横浜拘置所 桑島時子
コメントありがとうございます。
これからも応援よろしくお願いします。
ダンジョンボスはオークジェネラルじゃなかったので、見城さんと見回って別の部屋にリザードマンがいるのを見つけた。
壁を上手く使って槍で攻撃してくるタイプだったが、生命力吸収したら落ちてきたので叩き潰して終わった。
ダンジョンは消えることなく残ったが、もうモンスターは出てこないので、僕たちは皆んなの元に戻り、全員で新幹線に戻って事態が解決したことを伝えると、警察関係者がワラワラと外に出て、それから2時間ほど経ってようやく新幹線が動き出した。
「ダンジョンじゃ訊けませんでしたが、力間さんの両腕には何が付いたんですか?」
通路の反対側の組にいる力間さんに尋ねてみると、彼女は微妙な顔をした。
その表情で強いスキルじゃないことは理解できたが、どのスキルも使い方次第だ。
僕がアドバイス出来るのならしたいので、彼女からに答えを待った。
「えっと・・・落し穴と計測というスキルです」
「落し穴・・・計測ですか」
落し穴ははっきり言って強いスキルだ。
しかも、攻撃にも妨害にも使える。
唯一の天敵は飛んでいるモンスターになるのだが、地上だと最も重要なスキルになるだろう。
自分の腕に付いたスキルなので適合性は100%だとして占有率が問題なのだが・・・。
「エイジ、彼女のスキルは占有率が何%か分かるか?」
「分かりますぜ。落とし穴が43%で計測が44%、指輪の足速が10%、腐敗防止が3%なんだぜ」
「そうか。それだと意識ははっきりしてる?」
「はっきりしているどころか、ただいま絶賛喧嘩中だぜ」
エイジがそう言ってクケケケと意地悪そうに笑った。
「どっちが50以上を取るか争っていたらしいですぜ。そんで、両方中途半端になってしまったパターンだぜ」
「えっと、何を言っているのか分かるんですか? 私には何か小鳥の鳴き声のような音が、こう・・・胸にあたりから聞こえてる気がするんですが」
「50%ないとそうなっちまうんだぜ。まあ、音が伝えられるだけマシなんだぜ」
そういえば、エイジは進化するまで何か伝えてる感じはしたが、それを正確に認識することはできなかったからな・・・。
結局、彼女のスキルについては、帰る時に予定通り兵庫の受肉地帯に行って試すそうだ。
そして次の日・・・僕は関東に戻ってきた。
僕は指定されたホテルに入り、シャワーを浴びて仮眠をとり、それから日野さんに連れられて横浜拘置所へ向かうことになった。
そこに・・・桑島時子がいる。
「面会室に入るのは瀬尾だけになる。相手はもうスキルを持っていない一般人だが、組織の幹部を勤めていた人間だ。気を抜くな」
「分かりました。面会時間はどのくらい許可が出ているんですか?」
「無制限だ。可能な限り情報を引き出すために特別扱いになった」
僕は日野さんに先導されながら、横浜拘置所の中を歩き、一つの部屋に辿り着いた。
「何か起きると思ったら、誰の許可も必要ない。すぐにスキルを使え。今日のお前にはそれが許されているからな」
「分かりました」
本来なら、こういう面会の際に身につけているスキルは入り口で外して保管されるのだが、今日の僕はエイジだけでなく身体強化の指輪とベルゼブブの籠手を身に付けている。
それだけ、何があってもおかしくない相手だということだ。
僕は部屋に入り、かなり分厚いアクリル板の前にある椅子に座った。
テーブルにはマイクとスピーカーが置かれていて、対面にも同じ物が置いてある。
その場でしばらく待っていると、対面の部屋の扉が開いた。
まず入ってきたのはここの拘置所の職員だろう。
険しい顔して女性と共に入ってきて、マイクとスピーカーに触れた。
それから後ろの女性の手を引いて椅子に座らせ、喋るように促す声が僕にも聞こえた。
音声やスピーカーのオンオフは向こうに主導権があるようだ。
「どうも~、お待たせしました~。皆んな大好き、桑島時子だよ~」
「・・・」
妙に間延びする喋り方と同時に、彼女の奇抜な姿に僕は即座に返事ができず、彼女を見つめた。
まず、今どき珍しい髪を染めている女性だった。
髪を染める色材というのだろうか? その生産事態が貿易不能による材料不足によってストップしていたはずだ。
だが、目の前にいる人の髪はピンク色に染められている。
そして目を覆う布。
彼女が両目を魔眼にしていて、捕える際に二つとも回収したことは聞いていたが、僕と会うために見苦しくないようにしたのだろうか?
しかし・・・顔の中央に某ピンクのウサギをモチーフにした可愛いキャラクターの敵役で、意地悪そうな笑みを浮かべたキャラがプリントされているのはやめて欲しかった。
・・・このキャラが好きなのか?
僕が黙って考えていると、彼女は何だかソワソワし始めた。
「えっと、本当に対面にいるのかしら? 私ってば誰もいない場所に自己紹介しちゃってない? ちょっと張り切って自己紹介しちゃったから、この沈黙は恥ずかしいんですけーど」
桑島がソワソワしながら職員がいると思っている場所を向いて声をかける。
だが残念。
職員はあんたの後ろで睨んでいるよ。
とりあえず僕は頭を掻いて気持ちを切り替え、マイクに口を寄せた。
「いますよ」
「わっ! びっくりしたなーもう! いるならいるって言ってよ。もしかしてそういうプレイが好きな人だったりするの?」
「そんなわけないでしょ。貴方の姿にどう突っ込もうか迷っただけですよ。ですが、まずはこちらも自己紹介をさせてください。1級探索者の瀬尾京平です」
「ありがとう。でも、自衛隊と警察の所属ってのは言わないのかな?」
「・・・世間一般では探索者で通ってますから、こちらで自己紹介するようにしています」
「あらそうなのね・・・ふふふ。よろしくお願いするわ」
意味深な笑みを浮かべて、桑島時子は見えない目で僕を見つめた。