表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人類はレベルとスキルを獲得出来ませんでした  作者: 妹尾真拓
屋久島奪還編
20/197

第8師団 東田師団長

評価・ブックマーク・いいねをしていただけると作者のモチベーションが上がります。

よろしくお願いします。

熱い・・・。

まだ距離はあるのに熱を感じる。

誰かが邪魔をしている。

これ以上前に進めない。


「・・・! ・・・!」


僕が叫ぶ。

声が全く出ないのに、何を言っているかは分かる。


アイツが・・・炎の中で笑っていた。

ああ、忘れねえ・・・。

お前はそういう顔だ。

そういう声だ。


「殺してやる! 必ず殺してやる!」


夢の中で叫び声を上げて、僕は飛び起きた。

心臓が高鳴っている。

呼吸も荒く、僕は胸に手を当ててグッと身を屈めて落ち着かせた。


しばらくその状態でいて、ちょっと落ち着いたのを確認してから周囲を見渡すと、見知らぬ部屋で状況がちょっと掴めなかったが、ここが自衛隊の駐屯地である事を思い出した。


「あ、寝てたのか」


時間を確認すると、10分も経っていない。

そんな短い時間であの夢を見るとは・・・アイツの顔を忘れていないことに、喜んだらいいのか・・・。

僕はカバンの中に入れていたタオルで顔を拭いて、携帯に着信が来てないか確認をした。

特に誰も連絡をしてきた履歴はない。


意外とのんびりできるこの時間に、僕は再度布団に横になった。

流石に誰にも何も言わずに出歩くのはまずいだろう。

屋久島対策とはいえ、日本の防衛施設の中にいるのだから、こちらはやましい事がなくても向こうがそう思わないかもしれない。


「ネットがつながるからいっか」


充電しながらサイトからオークション商品一覧を見る。

中にはいいスキルがあったりするのだが、ほとんどが数百万クラスで手が出せない。

それでも、まだ見たことがないスキルがあったりして、それなりに面白くてついつい集中してしまう。


「うーん、やっぱり魔法系のアイテムはないな。1番欲しいんだけど」


4つの属性魔法があれば、体表に炎とか氷とか纏われてても怖くない。

僕に適合性が高ければの話だけど、あって損はない。


「魔法系の装備って評価は低いのに超レアと同じぐらい出ないんだよな」


その魔法をアイツは手に入れている。

本当は木下が手に入れたはずなのに、認識を書き換えられて奪われたんだろう。


しばらく調べていると、コンコンと扉が叩かれた。


「瀬尾くんいますか?」

「いますよ」


返事をして扉を開ける。

時間は17時半ぴったし。


「鬼木さんは、食堂に来るんですか?」

「ええ。今回の作戦の監視人だからと言って、特別扱いはしませんよ。それに、今回の交流会には城島隊長や東田師団長もいますので、是非とも参加してもらわないと困ります」

「東田って人もいるんですか・・・」


本当に僕とは無関係な人なのだが、聞いてる人柄と温泉の件でマイナスイメージがついている。


「彼も実力者で、この地域を任されている師団長ですから。流石に新暦から日本を悩ませる縄文杉討伐に彼を外すことはできませんよ。温泉の件で思うところがあるかもしれませんが、この場では目を瞑ってください」

「・・・努力します」


食堂の前に着くと、そこには鬼木さんと案内してくれたのか女性隊員も立っていて話をしていた。

2人に笑顔はなく、真面目な話をしているのかちょっとピリついている気がする。


「あ、ちょっとまずいですね」


宮地さんも同じように感じたみたいだ。

僕を置いて2人に駆け寄り、2人を引き剥がして女性隊員に何かを話して場所を少し離れる。


「何を話ししていたんですか?」

「ああ、瀬尾くん。ちょっとね、意見の相違ってやつよ」

「意見?」

「未成年のダンジョンアタックについて、つまり君のこと」


僕が学校を辞めて探索者になった理由は、甘木市のあの現場を知っている人たちしかいない。

鬼木さんはその内の1人だ。


「あまり口外してほしくないですけど、鬼木さんの立場が悪くなるようなら、言ってもいいですよ」

「瀬尾くんは気にしなくていいの。この程度躱せなきゃ2級探索者はやってられないわよ」


2級探索者というのは、精神力が強くないとなれないのだろう。

僕なんか一生なれなさそうだ。


「私も瀬尾くんの保護者なんだから、君の不利になることや悲しませることはしないわ」

「ありがとうございます。でも、鬼木さんみたいな若い人が親代わりというのも、違和感ありますけどね」

「若いって・・・私もそれなりの年齢よ?」

「・・・聞かない方がいいですか?」


僕の肩をポンポンと叩いて、鬼木さんはニッコリと微笑んだ。

それから全員で食堂に入ると、すでに中にいた隊員の視線が全て集まった。

視線の種類は様々で、ただ観察しているものから嫉妬、敵意まで含まれている。

敵意に関しては全く意味不明なのだが、視線だけで鬼木さんと宮地さんに合図を送るが、どうも2人にも分からないそうだ。

僕らはそのまま指定された席に座って時間が来るのを待つ。

20数分だけだったが、この視線に何も言わずに耐えるのはある意味拷問と言っても過言ではないと思える時間だった。

僕の精神がすり減る前に、城島さんが数名を伴って食堂に入って、視線がなくなり全員が起立する。


「本日は皆に揃って食事会兼交流会に参加してもらい感謝する。この交流を経て、縄文杉討伐を確実に遂行できる信頼関係が構築できると私は信じている」


城島さんのこの会の意義やちょっと笑いを交えた注意事項を聞いて乾杯をした。

ちょっと早い晩御飯なのだが、揚げ物メインで食事を取っていき、ジュースを片手に周囲を見渡す。


・・・気になる視線がいくつかある。


「うーん、第8師団の人とは話をしたこともないはずなんだけど」

「私も基本上層部とは会ったりするけど、こんなに敵意を受けるのは初めてよ」


缶ビールを片手に鬼木さんが戻ってきた。

食事は持ってこなかったらしい。


「食べれそうにない?」

「視線が気になって、安全なもの以外口に入れたくないだけ」


嫌がらせとかあるのか?

自衛隊で?


「どこの世界にもあることよ。私は今回の作戦では監視人ってだけで、それ以外に重要な役割は持っていないから」

「だからって一服盛っていい理由にはなりませんよ。それに、バイキング形式でしょ? どうやって入れるんですか?」

「色々あるのよ。例えば、皿やカトラリーにつけたり、すれ違いざまに振り掛けられたり」

「経験あるんですか?」

「イケイケドンドン時代はやっぱり周囲に敵もいたからね。嫌がらせっぽいのはあったわよ」


多分、般若でぶちのめしてきたんだろうな・・・。

それから鬼木さんは、僕が取ってきて口をつけた食事を食べ、缶ビールを飲んで時間を過ごした。


「瀬尾くん、鬼木さん、今いいかな?」


僕らの周囲だけ空洞状態で食事をしていると、宮地さんが呼びにきた。


「どうかしましたか?」

「ちょっと空気が悪い理由が分かってね・・・話をしてもらいたい人がいるんだ」


僕らは一緒に移動してその人物の前に立った。


「第8師団長の東田だ。今回はお前の能力に期待する」


あからさまな敵意に、僕は背を向けた。


「城島さん、宮地さん。すみませんが信用できない相手と組む気は無いんです。第8師団の人を第4師団と交代させてください。でないと僕は出ません。ベルゼブブの籠手も返します」

「城島さん・・・流石にこれはないわよ? 監視人として、私からもこの作戦の不参加に正当性があると判断するわ」

「な! 貴様ら!」


食堂から出ようとした僕らを、第8師団の隊員だろうか? 同じ制服を着た人たちが入り口を塞いだ。


「規律は守ってもらいたい」


どうやら自衛隊や軍特有の上司至上主義なのか、あれを全面支持しているのだろうか?

出会い頭にあんなこと言われて、こっちがリスクの高い縄文杉に特攻するとでも考えているのだろうか?

城島さんと宮地さんを見ると、2人は既に席に座っていつでも倒れる準備をしていた。

危険予知能力が高すぎる。


「冗談は吉之助」


僕は遠慮なくスキルを発動させた。


倒れていく隊員たちと東田。そして巻き込まれた空自の人と城島さんと宮地さん。

鬼木さんは倒れる寸前に僕が身体強化を使って抱き抱える。


「いちよ、今回の作戦は僕頼みなんですよ。その主軸になる人に『能力に期待する』はないでしょ。特攻するのは僕ですよ? ベルゼブブの籠手は返すので・・・テメーがやれよ」


僕は鬼木さんを抱えたまま食堂を出てスキルをオフにする。


「部屋まで抱えてくれてもいいのに」

「好きな人いるんでしょ」

「・・・なんで知ってるのよ」


さっさと告白すればいいのに。


部屋に戻ってしばらく休憩していると、コンコンと扉が叩かれた。

宮地さんが来たのかと思ったが、それだったら声もかけてくるはず。

僕は扉のちょっと奥に立って待ち構えていると、ガチャガチャとノブが回ってガチャリと鍵が開いた。

そして、堂々とドアを開けて中に入ろうとしたところで僕とご対面。


「すっごいクズだな、お前ら」

「起きて!」


容赦なくスキルを使って無力化する。

多分、近くにいた人たちも倒れたかもしれないが、連帯責任だ。


「すみません、宮地さん? え? まさか、予想してました? はぁー、だったら第4にすぐ変えてくださいよ。こいつらと作戦一緒にしたくないですよ。と言うか無理です。特攻する最重要人物の部屋を荒らそうとするとか、ありえないんですが? よろしくお願いしますよ」


僕は隊員が持っていた鍵を全部取り上げて、扉の外に蹴り出してから鍵を閉めた。

僕の装備は大丈夫なのだろうか?

まあ、最悪全部自衛隊に買い揃えてもらおう。

多分、鬼木さんのところにも行っているのだろうが、容赦なく叩き出しているだろうな。

・・・あの人が倒される姿なんか想像できない。

ちなみに、般若モードになると、無呼吸で10分以上の全力運動が可能になる。

毒ガスや睡眠ガスなどにも有効だ。


さてさてどうなるやら・・・。



「私は知らん!」


再度、みんな食堂に集まって責任者追及会が始まった。

その中で、僕が引きずってきた隊員を見て立ち上がった東田がいくつかの会話の後言ったセリフがこれだった。


「あんたが上司でしょ? だったら全ての責任はあんたが取るべきでしょ」

「ガキがほざくな! 今は自衛の内部の話だ!」

「僕は被害者だ。あと、僕が関わった時点で内部だけの話じゃない!」

「そもそも、貴様が自衛隊に入れば良かったんだ! 民間の探索者如きになっただけでなく、温泉施設という国の重要施設になったかもしれない施設の情報を民間に流して占拠させやがって! おかげでこっちは自由に使えない!」

「自由に使えるよう通達してるって阿蘇の支部長と副支部長は言ってましたが? 城島さん! 宮地さん! どっちの方が正しいんですか?」

「出鱈目だ!」


城島さんたちに答えを聞く前に東田が叫ぶ。


「黙れ! 今、城島さんたちに聞いているんだ」

「聞くまでもないことだ! 貴様たち銭ゲバどもが、我々にいつも害を与える!」


こいつは、過去に探索者と何かあったのか?

僕は城島さんを睨みつける。

流石にこの人を参加させて作戦を開始するなんて想像ができない。


「東田くん」


ずっと黙っていた城島さんがようやく口を開いた。


「君には失望しました」

「城島隊長!」

「もう既に内部調査は終わっています。聴き取りをしていないのは、今ここにいる人たちだけでした。その人たちの瀬尾さんたちに向ける視線だけでも、君の指揮能力の欠如が表れています。・・・酷いですね。自分たちの身の不幸を全て探索者組合のせいにして、自分への不満を分散させる。過去、我々の上司たちが、そういう教育を行ったことは理解しています。ですが! この作戦は! このミッションは! 我々の悲願だ! かつて三度! 三度屈辱を与えられた縄文杉に対して! ようやく私たちは勝利の道筋が見えているのだぞ! それを! 君は私情で台無しにするつもりか!」

「ぐっ! わ・・・私には探索者組合を信用できません!」

「では、師団長の座を降りなさい」

「城島隊長・・・」

「君はその私情のせいで、本来温泉施設で治療を受けることができた隊員たちが大勢います。私が言いましょう。探索者組合は温泉施設を自由に使用していいと自衛隊に通達していました」


城島隊長の言葉に、陸自の制服を着ている人たちからざわめきが広がり、中には涙を流している人もいる。

この人たちの仲間で、温泉施設に行きたがっていた人たちがいたのだろうか?

少なくとも、救える人たちがいるのであれば、利用してもらいたいと心から願う。


東田がアイテムを装備解除させられて更迭されたあと、師団長の座は一時的に城島さんが兼任することになり、第8師団はそのままだが、一部の人間に関しては信頼関係が難しいと判断され、作戦から外された。

完全に安全な作戦じゃないから、外されて命拾いしたかもしれない。

後にあの人が泣くか笑うかは僕らの働き次第だろう。


「やれやれ、これで先に進むことができる」

「宮地さん・・・計画通りですか?」


僕の質問に彼はちょっと悲しそうに微笑んだ。


「本当は東田師団長が間違いを認めて欲しかったんですけどね。狙い通りには行きませんでした」

「裏で色々やり過ぎるからよ。そもそも、あの人はなんで探索者に敵意を持っていたの?」

「もう話してしまいますけど、東田師団長のご両親が探索者だったんです。もちろん高ランクではなく下の下。稼いでは酒に消え、ガス水道電気はないのが当たり前だったようですよ。そんな中で育ったものだから、親への信頼が探索者への信頼と重なって落ちていったみたいです。両親とどんな生活をしていたかは私にも分かりません。でも、あの意地の張りかたを見ると、相当だったのでしょうね」

「だからと言って、私たちに向けていい矛先じゃないわ」

「その通りです」

「結局、噴火の時に怪我した人たちは温泉に入れたんですか?」


僕が心配なのはその一点だけだ。

意地張りバカの過去も未来も興味はない。


「数名連絡が取れておりませんが、ほとんどの人は入れましたよ。まったく・・・怪我で引退を余儀なくされた人たちの復帰にも期待できることなのに・・・どこでそういうことすら判断出来ないほど狂ってしまったのか・・・」

「一緒に行動したことあるんですか?」

「ありますよ。四国の88異世界ダンジョンの完全攻略で一緒でした。凄かったですよ。襲いかかるモンスターを一手に引き受けるタンクを彼が担ってましたから。あれほど頼もしい人は居ませんでした。それなのに・・・」


人生何があるか分からない。

今回のことも、あの人の選択の結果が出ただけだ。

「小説家になろう勝手にランキング」のタグをつけました。

もしよければ、1日1回ポチリをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ