種子島の探索
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種子島の人口は新暦に移った際、一時期減ったが、その後海竜との交流により安全な島という認識が定着して2万人前後となっている。
年齢層は高めで、主に海竜用の芋と各季節の野菜を作り、海竜が時々持ってくる海産物が特産となっている。
「安納芋は特に美味しいですよ。芋餡どら焼きや安納モンブランなんか、食べる価値ありますよ」
「芋系の料理が多いんですね」
「全て海竜に食べてもらって、気に入ったものが商品化されているようです。海竜のマークが入っているはずですよ」
僕らは南種子町に車で来て、ちょっと良さげなカフェに入ってメニューを見ていた。
メニュー表の中にも海竜マークが付いた品があった。
主にスィーツなのだが、海竜は甘いもの好きなのだろうか?
地元では海竜を宝満様の使いとして親しまれているらしい。
「宝満様ってなんですか?」
「種子島の神社の名前ですよ。奉られている神様は違う名前なんですが、島の人は親しみを込めて宝満様と呼んでいると聞きました」
海竜が懐いて以降、奉納する物も芋が多めになっているらしい。
「初めて来る自衛隊の方ですか?」
お店の人が声をかけてきた。
厳密には違うが、関係者という意味で頷いた。
「だったら、安納芋で作った芋餡どら焼きを食べていきなさい。うちのどら焼きは海竜様も食べられた美味しさ保証つきだから外れないよ」
「へー、海竜様に食べてもらえたんですね」
「ああ、マークが付いているものは全て食べてもらったが、特に喜んでくれたのがどら焼きなんだよ。あの時の声はみんなに聞かせたかったね。追加要求されたのなんてウチだけじゃないかな?」
自信満々に話す店主に、僕はせっかくなのでとどら焼きの3種セットを注文する。
鬼木さんは安納芋パフェ、宮地さんは焼き芋とコーヒーを頼んでいた。
「糖度が高いのでブラックコーヒーと合うんですよ」
「そんなに甘いんですか?」
「甘いですよー。餡を作るのに砂糖は必要ないぐらいです。どら焼きも普通のものと生クリームと小豆と2種入りのを用意しますので食べ比べてください。海竜様は普通のがお好みですね」
店主の説明を交えて話をしているうちに、焼き芋の甘い香りとどら焼きの生地の焼ける匂いが僕たちの鼻腔をくすぐりだした。
「うわー、美味しそう」
まず、鬼木さんが頼んだ芋パフェが来た。
コーンフレーク、モンブラン状の芋餡、安納芋のくり抜かれた物、そして生クリーム、アイス。
アイスも通常のと紫色のダブルになっており、どこを食べても芋を感じられるようになっている。
口に入れた鬼木さんも幸せそうにしている。
「海竜にはどこで会えますか?」
「海竜様は気まぐれだからね。どこでも出てくれるけど、基本は北側の海岸沿いによく出てくるよ」
「一回会ったら芋をあげたほうがいいんですか?」
「地元の人も釣りとかしている人がいたら、必ず芋を持ってるから、一緒に待つといいよ」
「釣りが出来るんですか!?」
思わず大きな声で尋ねてしまった。
だが、今の海はモンスターがウヨウヨしていて、まともな釣りは不可能に近い。
探索者以上に漁師は死と隣り合わせの職業なのだ。
「海竜様の縄張りだからね。危険なモンスターは寄ってこないし、寄ってきても海竜様が倒して浜辺や岩場に捨てていくから安全なものだよ。出会って芋をあげれば守ってくれたり、魚をくれたりするからね」
「はぁー、じゃあ魚料理なんか・・・」
「高いけど食べれるよ。機会があったら行ってみるといい」
「はい、ありがとうございます」
「ほい、どら焼きセットと焼き芋。お待たせしたね。コーヒーはすぐ持ってくるよ」
僕は普通の芋どら焼きを手に取ってかぶりつく。
その瞬間目が大きく開いた。
「うっ! うま!」
芋の甘さがちょうどよく、生地の甘さと喧嘩をしていない。おそらく、はちみつの分量をすごく調整しているのだろう。食感も程よくしっかり裏ごしされた餡と粗くこされたものが適度にマッチしていてすごく食べやすいし食べ応えがある。
まさか、どら焼き一つにこれほど感銘を受けるとは思わなかった。
「ウチの自慢の商品だからね。当然だよ」
嬉しそうに店主が笑顔でコーヒーを持ってきた。
それを宮地さんが受け取って少しずつ飲みながら安納芋を堪能する。
僕らはペロリと自分たちの分を平らげて、店を後にした。
海竜が安納芋を要求する気持ちがわかった気がする。
海の中じゃ、絶対に食べることができない物だもんな。
それを食べることができる貴重な場所なら、守ることぐらいやってくれるか。
それから東の方へドライブして、旧種子島宇宙センターに着いて車を降りた。
「ここからは太平洋側を警戒しています。たまに海竜とドラゴンの戦いが観測出来るようですよ」
「国が滅びそうな戦いでしょうね」
「竜巻が3つできて、そこら中に雷が発生し、時折水蒸気爆発が起きていたらしいです。国は本当に滅びますよ」
「阿蘇の火龍より強くないですか?」
「受肉したモンスターは命を守るため必死になりますからね。知恵もあるし人間なんて目もくれません。日本に来ないことを祈るだけです」
遠くまで青い空を見て、宮地さんの顔から笑みが消える。
自衛隊の人たちは、多分みんな同じ顔をするだろう。
海の向こう、空の向こうから来る侵略者にいつでも命を賭ける覚悟をしているのだから。
その時は、僕も向かうことになるのだろう。
今回のように死者を少なくするために・・・。
「あー? 新任の自衛隊さんかね?」
遠くから釣具を持ったお年寄りが声をかけてきた。
「そんなところです。おじいさんは釣りの帰りですか?」
「んだ。タイやスズキが釣れるよ」
「凄いですね。釣りなんて福岡にいたときは夢のまた夢でしたよ」
「はっはっはっ! ここは海竜様の領域だかんね。危険な生き物は寄ってこんのよ」
「芋は持っているんですか?」
「持ってるよ。これがないと海竜様にお礼も言えん。今日はお会いできんかったが、いつでも持ち歩くようにしとるよ」
ほれっと見せてくるバケツの中に、芋が大量に入っている。
「重くないですか?」
「海竜様への感謝の方が重いからね。苦にならんよ」
上手いことを言ったつもりなのか、にかっと笑って手を振って別れた。
「この島の人たちは海竜のことが好きなんですね」
「そりゃ、自分たちを守ってくれる強い存在だからね。好きにもなるわよ。怒らせたら島がなくなるからね」
ほっこりしたところに水を刺す鬼木さん。
現実はそんなところだろうが、それでも交流ができているのだから、ピリピリしなくてもいいでしょうに。
「自衛隊もその点は理解しているからね・・・海竜にはなるべく会わないようにするよう配属される人たちには着任前に注意があるんだよ」
「・・・立場によって対応も変わってくるんですね」
「呑気に構えているけど、ドラゴンが来ても海竜が暴れても、最初に瀬尾くんに応援要請がいくからね? その覚悟は必要よ?」
「・・・理由も理屈も分かりますが、納得ができにくいですね」
「今回と同じじゃない。君にしか対応できない事案が多過ぎるのよ」
「火龍に効きましたからね・・・この能力。全生物に効果あるんでしょうね」
自分のやりたい事とやりくりができればいいのだが、国の危機と奴との遭遇が同時に起きたとき、僕はどちらを優先させるだろうか・・・。
辛い選択は無いでほしいと心から願う。
そんな事で数日過ごすと、基地の中で見知った顔ぶれがちらほら出てきた。
僕に顔を見て和かに手を振ってくれるということは、第4師団の人たちだろう。
僕も手を振り返した。
「そろそろ、縄文杉討伐の作戦説明があるみたいですよ」
「ついに・・・ですね」
大まかに言うと、僕が突っ込んでスキルで相手を無効化するなのだが、僕を撃つタイミングやどうやって回収するかなど、細かい点が打ち合わせされるはずだ。
「佐藤さんたちは来ているんですか?」
「彼らは新しい装備が支給されて、軍艦島を攻略中です。しばらく戻って来れないでしょう。鬼教官もベルゼブブ装備の一つが支給されて静岡県の方に異動になりましたからね」
「いいスキルが付いたんですか?」
「激痛付与とアンデット特攻の二つが付いたんだったかな? 確か。彼の装備も籠手タイプが渡されたみたいだよ」
蝿の王は他にも眼から魔眼装備と羽から飛行装備、腕と胸から防具、腹から籠手と具足が作製されて、適性のある隊員に渡されたらしい。
魔眼のとか、聞くだけでヤバそうな装備だが大丈夫なのだろうか?
「配布対象者は今までの実績と性格が考慮されているから、変な事にはならないはずさ。危ないスキルは付いてないから大丈夫だよ」
「宮地さんは配布されたアイテムのスキルを知っているんですか?」
「今回は物が物だから、自分以外にも監視人や査定者なんて人たちが確認してたよ。危なさそうなのが一つあってね、それは国が封印として持って行った」
「流石に暴食装備はまずいわよね」
「大罪関係は、探索者組合にも封印要請を依頼していますからね。今回が第一号ですよ。他国は知りませんが、日本での大罪スキルの扱いは絶対に開けてはならないパンドラの箱なんだよ。瀬尾くんも注意してね」
「鬼木さんも知っているんですか?」
「私はもうアタックしない探索者だから、こういった事によく呼び出しがあるのよ」
僕と鬼木さんが喋っている間に、宮地さんは懐から片眼鏡を取り出して装備した。
不思議な事に、色が真っ黒で本当に見えているのか不安になる。
「私に支給された魔眼装備の一つだよ。他者の体調がこれで分かるんだ」
「医者が欲しがるスキルですが、なんで宮地さんが?」
「瀬尾くんの担当になっているからだよ。突撃の前にも見させてもらうから前もってことわって置こうと思ってね」
「どこまでの事が分かるんですか?」
「対象者がトイレに行きたいとかまで分かるよ」
突撃の前には必ずトイレに行くようにしよう。
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