新潟県入り
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新幹線の窓から外を眺める。
もう既に関東からは出ていて、窓から見える景色は自然豊かな田舎だ。
それを見ながら僕はため息をついた。
「どうした京平。すっげーでかいため息だけど」
「そんなため息を横でつかれると、ダーリンに不幸が移ってしまいますわ。せめてトイレに行って吐き出してくれませんこと?」
僕の右横から木下の不思議そうな声と、炎帝の辛辣な言葉が僕にかけられた。
「炎帝、お前は言葉をオブラートに包むということを覚えた方がいいんだぜ」
「五月蝿いですわよ、番外NO.1のエイジ。わたくしがダーリンと喋ることができないときに散々煽ってくださいましたこと、覚えていますからね」
「・・・余計なことを覚えてやがるぜ。そんな事、さっさと忘れた方がいいんだぜ。あと、俺様はエイジだ。意味ない番号を頭につけるなだぜ」
「そう言うなら、わたくしは火輪子ですわ。ダーリンがつけてくださった名前以外で呼ばないでくださいませんこと?」
エイジと炎帝の言い合いを聞きながら、僕は再度ため息を吐く。
「すまないけど、ちょっと理由があってね」
「そのサングラスが関係しているのか?」
「あー、いや。これは関係ない。別の理由があってサングラスをかけているだけ」
「ふーん。・・・で?」
「まあ・・・いいか。ムー大陸にいるドラゴンで、僕のスキルが効かないホワイトドラゴンの鱗をね・・・預けていたんだけど返されてね」
僕は服の上からそれを撫でた。
今は僕の首から下げている、簡単には裂けない袋の中に入れられている。
「お前のスキルが効かないのか?」
「ああ。本体は自由にスキルを使えていたから、デバフを無効化するスキルか何かだと思うけど細かい内容までは分かっていないんだ」
「何その厄介なドラゴン。いるだけで人類やべーじゃん」
実際、あのホワイトドラゴンとブラックドラゴンが揃って襲ってきたら、僕らは早々に白旗をあげるしか生き残る術はないだろう。
木下の炎帝も、どこまで通用するか分からない。
「この鱗はそのホワイトドラゴンと連絡をとるためのアイテムなんだよ。本当は別の人に保管してもらいたかったんだけどね。落としそうで怖い」
「そんな重要アイテムなら管理したくないよな」
この鱗を返却してきた松嶋さんの笑顔といったら・・・すごく晴れやかだったな。
「それで? そのサングラスは?」
「こっちも聞きたいのか?」
「ついでだろ。教えろよ」
「・・・特定の色を見ると、強制的に目の前にある光景が浮かぶんだよ。それ対策」
フラッシュバックということを説明し、何を見るかはあやふやにしたが、木下はそれを聞きたかったらしい。
だが、流石にピンクの髪をした女性の頭が弾ける光景とは言えず、僕は口を閉じた。
と言うか、こいつはその事を知っていて病院に行ったことも知っているはずなのに何で訊いてくるんだ?
「なんて強情なマスターなのでしょう。ダーリンが聞きたがっているのですから説明すればいいだけですのに」
「世の中にはな、他人から求められても応えられないことってのがあるんだよ」
「あらあら、なんだか先輩ぶっているスキルがいますけど、わたくしの気のせいでしょうか?」
「俺様の方が先に覚醒してるから先輩なんだよ。実際、お前よりもポイントは多いからな」
「ではそのポイントを抜き去れば、もうデカい顔はしないということですのね。すぐに抜き去って見せますから覚悟なさい」
「やってみろよ。格の違いを見せてやるぜ」
そんな会話をしながら、僕はサングラスを少し押し上げて外を見る。
まるで甘木市のような風景が広がっていて、どこか懐かしさを覚えた。
新潟駅で新幹線を降りて組合の場所を確認すると、近くにあることが分かったので歩いて向かうことにした。
「俺は市警と県警に挨拶してくる」
「俺もだな。向こうにも情報はいっているだろうから、組合で合流しよう」
日野さんと小荒井さんがそう言ったので、僕と木下、真壁さんは頷いた。
それから2人がタクシーに乗るのを見送り、僕たちも組合に行こうとして足を向けた。
「ふむ。ようやく会うことができたか」
どこか見たことのある男性がそこに立っていた。
年齢は50より上だろうか?
白髪を綺麗に整髪剤を使って整えている。
服装も同色上下のスーツにネクタイまで締めて、かなり身なりに気を使う方だということが見てとれた。
「お前は!」
真壁さんが即座に動いて両腕両足を武装し戦闘体勢になった。
彼につられて僕と木下も体勢をとるが、この人が誰だか分からずに戸惑う。
「真壁さん、この人は誰ですか?」
「廿六木一郎。・・・元探索者組合の研究者で反神教団側の人間だ!」
真壁さんの答えに、木下は一瞬で炎の甲冑を装備し、僕もカバンからベルゼブブの籠手を取り出して装備した。
「エイジ! 吸収だ!」
「・・・クソ。ダメだぜ、主人。何でコイツがこんなとこに」
「どうしたんだ? アイツのスキルか?」
「そうですぜ。平和・・・アイツがいる場所じゃ戦闘行為は出来ないんだぜ。遠距離攻撃もデバフも不可能なんだぜ。最も、占有率が低いせいか、アイツのホルダー限定しか効果はないみたいだぜ」
「平和・・・」
木下の方を見ると、炎帝もどこか悔しそうに廿六木を睨んでいる。
「私のスキルがバレているようだな。ではゆっくりと自己紹介をするとしよう。名は廿六木一郎。歳は53だな。出身はここ新潟県で前職は探索者組合の研究員統括となっていた。瀬尾くんとも一度会っているよ。ガラス越しではあるがね」
彼が僕を見て微笑んだ。
そして僕はようやく彼のことを思い出した。
「あの時、生命力吸収を確認した担当者の1人!」
「思い出していただけたようで何よりだ」
僕の警戒がマックスまで跳ね上がったが、彼はそのようなこと気にも止めずに真壁さんに気軽に近づく。
「探索者組合に行くのだろう? 同行させてもらうとしよう」
「・・・何が目的だ」
「何も」
「投降する気か?」
「投降? 何を言っているのやら。私はやることをやり終えて、あとは経過を見るだけになってしまったから、別視点で見ようとこっちに来ただけだよ」
「全て喋ってもらうぞ」
「それは出来ない相談だ」
真壁さんと廿六木が睨み合った。
その間、僕もせめて彼を拘束しようとしたが、その行動をしようとすると身体が動かなくなった。
他の事は出来るため、彼に関することだけ制限がかかっているのだろう。
「言っておくが、私の同行を拒否する事は君たちにはできない。なので、諦めて受け入れることをお勧めするよ」
不敵な彼の言葉に、僕たちは顔を見合わせて眉間に皺を作ることしかできなかった。