南阿蘇の温泉での一幕
ブックマーク、コメントありがとうございます。
あと、読むことを継続してくださる皆様、ありがとうございます。
この章、この話から後編へと入ります。
また、色々な事が起こりますがよろしくお願いします。
富士の樹海での大規模戦闘で生き残った人たちは、その後全員メディカルケアを受けることになった。
特にメンタル・・・精神的な傷に関しては念入りにチェクが入り、計100項目の問診票を提出して問題ない人から解放された。
僕については特別に自衛隊・警察・組合の3組織からそれぞれ問診と対面で診察を受け問題なしという結果をいただいた。
左足も治療してもらったが、すぐに完治したかったため、阿蘇まで戻って温泉に入りに行った。
「はぁ~。・・・もう完治した」
「あるじ~。もうちょっと心を癒したほうがいいですぜ~」
「そうか~。そうだな」
色々あり過ぎて本当に疲れた。
だけど、ここに止まるわけにはいかない。
ダラけそうになる心に鞭を打って体を動かそうと思うが、息を吸う度に胸が浮力を持って体が少し浮く。
上を見ると空は青く、僕のことなど全く気にかけていないかのように変わらない。
そのまま動けず首から下をお湯のつけて空を仰いでいると、仕切の向こう側から女性の声が聞こえた。
「真耶さん! 私感動です!」
「今日は小代の歓迎会だからね。私と同じくらい強くなればここぐらい簡単に来れるようになるよ」
「嘘よ。小代は真耶のマネしないでね。あくまで真耶の身体能力とスキルがあるからこそ来れるんだから」
「本当だよ真耶について行くの大変なのよ」
「そうそう。乃ノ実の代打で真耶のサポートメインでしばらく動いてもらうけど、絶対真耶につられないでね」
「何だか私が問題児みたいな言い方だな」
「貴方のポテンシャルに私たちがついて行けてないだけよ!」
ザパーンと湯を浴びる音がいくつかして、キャッキャと体を洗い合ったのか、楽しそうな声がこっちにも届く。
・・・何だかいけない気分になってきたのでさっさと外に出ることにした。
「主人、もう行くんですかい?」
「ああ、できたら今日中に熊本駅で新幹線に乗りたい」
実は、警察関係から話がきていて、どうもダークフューチャーの桑島という人から僕を指名して話がしたいという連絡が来ていた。
何が目的か分からないが、他の人には何を聞いても頑なに喋らないらしい。
何が気に入らないのか分からない。
もしくは、僕と会いたいだけなのかもしれない。
だけど、会いたくもない相手と会わなければならないのは気が滅入ってしまう。
僕は服を着て髪を乾かし外に出た。
「あ! やっぱりいた!」
髪を濡らした女性が僕を指差して叫んだ。
「みんな! やっぱりいましたよ! 盗み聴きしてた人が!」
何だか不当な評価をされた気がする。
風呂に入っていたのは僕が先だし、女湯との仕切はあるが声まで遮れないのは周知の事実だ。
あんなに大声で話をしていて盗み聴きもクソもないだろう。
僕は面倒くさくなって腕を組んで壁に背を預けた。
しかし、彼女はそんな僕の姿が気に入らなかったのか、目を吊り上げて僕を睨んだ。
「何で犯罪者が余裕かましているんですかね?」
いつの間にか犯罪者に格上げ・・・格下げか、されたようだ。
それでも僕は黙って他の人が出てくるのを待つ。
そういえば・・・この人は最近探索者になったのだろうか?
年齢は僕と同じぐらいに見える。
それなりにニュースに取り上げられているし、僕の顔も知られていると思ったんだが、彼女の反応は完全に不審者を見るそれだ。
この人は僕の右腕が見えていないのだろうか?
かなり目立つと思うのだが・・・。
「ちょっと! 先に入っていた人にイチャモンつけないのよ!」
「イチャモンじゃないですよ! 見た感じ私と同じぐらいだし・・・」
「同じぐらいって・・・え? 何人かいるのよね?」
「いえ、1人だけですよ!」
「・・・ちょっと・・・胃が痛くなってきたわ」
「どうした、明里」
「小夜が何かしたみたい。しかもソロでここまで来た人に」
「え? 今阿蘇にいる人でソロでここに来る人っていたっけ?」
「外の人だよ絶対。小夜! どんな人!」
「えっと・・・」
小夜と呼ばれた目の前の女の人が僕をジロジロ見回した。
「右腕に目とか口が付いてます。後変な色してます」
「右腕・・・ちょっと・・・嘘でしょ!?」
「小夜! あんた何してんの!」
「え? ちょっとそのまま引き止めて!」
女性の更衣室でドタバタと音がして中にいた4人が飛び出てきた。
着替えはしっかりしていたので安心したが、髪の毛は乾かしてなく、全員湿った状態で出てきた。
そこで僕は気づくことができた。
「あ、もしかしてここを発見した・・・炎の蝶だっけ?」
「火焔蝶です。初めまして。お会いできて光栄です、瀬尾1級」
「え・・・え?」
ショートカットの女性が右手を出したので、僕はあえて突っ込まずに同じように右手で彼女の手を握った。
「僕のことはご存知のようですね。すみませんが」
「いえ、知らなくて当然です。私は最近3級になった見城美紀です。そして」
「同じく3級の綾杉真耶です」
「4級の六カ村千津です」
「5級の宝月明里です」
「・・・あ、力間小夜です・・・ゲフ!」
横に立ていた宝月さんが力間さんの脇に肘を入れた。
結構いい角度で入ったから心配になったが、脇腹を押さえながら力間さんが呻くように声を出した。
「ろ・・・6級です」
「・・・探索者になったばかり?」
「は、はぃぃぃぃぃ!」
何だか声が上擦った。
「すみませんでした! この子最近うちに入って探索者を体験中なんです!」
「6級だから、スキル持ってないですよね?」
「今、休みをとっている子がいて、その子のスキルを臨時で使わせています! 何かあっても私たちでカバーします!」
「そうです・・・か」
カバーしますと言われても、先ほど僕を犯罪者扱いしてくれたのだが、こんな暴走癖のある子を本当に止めれるのだろうか?
うーん、僕が気にすることでも・・・ないな。
直立で僕の反応を伺っている彼女たちを順番に見て、僕は最後に力間さんを見た。
「ここには僕が先に来て温泉に入っていた。その後に君たちが来た。僕の認識は間違っている?」
「え? あ、私は」
「僕が借りたバイクも外にあるはずだし、今日の防衛担当の人が外にいたはず。先に僕が来てるって言ってなかった?」
「・・・」
彼女の目が彼方此方を見て最後に足元を見た。
「先に男性が入っていると情報はありました。瀬尾さんのお名前は出ませんでした」
力間さんの代わりに見城さんが答えた。
そうか・・・担当の人が言ってくれてたら少しは状況もマシだったかもしれなかったのに。
「声が聞こえたのも、たまたまで僕としては耳に入ってくるのを聞いてるのも失礼かなと思って出たわけだけど、誤解は解けた?」
「は・・・はい。すみませんでした」
「そう。それじゃ、僕はもう先に出るから。ゆっくりして戻るといいよ」
できたら組合に戻ったあと鉢合わせないように、ゆっくりとここで休んでもらいたい。
僕が彼女たちに背を向けて歩いていると、後ろの方で「さぁぁぁぁぁぁぁやぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!」という怒声が響いていた。
まあ・・・もう関わることはないだろう。
僕は防衛担当の探索者に会釈して、バイクに乗って組合に戻った。
「すまんが、護衛をつけて東京まで戻ってくれ。今の君に何かあったら問題になる」
そう言って新しい支部長が紹介してきたのが、ちょうど戻ったばかりの彼女たちだった。
・・・こういうのを奇縁と言うのだろうか?