

「はい」


矛先が僕に向いた。


「どこに行って、どういう経緯で、何があって、こうなったか。詳しく説明してくれ。高城は戻っていい。明日にはお前たちが豪遊できる金を用意しておいてやる」


高城さんは立ち上がって僕を見た。

僕は目線で訴える。

1人にしないで、一緒にいて、と。


「それじゃ、説明頑張ってね」


・・・神はいなかった。


扉が閉まった後、不思議な静寂が応接室を包み込む。

僕が顔を正面に戻すと、支部長の目といつの間にか移動していた宮地さんの目が僕を見ていた。


「それじゃ、聞こうか」


ああ・・・逃げたい。

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