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人類はレベルとスキルを獲得出来ませんでした  作者: 妹尾真拓
屋久島奪還編
23/197

第4次屋久島奪還作戦

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いつも以上に晴れた朝だった。

基本的に植物系のモンスターは夜に討伐するのが定席だ。

だが、今回は僕の命中率を重視して視界が確保できる時間帯に決行することになっていた。


「いよいよか」


僕は縄文杉に対して特別な感情はない。

だけど、自衛隊の表情は今度こそ! という思いが溢れていた。


「以上が作戦の概要です。それではこれより第4回・・・いえ、最後の縄文杉討伐及び屋久島奪還作戦を開始します! 第5航空団は10:00に第一陣の突撃を開始。瀬尾さんを乗せた第二陣が5分後突入。そして、瀬尾さんを射出後、縄文杉が無力化できたらヘリによる陸自の上陸。それから縄文杉を完全討伐します! 既にダンジョンブレイクしているかの確認は、討伐が完了した後、調査が入りますので気にせず作戦に当たってください。なお、島で宝箱があった際は瀬尾さんに、その代わり、縄文杉が受肉していた場合、素材は全て私たちが受け取ることになっています。それでは各自持ち場へ駆け足!」


宝箱は出る確率は少ないが、念のために要求しておいた。

もしかしたらがあった場合、悔やむことになるから、自衛隊の手伝いをする時は必ず要求した方がいいと鬼木さんにアドバイスをもらっていた。

その代わり、素材や魔石は自衛隊の物になる。

あちらの方が経費がかかっているから当然といえば当然のことなのだが。


「英雄殿、いよいよですね」

「そうですね」


苦笑しながら頷く。

もう英雄呼びは諦めて受け入れることにした。

ただし、別の場所ではちゃんと名前を呼んでもらうようお願いしている。


僕と響野さんは揃って戦闘機の一つに着いて、響野さんは操縦席に乗り込み、僕はベルゼブブの籠手と爆薬をふんだんに使われたベストを着込んだ。

このベストには筒の爆弾とは別に、受肉したモンスターがいたときに使う予定だ。起爆もスイッチを入れて10秒後に爆発するように、素人に優しい設計になっている。

そして設置されている黒い筒の中に身を足から潜り込ませた。


「蓋を閉めます」

「お願いします」


酸欠にならないように網の蓋になっていて僕がしがみつく棒に引っ掛ける事ができるようになっている。

僕は蓋から出てるフックを棒に引っ掛ける。

そしてインカムのスイッチをオンにした。


「こちら瀬尾。今インカムをオンにしました」

『承知した。これより第5航空団の発進を開始する』


戦闘機のエンジン音が強く唸り出し、音が移動していく。

そして一気に遠のいていった。

僕からは状況がわからないため、いつでも行けるように筒の中でスキルを発動しておく。


『発進まで残り60秒です。準備をお願いします』


インカムから響野さんの声が聞こえた。

こちらはいつでもオッケー牧場。

余計なことは言わずに静かにその時を待つ。


そして戦闘機から今日1番大きい音が響いて動き出した・・・と思ったら一気に加速して飛び出した。

通常ならGを感じるのだろうが、衝撃無効のおかげで全く感じない。

ただ、蓋から見える大地が戦闘機が飛ぶ高さを伝えてくる。

ちょっと体勢も頭が下を向いている状態のため、棒を必死に掴んで落ちないように堪えていた。


『こちらヒビキ。目標地点に到達。これより射出態勢に入ります』

『こちらセキ。了解した。対象の注意はこちらを向いている。進路を確保する。遠慮なくやれ』


ギュンっと視界が空を向き機体が降下していく。


『我らが英雄。お願いします!』


祈りの後、ガコンという音と共に僕が入った容器が落ちていき、間をおかずにズドン! と大きな音を立てて大地に突き刺さった。


「ゴホ! ゴホ! こちら瀬尾! ゴホ! 今、生命力吸収してます。アー! 砂埃が酷い! ちょっと待っててください」


僕は見事に大木に突き刺さった容器から出てきて、容器の起爆スイッチを取り外して上を見た。


そこには、力無く葉を散らし始めた巨木があった。

僕に対して攻撃する様子はない。


「縄文杉を無力化しました!」


僕の宣言に、インカムから「うぉぉぉぉぉ!」っと歓声が上がる。

僕はもう一度木を見ると、まるで人の顔のような木の皮が微かに動いている。


「縄文時代から生きてきたんだ、もう十分だろ」


僕がそう言って、爆破の影響がない場所に移動する。


「フヒッ」


まるで笑っているかのような声が聞こえた。

声の場所を見ても、筒に貫かれた縄文杉しかそこにはない。

僕は再度隠れてスイッチを押した。


ドゴォォォォン!!


大爆発を起こして、大木が上下真っ二つに分かれて倒れる。

この爆発の音がしたら、陸自の人たちがヘリで島に乗り込んでくる予定だ。

僕は近くにあった遊歩道に移動してウーンっと背筋を伸ばす。

ふと、そこにある看板に目が入った。


「・・・大王・・・杉?」


バッと僕は大木を見る。

受肉していたのか、消え去らないそれは、愚かな人間を嘲笑うかのように笑みを浮かべて動かない。

パラパラパラパラとヘリの音が徐々に大きくなってきた。


「ダメだ! 来るな!」


僕は大声でインカムに叫んだ。


「僕たちが倒したのは大王杉だ! 警戒してくれ! 奴は! 縄文杉は!」


僕の声が震える。

そうであって欲しくないのに、一瞬の油断がこの隙を作ってしまった!


「まだ生きている!!」


巨大な木の根が天を突いた。

僕からは木々が邪魔をして見えないが、ヘリに当たったような音がした。


「クソが!!」


遊歩道の案内を見て縄文杉の方向を確認し、身体強化で一気に走り出す。

ブチンブチンと地中で根切れの音がした。

縄文杉が僕の能力を把握して、影響を受けないために自分で根を切っているんだ。


『全員理解しているな。まだまだ仕事時間だ! 集中するぞ!』

『はい!』『承知!』『行きましょう!』『魅せるぜ!』


僕の頭上を5機の戦闘機が飛んでいき、散開する。

その後を、何本もの根が彼らに襲いかかった。


「関口さん!」

『数十秒ぐらい稼いでみせるさ! 頼むぜ、英雄!』


グッと歯を食いしばって走る。

根切れの音がするたびに近づいていることがわかるが、攻撃の手は止まらない。


不意に影が僕を覆った。

頭上には巨大な根が遊歩道ごと落ち潰そうと降ってくる。

既に本体とは切り離されていて僕のスキルの効果は無い!


『大丈夫ですよ、英雄殿』


それが落ちる寸前に・・・戦闘機が体当たりをした。


『日本を頼みます!』

「響野さん!!」


根と衝突した戦闘機がバランスを崩して、

回転しながら落ちていく。


『注意を逸らすなよ、縄文杉!』

『俺たちだけを見てればいいんだよ!』

『そーら! 喰らえや!』


ドゴォォォォンっと爆発音が響き、戦闘機が離脱するのが見えた。

だが、木の根が瞬時にそれを掴んで逃さぬよう絡めとる。


『へへへ・・・後を頼むぜ、英雄』


戦闘機がコクピットごと握りつぶされた。


『まだまだだぁぁぁぁぁぁ!』

『こっちだこっち!』

『2人が寂しがるからな! テメーも逝けや!』


いく本もの根を掻い潜り、時間を稼ぐ彼ら。

僕が辿り着くのを待っている。


『クソ・・・やられたか・・・』


関口さんの声がした。


『だったらやるしかねーじゃねーか!』


直後に爆発音が響いた。


僕は走る。

出来ることはそれしかない。

たった数百メートル、数十メートル、数メートルが遠い。


・・・そして・・・森に静寂が戻った。


木の根が何本も地面に力無く横たわっている。


あそこに引っ掛かっているのは、戦闘機の破片だろうか・・・。


「縄文杉・・・」


木の皮が・・・その表情を歪めて僕を見ている。


「彼らは強かったか?」


僕はベストを脱いで手に持った。


「ほんの数十秒だけど、お前にとって致命的な数十秒を彼らは稼いでくれたぞ」


握りしめた手に力が入る。


「あっちであの人たちが待ってる。大王杉も待ってるぞ。おとなしく逝ってくれ」


僕はスイッチを入れて、それを縄文杉のうろに投げ入れた。

そして10秒後、大爆発を起こして黒煙が吐き出され、縄文杉が燃えながら倒れていく。

僕は、縄文杉が確実に死ぬまで見つめていた。


ふと、それが目に入った。


縄文杉の根元の火が回ってない箇所に宝箱が落ちていた。

僕はフラリとそれに近づき、罠の可能性を考えず蓋を開ける。


そこには・・・一つの木の実があった。


僕はそれを手に取って確かめる。


「進化の実? スキルのみを対象とし、進化させる?」


その効果を確認した瞬間、僕の中のスキルが「俺様に使え」と言ったような気がした。

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何だかんだネームドがポコポコ死んでいくな…… 悪役は生きてるあたりやるせない
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