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人類はレベルとスキルを獲得出来ませんでした  作者: 妹尾真拓
屋久島奪還編
24/197

葬儀と帰省

もし、面白い、先が気になると思っていただけたら、評価・ブックマーク・いいね をお願いします。

屋久島奪還作戦は全てのメディアで大々的に取り上げられた。

80年以上君臨し続けた縄文杉の討伐成功。

最高の立役者は17歳の英雄。

テレビの中で僕の写真が映し出される。

基地の中でみんなと話をしている写真だ。

その中には、彼らの姿もあった。

自衛隊の方で厳選したのなら、家族の同意も得ているのだろう。

彼らとの会話を思い出して、涙が溢れた。


縄文杉を討伐後、新たに陸自が輸送ヘリで屋久島に上陸し、縄文杉と大王杉の死亡を確認した。

ダンジョンがブレイクしているかどうかはその後の調査次第だそうだ。

それから第5航空団の5名の捜索が開始され、全員の死亡が確認された。

僕は彼らの葬式に出席する意志を宮地さんに伝えた。


「無理しなくてもいいんですよ?」


宮地さんはそう言ってくれたが、僕は首を横に振った。

進化の実については城島さんと話をして、そのまま僕が持ち帰ることになった。

島の調査の際に宝箱が出ても、連絡があるとの話があったが確率的にほぼ無いと思う。


「それと、作戦に参加した僕の特別報酬は遺族に分けてください」

「・・・国からちゃんと遺族に年金が送られますよ。瀬尾さんがそこまでする必要はありません」


僕は城島さんの言葉にも首を振った。


「僕がそうしたいだけです」


そう言って僕は基地の宿舎に戻ろうとしたとき、前に右足にギブスをはめて松葉杖をついた貴島さんと右腕を吊り下げて固定している鬼木さんが立っていた。


「お二人とも大丈夫ですか?」


2人は撃墜された最初の輸送ヘリに乗っていたらしく、下から襲ってきた根を危険察知のスキルを持った隊員が察知し、鬼木さんが床をぶち抜いてきた根を殴り飛ばし、貴島さんが物体操作でなんとか姿勢制御したが、墜落して海に叩きつけられた。

その際に、壁や床にぶつかって折れたそうだ。

もちろん、落ちた場所が海だったため2人とも死を覚悟したそうだが、例の海竜が隊員全員を陸まで運んでくれたらしい。


「まさか海竜の口の中に入る日が来るとは、想像もしていなかったわ」


もう二度とごめんよっと笑って僕に近づいた。


「瀬尾くんは大丈夫?」


何が大丈夫か・・・。

彼女の目が僕を優しく見つめる。


「僕は大丈夫ですよ。彼らの葬式にも出るつもりです」

「テレビが来るわよ?」

「自衛隊を通してインタビューはしないように通達してもらえるよう宮地さんにお願いしました。後、ご遺族には最大限配慮することも」

「そう・・・探索者組合でも護衛をつけるように本部に話を通すわ。こういう時って必ずと言っていいほど愉快犯が出てくるから」

「悪名は無名に勝るとかほざく連中のことか? 私も奴らのことは嫌いだな。安全な場所にいて、弱者であることを振りかざして横柄な態度を取る。何かあったら本人が悪いにもかかわらず、ネットで切り抜き動画を拡散する。そして閲覧数が収入になる・・・殴りたくなるな」

「本当にね。警官も配備されるでしょうけど、捕縛が得意な人をつけるよう頼んでおくから安心して」

「ありがとうございます」



それから色々な準備をした後、輸送用のヘリに乗って関東方面に向かい、そこから車でそれぞれの家へ向かった。

服装は礼服を購入した。

じーちゃんばーちゃんの時に着た服は、ちょっと小さくなっていてキツかった。


最初に行った場所は関口さんの自宅だった。

ネットで調べた通り、歩く手順と声の大きさセリフを注意しながら焼香をあげる。

思わず涙が出そうになってグッと堪えた。

空自の将官の方が、彼の遺品を奥さんに渡していた。


「あの人は・・・立派でしたか?」


遺品の入った箱を撫でながら、奥さんが尋ねた。


「立派でした。国を愛し、人を愛し、仲間を愛していました。何より家族を愛していました」

「そうですか・・・」


雫が箱にいくつも落ちてシミを作った。


次は響野さんの実家に向かった。

響野さんの遺体は綺麗なまま実家に送られており、最後に綺麗な寝顔に感謝を言って喪主の席にいたお母さんに挨拶をした。


「あの子は・・・最後に何か言ってましたか?」

「日本を・・・頼みますと、僕に託しました」

「あの子は・・・。ごめんなさいね。まだ若い貴方にそんな重いものを背負わせてしまって」

「いえ・・・全て背負っていく所存です」

「・・・そう・・・。休みたくなったら来てください。あの子も喜ぶと思います」


僕は深くお辞儀をして席を外す。

将官の人も二言三言話をしてお辞儀をして席を外す。

それから、青木さん、霧崎さん、竜堂さんの家を周り、遺品を渡して話をする。

どんな隊員だったか、どんな活躍だったか。

誰もが怯える縄文杉に果敢に立ち向かった姿を伝えた。


「辛いか?」


全てを周った後、将官から声をかけられた。


「少し・・・」

「そうだな・・・私も辛い。でも、慣れてはいけない。心を強く、思いを背負って駆け抜けるといい。君にはそれが出来る」


ポンっと励ますように、僕の肩を叩いて基地の中で別れた。


鬼木さんが懸念していた馬鹿がいなかったのでホッとしながら目黒基地内の客室に入ってベッドに寝た。

後から知ったが、何人かいたらしい。

全て警官が捕まえたらしいが、ライブ配信をしていたのを逆手にとって、何をしようとしていたのか、何を言おうとしていたのか、それが遺族をどんな気持ちにさせるのか、懇々と熱心に伝え、死んでいった彼らが生きている人たちにどのような思いを託したのか教えた。

流石にそこまでされると配信者も視聴者も何も言えなくなり、軽率な行動をしようとした事を反省した。

1人嘘をついて反省のフリをしたらしいが、警察内の読心関係のスキル保持者が合図を送って本当に反省するまで帰さなかったらしい。


翌朝、僕の礼服姿がネットに上がっていた。

それと、溢れそうになった涙を指で拭う瞬間も撮られていた。

コメントを開放していなくて良かった。

何を言われるか分からない。


2日後、僕は防衛省から表彰された。

たくさんのフラッシュを浴びながら、大臣からそれを受け取って握手を交わした。

その場で喋ることはほとんど決められており、暗記をして喋ったため、ちょっと棒読みになったかもしれない。

ただ、緊張をしていたのでそのせいで棒読みになっていた可能性もある。


僕はその表彰式が終わったら、諸々の人たちに囲まれて、解放された後は自衛隊に熊本県の大津町まで送ってもらうことになった。

後日、屋久島での調査が終わったら、石碑を建てるので、その式典には参加してほしいとの依頼があった。

必ず出席しますと返事した。


それからバイクに乗り換えて僕の装備を受け取ろうとすると、宮地さんが首を横に振った。


「私が車で持って行くよ。正式に阿蘇市常駐組になったからね」

「阿蘇に駐屯地でも作るんですか?」

「いや、単なる探索者組合との連絡要員だよ。前回の噴火のときも上の人たちは探索者組合との連携について問題視していてね、いつまでも歪みあっている場合ではないって。競争意識を高めるためというのもあったけど、時代に合わないって判断らしいよ」


確かに歪みあっている場合ではない。

日本には無人島が幾つも存在し、定期的に調査はされているが、見落としの可能性もある。

ダンジョンブレイクが起きた場合、屋久島の二の舞になる可能性もあるのだ。


先頭を僕がスキルを使ってバイクで走り、その後ろ10メートルを宮地さんが車で追いかけてくる。

そして阿蘇市に入り、探索者組合の側のパーキングに止まってスーツケース2つを受け取った。

そこで別れて、僕はそのまま探索者組合に入り整理券を取った。


「おい、帰ってきたぞ」

「まだ声はかけるな。ニュースでも見たろ」

「そうだな。しばらくそっとするのが一番か」


僕の方をチラチラと見る目がいくつかあるが、どうやら静かにしてくれるみたいだ。


「403番の方。2番窓口へどうぞ」


ホッとしたのも束の間、僕の番号が呼ばれたので座った椅子から立ち上がって2番窓口に向かった。

窓口には見知った女性がこちらを見ている。

ただ・・・ちょっと怒っているようだ。


「えっと、こんにちは」

「こんにちは。今日は何かご要望ですか?」


開いている目が怖い。

何かを訴えているようで、他の受付の人を見るが、その人たちも仕事そっちのけで僕を見ている。

何かの処理をしてもらっていた探索者も困惑した顔で僕を見ていた。


「組合員として、セキュリティ付き金庫の使用を申請したいんですが」

「承知しました・・・。その前に一つ確認させてください」

「はい・・・」

「私たちの希望を、支部長に伝えて頂けましたでしょうか?」


僕の記憶がフル稼働して、種子島に行く前のひと場面が再生された。


「あっ!」

「あ?」


目の前の受付から怒気が溢れ出す!

ヤバい! 危険察知スキルは持っていないはずなのにわかってしまう!


「今すぐ伝えてきます!」

「・・・スーツケースは預かっておきます。支部長は上です」

「承知しました!」


僕は駆け足で2階に上がり、支部長室の扉を叩いて返事を待たずに中に入った。


「帰ってきたか。色々とご苦労だったな。だが、そんなに焦ってどうした?」

「ちょっと伝え忘れていたことがあって、さっき思い出したんですよ。受付のことです」

「受付? 特別に自分の担当でもつけて欲しいのか?」

「恐ろしいのでやめてください」


支部長が不思議そうに僕を見る。


「温泉施設を利用したいそうです」

「すれば良いではないのか?」

「そこに行くことができないと。なので、探索者が客を連れて行く際に、同行させて欲しいとのことでした」

「うむ・・・」


探索者にとっては、守る対象が1人増えることになるので、支部長としてもすぐにオッケーは出せない問題だ。


「受付の・・・女性だろうな。瀬尾が20日ぐらい働けば良いだけだ」

「え? 何でそうなるんですか?」

「お前なら一日2人を運べるだろ? サイドカー付きのバイクをタダで貸してやる。ちゃんと報酬も用意するから安心してくれ」

「いやいや、客と同行って話でしょ!」

「確実な安全という意味では、お前が適任だ。支部長権限を発動する!」

「4級探索者には支部長は強制できない決まりだ!」

「おやおや、瀬尾は探索者に美しい肌を見せつけられて、涙を流している受付の願いを聞き届けないと? お前はそんなに薄情な人間だったのか? 保護者代理としては悲しい事実だ。お父さんは悲しいぞ」

「ぶん殴りたい、このオヤジ!」

「いいから行ってこい」


支部長がパソコンに目を移して作業を始める。


「そっちの方が気晴らしになる」

「・・・ずるいぞ」

「大人だからな」


シッシッと手で退室するよう合図され、せめてもの反抗で特大のため息を残して部屋を出た。

1階に降りて期待の眼差しを向けてくる受付の窓口に向かった。


「支部長から僕に連れて行くよう指示がありました」


声にならない歓声が受付の中で上がった。

みんな口を押さえて飛び跳ねたり足をバタバタさせて喜んでいる。


「なので、行く順番を決めてください。一日2人、午前と午後です。明日にはリストが出来ますか?」

「今日中にお渡しします!」

「・・・夕方取りにきます」


これから順番を争う熾烈な戦いがあるのだろう。

僕は関わらないで済むように、そっと探索者組合から外に出た。


今日ぐらいはホテルでゆっくりしようと、前いたホテルに入った。


「お連れ様が継続で使用されております」


宮下さんがまだ住んでいるらしい。

僕が扉をノックすると「はーい」と元気な声が返ってきた。


「瀬尾です」

「お帰り、お帰りだよ。私は頑張って待ったんだ。すっごく待ったんだよ!」


Tシャツ一枚着た宮下さんが扉を開けた。


「チョ! 服!」

「がんばったー瀬尾くんにご褒美だ! ほらほら、中に入って。でないと私のあられもない姿を他の人が見ちゃうよ」

「だったら服を着ろ! って! ブラもつけてない! 僕の腕にしがみつくな! 当たってる!」

「当ててんのよ」

「ふざけるなー! 保護者どもはどこ行った!」

「瀬尾くんが戻ってくるって聞いて、ショップで装備を見に行ったわよ。私はもう買った! だから、2人っきりだね」

「尚更服を着なくちゃいけない状況だろ。慎み深さはどこにやった」

「親のお腹の中?」

「元からないのかよ!」


僕はもう諦めて、引っ張られながら部屋に入り、ソファーに座った。


「久々だね!」

「そうだな・・・」

「・・・」

「どうかした?」


宮下さんが僕をじっと見ている。


「組合に行った?」

「あ、うん。行ったけど?」

「何か言われた?」

「言われたというか、仕事を押し付けられた」

「お?」

「受付の女性を温泉に連れて行けだと」

「あー、所詮脳筋。男はダメだね~」


強引に首から頭を抱き込まれ、顔を胸元に押し付けられた。

ブラを着けていないため、フカっとした感触の後、心地いい抵抗が僕の顔を包んだ。


「おい! 流石に!」

「向こうでの生活は楽しかった?」

「・・・ああ」


不思議なほど優しく、力強く抱きしめられ、僕の身体から力が抜けた。


「あの人たちは、優しかった?」

「ああ・・・」

「いい人たちだった?」

「ああ・・・」

「・・・生きててほしかった?」


僕の胸に言葉が刺さった。


「泣いてもいいんだよ。拭う必要もない。誰も見ていない」


涙が溢れ出す。


「誰も・・・死なないと! 僕のスキルがあれば!」

「そうだね」

「うまく行くはずだったんだ! 僕がもっと強ければ! もっと! もっと!」

「そうだね・・・」

「クソッ! クソォォォ!」

「・・・そうだね」


涙が止まらず、シャツに吸い込まれて行く。

僕はそれ以上叫ばず、歯を食いしばって涙を流した。

それを宮下さんは、ずっと待っててくれた。

優しく・・・何も言わずに・・・。

閑話を一話挟んで、第4章に移ります。

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