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人類はレベルとスキルを獲得出来ませんでした  作者: 妹尾真拓
新潟県村上市DF編
193/197

DF捜索に向けて

ブックマークありがとうございます。

ラストに向けて頑張りますので、応援よろしくお願いします。

桑島の自殺とも取れるような死のあと、僕は事情聴取を受け、数時間拘束されて解放された。


「すまんな。どう足掻いてもこの流れが必要だったんだ」

「無実を証明するためですか?」


部屋にいる柊副本部長、鬼木さん、小荒井さん、鬼教官、真壁さん、木下の目が日野さんに集まった。


「その通りだ。今回の件だと瀬尾がなんらかのスキルを感情的に使って殺したと考えるのが早い。それが事実と違ったとしても話題として注目を集めるだろう。だから、しっかりと警察が事情を調べ、完全に白だと判断したという結果を作らなければならなかった」

「あー、静岡では絶対に起きない揉め事だよな」

「そうだな。あそこは地元の記者優先で県外はシャットアウトだから。その分見返りも渡しているが」


見返りと言っても、金銭や美術品などではなくカニとかカニとかカニだろう・・・あれは美味しかった。


「ところで、2人ともブラックアイズから離れて大丈夫なんですか?」

「別に、俺らが抜けてもどうとでもなるだろ」

「そうだな。ブラックアイズ手持ちのスキルも使えるものが増えているし、ブラックアイズが貸出をしているアイテムで下の探索者も実績を上げている。何も問題はない」


木下と真壁さんはこう言うが、おそらく現場は大混乱しているだろうな。

なんせ、主軸である館山さんが亡くなった後、ブラックアイズとしての運営面は事務関係の人がいるらしいのでそこはお任せなのだろうが、実働としては木下と真壁さんが抜けると休業するしか道はない。


「叱られる覚悟ですか?」


僕がボソっと言うと、2人は一瞬動きを止めた。


「何も・・・悪いことはしていないはずだ」

「そ、そうだぜ! 日本を救うためだからな!」


多分、この2人の反応から、戻ったら説教パターンだろう。

木下の太ももに座っていた炎帝が、寒気を覚えたのか身を震わせて両腕を抱き抱えた。

何かあったらフォローだけはできるようにしておくしかないか。


「ところで、瀬尾くんは大丈夫なのかな?」

「僕ですか?」


小荒井さんの質問に僕は首を傾げた。

僕は特にどこかのパーティに所属したりしていないので、誰かに心配をかけるということはないのだが?


「目の前で見たのだろう?」


心配そうな彼の視線を受けて、ようやく僕は彼が僕の精神を心配していることを理解した。


「あ、えっと、正直に言ってそれなりにきました」

「そうだろうな・・・。桑島の最後の目的は、君にトラウマを植え付けることだったのだろう」

「気持ち悪いし陰湿ね」

「切羽詰まった人間ってのは、何でもしてくるからな・・・困ったことだ」


鬼木さんと鬼教官がそれぞれ眉間に皺を寄れる中、柊副本部長が口元に手を当てて僕に目を向けた。


「瀬尾、この後精神科の病院に行ってこい」

「またですか?」

「まただ。心の傷が浅いなら自然治癒でいいのだろうが、もし深い場合は数週間、いや、数ヶ月だな。休息を取ってもらうことになる」


数週間ですら断るレベルなのに、数ヶ月間強制的に休まされるのは断固として拒否しないといけない。


「病院に行かないという選択は?」

「ない。自分の現状を理解するためにも必ず行け」

「・・・結果は伝えませんよ」

「はぁ~。同行するメンバーには共有しておけ。そうすれば最悪の事態は避けることができる」


僕は柊副本部長に軽く頭を下げた。

なんのかんので熊本にいる時からの付き合いだ。

彼が僕のことを心配してくれているのは理解しているしすごく嬉しい。


「それで、木下と真壁さんは僕と一緒に奴らを追いますか?」

「当たり前だ!」

「今のところ、その村上市という地名しか情報がないからな。遠回りだったとしてもそこに行くべきだろう」


僕は2人に頷いて顔を日野さんに向ける。


「俺も行こう。シルフィードがいれば、見つけやすいだろう」

「私は遅れていくわ。ようやく遠出が許されたのよね」


日野さんは同行が決まったが、鬼木さんは自分の足を撫でて別行動することを告げた。

彼女の足には包帯が巻かれて、側に車椅子が置いてある。


「阿蘇に行って温泉に浸かってくるわ」

「日野さんが一緒じゃないと不便じゃないですか?」

「移動ぐらいなら般若を出して小雨と時雨を側につけてれば周りに人がいなくなってスムーズに進めるわよ」


迷惑すぎる移動だが、変なことに巻き込まれないためには必要な措置なのだろう。


「俺は自衛隊として捜索した方が良さそうだな」

「俺は同行させてもらおう。瀬尾くんと一緒に行動した方があの子にすぐ会えそうだ」


鬼教官は自衛隊の方で協力してくれるようだ。

別行動になるが、僕らが行けない場所を調べてくれるのは助かる。

そして、小荒井さんは僕らと一緒に行動するようだ。


「小荒井さんの言うあの子って、スキルが効かない剣士ですよね?」

「ああ。名前も分かっている。渡辺咲良。元1級探索者の渡辺龍雄さんの娘だ。彼女は特殊な病気でね、病院の隔離室にいたはずなんだが・・・何を唆されたのか・・・」


小荒井さんは辛そうに俯くが、すぐに髪をかきあげながら頭を上げて僕を見る。


「色々話をしないといけない。だから瀬尾くんと一緒に行動させてほしい」

「彼女が出てきたら、小荒井さんしか対応できません。ぜひお願いします」


僕は素直にそのことを認めて頭を下げる。

実際にここにいるメンバーが彼女と戦ったとして、全てのスキルが使えないことを前提とすると誰が勝てるだろうか?

強いて言うなら銃火器を使える日野さんと鬼教官になるのだろう。


「それでは、俺が瀬尾を病院に連れていくから、各々準備をして待っててくれ。出発は明日になるだろうが、時間は今晩にでもグループチャットで連絡する」


柊副本部長がそう言って立ち上がった。

いや待て、何で副本部長自らいち探索者の病院に付き添おうとしているんだ。


「柊副本部長。流石に自分で行きますよ」

「行ったふりをする可能性があるからな」

「そんな事しませんよ。そう言って、僕をダシにして仕事から逃げてないでしょうね」

「残念ながら、俺は真面目なんだ。全て完了済みだ」


ニンマリと笑みを浮かべて、柊副本部長は勝ち誇ったように胸を張る。

何を言ってもついてくるつもりなのだろう。


「車は出してくださいよ」

「任せろ」


それから全員立ち上がり、各々部屋から出る中で、ふと木下に目が行った。

炎帝が嬉しそうに木下の肩に座って彼の頬に触れている。


「ケッ!」


右の方から、ちょっと悔しそうな声が聞こえた気がしたので、僕は左手で軽く右腕を撫でて部屋を出た。


それから柊副本部長の車に乗せてもらい、病院で問診を受けて深刻ではないが注意が必要と言われた。

自分の中では大丈夫だと思っていたんだけど、引っかかる点があったらしい。


「フラッシュバックには気をつけてください。大事な場面ほど起こりやすいので」

「分かりました。ありがとうございます」


薬までは必要ないとのことだった。

診察室から出ると、柊副本部長が腕を組んで目を閉じて座っていた。

眉間に皺も寄っているので目を閉じていても威圧感がすごい。

あの人のせいで椅子のドーナッツ化現象が起きている。

迷惑だから早めに話しかけよう。


「戻りました」

「おお、どうだった?」

「結果は伝えないって言いましたよ?」

「むむ・・・」


どうしても聞きたそうにしているが、言ってしまうと引き止められそうなので絶対に言うつもりはない。

それが分かったのか、柊副本部長も唸りながら組んでいた腕を解き、手を太ももに置いた。


「何かあったらいつでも言うように。あと、他のメンバーには、本当に共有しとくように!」

「分かりましたよ。あ、呼ばれたので支払いしてきます」


それからお金を支払い、柊副本部長に泊まっているホテルまで送ってもらって部屋のベッドに倒れた。

食事を摂らないと・・・まあ、起きてからでもいいか。


僕は少しだけ寝るつもりで目を閉じた。

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― 新着の感想 ―
スキルを教えるつもりがあったのかなかったのか……どちらにしろわからない側からすればトラウマ攻撃にしか見えないですねぇ あんなことやられたらしばらく夢に出てきそうだ
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